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瀟湘神 瀟湘曲                     劉禹錫

瀟湘神


斑竹枝,
斑竹枝,
涙痕點點寄相思。
楚客欲聽瑤瑟怨,
瀟湘深夜月明時。


******

瀟湘神
                 
斑竹枝,
斑竹枝,
涙痕 點點  相思を 寄す。
楚客 聽かんと欲す  瑤瑟の怨を,
瀟湘の深夜  月明の時。

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◎ 私感註釈

※劉禹錫:中唐の詩人。772年(大暦七年)~842年(會昌二年)。白居易や柳宗元との詩の応酬も多い。白居易とともに『竹枝詞』や『楊柳枝』を作る等、前衛的、実験的なことに取り組む。字は夢得。監察御史、太子賓客。

※瀟湘神:詞牌の一。詞の形式名。『瀟湘曲』ともいう。詳しくは下記の「構成について」を参照。この作品がこの詞牌の起源になる。湘妃と斑竹の、亡き人を偲ぶ故事で、深い味わいを出している。後世、晩唐・温庭筠は『瑤瑟怨』で「冰簟銀床夢不成,碧天如水夜雲輕。雁聲遠過
瀟湘,十二樓中月自明。」とうたう。

※斑竹枝:『瀟湘神』では、第一句を繰り返し、第二句は畳句となる。 ・斑竹:斑文のある竹。湘妃竹のこと。湘妃とは、舜帝の妃・娥皇と女英の二人のこと。舜帝を慕って湘水に身を投じて、川の神(湘靈、湘神)となったという。竹との関係では舜帝が蒼梧(現・江西省蒼梧)で崩じた時に、娥皇と女英の二人の妃がここに来て深く嘆き悲しみ、流した涙が竹に滴り、その痕(あと)が竹に斑斑と残ったことから「斑竹」と謂われた。或いは、九嶷山で亡くなり、二人の妃が三日三晩泣き続けたが、やがて九嶷山に血涙の痕があるような竹が生えだしたという。杜甫の「山鬼迷春竹,湘娥倚暮花。湖南清絶地,萬古一長嗟。」のように。中唐・柳宗元の『漁翁』「夜傍西巖宿,曉汲清湘燃
楚竹。煙銷日出不見人,欸乃一聲山水綠。迴看天際下中流,巖上無心雲相逐。」での「楚竹」に同じ。中唐・武元衡の『望夫石』に「佳人望夫處,苔蘚封孤石。萬里水連天,巴山暮雲碧。湘妃涙竹下成林,子規夜啼江水深。」とある。 ・斑竹枝:斑竹で作った笛。

※涙痕點點寄相思:涙の痕が点々とあるが、(これは)異性を思いやる(証しである)。 ・涙痕:涙の痕。 ・點點:点々と。後世、現代・毛沢東は『答友人』で「九嶷山上白雲飛,帝子乘風下翠微。
斑竹一枝千滴涙,紅霞萬朶百重衣。洞庭波湧連天雪,長島人歌動地詩。我欲因之夢寥廓,芙蓉國裏盡朝暉。」 とする。 ・寄:よせる。手紙を差し出す。 ・相思:異性を思いやる。或いは、相互に思う。

※楚客欲聽瑤瑟怨:楚の国から来た人(わたし)は、(瀟湘の川の上で、湘妃の奏でる)瑤瑟のもの悲しい調べを聴きたいとおもった。 ・楚客:楚の国から来た旅人。楚の人。ここでは、屈原をいう。また屈原と同様にその近く、常徳桃花源の附近をさすらう作者をいう。屈原のように流離う人。盛唐・崔國輔の『九日』に「江邊楓落菊花黄,少長登高一望鄕。九日陶家雖載酒,三年
楚客已霑裳。」とあり、中唐・柳宗元の『柳州城西北隅種柑樹』に「手種黄柑二百株,春來新葉遍城隅。方同楚客憐皇樹,不學荊州利木奴。幾歳開花聞噴雪,何人摘實見垂珠。若教坐待成林日,滋味還堪養老夫。」とある。 ・欲:…たい。…ようとする。 ・聽:(自分から聴き耳を立てて)聴く。 ・瑤瑟:美くしい玉でもって飾りを施された瑟。・瑟:おおごと。「琴瑟」「瑟琴」といえば夫婦和合のことをいうので、そのようなことの暗示もあろうか。 ・怨:愛についての深い情念。深い思い。うらみ。ここでは、川の神(湘靈、湘神)湘妃の奏でる瑤瑟の凄艶さ、もの悲しさをいう。

※瀟湘深夜月明時:湖南省(南部)の川の流れに(船を浮かべて、そう思った。)深夜に月の明るく澄んでいる時(のことである)。 ・瀟湘:瀟水と湘水。湖南省を流れ、洞庭湖に注ぐ。湘水は、現在“湘江”という。

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◎ 構成について:

 単調。二十七字。『瀟湘曲』ともいう。一韻到底韻三平韻で、韻式は「AAA」。韻脚は「枝思時」で、「枝」は同一の韻字を繰り返して使う畳韻。詞韻第三部平声四支(枝時思)。詞調は次の通り。

○●○。(韻)
○●○。(R韻)(畳句)
●●○○。(韻)
○○●●,
●●○○。(韻)

  

2003.12. 9
     12.10完
2011. 2.27補
2012.11. 3
2013. 7.24
2015. 4. 9

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