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首相対元首相

別名 税金ソング

考えた時期:2002年12月

続報: このニュースを書いた直後からどういうわけか「税金ソング」はラジオに流れなくなり、話題にも乗らなくなってしまいました。どうしたんだろう。

理論中心のクソまじめ風なまえがきで始まりましたが、実践に入りましょう。本日のテーマは首相対元首相の対戦。始めにしっかりお断わりしておきますが、これは政治的な話ではなく、私がどちらの政治家を支持しているという話ではありません。焦点はユーモアのセンスだけです。

以前非常に長い間西ドイツの首相を務め、統一後初代のドイツ首相も勤めたヘルムート・コールという人がいます。本人は現在政界から引退していますが、人々の記憶にはまだはっきり残っている人です。現在は当時野党のゲルハルト・シュルーダーという人が首相を務めており、最近再選されました。この2人がユーモアを解するかで真っ向から対立、軍配はかなり水をあけて元首相に。・・・なんちゃって2人が対戦したわけではありませんが、今週現首相の敗北が明白になりました。原因は「税金ソング」。

★ 税金ソング

ドイツの芸能界で首相の声を真似たりして活躍しているコメディアン、エルマー・ブラント氏が、首相の再選後に公約を守っていないという考え「税金ソング」を流行らせました。スペインで大ヒットした「アセーレ、ザ・ケチャップ・ソング」のメロディーを使い、歌詞をドイツで新しく作り直しレコーディング。ドイツ語の作詞は歌っている本人を加えて3人の共同制作。


首相は選挙で約束したことを反故にした、
公約破って税金を上げた
 − 私はあと暫く君たちの首相だ、
   選んだのは君たちだ、
   君たちの財布からとことんまで税金をぶったくるぞ、
   犬税(猫が多いのに猫背、いえ、猫税でないところがおかしい − 筆者)、
   タバコ税、
   自動車税、
   環境保護税、
   売上税、
   飲み物税、
   まだ足りない、
   首にしようたってだめだよ、
   選ばれちゃったんだから、
   悪天候税なんてのどうだろう(悪天候補助金というのがある − お邪魔虫筆者)、
   睡眠税、
   毛染め税、あ、これは止めておこう(ついこの間巷で首相が髪を染めているかという議論があったようです − 筆者)、
   地表使用税・・・

延々と課税対象を思いつきながら 息をつく暇も無い勢いでしゃべりまくるという歌です。メロディーが有名だったことと、現在の国民の実感を表わしていたために、あっという間にヒットチャートを上りつめています。価格破壊が始まっても財布の紐を緩めない国民が、この CD だけは買い、この曲が流れるとラジオの音を大きくする人が続出。

それに対して、イメージを大切にしていた現首相は長い間沈黙を守っていましたが、ついに第2テレビ(普通よりまじめな番組をやる国営の放送局)の番組で物言い。歌ったブラント氏について「人にたかるとんでもない奴だ」などと怒りを表わしたそうです。言われた方は自分の歌が風刺だと心得ているので、言い返す言葉はしっかり準備してあったとみえ、すぐ口応え。タッグマッチの覚悟はできていたようです。この歌手がベルリン人かどうかはまだ知らないのですが、ベルリンは図々しい口応えや、ぴしゃっとやり返すことで有名な町で、市民もそれを期待しています。上手にやり返すと、自分と意見が違っても拍手喝采を送ります。北西の州から来た首相のメンタリティーとはちょっと合わないのかも知れません。

ドイツの芸能界をそれほど身を入れて追いかけていなかったので、エルマー・ブラントというのがどういう人なのかは知りませんでした。声が本当に現首相そっくりだったので、きっと似たような体型なのだろうと思っていました。ですから姿を見てびっくり。年は二回りほど若く、体もすっきりやせ型。顔はどちらかと言うと今飛ぶ鳥を落とす勢いで売れているドイツの若手天才俳優、ガラスの舞いの主演をつとめたユルゲン・フォーゲルに似ています。どうやってあの全然似ていない体、特に全然似ていない頭蓋骨であんなにそっくりな声を出せるのかは謎。首相に攻撃されたらすぐひるみもせず反撃に出たので頭の回転はかなり速いようです。

対する元首相はどうでしょう。

ルックスは現首相にかなり水をあけられています。そして英国の元首相にひそかに洋ナシというあだ名をつけられ、それがドイツに入って Birne(洋ナシ)となり、国民に広がり、任期中いつもばかにされていました。雑誌などは、彼の頭をひょうたんに似た洋ナシのように描いて、盛んに風刺していました。当時現役だった首相はこれについて一切コメント梨、いえ、コメント無し。ご夫婦そろってスマートなファッションなどとは縁のない、ごく普通の、どちらかと言えば野暮ったいイメージで通していました。人から洋ナシだと言われても声を上げて反対したことも無ければ、公の席で目立った不快感を示したこともなく、そのまま引退して行きました。

任期がかなり長かったのですが、いつの頃からかばかにされていたはずの首相がだんだんこの名前で親しまれて行くという風に逆転するのを私は驚きの目で見ていました。風刺の絵には上に小さな葉っぱがついたりしました。こんな風に言われて本人が喜んだかどうか分かりませんが、コール首相は歴史に詳しい人物で、自分の政治が歴史の中でどんな流れを作っているかという事の方が重要。任期中のあだ名や風刺などにはかまっていられなかったのかも知れません。

話がそれますが、夫人は最近悲劇的な死を遂げ、その際見た「思い出の写真」でびっくり。野暮ったい田舎のおばさんのイメージで通していた人ですが、実はファッションのセンスはかなり良かったようですし、理工系でかなり頭のいい人だったようです。家の中で機械を修理するのは女房の役目だとコール氏が発言したこともあったようです。私たちには女性が3歩下がった昔風の夫婦に見えていました。

結局この対戦、言いたい物は言わせておけホトトギスと決めた元首相の勝ちと私は見ています。ユーモアを解さない人が首相だと、国民は先行き不安を感じてしまいます。どーんと座って(実際元首相の体重はかなり重そうでしたが)笑いたければ笑えと構えた人の勝ちです。

そしてこのやり取りを見る限り、ドイツ人の中にユーモアを解する人がいることだけは確かです。

後記: ドイツのテレビ関係のサイトに「国民はエルマー・ブラントから理解されたと感じ、政治家は侮辱されたと感じている」とありました。

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