桂林莊雜詠示諸生 | ||
廣瀬淡窻 | ||
休道他郷多苦辛, 同袍有友自相親。 柴扉曉出霜如雪, 君汲川流我拾薪。 |
道ふを休めよ 他ク 苦辛 多しと,
同袍 友 有り 自づから相ひ親しむ。
柴扉 曉に出づれば 霜 雪の如し,
君は 川流を汲め 我は 薪を拾はん。
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◎ 私感註釈:
※広瀬淡窓:(廣瀬淡窻)江戸後期の折衷学派の儒者。天明二年(1782年)〜1856年(安政三年)。名は建。字は子基。淡窓は号。別号に青渓、蒼陽など。 豊後日田の人。父は諸藩の御用達商人。徂徠学派の亀井南冥に学び、実家を弟に譲って、文化四年(1807年)書塾瓊林荘(桂林荘?)を開き、1817年日田郡堀田村にこれを移し、咸宜園と号して子弟を教育。塾生は四千人にのぼった。
※桂林荘雑詠示諸生:作者私塾である桂林荘で、いろいろな事物を詠んだ詩を作って、学生諸君に示す。 ・桂林荘:広瀬淡窓が日田に開いた私塾の名。瓊林荘。咸宜園の前身。 ・雑詠:いろいろな事物や季節を詠んだ詩歌。特に決められた題によらないで詠んだ詩歌。 ・示:詩を作って、目下の者に示す。中唐・白居易の『燕詩示劉叟』に「梁上有雙燕,翩翩雄與雌。銜泥兩椽間,一巣生四兒。四兒日夜長,索食聲孜孜。」とあり、中唐・韓愈の『左遷至藍關示姪孫湘』に「一封朝奏九重天,夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事,肯將衰朽惜殘年。雲横秦嶺家何在,雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意,好收吾骨瘴江邊。」とあり、南宋・陸游の『示兒』に「死去元知萬事空,但悲不見九州同。王師北定中原日,家祭無忘告乃翁。」とあり、元/日本・無學祖元の『示虜』に「乾坤無地卓孤筇,喜得人空法亦空。珍重大元三尺劍,電光影裡斬春風。」とある。 ・諸生:諸学生。学生諸君。各書生。諸君。
※休道他郷多苦辛:よその土地では苦労が多い、と言いなさるな。 ・休道:言うな。言うをやめよ。言うなかれ。俗語的表現。=「勿言」。江戸時代・頼三樹三郎の『會津訪秋琴老居士』に「舊誼誰知三世深,天涯今更聽君琴。在談休道交情淺,亦似峨洋千古心。」 清末・秋瑾の『鷓鴣天』に「祖國沈淪感不禁,閑來海外覓知音。金甌已缺總須補,爲國犠牲敢惜身。 嗟險阻,嘆飄零,關山萬里作雄行。休言女子非英物,夜夜龍泉壁上鳴!」とある。 ・休:…するな。やめよ。軽い禁止の感じを表す。≒「勿」。また、やめる。ここは、前者の意。 ・道:言う。 ・他郷:よその土地。異郷。 ・苦辛:〔くしん;ku3xin1●○〕くるしむ。苦しみ。辛苦。ここは「辛苦」の意だが「辛苦」としないで「苦辛」の方を採ったのは「辛」〔しん;xin1○〕が韻脚となり「辛親薪」と押韻するため(平水韻上平十一真)。なお、蛇足になるが、日本語入力システムでの漢字変換では「苦心」も出てくる。但し、「苦心」〔くしん;ku3xin1●○〕の「心」〔しん;xin1○〕は下平十二侵で、大きく異なる。日本語音や中国語音(北京語≒標準語≒普通話)では区別できないが、本来「辛」〔日本語音:しん(shin);中国語音:xin1○〕は【−n】であって、「心」〔日本語音:しん(shin);中国語音:xin1○〕は、本来は【−m】。
※同袍有友自相親:衣服を共用にする仲間がおり、自然と親しみ(を深められているではないか)。 ・同袍:〔どうはう;tong2pao2○○〕ぬのこを共用する意で、朋友、軍人を謂う。≒同袍同澤(戦友)。『詩經・秦風』の『無衣』に「豈曰無衣,與子同袍。王于興師,修我戈矛,與子同仇。 豈曰無衣,與子同澤。王于興師,修我矛戟,與子偕作。 豈曰無衣,與子同裳。王于興師,修我甲兵,與子偕行。」とある。『論語・公冶長篇』のに「子路曰:『願車馬、衣輕裘,與朋友共。敝之而無憾。』」とある。 ・袍:〔はう;pao2○〕わたいれ。ぬのこ。
※柴扉暁出霜如雪:明け方に、柴で造った戸を開けて(外へ)出てみれば、霜が雪のように降りているではないか。 ・柴扉:〔さいひ;chai2fei1○○〕しばで造ったとびら。しばで造った開き戸。しばのと。=柴門。隠者の家などにいう。わびずまい。盛唐・王維は『送別』で「山中相送罷,日暮掩柴扉。春草明年香C王孫歸不歸。」 とあり、盛唐・劉長卿の『逢雪宿芙蓉山主人』に「日暮蒼山遠,天寒白屋貧。柴門聞犬吠,風雪夜歸人。」とある。
※君汲川流我拾薪:君は川で水を汲みたまえ。わたしは薪(まき)を拾う(こととしよう)。 ・川流:川の流れ。河流。 ・薪:〔しん;xin1○〕たきぎ。まき。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「辛親薪」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○○●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
平成22.11.22 11.23 |
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