〜7〜

約束の日の前夜、聖さまから電話が入る。
『どうせなら、泊りがけできてよ。私、次の日、用事ないし。ねっ!』
楽しそうにいう、聖さまの言葉に負けた訳ではないが、
しぶしぶ承諾し、両親にも了解を得る。
「御迷惑おかけするんじゃないわよ。」
大丈夫です。多分…。

約束の日は、夕方まで本屋のバイトが入っているとのことだったので、
聖さまの部屋に行ったのは、19時近くになってからだった。
部屋の前で、そのあと話すことを考え、一瞬、呼び鈴を押すをためらう。
(ここまできて、何をためらう福沢祐巳!)自分で自分を励まし、
「えーい!」とばかりに、勢いよく呼び鈴を押す。
「はーい!」奥から、元気のいい聖さまの声が聞こえる。
ドアが開かれる。「やっ、本当に来てくれたんだ」
(そりゃ、約束したんだから、きますよ)
まさに満面の笑みを浮かべ、嬉しそうな顔をする、聖さま。

「ごきげんよう、聖さま。お言葉に甘えて、泊まりにきました」
ぺこりと、お辞儀をする祐巳。手に大きな鞄をもっているのを聖さまは見て、
「んっ、よしよし、しっかりお泊りグッズ用意してきてるじゃない。
今日は、寝かせないわよ、ゆ・み!」
どっ、どういう意味でしょうか?
「もちろん、それって、夜通しで話そうってことですよね?」
「さーっ、どうかしらね?私の部屋、お客さま用の布団なんて立派なものないし、
今夜は、私のベッドで、二人っきり。食べちゃおっかなーっ!」
「かっ、帰らせていただきます」
いきなりのおやじモード。恐ろしくなって、回れ右をすると、
「冗談よ」と、笑っている、聖さまに腕をつかまれる。
「とりあえずは、話をするだけだから、心配しないで」

そういわれて、部屋にあがる決心をする、祐巳。
本当に、布団はないのだろうか?
「あの、予備の布団、ないんですか?」
「ないわよ。でも、私のベッド、広いから大丈夫。
あれ、一緒に寝るの嫌なの?残念。
祐巳の柔らかい体を久々に抱けると思っていたのに。
大丈夫。予備の毛布はあるし、私がソファーで寝るから。
それより、いつまでも玄関に立っていないで、入った、入った」
ぽんぽんと、祐巳の肩をたたき、中に入るよう促す。
「お邪魔します」

中に入ると、いい匂いがしてきた。
「あっ、もしかして夕飯の準備してくれたんですか?」
「とーぜん!せっかく来てもらったんだから、
私の手料理ぐらい振舞わなくてどーします。
でも、時間がなかったから、パスタだけど、もしかして、
夕飯食べてきちゃった?」
「ええ、軽く…。でも、食べられます」
「無理しなくていいからね」

食卓につき、用意されたパスタと、サラダをいただく。
「聖さまが料理なんて、意外です」
「そお?でも一人暮らしして、毎日、コンビニじゃぁ体に悪いでしょ?
これでも、しっかり作って食べてるのよ」
「確かにそうですね」
「味の方は自信ないけど、どう?」
「とても。おいしいです」
簡単だけど、難しい、スパゲッティカルボナーラ。
麺はしっかりアルデンテ。ソースは、だまにならず、
麺に程よく絡まっている。ほんとに、おいしい。
「甘党の祐巳のために、デザートでケーキも用意してあるけれど、
それは、あとで話しながらね」

食べ終えた後、片付けをしようとたちあがると、
「祐巳は今日はお客さんだから、座ってて。
一緒に住んだら、やってもらうから」といわれ、
「いいから、いいから」と、リビングのソファーに座らされる。

鼻歌を歌いながら、お皿を洗う聖さま。こんな場面、初めてかも。
聖さまって、普段は、生活感ないんだけど、こうしてみると、しっかりしているなと思う。
もし、一緒に住んだら、こんな風景も、当たり前になるのかな。
(ま、まだ決まったわけじゃないのに)思わず頭を振る祐巳。
聖さまに見とれたり、にやけたり、頭を振ったり忙しい祐巳。
幸い、その光景は、台所にいる聖さまからは、見えなかったようである。

「さて、おしまいっと」
布巾でテーブルを拭き終わった聖さま。
ケトルをコンロにかけている。
「じゃぁ、祐巳ちゃんを、いただくとしますか!」
ソファーに座っている祐巳のすぐ隣に腰をおろし、
祐巳の上半身を自分の方に向ける。

「いや、ちょっと、聖さま…」
両手を前にだし、体全体で拒否をする祐巳。
「おっ、祐巳は、そんなに私のことが嫌いなのか?」
「す、好きですけど、これはちょっと…」
「ピーッ」と、お湯が沸いたことを告げるケトル。
「ざんねん」と言って、聖さまは笑いながら、台所の方へと向かう。


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