〔4〕
そのまま、どれくらいの時間が経ったのか。
私は、体勢を変えぬまま、声をあげず、涙を流していた。
藍子は、そんな私に声をかけるわけでもなく、
軽く背後から抱きしめる形で、その存在を感じさせる。
(私、欲しかったのか?)藍子の優しさを、その真剣な気持ちを、
ぬくもりも、愛情も全てを感じて、初めて自分が、何を求めているのか
わかってきた気がする。私は、一人でいながら、心のどこかで
自分という人間を理解してもらえる人間を探していた。
結局、そういった人間は現れることがないと、
全てを拒絶するような行動を取っていた…。
(いた!ここに、私があきらめていた求める人が!)
涙が乾く間もなく、次々と溢れてくる。
それはまるで、この何年も溜めていたものが、
堰を切ったように流れてくるかのようだった。
涙を流しながら、気持ちを落ち着かせる。
初めて感じる、胸が苦しくなる思い。
それを感じているのを現実として認識した上で、
藍子に話し掛けた。
「藍子…あなたが私が待ち望んだ人だった。
私待ってた。ずーっと。どんな自分でも、
受け止めてくれる人を。あなたが、あなただけがそれに
気づいてくれた。私の全部を受け入れてくれた」
上半身をひねり、藍子の胸に、自分の顔を押し当てる。
藍子は私の背中に腕を回し、まるで、
子供をあやすかのような形をとる。
「私、自分が子供だってわかってた。
欲しいのに、わざと『いらない』っていう子供とおなじだって」
「沙紀さんは、あまりにも傷つきやすいんですね。
だから、きっと、求めて拒否された時のことを考えて、
心の扉を閉めて、誰も立ち入らないようにしていたんです」
「そうかもしれない。自分で勝手に入っていったのに、
誰かにあけてもらうのを待っている、自分勝手なヤツ」
「私が沙紀さんの心に入っていいですか?」
「えっ?」
私は、顔をあげ、藍子の顔をしたから見る。
「沙紀さんの心を感じたいんです」
心の中にそそがれるような笑顔とともに。
―塔の扉は開かれた
もはやそこは暗闇ではなかった―