映画のページ

Elefantenherz

Züli Aladag

2002 D 95 Min. 劇映画

出演者

Daniel Brühl
(Marko Stemper - アマチュア・ボクサー)

Erhan Emre
(Büent - マルコの友達)

Jochen Nickel
(Stemper - マルコの父親)

Angelika Bartsch
(Renate Stemper - マルコの母親)

Manfred Zapatka
(Gerd Hermsbach - マルコの実父)

Jana Thies (Sara)

見た時期:2002年8月

ストーリーの説明あり

ボクシングは全然好きではないのですが、続けて2本ボクシングの映画を見る機会がありました。そして驚いたことに両方とも出来がいいです。見た後も「じゃ、ボクシング見に行こうか」とは思いませんでしたが、監督も俳優もなかなかがんばっていました。

1つは Elefantenherz といい、ドイツの作品、もう1つはムハメッド・アリを描いたアリです。アリ G ではありませんから、お間違えのないようご注意下さい。

Elefantenherz はドイツの作品ですが監督はトルコ人です。主演はまたあのダニエルブリュール。本当に若き天才俳優という言葉がぴったりで、Das weisse Rauschen とも Vaya con dios とも違う演技をしています。ダニエルブリュールはスター監督でなく、新人の監督を選ぶ傾向が強く、今回はトルコ人でほとんど名前の知られていない人です。実力の方はすばらしく、監督になる前にローランド・エマリッヒの所で修行しています。脚本が良くできていて、主演に天才を連れて来て、脇を演技のしっかりした人が固めています。非常に脚が地に着いた演出です。選んだ俳優は監督が全面的に信頼できるだけの力を持っていますが、俳優にやりたい放題やらせる演出方法ではありません。監督と俳優でいいティームを作っています。

筋を説明しますので、見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

話は暗いです。オープニング、シュテンパー一家の長男マルコがどこかのアパートの屋上で1人ボクシングのトレーニングをしています。舞台はルール工業地帯の西にある町デュイスブルク。ルール工業地帯というのは学校の社会の授業に出て来ましたが、鉄などで有名。大きな川が2本ぶつかる地点で、川を工業製品の輸送に使っているドイツでは重要な工業都市です。ですから森とお城の国ドイツにしてはあまり見てくれが良くありません。マルコがいる屋上も、学生時代に毎日見た xx(ペケペケ) 団地に比べ建物が大きく、ということは1軒につきもっと世帯数が多く、黒く汚れていています。不景気の2002年ですから失業者がかなり多いだろう、などということを一瞬のうちに観客に伝えるシーンです。

その予告通り、マルコが住んでいるのはそういうアパートの1つ。ドイツは一般に日本より住宅事情は良いのですが、こういう Neubau(「ノイバウ」と読みます。「新建築」というような意味)と呼ばれるアパートは、日本の団地と似たような作り、大きさで、隣の騒ぎなどもすぐ聞こえて来る程度の壁の厚さ。天井も低いです。そしてルール工業地帯ですからそういう建物がいくつも並んでいます。果たしてこういう所に住んでいて失業していたら幸せに暮らせるだろうか、と単純な疑問が浮ぶのはあなただけではありません。

シュテンパー一家は父親が飲んだくれの失業者、母親が家庭内暴力の犠牲になっている主婦、息子がまだ仕事が無く、趣味でボクシングをやっている若者、妹がまだ学校という構成。今日もまた殴られている母親を見て、マルコはボクシングで金を作って一家を助けようと決心し、練習に励んでいます。

ボクシングはマルコを息子のように可愛がってくれるトルコ人のトレーナーから習っています。同じジムではトルコ人の友達ビュレントも一緒に練習しています。70年代にはアラビア人と同棲したドイツ人女性が経験する困難を描いた作品などが問題作として話題になりましたが、2002年にはトルコ人に面倒を見てもらうドイツ人の若者がそれほど特別な事でないように描かれています。トルコ人がボクシング・ジムを開いたからといって、習いに来るのはトルコ人ばかりではないという時代に入っています。マルコの親友がトルコ人のビュレントという設定にもなっています。ドイツはこの20年にかなり努力を重ね、ベルリンなどでも交流の盛んな地域では人種の壁はかなり取り払われています。

マルコは練習の甲斐あって上達しますが、トレーナーは「お前はまだ一人前ではない」と言います。ボクシングは相手を殴り倒すだけ、技術だけではないというのがトレーナーの考えで、戦い方をもっと学べと言います。家庭の問題をボクシングにぶつけているマルコをトレーナーはもっと高い所から見守っています。ですから早くプロにと焦るマルコにブレーキをかけます。

このマルコを見守っているもう1人の男がいます。合法・非合法の境界線すれすれで仕事をしている町の有力者ヘルムスバッハ。彼がマルコにプロの試験のチャンスを与えます。マルコにアパートを与え、トレーニングの金を援助します。練習に励み、これに勝てばプロ入りができるという試合に臨みますが、マルコは負けます。ヘルムスバッハがやけにマルコに目をかけ始める頃から、ただでさえやりきれない生活をしていた一家にさらに波風が立ち始めます。実はヘルムスバッハはマルコの実父。犯罪に関わることもあるヘルムスバッハを嫌い、母親は今までそれを黙っていました。マルコの家庭は貧しく、崩壊していますが、犯罪には手を出していませんでした。この後飲んだくれの父親がどうするか、実父がどうするか、試合に負けたマルコはどうするかなど、次々に起こる問題にそれぞれけりがついて終わります。

残念ながらこの作品はヒットにならず、辛口の批評もあったそうです。私は映画館で見ましたが、どうやらテレビに回ったようです。しかし「監督と俳優に実力があるぞ」と宣伝するのには充分。今後が期待できます。

後記: ダニエルブリュールグッバイ、レーニン!が記録的なヒットをし、とどまるところを知らない様子なので(いまだに上映している映画館があります)、ブリュールなら受けるだろうというので、この Elefantenherz も映画館に回っています。めでたし。

この後どこへいきますか?     次の記事へ    s 前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