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ルチアと SEX /
Lucía y el sexo /
Lucía und der Sex /
Sex and Lucia

Julio Medem

2001 Spanien/F 128 Min. 劇映画

出演者

Paz Vega
(Lucía - ウエイトレス、ロレンソの恋人)

Tristán Ulloa
(Lorenzo Álvarez- 小説家)

Najwa Nimri
(Elena- ロレンソと短期間恋人だった女性)

Silvia Llanos
(Luna - エレナの娘)

Alesandra Alvarez
(Luna、1歳)

Javier Cámara
(Pepe- 出版社の男、ロレンソの担当)

Daniel Freire
(Carlos/Antonio Castillo - マヌエラと同棲している男性)

Diana Suarez
(Manuela Lozano - アントニオの恋人、元ポルノ女優)

Elena Anaya
(Belen Lozano - マヌエラの娘、ルナの世話をしている)

David Bulnes (ポルノ俳優)

見た時期:2003年3月

要注意: ネタばれあり!

ロマンス X はフランスで大センセーションを起こし、日本では出産シーンが嫌われたりするなど、あまり評判が良くありませんでした。ドイツではフランスがなぜ騒ぐか分からないといった理由でやはり評判は芳しくありませんでした。しかしフランスもスペインもカソリック信者が多い国なので、ドイツとセックスなどに対する視点が違うことは一応考慮に入れてもいいかと思います。

ルチアと SEXロマンス X と似ているようで似ていない作品です。原題も他の国のタイトルも「ルチアと SEX」ですが、ロマンス X と同じように、それほど本題をついたタイトルとは言えません。ロマンス X と似ている点はスペインで「ポルノ寸前だ」と騒がれたこと、ポルノ俳優が関連すること、出産シーンがあること。似ていない点はこれから書きましょう。

作られたのは2001年、ドイツで一般公開されたのが昨年9月。6ヶ月後に小さな映画館に回って来ました。ドイツでは目立って悪い評判は聞いておらず、映画館で働いている若い女性は私に切符を売る時に「凄くいい映画だ」と言いました。本人は気に入っているらしく、映画が始まってから自分も見ていました。

北欧の映画には独特のスタイルができつつあり、おもしろいので歓迎していますが、スペインもまた別なスタイルをいろいろ試みているようで、これまでいくつか違うタイプの映画を見ました。気に入らない映画が無かったという意味でイベリア半島もがんばっています。北欧に比べバラエティーに富んでいるので、1つ、2つにまとめられませんが、その方がファンにとって楽しみが大きいです。

まずはややこしいストーリーを紹介します。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ あらすじ

冒頭恋人が失踪し、警察から連絡を受けている最中にショックを受ける若い女性ルシアのシーンが映ります。絶望してか、パニックに陥ってか、あるいは手がかりを探すためか、以前から恋人が言っていた島に向けて旅立ちます。着いた場所でオートバイを借り、宿をみつけ、住み始めます。

そこには先客のダイバーがいて、その男性と宿を経営している女性は束縛のない自由な恋人関係にあります。女性は片手間にインターネットでチャットをしています。

過去の話に変わります。エレナが短い期間恋人だった男性ロレンソの子供を出産します。生まれた娘は月夜にできた子供ということでかぐや姫、いえ、ルナちゃんと名づけられます。それから長い年月がたち、子供は幼稚園ぐらいの年になっています。子供部屋は母親が懐妊した時いた海の景色にそっくりな室内装飾になっています。

☆ 国によって騒ぎ方が違うシーン

まったく別な場所でスランプ気味の作家ロレンソが出版社の男ペペと前借をするとか何とか話しています。そのカフェで突然若い女性がロレンソに「自分はファンだ、恋人にしろ」と強引に売り込み、彼女の思い通り2人は同棲し始めます。これがルシア。ロレンソの失踪の6年ほど前の話です。ルシアとロレンソはるんるんです。ここに結構長いセックス・シーンがあり、前張りとかボカシというのは使わない方針の監督、日本の映画では見えては困る部分も見えてしまいます。スペイン映画がどういう習慣なのか知らないので何とも言えませんが、ドイツではこれでセンセーションというのは無いかと思います。ラース・フォン・トゥリアのドグマ映画イディオッツでもドイツではこれと言った騒ぎはありませんでした。ルチアと SEX のこのシーンはどちらかと言うと健康路線で、エロティックですらありません。ロマンス X のようにねじれた関係でもなく、お互いを好きな男女が正々堂々とやりたい事をやってお互いに満足しているといったトーンです。演じている俳優も特に極端なメイクをしているのでもなく、美人美男でもなく、ごく普通の市民というスタイル。人生を肯定的に見て生きている2人です。

