寓目 | |
中唐・杜甫 |
一縣葡萄熟,
秋山苜蓿多。
關雲常帶雨,
塞水不成河。
羌女輕烽燧,
胡兒掣駱駝。
自傷遲暮眼,
喪亂飽經過。
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寓目
一縣 葡萄 熟し,
秋山 苜蓿 多し。
關雲 は 常に雨を帶 び,
塞水 は河 を成 さず。
羌女 は烽燧 を輕 んじ,
胡兒 は駱駝 を掣す。
自 ら傷 む遲暮 の眼の,
喪亂 經過に飽 きしを。
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◎ 私感註釈
※杜甫:盛唐の詩人。712年(先天元年)〜770年(大暦五年)。字は子美。居処によって、少陵と号する。工部員外郎という官職から、工部と呼ぶ。晩唐の杜牧に対して、老杜と呼ぶ。さらに後世、詩聖と称える。鞏県(現・河南省)の人。官に志すが容れられず、安禄山の乱やその後の諸乱に遭って、流浪の一生を送った。そのため、詩風は時期によって複雑な感情を込めた悲痛な社会描写のものになる。
※寓目:目をつける。注目する。この詩、異民族を意識させる語彙や戦乱を意識させる言葉を織り込んで、長閑な情景を詠みながらも緊迫した空気を漂わせたものとなっている。
※一県葡萄熟:一県中に葡萄が熟して。 ・一県:「一村」といった感じか。ただし、この句の第二字目の所は仄字(●)にしなければならないので、「村」字は平字(○)なので、できない。 ・葡萄:ぶどう。西域原産の植物で、遥か異国を意識させる。盛唐・王翰の『涼州詞』に「葡萄美酒夜光杯,欲飮琵琶馬上催。醉臥沙場君莫笑,古來征戰幾人回。」とある。後世、日本・荻生徂徠は『甲斐客中』で「甲陽美酒葡萄,霜露三更濕客袍。須識良宵天下少,芙蓉峰上一輪高。」とした。
※秋山苜蓿多:秋の山には、ウマゴヤシが多く(咲いている)。 ・苜蓿:〔もくしゅく:mu4xu0●●〕うまごやし。マメ科の多年生草本。
※関雲常帯雨:山の砦にかかる雲は、常に雨を帯びている(が)。 ・関雲:砦にかかる雲。 ・帯雨:雨を帯びる。
※塞水不成河:砦の池水は、川とはならない。 ・塞水:砦の池水。 ・成河:川となる。
※羌女軽烽燧:異民族の女性は、(戦争や変事を知らせるための)のろしには、あまり気にしないで。 ・羌女:(牧羊に従事する)異民族の女性。 ・烽燧:〔ほうすゐ;feng1sui4○●〕(白話)のろし。戦争や変事を知らせるための、のろし。夜間にともす火を「烽」、昼間にあげる煙を「燧」という。
※胡児掣駱駝:異民族の男児は駱駝(らくだ)を制馭している。 ・胡児:(西方)異民族の男児。 ・掣:制馭する。 ・駱駝:〔らくだ;luo4tuo2●○〕らくだ。
※自傷遅暮眼:だんだんと歳をとった眼をみずからいたみ(慰めよう…)。 ・自傷:みずからいためる。 ・遅暮:だんだん歳を取る。
※喪乱飽経過:人が死んでゆく争いの成り行きを厭と言うほど見てきた(ので)。 ・喪乱:人が死んだり禍(わざわい)が起こったりすることの意で、世が乱れること。 ・飽:あきる。あく。
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◎ 構成について
この作品の平仄は、次の通り。韻式は、「AAAA」。韻脚は「多河駝過」で、平水韻下平五歌。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○●○●●,
●●●○○。(韻)。
○●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
●●○○○。(韻)
2021.8.15 |
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