映画のページ
2002 UK/D/F/I 94 Min.
出演者
Jamie Bell
(Charlie Shakespeare - フランス語を話す英国人歩兵、年齢を偽っている)
Ruaidhri Conroy
(Chevasse - 歩兵)
Dean Lennox Kelly
(McNess - 歩兵)
Torben Liebrecht
(Friedrich - フランス語を話すドイツ兵)
Kris Marshall
(Starinski - 歩兵)
Hans Matheson
(Hawkstone - 歩兵)
見た時期:2003年3月 ファンタのオードブル
元から反戦映画として作られています。オカルトの要素がちらっと入っています。
1915年、誰が始めたかが良く分からず、誰が悪役かも良く分からずして始まった第1次世界大戦の真っ最中、独軍と連合軍のぶつかる最前線での出来事。夜悪天候の中で大きな戦闘があり、1部隊が濃霧の中敵の陣地に迷い込みます。夜が明けてみるとその辺にドイツ語で「前線」とか「食堂」とか書いてあります。中にいたドイツ人らしき兵士は3人程度。すぐ捕虜にしたり手榴弾を投げて殺したりし、陣地を確保します。ところがその後が変です。前日恐ろしい数の兵隊がぶつかり合ったので、かなりの数の死者がその辺に転がっているか、生き残った側が敵を狩り出しにかかるか何か動きがあるはずですが、この隊だけ孤立しています。通信機で連絡を取ろうとしますが、つながりません。生き残っているのは10人程度の英国兵と捕虜にしたドイツ兵。ドンパチいう音もなんだか変。
英国側は1名重症、他は皆歩けます。ドイツ兵は英語ができず、英国人はドイツ語ができない中、少年兵がフランス語を話してみると、ドイツ兵が答えます。それでこの兵隊とはフランス語で話すことになります。この少年兵が主演です。彼の顔に見覚えがある方もおられるでしょう。ちょっと前に子役で主演を演じたジェイミー・ベルです。炭坑の町で男の子なのに「バレーを習いたい」と言い出してお父さんを困らせたあの坊やです。彼はあれがデビューでしたが、共演のバレーの先生がオスカーにノミネート。ベルにはまだ早過ぎると思った人がいたのか、彼はアメリカではノミネートされませんでしたが、イギリスではラッセル・クロウを抑えて英国のオスカーを取っています。彼に賞をさらわれたクロウも嫌な顔はしなかったそうです。2本目のデス・ウォッチを撮っていた頃は15歳から16歳ぐらい。大したものです。
こういう劇的なデビューをした人は普通2作目が大変。しかし英国の俳優はそういうことはどこ吹く風のようで、ジェイミー君も今回は踊るシーン無しで、全編台詞だけ。リトル・ダンサーではなく、今度は少年兵だというところを堂々と見せてくれます。いったい英国はどういう教育をやっているのでしょうか。とにかく俳優の層が厚く、誰でもどんな役でもできてしまいます。
アイルランド系の俳優も同様で、その辺のテレビに出ている人でも凄い底力を持っています。この作品にはアイルランド出身の人たちも参加しています。
さて、孤立した部隊は怪我人を休め、無線で同朋を探しつつ足止めを食っています。ここからはアガサ・クリスティーの Ten little Indians 式で1人、また1人と死んで行きます。しかし敵と言えば捕虜になって武器を持っていないドイツ兵1人。なのになぜ・・・?
現在正式には軍制のない日本には外国の傭兵の訓練を受けに行ったり、戦地の取材に行ったりする人が時々いるようですが、そういうレポートを雑誌で読んでいると、あまり戦争の現実を考えずに動いているような気がします。ドイツは私が来る前からずっと職業軍人のほかに兵役があり、現在もそのままです。ですから兵隊になるということがわりと身近です。知り合いも兵役を終えてからベルリンに来た人や、兵役を逃れるためにベルリンに来た人などさまざまでした。現代のドイツ兵を見ていると、これがまた近隣の国の兵士とタイプが違います。
映画に出て来るのは第1次世界大戦中の英国人兵士。ドイツとタイプが違うだけでなく、時代をさかのぼるので、そういう意味でも違います。リアルな描写が多く、泥だらけ、悪天候、ねずみが這い回る陣地、とても雑誌やテレビのレポートのようにカッコ良くありません。ハイテク装備のアメリカ兵とも違います。兵隊になるということが男らしいと賞賛される時代で、年齢を偽って入隊して来る少年兵がいたりします。
この作品の主題は戦争の怖さと言うより人間の本性の怖さ。特に目立つのは軍規にしっかりなじんでいますが、凶暴性を兵士という仕事の中で精一杯満たしている男クイン。入隊当初は少年兵や負傷している兵士のように怯えたのでしょう。いつかそれを克服しないと兵士としてやって行けなくなります。その時に狂気の世界に足を踏み入れたようです。普通の世間なら通りませんが、戦争中の軍では通ります。ちょっと敵の捕虜をきつめに拷問しただけ・・・で済んでしまいます。かつてベトナム戦争に兵役で参戦した人を知っていましたが、それまで知っていたアメリカの一般の世界から戦場に来ると、(狂暴な)狂気に走るか、精神に異常をきたすか、アルコール・ドラッグ漬けになるぐらいの選択肢しかないというような事を言っていました。ディア・ハンターの3人の主人公の運命からそれほど遠くないようです。
デス・ウォッチをイラク戦争開戦と同じタイミングで見てしまったので、普段以上に考えさせられてしまいますが、第1次、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、第1次湾岸戦争を経て、初めてNATO加盟国が曖昧さを捨て、はっきり戦争をやらないと言い出し、国連決議が重視され、あと1歩で回避できたかもしれないというところまで行きました。戦争にはほとんどの場合大きな利権が絡んでいます。ドンパチやらず机上で話をつけようという試みがこれほど多くの国から積極的に望まれた例は珍しいでしょう。鳴かぬなら殺してしまうか、鳴かせてみせるか、鳴くまで待つかで各国の意見が分かれましたが、豊臣秀吉式に巧みな交換条件を出すか、徳川家康式で何年でも辛抱強く待つかのどちらかを欧州は選びたかったようです。
参考のために第1次世界大戦の犠牲者の数、特徴などを並べておきます。
古い話をいろいろ持ち出して恐縮ですが、似ている所があるので背筋が寒くなっています。
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