Evergreen 〜永久なす緑〜
+回想+
一番古い記憶は、一面の炎。
それが何処だったのかも、今ではわからない。その真っ只中に一人きりで立ち尽くしている。
熱くて、苦しくて── 痛くて、悲しかった。
渦巻く炎に行く手を阻まれて、身動きもままならず、多分あのままなら死んでいたはずだった。いや── 実際、死ぬ所だった。
降りかかる火の粉と共に、天井が焼け落ちてきたのを覚えている。
これで死ぬのだとか、終わりだとか、そんな事も考えられないで、落ちてくるそれを凝視する。
その時だ。
何かが、庇うように自分の前に立ちはだかったのは。
「駄目だ。まだ…この娘は役目を終えていない」
目に焼きついた白銀の翼。白い光と一緒に、そんな言葉が聞こえた気がする。
そして気が付くと── 誰かの背に背負われて、焼け野原を歩いていた。
その時自分を背負っていたのが、今の旅の道連れの青年── リーフだった。もっとも、当時は少年と言える年齢だったに違いないけれど。
それから二人きりの旅は始まったのだ。
特に目的のない旅だったから、気が付くと主人格であるアディの人捜しの旅になっていただけで、本当は捜す義務も使命も彼にはない。
でも彼はアディの『天使さま』の話をばかにはしなかった。
当時から鉄面皮で、おっかない雰囲気があったけれど、黙って従ってくれた。
それが── たとえ、他にどうする事も出来なくて選んだ道であったとしても。
今はもう、自分の両親の事も、それまでどういう生活をしていたのかも、物心つくかつかないかの子供だった時分だったからほとんど覚えていない。
だから── もしかしたらそうだからこそ、アディは記憶に焼きついた『天使さま』の記憶を正当化したいのかもしれないけれど、それでもアディは捜さずにはいられなかった。
…一つの伝承を、耳にした時から。
曰く── あまりにも脆く儚い生命の地上人を守護する為に、天の御使いが一人一人についている。
その姿を人は見る事は出来ないが、その御使いは生まれた時から人生をまっとうするまで、守護する人間を見守ってくれるのだという。
彼らは未来を見通す力を持ち、守護する人間をできるだけよい未来へと働きかける。
そしてもし、危機が守護する人間の生命に及んだ場合、一度だけその命を救ってくれるのだ、と。
それはある意味、とても人間にとって── アディにとっても、都合のいい伝承であった。
でも、その伝承が真実なら、自分は確かにその守護天使を目にしたという事になるはずだ。
だが── 問題は、その後だった。
一度だけ生命を守ってくれた天使は、その後は一体どうなるのだろう?
変わらず何処かで見守ってくれているのか、それとも──。
一番考えられる事は、その時、天使が身代わりとなって消滅してしまう事だ。でも…それだけは考えたくなかった。
ただ守ってもらうだけ守ってもらって、自分からはお礼の一言も返せないなど── そんな事は悲しすぎる。
── そんなこんなで、十年近くも年月が流れて。
各地を転々としながら、結局アディ達の旅は続いている。
『天使さま』を捜し求めて。もしくは── 守護する人間を守った後の守護天使の末路を知る為に。