面朝大海,春暖花開 | |
海子 |
從明天起,做一個幸福的人
喂馬、劈柴,周遊世界
從明天起,關心糧食和蔬菜
我有一所房子,面朝大海,春暖花開
從明天起,和毎一個親人通信
告訴他們我的幸福
那幸福的閃電告訴我的
我將告訴毎一個人
給毎一條河毎一座山取一個温暖的名字
陌生人,我也爲你祝福
願你有一個燦爛的前程
願你有情人終成眷屬
願你在塵世獲得幸福
我只願面朝大海,春暖花開
(現代詩ですので、本来の雰囲気を出すために簡体字での表記もしておきます)
从明天起,做一个幸福的人
喂马、劈柴,周游世界
从明天起,关心粮食和蔬菜
我有一所房子,面朝大海,春暖花开
从明天起,和每一个亲人通信
告诉他们我的幸福
那幸福的闪电告诉我的
我将告诉每一个人
给每一条河每一座山取一个温暖的名字
陌生人,我也为你祝福
愿你有一个灿烂的前程
愿你有情人终成眷属
愿你在尘世获得幸福
我只愿面朝大海,春暖花开
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海に向かえば、心 和 む春
明日からは、一人の幸せな人になろう。
馬を飼って、薪を割って、世界を回ろう。
明日からは、ご飯やおかずに関心を持とう。
わたしは家を一軒持っている、心和 む海に面した。
明日からは、親しい人一人ずつに便りを出そう。
彼等にわたしの幸せを告げるんだ。
あの幸福の稲妻 の一瞬が、わたしに教えている。
わたしは、一人ひとりに告げていこう。
一筋の川ごとに、一山ごとに、あたたかい名前を附けよう。
見知らぬ人よ、わたしも、あなたのために祝福しよう:
願わくは、あなたに輝かしい前途がありますように。
願わくは、あなたが恋人と、最後にはめでたく結ばれ、家族となれますように。
願わくは、あなたが現実の世にあって、幸福を獲得できますように。
わたしは、ただ、心和 む海に向かうことさえできればいい。
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◎ 私感註釈
※海子:現代詩人。教師。原名は査海生。1964年〜1989年(自殺)。安徽省の安慶市懐寧県に生まれ、農村で成長する。1979年、十五歳の時に北京大学法学部に合格し、卒業後、中国政法大学哲学教研室で仕事を始める。1989年3月、河北省の山海関で鉄道自殺。
※面朝大海春暖花開:大海に向かえば、穏やかな春(のような安らぎと憩いを感じる)。 ・面朝:面と向かう。直面する。 ・大海:海。沿岸に近い海。*作者にとって、真に憩いや安らぎ、幸福を感じさせるもの。「天」「地」「人」…という見方からすれば、「天」の下にあって「地」と倶にあるが、天地の間にある「人」の俗情に穢されることのない、心和(なご)む理想郷。作者の少年時代に歌われていたのが『大海航行靠舵手』「大海航行靠舵手,萬物生長靠太陽。雨露滋潤禾苗壯,幹革命靠的是毛澤東思想。魚兒離不開水呀,瓜兒離不開秧。革命群衆離不開共産黨,毛澤東思想是不落的太陽。」や、文化大革命終熄後は『大海啊,故乡』「小时候妈妈对我讲,大海就是我故乡,海边出生,海里成长。大海啊大海,是我生长的地方,海风吹,海浪涌,随我飘流四方。」といった「大海」についての歌声が流れた。 ・朝:〔てう;chao2○〕向かって。面して。文語の「向」や「對」に似た働きをする。 ・春暖花開:成語で、春うららかに花開く。花咲くうららかな春。春の時候のよいさまを謂う成語。 *作者はこの語句に、自分の安息や幸福を仮託している。
※従明天起做一個幸福的人:明日からは、一人の幸せな人になろう。 *暗々裏に「昨日、今日はまだ充分に幸せな状況にあるとは謂えないが」と言う旨を、それに反した明るいフレーズで伝える。 ・從…起:…からは。…からはじめて。…よりは。 ・明天:あす。明日。 ・従明天起:明日からは。 ・做:〔zuo4●〕…となる。文語の「作」と同じで、「作」字の俗字。現代語での「做」字・「作」字の使い分けは、「做」字は動詞として具体的なものを作る場合に用いる。名詞としては「做」字は用いない。「作」字は、「大作」「傑作」といった古典語に基づく名詞に使う。 ・一個:ひとり(の)。ひとつ(の)。 ・幸福的人:しあわせな人。 ・-的:形容詞の後に附く。
