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アダプテーション / Adaptation.

Spike Jonze

2002 USA 114 Min. 劇映画

出演者

Nicolas Cage
(Charlie Kaufman - 脚本家)

John Cusack (本人)

Catherine Keener (本人)

John Malkovich (本人)

Chris Cooper
(John Laroche - 蘭の栽培人、業者)

Caron Colvett
(John Laroche の妻)

Lynn Court
(John Laroche の父親)

Sandra Lee Gimpel
(John Laroche の母親)

Roger E. Fanter
(John Laroche のおじ)

Meryl Streep
(Susan Orlean - の著者、ルポライター (実在))

Curtis Hanson
(Orleanの夫)

Brian Cox
(Robert McKee - 脚本講座の講師)

Nicolas Cage
(Donald Kaufman - 脚本家の双子の弟)
Spike Jonze (本人)

見た時期:2003年前8月

2003年ベルリン映画祭参加作品

ストーリーの説明あり

ショーダウンはばらしません。

内輪の人間や映画ファンが楽しむ作品。映画の出来、アイディアとしては前作マルコビッチの穴の方がずっとユニークでした。マルコビッチの穴は宣伝用にマルコビッチのお面を作ったり、とプロモーションに独創性がありました。アダプテーションでは脚本家の筆が進まないので、苦しんだ挙句自分を映画に登場させてしまったり、と半ばやけ気味。とは言ってもいくつかの映画を知っていると、ジョークが楽しめます。映画自体に色々いたずらが挟まっているのでそういうシーンを発見する楽しみがあります。

遊び心があるという点はマルコビッチの穴と同じです。アダプテーションでは謎、ミステリー、不条理といった趣きが目立たないだけ。しかしじっくり考えてみると根底に何かしら共通したものが感じられます。例えばのっけから主人公が2人出て来ます。ニコラス・ケイジに双子の弟がいるという設定。ケイジはカッコいい男の役とカッコ悪い役をかわりばんこに演じていますが、今回はカッコ悪い方。ジーン・ワイルダーそっくりの姿で登場。ワイルダーはコメディアンを目指した人なので、二枚目のセンを狙っておらず、あれで良かったのですが、ケイジは二枚目もやりますから、頭の薄くなったちょっと太目のぱっとしない役ではわざわざメイクをダサくしてあります。同じ顔の人物が複数登場する映画としてはマイケル・キートンのクローンズがあります。3人ほど増量して計4人分のニュアンスを天才的に見事に演じ分けていましたが、ケイジもその辺は工夫しており、チャーリーとドナルドの性格の違いには木目細かく気を使っています。やはり本人には「本当の自分は二枚目だ」という自負があるのでしょう。役全体では意気消沈したぱっとしないしょぼくれた内気な作家という風にしていますが、時たま横顔が映るシーンで見事な笑顔を入れています。

マルコビッチの穴ではっきり表に出した不思議をアダプテーションでは上手に隠していますが、主人公チャーリー・カウフマンは成功した脚本家という設定で、これほど成功した人物がここまで内気なのかとまずその辺に驚きます。双子の性格は大部分反対で、書く才能があるという点だけ共通しています。先に世に出たのがチャーリー、後を追うのがドナルド。扱う物語のジャンルが違うのでライバルにはならず、まだ書き慣れていないドナルドは素直にチャーリーに教えてもらったり、チャーリーも弟に思いやりを示します。兄弟が反対の性格になるのは双子に限ったことではなく、家庭の中で素直な子供がもう長男の地位に収まっていたら、次に生まれて来た子供はやんちゃ、反抗的などと長男以外の役を引き受ける傾向があります。ですからドナルドがチャーリーと反対の性格でも驚くことはありません。2人は時々喧嘩もするのですがあたたかい愛情で結びついていて、兄を頼り切っている弟、弟を助けようとする兄の関係をしつこくならずにほのぼのと出しています。マルコビッチの穴のような大きな独創性は感じませんでしたが、こういうところに目立たないプラス要素が隠れています。2人が同じ部屋にいて、1人が寝そべり、もう1人が机の前に座っているシーンの写真が時々宣伝に使われていますが、このシーンはとても感じがいいです。その時大いに役立っているのがニコラス・ケイジの出で立ち。ちょっとお腹が出て、ゆったりした服を着ているのと凡人風のメイクがよく合います。

