〜2〜

「さっ、あがった、あがった」
そこは、祐巳の自宅と、リリアンとの、
中間くらいに位置するマンションの一室だった。
ひろい。こんなところに一人で住んでいるのでいるのだろうか。
普通、学生の一人暮らしといえば、1Kが相場である。
が、ここはどう見ても、家族で住めるぐらいの広さだ。
「お邪魔します」いまさら帰ると言ったところで、帰してくれるわけもない。
素直に靴を脱ぎ、部屋に上がる。

「正面が居間になってるから」
ドアに鍵を閉めながら、指示をする白薔薇さま。
いくつかのドアを横目に見て、正面にある、扉を開ける。
「わっ、広い!一人でこんなところに住んでるんですか?いいなー!」
おもわず、くだけた調子の言葉が出てしまう。
そこには、一人で住むには十分すぎるほどの空間が広がっていた。

「うん、たまたま知り合いの人に、急に海外転勤が決まった人がいてね。
4年間だけ、住まないかって、安く貸してもらえたんだ。
ほら、身も知らずの人に貸すのって嫌でしょ?」
手で勧められたので、ソファーに座り、部屋の中をぐるりと見る。
自分も、いつかこんなところに住んでみたいものだ。

「コーヒーでいいかな?」
真っ白のカップに入れられた、対極の色の液体。
相変わらず、コーヒー派のお人であるようだ。
「はい、インスタントだけど、どうぞ。砂糖とミルクもあるからね」
「あっ、お構いなく」
たしか、本人はブラック派のはずだから、祐巳のために用意してくれたのだ。
せっかくだからと、砂糖と、ミルクをたっぷりと入れた後、一口、いただく。
そんな祐巳の姿を微笑ましそうに見つめながら、白薔薇さまが口を開く。
「祐巳ちゃん、全然変わってないね」
「はぁ・・・」

「祐巳ちゃんかわいい」などと言われながら、
白薔薇さまに後ろから羽交い絞めされてた2年前。
1年生の宿命か、それとも自身の性格のためか、
常に薔薇さま達にはからかわれてきた。
でも、その頃に比べたら、少しだけど身長も伸びたし、
性格も、あの頃に比べたら、落ち着きを見せているはずである。
あの時なら、「ぎゃっ」と、白薔薇さま曰く子供の恐竜の声のような声で、
抱きつかれたら叫んでいたが、今なら、絶対そんな声は出すことはない、ハズ。

「あっ、外見とか、ちょっと大人びてきたとかそういうことじゃないよ。
祐巳ちゃん自身のこと。私が知っている
祐巳ちゃんと変わっていなくてちょっと安心したんだ」
「白・・・聖さまもお変わりないようですね」
「祐巳ちゃん、別に無理しなくていいよ。
私も変わってないから、前みたいな言葉遣いで、全然オーケー!」

私の顔を見ながら、ニコニコしている。
ホント、こうしていると以前と変わっていないみたい。
「で、さっそく、ここにつれてきた理由を話すけど、祐巳ちゃん、私とここに住もう」
はぁ?!なっ、何を突然言い出すんだこの方は。
前々から突拍子もないことを言う人だとはわかっていたが、
いくらなんでも、こんなことを冗談で言う人だとは思っていなかった。
本当なら、「何てことを言うんですか!」と怒鳴りたいところだが、
少しは大人になった私。ここはさりげなく、さりげなくっと。
「急に何をおっしゃるかと思いましたら、私が先ほど、住んでみたいと、話したからですね。
そんな心にもないことをおっしゃらなくても結構ですよ」
「祐巳ちゃんらしくないね。『なに言ってるんですか!』って、
目を白黒させながら、怒鳴るかと思ったんだけど」

うーっ、ほんとはそうしたかったんですけど、
少しは成長したところ見せたいじゃないですか。
「背伸びしなくていいよ。少しでも前とは変わったところを
見せたいのかもしれないけれど、私に対しては、素のままで良いからね。
もっとも、どんなところ見せられても、私はかまわないけれど」
じゃぁ、お言葉に甘えてと。私は、思いっきり肺に空気を溜め込むと、
「聖さま、いくら冗談でも、いって良い冗談と悪い冗談というのがあります。
いくらこんな広いところに一人ですんでいて、もしかしたら、寂しいのかもしれないですけど、
一緒に住む気がない私に対して、冗談でも、『一緒に住む』だなんて言わないでくださいよ!!」


顔に怒りの表情を豊かに出しながら、
聖を怒鳴りつける。聖は、そんな祐巳をみて、懐かしそうだ。
「祐巳ちゃん、それって、私が本気だったら、一緒に住んでくれるってことだよね?」
「ち、ちがいます。だって、私が聖さまと一緒に住めるわけないじゃないですか。
それに、さっきの発言って、私が、『こんなところに住んでみたい』
って言ったから思いつきでいったんですよね?」
「違うよ。思いつきなんかじゃないよ」
「えっ、じゃぁ、冗談ですよね」
聖さまの顔を見ると、さっきまでのおやじがかったニコニコ顔が消え、
目に、光を集めた、真剣な顔つきになっていた。

「もう一回言うね。祐巳ちゃん、ここに私と一緒にすんで欲しい。本気なんだ」


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