6年後突然このロレンソに消えられてしまい、もしかしたら死んだのかと半ば諦めの境地のルシアは同じ宿にいるカルロスにちらりと目を向けますが、まだロレンソのことが頭にあって、積極的ではありません。カルロスとは深い関係ではない、セックスだけだと宿の女性エレナが言うので、遠慮する必要はないのですが。

失踪の前ロレンソはペペから自分の姉(妹かも知れません)が何年も前島で男に出会い、その男の子供を産んだ、現在は4歳ぐらいだ、自分はこの事を口外しない、会いたければどこそこへ行けと教わります。言われた場所に行くと小さな女の子ルナがいて、その子の世話をしているのがベレン。子供の母親エレナは旅行中とのこと。

ベレンはまだそれほど年ではない、元ポルノ女優の母親と一緒に住んでいて、母親の愛人アントニオも同居しています。アントニオは娘の方にもちらりと関心を示します。

ベレンはエレナの旅行中家でルナのベビーシッターをすることになっています。ボーイフレンドを家に呼んでもいいとエレナの許可を取り、ベレンはロレンソとセックスを楽しむつもりです。しかしロレンソにはそれができず、出て行きます。娘という現実が大きくのしかかって、遊びのセックスは論外になってしまいます。

ロレンソは小説を書き進んで行き、ルシアはそれをコンピューターで読みます。インターネットの先で、エレナにも原稿が届いています。小説の中でどうやら自分の物語を書いているようで、「父親になるのはどういう事か」などという問が出て来ます。また、アパートでベレンと母親がそれぞれ自分のベッドで手首を切って自殺しているシーンも出て来ます。この作品には所々に小説のシーンや登場人物が感じるイメージが映像化されているので、全部が現実ではありません。少しぼけ〜っとして景色に見とれていたので、終わって「あれどうなっているんだろう」と思う部分もありました。

エレナ、子供の事にショックを受けたロレンソはルシアに「自分を探してくれるな」という置手紙をして家を出ます。そこに至るまでの日々、ロレンソは徐々にノイローゼっぽくなっていました。家を出てすぐ交通事故に遭い入院。ルシアは警察からの連絡を半分しか聞かず、ロレンソが死んだと思い込み、島に旅立ちます。

後記: 色々な映画を見ましたが、警察の連絡を半分しか聞かず早合点して物語が進むというプロットは初めてです。珍しい。

こういった感じで時間が時々前後し、登場人物は皆きっちり誰かに結びついているのですが、そこへ小説の内容とイメージが飛び込むので、全体は多少難解になります。最初見通しの悪い個々の事情が最後にはスペインの海岸の景色のようにすっきりして、終わります。

★ 人間関係 − 創造か破壊か

ロマンス X に比べ破壊的な面がなく、皆それぞれ生き方を探し、他人と積極的に関わりを持ち、前向きになっているので、見終わって腹が立つことはありませんでした。ロマンス X では母親は「男がいなくてもいい」と言いながらの出産。男は殺されています。それとそっくりの出産シーンがあり、こちらも父親なしの誕生。しかし背後にある考え方がまったく違います。ロマンス X を見た時、《苛立ちの挙句自分が殺してしまった男の子供を主人公はどうやって育てていくんだろう》と子供の将来を気の毒に思ったものです。ルチアと SEX ではエレナは子供を授かったことを喜び、父親が側にいなくてもいいと達観しています。それほど素敵な恋だったのでしょう。エレナは現在付き合っているカルロスとは精神的に深く結びつきたがりませんが、男なら誰にでも身を任せるという人ではありません。相手が男でも女でもつき合う人をそれぞれに大切にします。ルシアも押しかけ女房のようにしてロレンソと同棲を始めますが、ロレンソとの関係を大切にしています。ロレンソも自分の子供が知らない所で生まれて育っていたという事を自分の人生を変えるほど重大な事だととらえています。というわけでルチアと SEX を見ていると随所から人を大切に扱っている雰囲気が伝わって来ます。これがロマンス X との決定的な違いでしょう。

同じ日インソムニアも上映され、海が好きな人はルチアと SEX を、山が好きな人はインソムニアを見れば、ベルリンにいながらにして、休暇旅行の気分になれる趣向でした。

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