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Vaya con dios /
Vaya con dios - Und führe uns nicht in Versuchung

Zoltan Spirandelli

2002 D 106 Min. 劇映画

出演者

Traugott Buhre
(Stephan - 心臓発作を起こす修道院長)

Michael Gwisdek
(Benno - 本の虫)

Matthias Brenner
(Tassilo - 食いしん坊)

Daniel Brühl (Arbo)

Chiara Schoras
(Chiara - ジャーナリスト)

Heinz Truxber
(Pater Claudius - イエズス会の長老)

Christel Peters
(タシロの母親)

見た時期:2002年7月

ストーリーの説明あり

ひところに比べドイツ映画はこのところずっと上り調子です。「このところ」と言いますがかなりの年数になります。以前その上り調子が始まるきっかけになったデトレフ・ブックという監督が最初の作品を持ち込んで来た時に、偶然居合わせるという幸運にぶち当たりました。その話はまた別な機会に譲ることにして、最近有名になり始めた俳優の話にします。

映画のタイトルになっている Vaya con dios は「神と一緒に歩む」というような意味です。古い歌を知っている人がいたら、その人は私と同じぐらい年ですね。知らないフリして話を進めましょう。そして前半、物語が始まる早々昇天してしまう修道院長の役を演じている Traugott Buhre の Traugott は「神を信頼する」という意味で、まるでしゃれでつけたような名前です。

ダニエルブリュールという日本人泣かせの発音の名前の持ち主が修道僧カルテットの中で1番若いアルボを演じています。1978年生まれのブリュールはまだ出演作品が少なく、そのうち3本を見ました。2本は主演、この Vaya con diosDas weisse Rauschen です。この他に長崎さんお気に入りのキルステン・ダンストとも共演しています。Das weisse Rauschen はちょっと前に触れました。参考のために次の記事にもう1度入れておきます。

後記: その後新作グッバイ、レーニン!が大ヒットしました。

ブリュールは Vaya con diosDas weisse Rauschen とまったく違うキャラクターを演じています。見ていてうれしくなってしまうような、信じられないほど現実から隔絶したど田舎の修道院で4人の男性が生活しています。中世からタイムカプセルで現代に持って来たような所です。話ではブランデンブルク州のどこかということですから、うちの近所・・・と言っては大げさですが、ベルリン州の隣がブランデンブルク州です。ベルリンはブランデンブルク州という湖の中に浮かんだ島みたいなものです。撮影に使われた修道院はエバースバルデの近く、コリンと言って、井上さんも1度行った所ではないかと思います。

そこに住んでいるのは老人1人、中年2人、若者1人。キリスト教には大きく分けるとカソリックとプロテスタントというのがありますが、カソリックの中にまた大きなグループと、小さいグループがあり、小さい方にはよく戒律が厳しく《修行僧》という言葉がぴったりな宗派があります。この作品の中ではカントリアーナーということになっていて、フランチスカーナー(フランシスコ会)などと似たような、自分の富については一切考えない、人のため、神のために生きるといった印象を受けます。これは監督のシュピランデリが捏造したもので実際にはカントリアーナーなどという宗派は無いのですが、映画の中では名前の通り朝から晩まで歌を歌っています。

ここで感激してしまうのは、修道士が普通の会話をラテン語でやっているシーンです。新しい世紀に入った現代、こんな事をやっているのはローマ法王処刑人のマクナマス兄弟ぐらいなものです。

後記: 2004年になってパッションというキリスト教の映画が登場。そこではかなり長い間ラテン語の台詞があります。

ある日檀家の女性が来て「貸したお金を返してくれ」と言ったため、1番長老の修道士が心臓発作を起こして死んでしまいます。この作品は一応コメディーということになっています。死ぬ寸前に長老は若者に宗派の象徴である音叉を与えます。残された3人は途方にくれてしまいます。商売をして金を稼ぐことを潔しとしない宗派だったため、蓄えはゼロ。残ったのは200年前から伝えられる本だけです。この本は元々イタリアにあるカントリアーナー修道院に属する物なので、3人はそこに向かって旅立ちます。本をそこに戻し、自分たちの行く先もそこで何とか・・・と希望をつなぎます。

本と同じく200年前の物かと思えるような古い地図を持って、徒歩で旅立った3人。道中若い女性の乗った車と事故になりかけます。女性の車はドイツ南部のシュトゥットゥガルトから来ていたので便乗させてもらい、一路南へ。ここからロードムービーになります。途中いろいろあって、食いしん坊のタシロが抜けるのですが、残った2人、ベンノとアルボは途中で車から列車に乗り換え、カールスルーエまで来ます。

イタリアへ着くはずだったのですが、1900年代の生活様式をあまりきちんと勉強していなかったので、電車に乗る時は乗り換えのことも考えておいた方がいいということを知らなかったのです。カールスルーエで偶然ベンノは昔の学友、現在イエズス会の大物に出世した友達クラウディウスに出会います。2人の間には宗教的思想的な理由だけでなく、女性問題も絡んで何十年も前に袂を分ったという過去があります。が、何十年ぶりの再会を喜び、現在の友達の急場を救おうと、クラウディウスはベンノとアルボがイタリアへ戻そうとしている本を譲り受けるという交換条件でイエズス会のポストを提供します。クラウディオはベンノの持っている本の価値をよく知っていて、なかなかの策略家です。書物が大好きな上、ここのイエズス会の図書館には貴重な楽譜が保管されているためベンノは迷い始めます。

このあたりまでのブリュールはバラバラの名前、いえ、薔薇の名前のクリスチャン・スレーターを思わせ、3人の長老の方はショーン・コネリーを小分けにしたような印象を受けます。ここでアルボは本をイタリアに届けなければという義務感に目覚め、ベンノの迷いに危機を感じます。このベンノの目を覚ますために使った手は独創的です。ここはぜひ映画を見て下さい。携帯、エスカレーター、オートマティックの車、カセットレコーダーなどを知らずに生きて来た人たちと現代生活のずれで起こる笑い、あまりにも原則的に生きている人たちとあまりにもうわべだけで生きている人たちの差から起こる批判的な視点、そして宗教に詳しい人にちくりと刺さる視点。いろんな方向から楽しめる作品です。

ダニエルブリュールの才能はなかなかなものです。そのためか今年は受賞ラッシュでした。Vaya con dios で共演したベテラン俳優にまったくひけを取らず、若いということだけで年寄りの間で目立っているのではありません。Vaya con dios だけを見ると、得な役だという印象になるかも知れません。しかし Das weisse Rauschen も見ると「かなりいける・・・」と感じます。この才能が国際的なものか、ドイツだけで受けるものかはまだ分かりません。デトレフ・ブックのように自分のホームグラウンドはドイツと狙いを定めて、ドイツの笑いを追及するか、ティル・シュヴァイガーのようにドイツで地位を確立した後、ハリウッドに目を向けるか、選択肢を絞るまでにまだいろいろトライできるでしょう。

参考作品: Elefantenherz

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