〜5〜

祐巳の胸にこみ上げる熱き思い。
自分ではそれが何であるか、まだ見当がつかなかった。
ただ、今、現実として、祐巳は聖さまと口づけを交わしている。

(私、何をしているんだろう…)
あまりにも速いテンポでの展開に、
頭がついていっていない。
(私、聖さまとキス…してる。なんで?)
現実は認識できたが、その理由がわからない。
そもそも、聖さまが、ここに祐巳を連れてきた理由も、
いまいちはっきりしていない。

聖さまの唇が、祐巳からゆっくりと離れる。
顎に添えられていた手も一度離されたが、
すぐに、背中の後ろに回され、祐巳の顔は、
聖さまの胸に押し付ける形になる。
感じる、聖さまの鼓動。祐巳と同様、早くなっている。

祐巳の頭の上に、顎をのせるようなポーズをとり、
体全体で祐巳を包み込むような姿勢をとる聖さま。
「今日という日がくるのをずっと待っていたの」
「えっ?」
「2年間、私が卒業してから、祐巳が卒業するまで。
ずっと私は待ちつづけていたのよ。祐巳と一緒に過ごしたい、
祐巳と一緒に暮らしたい、ずっとそう思いつづけていたの」
そういうと、体を持ち上げるような感じで、聖さまの体から離す。
穏やかで、優しい表情をしている。愛しいものを見つめる感じで、
祐巳のほうを少し目を細めてみている。
おもわず、その目に引き込まれそうになる、祐巳。

「覚えている?2年前の私の卒業式の日」
「…はい」もちろん忘れられるわけがない。
「教室で、祐巳と二人きり。そういえば、あの時初めて
祐巳からキスしてくれたのよね」
くすっと思い出し笑いをする聖さま。

「あの時、『愛しているよ、祐巳ちゃん』って言ったでしょ?
あれ、私の本心だったのよ。本当なら、あの場で、私から祐巳の
唇を奪いたいぐらいだったの。でも、私のお姉さまだった人の言葉が
頭に浮かんで、それは出来なかったのよ。
『大切なものが出来たら自分から一歩引きなさい』て。
そう、私はのめり込みやすいタイプだから、相手の気持ちも、立場も考えず、
突っ走るところがあったのよ。でも、祐巳のこと、本当に大切にしたいと思って、
あの場は、あの形で別れることにしたの」
そういって、天井の方を見上げる聖さま。

「つまり、聖さまは、私のことが好きだった」
「そうよ、今も好きよ」
「好きだから、一緒に住みたいと」
ばかみたいに聞いたことの繰り返しだけど、
これぐらいしか口から言葉が出せない。
「そういうこと。もちろん、無理矢理、住ませるなんてことはしないわ。
また後日、そうね、一週間後に改めて話をするってのはどう?
それまでに結論を出せとは言わないから。いいわね?」
まだ、頭の中が整理できていないが、とりあえず、今日のところは
帰らせてもらえるようだ。

祐巳の家まで送るという申し出を、丁重にお断りし、
再び家路につく。すでに外は、暗くなっていた。


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