※喂馬劈柴周遊世界:馬を飼って、薪を割って、世界を回ろう。 *前出・「做一個幸福的人」(幸せな人になろう)の「『幸せな人』とはどのような人か」の内容(回答)を述べている。その「幸せ」とは「馬を飼う」こと、「薪を割る」こと、「世界を周遊する」こと。親しい人に便りを出すことなど、実際の日常生活上での幸福感を齎すものごとを挙げている。(ただ、わたしの正直なところ、「喂馬」と「劈柴」の語の感覚が実感できないで困っているのだが…)。*「喂馬、劈柴,周遊世界」の句では “、” と “,” とが使い分けられているが、 “、” は、国文(=日本語文)での「・」の意であり、“,”は、国文での「、」に相当する。 ・喂馬:馬を飼う。 ・馬:作者にとって、新時代、新世界に馳せるためのもの。 ・喂:〔wei4●〕飼う。飼育する。(動物に)えさをやる。 ・劈柴:〔pi3chai2〕薪(まき)。たきぎ。
※従明天起関心糧食和蔬菜:明日からは、ご飯やおかずに関心を持とう。 *卑近な現実生活の充実を謂う。 ・糧食:食料。ただし、穀類(豆類)・芋類といった、日本でいう主食に該る(ような)食糧。 ・和:…と。 ・蔬菜:〔shu1cai4○●〕野菜。
※我有一所房子面朝大海春暖花開:わたしは、家を一軒持っている。心和(なご)む海に面した(家を)。 ・有:…がある。持っている。 ・一所:一軒。一ヶ所。家や学校、病院などを数える助数詞(量詞)。 ・房子:家。家屋。
※従明天起和毎一個親人通信:明日からは、親しい人ひとりずつに便りを出そう。 ・和:…と(いっしょに)。 *動作を共にする相手を示す。前出・「關心糧食和蔬菜」の「和」(…と)とは異なる。 ・毎一個:それぞれ一人ずつ(に)。 ・親人:身内。肉親。ここでは、「親しい人」の意で使われている。
※告訴他們我的幸福:(その便りで、)彼等にわたしの幸せを告げるんだ。 *前出・「和毎一個親人通信」での「通信」の内容をいう。 ・告訴:〔gao4su0●●〕(…に)告げる。(…に)知らせる。 *なお、似た言葉に“説”(言う)があるが、用法が大きく異なる。“告訴”は人を指す目的語のみを伴った表現“他告訴我。”或いは、二重目的語を伴って“他告訴我明天…。”と使うが、「説」はそれは出来ない。介詞が必要となる。 ・他們:〔ta1men0○○〕彼等。 ・-們:…ら。…たち。人を表す代詞・名詞の複数を示す接尾字。 ・的:の。前出・「做一個幸福的人」の「的」とは異なる。
※那幸福的閃電告訴我的:あの幸福の稲妻(いなづま)の一瞬が、わたしに知らしめる。 ・那:〔na4●〕あの。 ・閃電:〔shan3dian4●●〕稲妻(いなづま)。いなびかり。 ・告訴:教える。知らせる。前出・「告訴他們我的幸福」での「告訴」(告げる。言う)とは異なる。
※我将告訴毎一個人:わたしは、一人ひとりに告げていこう。 ・將:これから(まもなく)…しようとする。…するであろう。…となるであろう。 *動作や状況がまもなく起ころうとしていることを表す。文語での「將」(まさに…んとす)の用法に同じ。
※給毎一条河毎一座山取一個温暖的名字:一筋の川ごとに、一山ごとに、あたたかい名前を附けよう。 *この詩句、字面だけ追えば、慈悲心を満遍なく降り注ぐ仏教の教義を思い起こす。特に「陌生人我也為你祝福」「願你有一個燦爛的前程」「願你有情人終成眷属」「願你在塵世獲得幸福」「我只願面朝大海春暖花開」の「陌生人…為你祝福」「願你有…燦爛的前程」「願你…有情人終成眷属」「願你…獲得幸福」と、人の幸福を願う。そして自分は“謙虚に”「我只願…面朝大海春暖花開」とうたう。ただ、この場合、自分(=作者)が(或いは観音菩薩のように、或いは政治指導者のように)高位に立っての発想である。高踏的な言辞は、作者が自殺の二ヶ月前(1989年1月)当時、政治的・思想的に人々に影響を与える位置にいたのだろう。