映画のページ

ペーター・ストルマーレはコメディーに向くか

Peter Stormare

1953 Arbrå, Schweden

また変な人を連れて来てすみません。アメリカ映画ばかりを見ているとこの人もウド・キアーに負けず変態、殺人鬼、サディストのような役が多いですね。でも日本での評判は良く、真価を高く評価しているようです。それでいいんですよ、私も応援していますから。

日本と言えば東京グローブ座の演出などでもいい評判だったそうで、そういう時にずっと外国にいた私は不運。アメリカでは悪役ばかりですが、本国できちんとした演技を身につけ、シェークスピアなども専門の一部に入っており、演技は舞台と映画の両方、監督、美術、脚本、音楽など舞台に必要な事は何でも一応こなすというのですから、王立の演劇学校を出ると才能が多方面に花開くんですね。日本とは私生活でもウマが合うようで、日本人の奥さんを貰ったとかいう話も聞いたことがあります。

見た映画を並べるとざっと以下のような具合。

・ ファーゴ
・ ビッグ・リボウスキ
・ マーキュリー・ライジング
・ 8 mm
・ ダンサー・イン・ザ・ダーク
・ ショコラ
・ 9 デイズ
・ マイノリティ・レポート
・ スパン
・ バッドボーイズ2バッド
・ Constantine
・ ブラザーズ・グリム

これだけで話すわけですが、私はペーター・ストルマーレには上に書いた数々の才能に加えてコメディアンの才能もあると思います。何かこう嬉々として悪役を演じているような雰囲気が伝わって来ます。これまでに演じた役の1部を挙げるとこんな具合ですが、

・ 軍人崩れのロシア・マフィア他、ロシア人の悪役
・ ニヒリスト
・ スナッフ映画のボス
・ 相棒を挽肉にしてしまう無口なギャング
・ もぐりの医者
・ 殺し屋
・ 悪魔
・ 目の不自由な移民女性に心を寄せるやさしい青年
・ 拷問のプロ

「目の不自由な移民女性に心を寄せるやさしい青年」というのだけが他とつりあいが取れていません。へそ曲がりの監督が、ストルマーレにはできそうにもない役を与えて困らせたのかと邪推したいぐらいパターンから外れています。しかもこの時はセリフは歌わされてしまったというおまけもついています。しかし、この程度の事で宗旨変えする人ではありません。その後も黙々と悪の極限を極めるべく邁進しています。

アメリカがワンパターンが好きだというところにこの偏った配役があるのです。こういうやり方に悩んでいるスターもいるようですが、ストルマーレは全然悩んでいる様子はありません。スティーブ・ブシェミととぼけた安物のギャングを演じたのをかわきりに血も凍るようなサディスト、マフィアなどといろいろやっていますが、マイノリティ・レポートを見て、この人はコメディーの乗りで悪役をやっているのだと思いました。映画によっては端役であまり長い出番がありませんから、恐いという印象だけで終わってしまいます。

それに比べてマイノリティ・レポートではトム・クルーズを相手にコメディーをやっていました。クルーズには恨みもつらみもあるもぐりの外科医というのが彼の役なのですが、あまり大した謝礼も受け取らずに彼の目を刳り抜いてやります。残酷そうに見えますが、そうしないとクルーズの命が危ないのです。人助け。文句たらたら言いながらもちゃんと手術はしてくれて、終わるとちゃんと医学的な指示を与え、食事やトイレに困らないように面倒まで見てくれます。「xx 時間は包帯を取っては行けない」と言います。しかも刳り抜いた目はちゃんとビニールの袋に入れて手渡す。こういう物にもちゃんと次の使い道があるのです。責任感一杯の医者です。親心出して冷蔵庫にはサンドイッチとミルクまで用意してやるストルマーレですが、一時的に目が見えないクルーズは冷蔵庫の間違った段から腐った食べ物を食べて吐き気。口直しに間違ったミルクの瓶を取り出して飲んだためにまた吐き気。しかしクルーズはコメディーには全然向いていません。ここのクルーズのコミカルさは、あの普段血も凍るような事をするストルマーレが親切心を出したために効果を発揮しています。この笑いは未来世紀ブラジルを知っているともっと効果的かも知れません。未来世紀ブラジルで最後サムを拷問した医者、あのイメージが普段のストルマーレと重なるので、まさか恨みを抱いている元警官の食べ物の世話などはしないだろうと考えるのが常識。その落差が笑いになったのだと思います。

監督、出番の長さ、役の内容に左右されるのは当然ですが、中には彼の才能を知っている監督に当たり、通俗的な悪役でない役を貰える時もあるようです。マイノリティ・レポートではいちゃもんつけましたが、ストルマーレに充分時間をあげたという点だけは私も喜んでいます。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