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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン /
Catch Me If You Can

Steven Spielberg

2002 USA 141 Min. 劇映画

出演者

Leonardo DiCaprio
(Frank Abagnale Jr. - 天才少年詐欺師)

Tom Hanks
(Carl Hanratty - FBI金融犯罪捜査官)

Christopher Walken
(Frank Abagnale - ジュニアの父親)

Nathalie Baye
(Paula Abagnale - ジュニアの母親)

Amy Adams
(Brenda Strong - 看護婦、ジュニアの婚約者)

Martin Sheen
(Roger Strong - 弁護士、ブレンダの父親)

James Brolin
(Jack Barnes - 弁護士、母親の不倫相手、後に母親と結婚)

Frank Abagnale Jr.
(フランスの警官)

見た時期:2003年2月

井上さんからタイトルの付け方がまずいとの意見。大昔「キャッチ・アス・イフ・ユー・キャン」というポップスがあったのですが、そういうふうに何かこじつけでも無いと記憶に残りにくいかも知れません。ネーム・バリューで迫って「レオナルド・ディ・カプリオの天才詐欺師」とか、泥臭く「涙の孝行息子」とでも行きますか。作品全体は明るく軽快な60年代のスタイル、何かのチャンスがあったらお勧めします。

ストーリーの説明あり

かつてエンターテイメントの王様だったスピールバーグですが、最近の作品はちょっと悪意が感じられ好きになれませんでした。技術、効果などは100%知り尽くし、お金は使い放題、権力もありあまるほどあり、何でもありの監督ですが、出来上がった作品には人を1つの方向へ引っ張ろうという雰囲気が漂い過ぎることもあり、最近徐々に敬遠し始めていました。

そこへ久しぶりに楽しい作品。無論これだって教育映画には違いありません。1度間違いを犯した少年に優しい目を向け、再出発をさせてあげるという意図は見え見え。カプリオと重なる部分もあり、優等生的なハンクスに温情捜査官を演じさせるあたりは出来過ぎています。しかしそれでもこの作品は楽しかったです。

お金使い放題のスピールバーグですが、オープニング、出演者が紹介されるところから凝っています。話が60年代なので、60年代のスタイルのアニメが出ます。かつてこういうスタイルの映画、テレビのオープニングがありました。新しい世紀に入った今見ると、まるで高価な美術品のようです。それをすっかり再現したようなモダンなスタイル。見とれていました。こういうところには大いにお金を使っていただきたいです。その上後ろを流れる音楽もベテランの作り。すっかり当時のスタイルを再現しています。それはもうわくわくします。(博物館にはぜひこういうフィルムを保存してもらいたい。)

映画を見る前ポスターを見たのですがこれがまた白と黒のトーンの出来のいいポスターで、追っかけっこというテーマが上手に出ています。マジではあるもののどこかしら遊びっぽく、映画の中で人の命を奪ったりするようなシーンが無いことを予想させてくれます。安心して見ていられる映画という宣伝効果絶大。

ストーリーは実話なので、この人の話を聞いたことがあるという方もおありでしょう。ばらしますから、まだ知らない人、映画を見て驚く予定の方は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

実在し、IQ136、18歳になる前に世界をまたにかけて小切手の詐欺をやりまくり、250万ドルせしめ、飛行機のただ乗りをしまくったという少年(合法的なただ乗りはこちら)の自伝を元に、本人のアドバイス入りで作られた映画です。フランスで逮捕されますが、そのシーンの警官の役で本人が顔を出しています。12年の刑になるのですが、彼を必死に追い、首根っこ押さえた FBI の捜査官が自分が捕まえた犯人を2年かけて釈放させ、FBI の特別な任務を与え、刑期終了後は大金を報酬として支払って、小切手詐欺のアドバイザーにリクルート、現在に至るという夢のような本当の話です。(映画には一部脚色があり、実話100%ではないそうですが、概略はこういった話だったそうです。)

