〜10〜

「おはよう、祐巳」
聖さまの声で、目がさめる。
「おはようございます…」
「おや、朝からお顔が真っ赤ですね」
そりや、なりますよ。昨夜あんなことして…。
「ハハハ、照れてる祐巳、かわいいよ」
それはありがとうございます。…ってなぜお礼をする。
それより、二人とも何も身に付けていないままなのは、
かなり恥ずかしい。

それを知ってか知らずか、布団の上から、
抱きしめてくる聖さま。少し苦しい。
「…」
「えっ?」
何を言われたか、布団が邪魔してはっきり聞き取れなかった。
少し頭を動かして、布団の外に出す。
「祐巳、改めてお願いするわ。一緒に住んで」
「…はい、よろしくお願いします」もう、返事は決めていた。
「ありがとう」聖さまは、軽く額を私の額に合わせる。

「さて、朝ご飯にしましょうか。そうそう、
ご飯の前にシャワー浴びてきなさいよ」
そういって、ベッドから起きて、服を身につける。
聖さまには、恥ずかしいという感情が欠けているのだろうか。
「ほら、百面相してないで、先に入って。それとも一緒に入ろっか?」
「遠慮します」
「もう遠慮する仲でもないでしょうに」
「聖さま!!」
耳まで真っ赤になる。聖さま、意地悪だ。
「あれ、違うの?じゃぁ、もう一回確認しましょうかね」
まるで朝の運動をするかのように簡単にいってくれる。
ふたたび、ベッドに入ってくる聖さま。キャーッ!

ご飯に味噌汁という、朝ご飯を食べ終わり、
今朝は祐巳が皿を片付ける。
その間に、聖さまがコーヒーをサイフォンで入れている。
「ここに一緒に住むのは、2年間ね」と、聖さまが話し始める。
それはこの部屋を借りられるのがあと2年だから。
「私は落第せずに卒業するつもりでいるから」
…そうか、あと2年で、聖さまは、大学卒業だった。
それに、自分だって、進路はリリアンの短期大学家政学部。2年で卒業だ。
「だから、そのあとは、二人ともお互いの道をいくこと。いい?」

お互いの作業を終え、ソファーに離れて座る私達。
「今、必要としているのだから、期間を区切る必要はあるわけ。
約束して。これからの2年間、私達はお互いの恋人同士でいることを」
「恋人ですか!?」初めて「恋人」という言葉を使われて、驚く。
「姉妹でもないし、先輩後輩でもないし、たんに友人でもない。
やっぱり恋人でしょ、ちがう?それとも、愛人とか?」
「恋人でいいです」

「よしよし。じゃぁ、とりあえず、これからの話は、一緒に住むという前提ね」
そういって、前もって考えてあったのか、部屋のことや、細かい決めごとまでを説明し始めた。
「部屋の家賃は半々ね。…といっても、心配するほど高くないから」と始まり、
たとえば、朝のごみ当番と、炊事洗濯当番は、お互いの講義や、用事で決めるとか。
バイトは、するなら週に一日入れない日を決めるとか。ここのマンションのルールとか。
外食するときは、折半するとか。なるべくお互いの友人を優先させるとか。
私はメモをとりながら、一生懸命聞いていた。かなりの量だった。

「とまぁ、私の方からは以上かな。何か質問や、ご希望は?」
「無いです」というか、急には思いつきません。聖さまもその辺がわかるらしく、
「いきなりは思いつかないだろうし、何かあったら、その都度言ってきて。いい?」
「わかりました」
「よろしい」
ここで話が終わるかと思ったけれど、聖さまの口が続けて開く。

「…ところで、昨日と今朝のことだけど…」
なっ、何でまたいきなりそっちの話になるんです?
「祐巳はああいった関係、毎日もちたい?」
「毎日は…」
「ということは、たまにならいいってことよね」
「…」
黙って俯く。関係を持ちたいかといわれたら、正直、
積極的に持ちたいとは思っていないと思う。
昨日も、今朝も、決して嫌じゃなかったけれど…。
祐巳が考え込む姿を見せたのを見て、
聖さまが、今までに見せたことのないくらい、表情が暗くなっている。

「謝らないといけないね。無理矢理関係を迫ったわけだし。
でもね、言い訳かもしれないけれど、あれは正直に私を出した結果なの。
上手くいえないけれど、感情が、肉体と理性を支配したような感じ。
自分がしたいことを、祐巳が少しでも望んでくれていると思ったら、
抑えきれなかった。どうしようもなかった、ごめん」
自己嫌悪に陥っているのか、体が震えているように見える。


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