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インソムニア /
Insomnia /
Insomnia - Schlaflos

Christopher Nolan

2002 USA 118 Min. 劇映画

出演者

Al Pacino
(Detective Will Dormer - ロサンジェルスの刑事)

Martin Donovan
(Hap Eckhart - ロサンジェルスの刑事)

Hilary Swank
(Detective Ellie Burr - アラスカの小さな町の刑事)

Robin Williams
(Walter Finch - アラスカの小さな町に住んでいる小説家、容疑者)

Crystal Lowe
(Kay Connell - 被害者)

Tasha Simms
(Mrs. Connell - 被害者の母親)

Maura Tierney
(Rachel Clement - アラスカの小さな町のホテルで働いている女性)

Jonathan Jackson
(Randy Stetz - 被害者と同じ学校に通う少年、容疑者)

Katharine Isabelle
(Tanya Francke - 被害者の同級生)

見た時期:2002年10月

速報: ドイツで公開が始まったのですが、宣伝に失敗したのか、入りが悪いそうです。私はウィリアムズを比べてストーカーに、監督の前作メメントと比べて前作に軍配を上げたのですが、私の点は非常に辛いです。普通に比較をせずに見た場合、インソムニアはその辺の作品よりずっと良い出来です。

ミステリークラブの人で、この作品を見るつもりの人はとりあえずここを避けて通って下さい。読むのは見てからでも遅くありません。目次へ。映画のリストへ。

いろいろ期待できる作品でした。元は1997年のノールウェーの作品で、Nikolaj Frobenius と Erik Skjoldbjærg が脚本を書き、Erik Skjoldbjærg が監督をしています。ノールウェーも映画王国ではありませんが、いざ作るとなるとファンタに出品できるような佳作を持ち込んで来ることがありますから無視できない国です。まだ5年も経っていないのにハリウッドの大スター、オスカーを貰った俳優3人を動員、そしてあのメメントの監督を連れて来てリメイク。

前の作品にメメントなどという名前をつけた人だから、こちらも気取ってラテン語を使ったのだろうなどと邪推しては行けません。ノールウェイの原題も Insomnia といいます。in というのは前綴りで、英語でも innominate、 inorganic などとよく使われます。後ろに唇を閉じるような発音が続く時は im に化ける時もあります。「だめ」とか「不」とか「非」という意味です。後ろにくっついているのは「睡眠、眠る」という意味で、両方合わせると「不眠」という意味です。こんなことを言うと何となく偉そうに聞こえますが、辞書を引くとちゃんと載っています。そう言えばずっと前にコント55号の萩本欽一が「あーねむいなあー」などと気持ち良さそうにボサノバで歌っていました。あれも不眠の歌でしたが、映画では主人公が眠くもならず、神経がカリカリしているため、こういうタイトルがついています。

最近ロビン・ウィリアムズの気が変わって、コメディーからシリアスドラマに転向したと聞いていたので特に期待していました。結果としては失望しました。この日は雑誌と映画館が一緒になって企画した大サービス券が転がり込み、ただで2本映画を見ることができました。しかも最初に上映されるインソムニアでは観客の意見を聞きたいということで、見終わったら入場券を4つに分けた容器に入れることになっていました。「すばらしい」「いい」「まあまあ」「だめ」といった分け方でした。私は「まあまあ」に投票しました。「いい」という容器に入れた人が多く、この映画は成功するでしょう。私も成功を祈っています(速報へ)。それでも「まあまあ」に投票したのにはわけがあります。

(ジュリア・ロバーツやグウィニス・パートロフのような華やかさでなく)演技でオスカーを貰った俳優が3人も出るというので期待していました。そしてクリストファー・ノーランですからかなり行くだろうと思いました。ところが頭にジョージ・クルーニーの名前を見て、悪い予感。クルーニーに責任を押し付けるつもりはありませんが、ハリウッドの通俗的な意見が通ってしまうのではないかとふと思いました。

ノーランという人はメメントを見た限り、お金はそれほどあげなくてもいいけれど、自由をあげないと行けない人だという印象でした。ですから俳優は自分で選ばせれば良かったのではないかと思います。中ぐらいに有名な、普段あまり主演をやらないような人とか、主演にはなるけれど、大作には出ないような人にやらせるといいのではないかと思いました。これは非常に私的な、偏った考え方ですけれど。

3人の主演のうち2人は役者顔。堂々とし過ぎています。ウィリアムズが前半影だけ、姿を現さないのは効果があります。そしてウィリアムズはこの役をよく理解してこなしています。刑事と容疑者がフェリーで言い争うシーンはさすがと思いました。

