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謎の薬剤師 /
Le Pharmacien de garde /
The pharmacist

Jean Veber

2003 F 90 Min. 劇映画

出演者

Vincent Perez
(Yan Lazarrec - 連続殺人犯)

Guillaume Depardieu
(François Barrier - 連続殺人犯捜査中の刑事)

Clara Bellar
(Mathilde - フランソワのガールフレンド)

Laurent Gamelon
(Maurice Battistoni - フランソワの友人)

Pascal Legitimus
(Tony - 事件に関して重要な情報を持っていた、性転換して女性になった元男性、)

Edgar Givry
(Fabri- 警部)

Rochelle Redfield
(Alice Mortensen - 笑いながら死んでいった化粧品モデル)

Alain MacMoy
(Erwan Le Floc'h - アイルランドの文化の専門家、ヤンの叔父)

Alice Taglioni (Christine)

Gabrielle Lazure (Martine)

見た時期:2003年8月 ファンタ

2003年 ファンタ参加作品

犯人は最初から分かっています。

どうやって殺されるか知りたくない人は退散して下さい。ショーダウンはばらしません。目次へ。映画のリストへ。

デパルデュー家は不運に見舞われることが多いです。お父さんのジェラールはアステリックスというフランスでは超人気漫画の映画化で主演の1人オベリックスの役を射止めています。しかし昔の事件が公になったり、健康問題が起きたり、最近は夫人と別れたりと、 なかなか大変そう。

俳優で息子のギヨームはちょっと前オートバイの事故に遭い、その時傷めた足が治らず先日決心して足を切断してしまいました。院内感染が状況を悪化させたそうです。今後が大変そうだと同情していた矢先、今度はファンに銃を発砲したとかしないとかで、警察のご厄介。近くにいた人が機転を利かせて手を他の方向に向けさせたのでファンは命拾い。下手をしたらベルトラン・カンタに続いて彼も務所行きになるところでした。よりによってその彼が謎の薬剤師では刑事の役。ピストルは悪い人を捕まえる時だけにしてもらいたいものです。

後記: 足切断後アクション映画以外で、体の不自由さを感じさせない演技を続けていたそうですが、5年後に突然肺炎で死亡。

俳優なのに足の切断を決めたのには驚きましたが、後で聞いたところによると院内感染したビールスが不治の物で、一生強い痛み止めを取り続けなければ行けなくなってしまったため、決断したそうです。それまでかなり荒れた人生を歩んで周囲に心配をかけたらしいのですが、足の切断は思いつきややけくそではなかったようです。

父親もムショ入りしたこともある非行少年でしたが、演劇の世界で自分の道を見出し、さらにワイン農場の持ち主としても名を成し、落ち着きのある人生を見出したようです。その上文学にも造詣が深く、息子の葬儀では星の王子様からの数行を引用して挨拶しています。また本格的なグルメでもあります。息子が自分の道を発見するに至らなかったのは残念です。

先日のファンタ速報でも軽く触れましたが、やや小粒の作品。英語の字幕で苦労するかと思いましたが、分かり易い構成で、よくまとまっています。主演はそのギヨーム・デパルデューと犯人のビンセント・ペレス。ペレスの作品は恐らくこれまで全然見ていないと思いますが、名前は聞いたことがあります。中堅ベテランのようです。40才前後。対するデパルデューの方は10才ほど若いですが2人にそれほどの年齢差があるようには見えません。

連続殺人事件で、監督は気前良く最初の方で犯人をばらしてしまいます。パリのごく普通の薬局の薬剤師ヤンが犯人。ドイツにも Die Apothekerin という名前の映画があり、ヒットしました。日本語に訳すとずばり薬剤師。Die Apothekerin も殺しが絡みます。どうもこの商売、フィクションでは殺人と結び付けられやすいようです。ドイツを見る限り薬剤師というのは非常にまじめな職業で、この仕事についている人は社会でも几帳面な、まじめな人が多いです。薬剤師が職業を利用して連続殺人をしたとか、連続でなくても人を殺したなどというニュースは見たことがありません。ドイツではこの仕事についている人は女性の方が多く、ドイツ映画の主人公も女性です。しかし謎の薬剤師では犯人はかなり行動的でないとだめで、力仕事も多いので伝統に従って男性俳優にしてあります。

対するは捜査する刑事。若くてちょっと甘いタイプのデパルデューが担当しています。役名はフランソワ。犯人も刑事も私生活では自然保護に関心があるため、町で開かれた講演に出かけ、そこでの発言がきっかけで2人は知り合いになります。同じイデオロギーで意気投合。すぐ友達になります。この辺ちょっと普通の犯罪映画と人物の設定が違います。