ニコラス・ケイジはこれまではっきり言って嫌いな俳優のリストに載っていました。フェイス・オフなどのエキセントリックな役では見事だと感心しますが、好きかと聞かれると嫌いだという答えが浮かんでくる人でした。しかしアダプテーションは例外的に感じが良かったです。彼は昔ショーン・ペンなどと仲が良く、実力のある俳優だということに疑いを挟む評論は見たことがありません。しかしお金のためにストーリーの重みゼロの派手なアクション映画に出たりするようになり、反対の傾向のショーン・ペンには軽蔑されてしまい、袂を分かったという話が聞こえて来ます。ペンはその後政治色を強め、先日のイラク戦争ではぎりぎりまで反対を表明し、行動していました。ケイジの方は自分がお金のために身を売ったという事は重々承知しているらしく、またその利点は楽しんでいるようでした。しかし出来のいい俳優でもあり、その才能をどこへ持っていくかが彼の課題でした。そういう意味ではアダプテーションはケイジの俳優としての名誉回復に大いに寄与する作品です。

アダプテーションの弱点は後半、メリル・ストリープが出る所からです。彼女が演じる本の著者、ルポライターのスーザン・オルリアンが登場します。この女性が書いた蘭に情熱を注ぐ男ジョン・ラロッシュの人生、そしてラロッシュに惹かれ、彼の人生に深入りし過ぎるオルリアンという部分をチャーリーがどうやって映像化するか、そこで悩む姿がアダプテーションのストーリーの骨子です。スーザン・オルリアンという人物は実在し、アダプテーションの撮影にも協力しており、本人が登場する予定になっていて、撮影も行われていたそうです。しかし最終的にはこのシーンは採用にはならなかったようです。

メリル・ストリープがオルリアンになり、クリス・クーパー演じるラロッシュに惹かれ過ぎ、一緒に不倫しながらドラッグをやるためにわざわざニューヨークからマイアミ(?)に飛びます。恐らくは中年になって味わうあせりが彼女をこういう行動にかり立てたのでしょう。ラロッシュの方は陽気で気楽に暮らしている自然を愛する(あるいはこっそり盗む)男ですが、実はそれに至るには理由があったというエピソードも出て来ます。しかし2人して緑色をした粉を大量に吸いこむシーンは、この手の話にアレルギーの私は苦手。それだけでなく、まじめなジャーナリストがイージーゴーイングの生活にあこがれ現実逃避をするという考え方は理解できても、ストリープが演じるとどことなく現実味が 沸きません。彼女はめぐりあう時間たちでもレズビアンの成功した 出版関係の人物を演じていますが、何となく乗り切れていません。完璧な演技をするという評判の女性で、キャサリン・ヘップバーンを抜いてオスカー・ノミネーション最多記録を保持していますが、アダプテーションではどうも今一つその評判に応えていません。まじめそうな彼女がドラッグをやるという意外性を狙ったのかも知れませんが、心をこめて演じているという印象が伝わって来ません。この点ではニコラス・ケイジは非常にこの役を愛しながら演じているなあという印象が伝わります。ストリープは他の多くの有能な女優と一緒に「年配の俳優には意欲が沸くような役が回って来ない。役が来るだけでも自分は幸運」と言っている1人です。これが今一役にはまっていない原因なのかも知れません。

気合が入るともう少しまともになるということをクライシス・オブ・アメリカで思い出させてくれました。この人にとってはクライシス・オブ・アメリカでもまだ軽いでしょう。もっと力のある人に思えます。

実生活ではチャーリーにはドナルドなどという弟はおらず1人で両方の性格を持っているのでしょう。あるいは実際のチャーリーにない部分を映画のドナルドに演じさせて夢を実現したのでしょう。それで簡単に納得してしまえばいいのですが、そこはさすが業界で評判のチャーリー・カウフマン、一筋縄では行きません。ドナルドは後から兄を追いかけて来て、まだ1人前でないので、脚本講座に出席して勉強中。その彼が書き上げた作品は犯罪物、それが意外な評判を取り、すぐ採用される、と、これが映画の中の設定なのですが実は実生活のチャーリーはちゃっかりそのドナルドの部分もやり遂げています。コンフェッションという作品がそれで、ジョージ・クルーニーが惚れ込んでサム・ロックウェルを主演にして見事ベルリン映画祭で最優秀俳優賞を取っています。

結論を言うとアダプテーションは評判がいい割に今一つパンチに欠ける、あるいはマルコビッチの穴が独創的過ぎて、その後の作品として損をしている、あるいは物語の通りカウフマンがプレッシャーでつぶれそうになっているというのは正しいというのが私の感想です。しかしちゃっかり彼独特の「どこまでが現実か分からなくなって来る」スタイルは織込んであります。転んでもただでは起きない。ではアダプテーションを見て静かに驚きましょう。

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