ノールウェーの代わりに舞台に選んだのはアラスカ。これはすばらしいです。実はミスもあるのですが、そんな事は目をつぶれます。(セリフに「今は夏で白夜だ」というシーンがあるのですが、実は舞台になった町は比較的南部で、1日中日が暮れないゾーンに入っていませんでした。なぜそんな事を調べる気になったかって? − 真夏に1日だけそういう緯度の高い所に立っていた事があるのです。日は地平線を横ばいして、また昇って行きました。)カメラがすばらしい景色を撮影しています。町の雰囲気も良く出ています。似たようなシーンはチル CHILL にも出て来ますが、インソムニアの方が何倍もすばらしいです。その土地の気候が全く別な国で客席に座っているだけなのにリアルに伝わって来るような撮り方をしています。

脚本は完成度が高く、スリラー、サスペンスを好む人にはぴったりです。若い女の子を殺した男を追うのですが、捜査を始めて間もなく複雑な展開を見せます。2つ、あるいは3つの事件が絡まってしまいます。そして犯人が普通のタイプより少し違う神経をしています。そのため展開に予想がつきません。

これだけすばらしい材料が揃っているのに、結局私はロビン・ウィリアムズストーカーに軍配を上げます。なぜか。

腹が立つシーンがあるのです。ロサンジェルスで数をこなし、検死報告に詳しい猟奇殺人のベテラン、プロファイラー的な捜査もできるということになっているアル・パシーノが、リンカーン・ライムズやアメリアが見たら頭から湯気を出して怒るようなふるまいをします。一般受けするパトリシア・コーンウェルのスカルペッタ・シリーズを読んで、多少捜査の方法などを小説でかじった人、警察は科学捜査をするものだと信じている一般の日本人が「あんな事していいんだろうか」と思うようなシーンが何回かあります。

アル・パシーノは調整に苦労しているような感じでした。この人はスケールの大きい対決シーンなどには向いています。舞台にも合いそうな大きなスケールで、シェークスピアやギリシャ悲劇などは軽くこなせるでしょう。映画のカメラは細かい表情もとらえます。その調整ができていないまま撮影に入ったような感じで、今一でした。この人は大げさな演技が要求される役には向いていますが、細かい演技はどうなんでしょう。逆にロビン・ウィリアムズはそこを良く心得ていて、微妙な立場にいる容疑者を上手に演じていました。しかしパシーノがおり、スワンクがいるために実力が目立ちません。ちょっと残念でした。本を出すぐらい有名な大物の警官が自分のミスを隠すというシーンもパシーノぐらいの俳優ならもう少し工夫があってもいいのではないかと思いました。このシーン、目の表情にそのせこさを出そうとしているような感じがするのですが、年で寄ってきた皺に、不眠の疲れが加わってさらに深くなる皺がこのシーンを中和してしまったような感があります。カメラの前でどういう表情をしたらどういう風に見えるかということをウィリアムズの方がよく心得ていたのかとも思います。パシーノの代わりにウイリアム・H・メーシーを推薦したいところです。

スワンクの役ももうちょっと無名な人にやらせた方がいいかという気がしないでもありません。というのはその他の役者がいいアンサンブルを作っているからです。全く無名ではないにしてもあまり前にしゃしゃり出て来ないような人、一時有名だったけれど、最近は地味な役をやっている人を使っています。背景を作る役者と前面に出る役者の間の落差がパシーノとスワンクで開き過ぎたかと思いました。ウィリアムズはカメレオンのように周囲に溶け込むことができます。ウィリアムズは最近3本コメディーでない作品に出演したと聞いています。うち2本を見ましたが、インソムニアでも彼1人を見ると成功と言えます。

実生活でも本当に不眠症に悩まされているという話のあるアル・パシーノが白夜で部屋に夜中でも光が入って来るために眠れない夜を過ごすという設定になっています。不眠症にもいろいろあるようで、居直ってじたばたせず休憩する人もいれば、パシーノの演じる男のようにじたばたする人もいるようです。このシーンもパシーノだったらもうちょっと何とかなったのではないかという風に思えて、残念でした。

筋をばらすのを忘れました。ええと、ツイン・ピークスみたいに若い女の子が殺されごみ捨て場に捨てられているのが発見されます。性的な暴行は受けていませんが、ひどく殴られた跡が残っています。容疑者が浮びます。1人は高校の同級生の男の子。もう1人は彼女に高価なプレゼントをしている中年の小説家。それを追うのがアラスカの地元警察と応援に来たロサンジェルス警察のベテラン。どちらの容疑者もしぶとく口を割りません。動機らしきものもあります。ところがそこに別な事件が起きて、ロサンジェルスから来た同僚が死にます。それで地元警察はその死因追求と少女殺人事件の両方をやらなければ行けなくなります。ベテラン警官と犯人は中盤からクリンチのような絡み合い、最後に真正面から対決。お後がよろしいようで。

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