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春雨到筆庵 | ||
廣瀨旭莊 |
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菘圃葱畦取路斜, 桃花多處是君家。 晩來何者敲門至, 雨與詩人與落花。 |
春雨 に筆庵 に到る
菘圃 葱畦 路 を取ること斜 に,
桃花 多き處是 れ君が家。
晩來 何者 か 門を敲 きて至る,
雨と詩人と落花 と。
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◎ 私感註釈
※広瀬旭荘:江戸後期の儒者・漢詩人。豊後国(大分県)の人。名は謙。字は吉甫。号して旭莊。広瀬(廣瀨)淡窓の弟。兄・淡窓の没後、代わって家塾の咸宜園を継ぐ。文化四年(1807年)~文久三年(1863年)。
※春雨到筆庵:春雨(はるさめ)(の中を)筆庵(ひつあん)に行った。 ・到-:…に到る。 ・筆庵:不詳。訪問先の庵(いおり)(=住まい)の名称(か、そこの人物の号)。
※菘圃葱畦取路斜:唐菜(とうな)畑とネギ畑の畦(あぜ)を斜めに進んで。 ・菘:〔しゅう/慣・すう;song1○〕トウナ(唐菜)。アブラナの変種。葉を漬け物にして食べる。 ・圃:〔ほ;pu3●〕畑。菜園。果樹園。 ・葱:〔そう;song1○〕ネギ。ネブカ。 ・畦:〔けい;qi2(xi1)○〕うね。あぜ。土を盛り上げてくぎりとしたもの。 ・取路斜:斜めに路を取る、意。
※桃花多處是君家:桃の花が多いところ(=俗世から離れたところ)があなたの家だ。 ・桃花:桃の花。韻字の「花」を敢えてここで使うのは、盛唐・王維の『田園楽七首之三』「采菱渡頭風急,策杖林西日斜。杏樹壇邊魚父,桃花源裏人家。」で詠う桃源郷(=理想郷)の中の家々のような幻想的な光景を言いたいため。また、遠く東晋・陶淵明の『桃花源記』にうたわれた桃花源(=桃源郷)のこと(=理想郷)を謂う。『桃花源記』「晉太元中,武陵人捕魚爲業,縁溪行,忘路之遠近,忽逢桃花林。夾岸數百歩,中無雜樹。芳草鮮美,落英繽紛。漁人甚異之,復前行,欲窮其林。林盡水源,便得一山。山有小口。髣髴若有光。便舎船從口入。初極狹,纔通人。復行數十歩,豁然開朗。土地平曠,屋舍儼然,有良田美池桑竹之屬。阡陌交通,鷄犬相聞。其中往來種作,男女衣著,悉如外人。黄髮垂髫,並怡然自樂。見漁人,乃大驚,問所從來。具答之,便要還家。設酒殺鷄作食。村中聞有此人,咸來問訊。自云:先世避秦時亂,率妻子邑人來此絶境,不復出焉。遂與外人間隔。」
とあり、同・『桃花源詩』には「
氏亂天紀,賢者避其世。黄綺之商山,伊人亦云逝。往跡浸復湮,來逕遂蕪廢。相命肆農耕,日入從所憩。桑竹垂餘蔭,菽稷隨時藝。春蠶收長絲,秋熟靡王税。荒路曖交通,鷄犬互鳴吠。俎豆猶古法,衣裳無新製。童孺縱行歌,斑白歡游詣。草榮識節和,木衰知風厲。雖無紀歴志,四時自成歳。怡然有餘樂,于何勞智慧。奇蹤隱五百,一朝敞神界。淳薄既異源,旋復還幽蔽。借問游方士,焉測塵囂外。願言躡輕風,高舉尋吾契。」
とうたわれている。後世、唐・張志和は『漁歌子』で「西塞山前白鷺飛,桃花流水魚
肥。靑
笠,綠蓑衣,斜風細雨不須歸。」
とうたい、中唐・柳宗元は『江雪』で「千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。」
や、盛唐・李白に『山中問答』「問余何意棲碧山,笑而不答心自閑。桃花流水杳然去,別有天地非人間。」
とうたい、金・段繼昌は『一溪』で「一溪流水走靑蛇,春在江邊漁父家。竹外寒梅看欲盡,淸香移入小桃花。」
とし、北宋・蘇軾は『浣溪沙』で「西塞山邊白鷺飛,散花洲外片帆微。桃花流水鱖魚肥。 自庇一身靑箬笠,相隨到處綠蓑衣。斜風細雨不須歸。」
を言いたい。 ・是:…は…である。これ…なり。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A 是B:Aは Bである〕。 君家:あなたの家。訪問先の家のことになる。
※晩來何者敲門至:夕暮れになって、誰が来て門を叩いたのか(というと)。 ・晩來:夕暮れになって。 ・何者:どのような人。だれ。 ・敲門:とんとんと門をたたく。唐・賈島の『題李凝幽居』に「閒居少鄰並,草徑入荒園。鳥宿池邊樹,僧敲月下門。過橋分野色,移石動雲根。暫去還來此,幽期不負言。」とある。 ・敲:〔かう/(現)こう;qiao1○〕たたく。
※雨与詩人与落花:雨(=春雨)と詩人(=作者・広瀬旭荘)と(桃の花の)落花(の計三者)だ。 ・与:…と。 …と…。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「斜家花」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
●○○●●○●,
●●○○●●○。(韻)
令和3.11.4 11.5 11.6 |
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