スピールバーグがカプリオにこの役を与えたのも親切だなあという感じがします。カプリオは随分前から天才だと言われています。聞くところによると、彼がまだ16歳にもならないうちにロバート・デ・ニーロが目をつけ、普通はめったにそういう事をしないロバート・デ・ニーロマルチン・スコシージに「才能があるから彼に注目しろ」と言ったとか言わないとか。ドイツではジョニー・デップと共演したギルバート・グレイプが天才的な演技だと言われています。しかしドイツにはちょっと地元びいきがあります。カプリオとサンドラ・ブロックはドイツに親戚がいます。ブロックのお母さんはドイツ人のオペラ歌手。カプリオのおばあさんは南ドイツ出身で、カプリオは片言、ブロックは流暢なドイツ語が話せます。2人ともアメリカにいてアイデンティティーの問題に襲われると、ドイツの親戚のことを考えるのだそうです。それでドイツでは2人の映画にボーナスがつくので、話半分ぐらいに割り引いた方がいいような面があります。ブロックはしかしこの間完全犯罪クラブで大根役者ではない部分を見せてくれました。カプリオは確かにギルバート・グレイプでなかなかの演技を見せてくれましたが、私は知恵遅れ、狂人、凶悪犯など特別に難しい状況にいる人間を演じるのは意外と簡単なのではないかという意見の持ち主なので、カプリオの評価はまだお預けにしてあります。タイタニックは大ヒットしましたが、あの演技が特に良かったとは思えません。大パーティーのロミオとジュリエットでも、舞台はギンギラギン、周囲の人がみなエネルギッシュ、演技派もそろっていたので全体はうまく行ったけれど、ウエスト・サイド物語のように肝心の王子様と王女様はそれほど大した演技ではなかったような印象を持っています。さらに言えば仮面ライダー、いえ、仮面の男は全然だめでしたし、ギャングズ・オブ・ニューヨークではルイスにお株を奪われているという風評が飛び込んで来ました。やっぱりだめなのかと思い始めていたところですが、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンはなかなかよく役にはまっています。ずば抜けた才能かどうかは分かりませんが、役者としては何枚も上のトム・ハンクスとクリストファー・ウォーケンを向こうに回して見劣りはしません。

全米、世界をまたにかけて金を取りまくる裏にある悲しい面を、陽気な顔をしながら充分に表現。2人の大人の間で知恵を武器に暴れまくる餓鬼なのですが、彼には父親の悔しさを晴らしてやろうという気持ちがあります。いつも逃げ回る生活なので、よりによって自分を追って来る捜査官が唯一の友達になってしまうという幸か不幸か分からないような状況もおもしろいです。

子供のシーンはいくら童顔のカプリオでもちょっとトウが立っているかなと思いますが、ストーリーがおもしろいのでその辺はうるさく追求しません。トム・ハンクスは最近ロード・トゥ・パーディションを見たばかりなのですが、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンでは上手に変装、ちょっと丸目の顔にしてあり、同一人物には見えません。

今はハイテクで小切手詐欺はそれほど簡単ではないでしょうが、60年代ですとまだタイプライターなどを使う時代で、ちょっと頭が良くて手先が器用だとかなりな事ができたようです。主人公フランクはいくつかの才能が1人の人物に集中し、子供がPCを覚えてあっという間にハッカーになってしまうように、父親があまり手際良くできない事を早いうちに見て学び、父親よりずっと上手になってしまった、いわばIQの高い子供が音楽を習えば天才ピアニストになり末はアマデウスに、チェスを習えば世界的な選手になり末はルーツィンになるところを、彼は詐欺を覚えてしまったというようないきさつです。ですから短期間に取ったお金も、飛行機の切符をごまかした規模も並外れています。それをカプリオが演じると観客は何となく納得してしまいます。大人でクソまじめの FBI 捜査官ハンクスをいっぱい食わせるシーンが何度もあり愉快です。ハンクスが自分の相手は子供だと気付くまでにかなり時間を食います。やり方が大胆、精巧で、これをやったのか子供だという発想が浮かばないのです。映画の中では2人は愛すべき人間として描かれているので観客はリラックスして見ていられます。ポスターの功績もあります。

珍しくクリストファー・ウォーケンが気の毒な父親の役を演じています。この人は早いうちにオスカーをもらい、その後が大変だった人ですが、演技力はかなりなもの。その実力を普通に出すチャンスが少なかったためコメディーの方向に道を踏み外したという人です。この作品では家族のために一生懸命金を作ろうとするけれど、どんどん深みにはまってしまう父親、子供の手本にならなくては行けないのに、子供までを窮地に追い込んでしまう一家の主を演じています。焦り、子供への愛情、諦め、嘘を見破りながらも子供を見守る父親と複雑な感情を(ウォーケンだから失敗するはずがないのですが)上手に演じています。今回は周囲はコメディーですが、彼の演技はコメディーではありません。

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