〜4〜

唇を、祐巳からゆっくりと離す。
顎に添えた手も一度離すが、そのまま
すぐに、背中の後ろに回し、祐巳の顔を、
自分の胸に押し付ける。
感じて欲しい。今の自分の熱さを…。

祐巳の頭の上に、顎をのせるようなポーズをとり、
体全体で祐巳を包み込むような姿勢をとる。
胸の中で燃えさかった炎は、心につけた
封印という抑えさえをも溶かしてしまったようだ。
(言ってしまおう。祐巳に、正直に…)

祐巳の存在を体の全てで感じながら、
私は言葉が心の底から溢れ出るのを感じつつ、
今まで抱いていた祐巳への気持ちを告げ始めた。

「今日という日がくるのをずっと待っていたの」
「えっ?」
「2年間、私が卒業してから、祐巳が卒業するまで。
ずっと私は待ちつづけていたのよ。祐巳と一緒に過ごしたい、
祐巳と一緒に暮らしたい、ずっとそう思いつづけていたの」

その言葉を聞くと、祐巳は私から体を離し、
信じられないといった表情で私の顔を見つめている。
そんな祐巳を私は愛しさもって見つめ返す。

ついに告げることになる私の中の真実。
嫌われても良い。ただ、真実を秘めておくことは
もう今の私にはできない。祐巳、聞いて。
今まであなたに告げることが出来なかったことを…。

目を細めると、2年前のあのときに思いを馳せる。
「覚えている?2年前の私の卒業式の日」
「…はい」
「教室で、祐巳と二人きり。そういえば、あの時初めて
祐巳からキスしてくれたのよね」
あのときの祐巳の突拍子もない行動を思い出し、
おもわず、クスッと思い出し笑いをもらす。

「あの時、『愛しているよ、祐巳ちゃん』って言ったでしょ?
あれ、私の本心だったのよ。本当なら、あの場で、私から祐巳の
唇を奪いたいぐらいだったの。でも、私のお姉さまだった人の言葉が
頭に浮かんで、それは出来なかったのよ。
『大切なものが出来たら自分から一歩引きなさい』て。
そう、私はのめり込みやすいタイプだから、相手の気持ちも、立場も考えず、
突っ走るところがあったのよ。でも、祐巳のこと、本当に大切にしたいと思って、
あの場は、あの形で別れることにしたの」
そういって、天井の方を見上げる。
あの場ではあれが正しかった…はずだ。
そして、今、気持ちを告げることも、間違ってはいないのだ。

「つまり、聖さまは、私のことが好きだった」
「そうよ、今も好きよ」
「好きだから、一緒に住みたいと」
「そういうこと。もちろん、無理矢理、住ませるなんてことはしないわ。
また後日、そうね、一週間後に改めて話をするってのはどう?
それまでに結論を出せとは言わないから。いいわね?」
思ってもいなかったことを告げらているはずなのだから、
全てこの場で答えを求めようという気持ちはない。
大切な祐巳だから、自分自身で決めてもらいたい。

言葉を言い終えると、祐巳の表情を窺う。
私が告げたことを全ては理解はしかねているようだ。
(…今日はここまでね)
「さっ、今日の話はここまで。お、もう外が暗い時間になってるね。
ごめんね、引き止めちゃって。送っていこうか?」
「いえ、大丈夫です。一人で帰られますから…」
「そう?わかった。それじゃ、下までは送らせてよ。それはいいでしょ?」
「はい…」
いつもなら自宅近くまで送っていくけれど、今日は、
私自身も、いつもの自分ではない。

祐巳をマンションの入り口で見送る。
目の焦点が合っていないような感じで、
少々危ない気もするが、足元はしっかりしている。
祐巳を信頼してその場を離れ、部屋に戻ると、
震えが止まらなくなりそうになる自分がいた。


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