この詩が出来た頃、天安門広場には民主の女神像が立ち、作者が活動していた中国政法大学の学生グループにより、民主化デモが起こされた。 ・給:…に。介詞で、受け手を導く:【〔給〕+一条河】。なお、本来の動詞の意は:与える。やる。あげる。 ・一條-:ひと筋(の…)。一本(の)。 ・條:(川などの)細長いものを数える助数詞(量詞)。 ・一座-:ひとつ(の…)。*符合する日本語がない。 ・座:(山や建築物などの)地面に固定した大型のどっしりした物を数える助数詞(量詞)。 ・取-:(名前を)附ける。「取名」で、名づける。 ・温暖的名字:あたたかい名前。
※陌生人我也為你祝福:見知らぬ人よ、わたしも、あなたのために(次の三句のように)祝福しよう: ・陌生人:〔mo4sheng1ren2●○○〕見知らぬ人。 ・也:…もまた。文語の「亦」に似た働きをする。 ・爲你:あなたのため。 ・你:〔ni3●〕あなた。
※願你有一個燦爛的前程:願わくは、あなたに輝かしい前途がありますように。 *この句以下三句が、作者の祝福した願い事の内容。 ・願:希望する。願う。…ますように。文語読み下し文での「願はくは」に同じ。 ・燦爛:〔can4lan4●●〕きらきらと光り輝く。まばゆい。蛇足になるが、文化大革命時期を描いた映画に『陽光燦爛的日子(阳光灿烂的日子)』がある。 ・前程:前途。行く先。将来。
※願你有情人終成眷属:願わくは、あなたが恋人と、最後にはめでたく結ばれ、家族となれますように。 *「願天下有情人終成眷屬」と諺のように使われている。出典は、『西廂記』第五本第四折に「永老無別離,萬古常完聚,願天下有情的都成了眷屬」とあるのに因る。 ・情人:恋人。 ・終成:ついには…となる。 ・眷屬:〔juan4shu3●●〕夫婦。家族。身内。仏教用語。ここでは、夫婦の意で使われている。
※願你在塵世獲得幸福:願わくは、あなたが俗世間(=現実の世)にあって、幸福を獲得できますように。 ・在:…で。…にあって。 ・塵世:俗世間。浮世。抽象的な世の意ではなくて、現実の世渡りの意。作者がこの詩を作った時にすでに自殺を考えていたのならば、「この世」の意を含み、政治的な含意があれば「この国」の意も籠もろう。 ・獲得:〔huo4de2●●〕得る。獲得する。 *抽象的なものごとについていう。
※我只願面朝大海春暖花開:わたしは、ただ、心和(なご)む海に向かっていれさえすればいい。 *現代・毛沢東の『卜算子』詠梅 讀陸游詠梅詞,反其意而用之「風雨送春歸,飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰,犹有花枝俏。 俏也不爭春,只把春來報。待到山花爛漫時,她在叢中笑。」と、趣が似ている。 ・只願:ただ…だけでいい。範囲を限定した願望。
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◎ 構成について
標準的な詩詞の押韻は、していない。韻式を示すことはできない。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●,●●●●●●○
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○○○●,○○●●○○●
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○○○●,○●●●○○○●
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●●●●●●●●○○
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2011.8.24 8.25 8.26 8.27 8.28 8.29完 9.16補 2016.3.27電 |
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