巷ではタバコ産業に関わる男性が殺され、新聞種になります。被害者を生け捕りにしておいて、鼻と口をガスマスクで覆い、マスクには無数のタバコが差し込んであります。犯人がタバコ全部に火をともすので被害者が呼吸をすると肺にはタバコの煙しか入らないようになります。独創的な手口。

余談: 無論被害者は煙草吸い過ぎの肺癌で死ぬわけではなく、酸欠が直接の原因でしょうが、犯人の狙いはシンボル的に注目を集めること。

捜査方針がまだきちんと決まらないうちに次の事件が起きます。ヤンは有名な化粧品会社の広告のモデルをやっている女性の所へ昆虫を飛ばし、モデルは虫に噛まれます。その毒が回り、顔が引きつりながら死んで行きました。死にかけで苦しんでいるのに顔だけは筋肉が引きつりジャック・ニコルソンのような大きな笑顔。

次は石油関係者がどろどろの黒い石油のたまった池で死体で発見されます。誰かが発火させてしまったら、炎がケルト人のシンボルの形に燃えたなどという手の込んだ事件が起きます。どうやら自然破壊に手を貸す人間を懲らしめてやろうという意図が裏にあると分かって来ます。

犯人は化粧品モデルの殺しの準備をするためにホテルに行った時、顔を見られた従業員の女性も毒牙にかけます。こちらはドアについている除き穴からストローで粉を吹き込みます。すると彼女の顔はぶくぶく腫れ上がり、見るも無残。この粉も毒で女性は死亡。

その上殺人ではありませんが、ヤンはフランソワに、彼のガールフレンドが彼の友達と寝ているとばらしてしまいます。知っていてばらしたというより、洞察力で割り出したと言った方が良いでしょう。この段階ではヤンはフランソワが刑事で、自分の事件を捜査しているとは知らず、友達のフランソワに真実を知らせてあげるという意味合いが濃いです。これはやがてフランソワを苦しめる奴は殺せという風にエスカレートして行き、ガールフレンドは行方不明になります。ヤンは独占欲が強く、情熱が激情に変わりやすい性格です。

ひょんな事からフランソワが知り合った、性転換を受けた元男性トニーも警察に役に立つ証言をできる立場にいることが判明。ところが保護される直前に殺されます。犯人はいざとなると行動が早いです。

犯行に至った原因が自然保護というのが皮肉です。彼に自然の大切さを教えた学者がいたのですが、これがヤンのおじ。孤独な甥っ子は自然への愛情がエスカレート。この作品はそれほど深い思想は描いていませんが、環境保護、動物保護、健康問題などでは実際ラディカルになり過ぎる人もいるようです。破壊を進める人たちの度合いに呼応して、ラディカルでないと行けないと考える人も出るのでしょう。環境問題を政治問題ととらえ行動するのは構いませんが、自分の私生活の虚しさを埋められずやり場のなさからのめり込んでしまうと行けません。環境問題というのは特にバランスが問われるテーマです。

フランスに有名な動物保護運動家ブリジット・バルドーがいます。ドイツでは彼女の行動はちょっと皮肉な目で見られています。ドイツでは環境問題は一般に広く知られており、先日のイラク戦争でも、政治とは別に環境破壊が行われるのはまずいということで反対した人が多かったです。で、ドイツは戦闘兵士を送りませんでした。健康問題では日本も負けておらず、発ガン性のある物などは常に話題に上ります。ことタバコに関してはドイツの方が1歩進んでおり、喫煙者で止めたいと思っている人も多いです。私は喫煙者ではありませんが、近くに喫煙者がいても文句を言った事がありません。ということはかなりニコチンを吸って暮らしていたということです。ところがドイツに住んでいるうちに周囲の人が煙草を特定の場所でしか吸わないので、私が煙を吸い込むことがほとんどなくなりました。そのためたまにパーティーなどに行って家に戻ると、服や髪についたニコチンの匂いが凄く、その日は体の調子が悪いです。

日本にいた時も山に行ったりして、自然は好きだったのですが、知識はゼロ。ドイツに来てから田舎を散歩していたりすると、友達が「あそこの木は荒れている」などと教えてくれます。最近は街路で葉が茶色くなっている木を見ると「ああ、病気だ」と分かるようになりました。普通のドイツ人でもこういう事を知っている人が多いです。

化粧品に対する直接の批判は聞きませんが、動物実験を禁止しようという動きは長く続いています。私のような素人は「じゃあ、実験もしていないクリームや化粧品を売るのか」と一抹の不安も抱きます。そして製薬会社や化粧品会社、研究所などが出している人体実験の被験者募集広告を見かけると、動物にやらせた方がいいのか、人間がやった方がいいのか分からず、考え込んでしまいます。何事にも限度があり、どこでバランスを取るかが難しい問題です。ベルリン・ファンタの前菜に出た28日後・・・はそれを極端に見せた例です。謎の薬剤師は犯罪映画に織込んで横の方から環境問題の注意を喚起する作品です。

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