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ドイツで1番有名な人

考えた時期:2002年10月

ドイツで1番有名な人は誰でしょう。故人も入れると相当な数になるので、とりあえず現在生存している人に限りましょう。生きていてもほとんど忘れられた人というのもはずしましょう。となると挙がって来そうな名前はやはりボリス・ベッカー(今税務署から追いかけられて大変な目に遭っています。アホな事をやって家庭崩壊。離婚しましたが、奥さんが寛容で、トラブルになると助っ人に現われます。執行猶予で決着。)、シュテフィー・グラーフ(アガシ憧れの人ですが、現在は子供ができて大満足。)、クラウディア・シファー(ナポレオン・ソロの息子と思われていた人と結婚して、現在大きなお腹を抱え、子供の誕生を待っています。)、鬼のカーン(日本でも受けたゴールキーパー。最近やる気なくして、次の世界選手権より前に引退すると言い出しました。その話間もなく撤回。)、いつも勝つので退屈になって来たミヒャエル・シューマッハー(グランプリ・レーサー。弟のラルフも有名。)、ま、こういった人たちでしょうか。

その他に国内だけで受けているトーマス・ゴットシャルク(やる事が何でも派手なバラエティー・ショーの司会者)、最近は外国でも評価が上がっているヨシュカ・フィッシャー(環境庁の大臣に納まるとばかり思っていたら、あら不思議外務大臣になった人。ベビー・フェースで親しまれています。)、Ärzte (訳すと医者という意味ですが、男性だけの合唱団。ヒットしようがしまいが長期に渡ってコンスタントに仕事をし、幅広いファンがいる。)、オットー(スイスのエミールと並び賞されるコメディアン、と言ってもエミールも知られていないか。)、ミヒャエル・ヘルビッヒ(あのアホ映画マニトの靴を作った笑いの天才。)なども挙げられます。

しかし、しかしです。私はこういう人を押しのけてカールハインツ・ユンクをドイツで1番有名な人に選びたいと思います。Who the fuck is Karlheinz Jung? いいんですよ、聞いて下さって。とても外国に知られているとは思えませんから。ドイツに住んで住民登録を済ませて暫くすると、外国人でもたいていこの方とお近づきになれます。私も確か初めて知り合ったのは1981年だったように記憶しています。この方どういう姿をしているかは知っていますが、まだ直接会ったことはありません。商売は商人、あきんどです。住んでいるのは住所からすると南ドイツ。結婚しているような感じです。時々エリカ・ユンクという女性の名前が登場します。カールハインツ・ユンクはもさっとした中年のおじさん。同じような写真で20年通していますが、もしかしたら髪は白くなっているかも知れません。

この人を知らないドイツ人はもぐりです。皆どうやって知り合うか。 − 小さなぺらぺらのカタログが家に送られて来るのです。A4 の紙を三つ折りにしたぐらいの大きさ、厚さは2ミリか3ミリ程度。オール安っぽいカラー刷りのカタログ。そこに載っている商品は秋葉原デパートで売っていそうな台所用品、文房具、裁縫道具、ふろ場用品、自分の名前を入れてもらえる財布やメモ帳、名刺、住所のシール、旅行用品 etc. ま、雑貨と呼べるような物です。日本製と比べるとどこか安っぽく、野暮ったくて今一という感じです(秋葉原デパートの方が良さそうに見えます)。商売の方法もどことなく貧乏臭くて行けません。アジアに買い付けに行って安く作らせたのでは、とかんぐりたくなるような商品の並んだカタログです。

ところがこの人どこかに天才的なひらめきがあるらしく、似たような商売を始めた人は他にも何人かいたようなのですが、生き残ったのはこの人1人。大企業、中企業が見逃しそうな細かい需要に応じた製品を売っています。注文はどうやら100%通信販売のようです。そして、何よりもこの人の文学的才能には新鮮な驚きを覚えます。全ての製品に写真と能書きがついているのですが、その能書きが実に消費者の心をくすぐるように書かれています。「壊れない魔法瓶 − 外側も内側も錆びないステンレス18/8でできています。・・・割れてしまうようなガラスは使われていません。この特製モデルは特別な真空システムで、何でも24時間熱いまま、あるいは冷たいまま保存します。外側は非常にエレガントないぶしスタイルです。そしてうれしいスペシャル。ステンレス製、取り外しのできるコップ、二重のパッキングのついた全く安全なねじ式の蓋、横に漏れない注ぎ口、便利な肩かけの紐(取り外しできます)、そして注ぎ口は氷も入れられるほどの大きさです。」ってな具合。日本語で見るとアホかと思いますが、ドイツ語で見てもアホかと思います。

ステンレスは確か開発された当初から錆びない物でした。旅行などに持って行く魔法瓶は確かガラス製の物でもコップがついていました。それに持ち運びする魔法瓶はたいていねじ式の蓋。魔法瓶の注ぎ口でトラブったというのも聞いたことがありません。

そうなのです。この人は当たり前の事を非常に大切な事のように丁寧に、年取ったおばあさんでも分かるように分かり易い言葉で説明してくれるのです。そのスタイルは普通のドイツ人と違って、優しい孫がおばあさんに新しい事を説明してあげるように、あるいは誰も構ってくれない家庭の主婦に「あなたが台所でいつも困っている、その悩み私も理解できますよ」と語りかけるスタイル。そして、傲慢な大企業のぴかぴかの資源無駄使いカタログでなく、小さくてぺらぺら、誰にでも親しまれる、頭の低いカタログです。そしてちゃんと住所が印刷してあり、計算しやすい注文書がついています。送るための封筒も。それでついふらふら注文してしまう人が・・・かなりいるでしょうね。実は私もその1人。注文書をポストに放り込んで一瞬後悔します。安物買いの銭失い、・・・ひっかかったか・・・と。

ところが驚きが待っています。町で同じ物を見ると町の方が高かったり、同じ値段の物が結構あるのです。そして1週間しないうちに品物が届きます。趣味の悪いデザインの物も売っていますが、そういうのを避けて、シンプルな物を注文すると、不満は出て来ません。そして周囲を見回してみると、カールハインツ・ユンクで注文した品物を使っている人が結構います。コンピューターが発達したので、名刺などは今後下降線をたどるかも知れません。しかし、扱っている製品の種類が多いので、1つこけても会社が倒れるということはないでしょう。

そして次の驚き。1度注文した名刺のデザインが間違っていたことがありました。連絡を入れたら、返品はしなくて良い、正しいのをすぐ送る、と言って来て、実際送られて来ました。間違った方も住所は正しかったので、倍貰ってしまったわけです。トラブルの場合の迅速なサービスなど期待していなかったので、これには驚きました。

そして今でこそドイツではステンレス製の魔法瓶を売っていますが、日本から5年以上遅れての発売です。カールハインツ・ユンクは先を読んでかなり前から売っていました。逆に恐ろしく古風な物も売ります。例えば衣類に縫い付ける名前。この人には不思議な魅力があって、用が無くても送られて来る新しいカタログを暖炉のそばでぺらぺらめくりたくなります(電車の中でカタログを見ている自分を人に見られるのは恥ずかしい・・・)。残念ながら最近のドイツには暖炉はありませんが。

20 Jahre mit Karlheinz Jung. カールハインツ・ユンクとともに20年。

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