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マスター・アンド・コマンダー /
Master and Commander: The Far Side of the World /
Master and Commander - Bis zur Ende der Welt

Peter Weir

2003 USA 140 Min. 劇映画

出演者

Russell Crowe
(Jack Aubrey - サプライズ号艦長)

Paul Bettany
(Dr. Stephen Maturin - 船医)

Max Pirkis
(Blakeney - 士官候補生の少年)

Jack Randall
(Boyle - 士官候補生の少年)

Max Benitz
(Calamy - 士官候補生の少年)

Thierry Segall
(フランス船の艦長)

Lee Ingleby
(Hollom - 士官候補生)

Richard Pates
(Williamson - 士官候補生)

James D'Arcy
(Tom Pullings - 一等海尉)

Edward Woodall
(William Mowett - 二等海尉)

Billy Boyd
(Barrett Bonden - 舵手)

Ian Mercer
(Hollar - 甲板長)

見た時期:2003年11月

何でも日本で内容の趣旨と合わない宣伝のされ方をしたそうで、抗議をした人まで出たそうです。日本にいなかったので宣伝のコピーについては知りませんでしたが、抗議の後一部内容を変更したということです。いったいどうなっているんでしょう。

私はクロウという俳優はあまり好きではなく、というかこれまで「これだ!」という役を演じているところを見たことが無いので、さほど同情はしませんでしたが、マスター・アンド・コマンダーは短くまとめると海洋冒険とか海上で繰り広げられた英仏(実は英米)戦争と言えます。少年に死者が出ますが、少年を死に駆り立てているわけではなく、それは中心のテーマではありません。

1800年頃というと、現代のように大人、子供が法律できっちり定義されている時代ではなく、また少年が兵士や士官にあこがれるという面もあり、そういう時代のことを描いた小説です。映画の宣伝の過程でどこかに早とちりでもあったのでしょうか。

ストーリーの説明あり

先日見たパイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たちに続き再び海上映画です。マスター・アンド・コマンダーは海賊ではなく、2カ国の海軍の争い。ハリウッドでは水の活躍する映画は嫌われたり、いわくつきだったりと、「大変だ」という話をよく聞きます。大スターを連れて来ても失敗作に終わったという話も確かにあるようです。水が大暴れするシーンを撮影するのにたいそうお金がかかるようですが、その割に思ったほどの観客が来ず、それなら今売り出し中のスターを1人余計に連れて来て、水に濡れない映画を取った方が効率がいいという考えに傾くプロデューサーや監督も多いようです。

パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たちは確かに海の映画ですが、水があまり俳優にかからない、服が濡れない作品。海の底を骸骨になって歩く海賊は特殊効果。それに引きかえマスター・アンド・コマンダーは俳優全員ずぶ濡れ。ジョージ・クルーニ−のパーフェクト・ストームを拡大したようなシーンも出て来ます。 海賊の物語とは違い、まじめな雰囲気の漂う歴史映画のような仕上がりです。原作はフィクションで、2000年に85歳で亡くなったアイルランドの作家パトリック・オブライエンが30年以上書き続けた20巻の海洋冒険物語です。

アメリカ映画ですが監督はオーストラリアのピーター・ワイアー。主演も最近オーストラリアの乱暴者で通っているラッセル・クロウ。重要な役で共演しているのがビューティフル・マインドでも共演したポール・ベタニー。2人は動と静、行動力と知力といった面で対照的。2人の間で一致する接点は音楽。長年の友人という設定です。ビューティフル・マインドではクロウの方が自分にこもり切った性格、ベタニーの方が積極的なタイプを演じていました。マスター・アンド・コマンダーではクロウの元気の良さが生かされています。私は原作を読んでいないのですが、20巻もあるといくら140分の長編だとは言っても全部は盛り込めないでしょうから、山場の作りやすい部分を取り出したのではないかと思います。先日書店に行って文庫本を見て来たのですが、分厚くて大きくて軽い本でした。紙の質を落としてのことですが、あれだけの量だと良質の紙にしたら重くてとても持ち歩けません。大手の書店ですが置いていたのは4冊だけ。結構売れるらしく、時々来れば違う巻が置いてあると店の人が言っていました。各巻最後に船の詳しい見取り図が載っていたり、聞くところによると船員の食べ物のレシピが出ていたりして、20巻読み終わると、自分も船に乗っているような気分になるらしいです。大きさ、量の割にはまあドイツで普通の値段。飛行機で15時間などという時はこういう本良いかも知れません。

トールキンでも長編3作になるのですから、20巻全部を1本の映画というのは無理です。で、1艘の船、1つのエピソードに絞ってあります。映画化された部分のストーリーですが(見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。)、まず時代設定から説明しなければなりません。1805年、ブラジル沖を走っている英国船。船長と上級士官、数人の子供(?)、そして何十人もの荒くれ男たちが乗り組んでいます。英国海軍に属するので、全員軍人。女気はゼロ。船はエンジンの実用化が始まったばかりの頃で、大洋航海にはまだ帆船が使われています。ドイツの有名なビール会社が大きな帆船を使った CM を作ったのですが、この日の映画館ではどういうわけか上映されませんでした。マスター・アンド・コマンダーにはぴったりなのですが。

さて、この英国の帆船が航海中、突然米国の船に襲われます。当時の武器は、パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たちと同じく大砲。その他に丈の長いものから短いものまでさまざまなタイプの銃と、刀も使われます。敵は自分の船から出て来ず、距離を置いて撃って来るので、この時は大砲合戦。現代のミサイルに比べれば子供の喧嘩のようなものですが、それでもこぶしほどの金属の弾を火薬でドーンと撃って来ると、木造の船の船体にはボカっと大きな穴が空いてしまいます。マストを集中的に狙われたりするとボッキリ折れてしまいます。

こんな襲撃を霧の中で受けたクロウ扮するオーブレイ船長以下は、死者数人、怪我人多数を出し、船はボロボロにされてしまいます。襲った理由は当時の政治の利害関係。どの国がどの国と仲が良かったか、悪かったか、現代とはかなり違う図式が浮かんで来ます。まずはこの襲撃が最初のクライマックス。オーブレイはとにかく残った人員と船を守るために抗戦せず、尻尾を巻いて退散。日本では退却するのはプライドが許さないとかで、転進などという変な言葉を考え出して、180度方向転換してから前進するということにしていますが、西洋人は実用を重んじ、そんな言葉遊びはせず、さっさと逃げるが勝ち。

逃げ出したものの相手はしつこい。またみつかって追いかけられます。この時も尻尾を巻いて退散。前に懲りて今度は「本船に弾は受けないぞ」という決心で、夜ダミー船を作り、灯りをともし、本船の灯りは消してトンズラ。ダミーに乗り込んだ少年には命綱をつけておいて回収。

何せアメリカの船はずっと大きく、最新鋭なので非常に高速です。まともにぶつかるとどんなにがんばっても追いつかれて穴だらけにされてしまいます。そして独立間もないアメリカは、かつての支配国英国に友好的な気持ちを持っているわけもなく、科学技術などはやる気を出してどんどんがんばっています。技術の遅れている小さい英国船は分が悪いのです。

やる気と知恵で戦うしかないと悟った一行。とりあえずは南米近海の浅瀬で船を修理。この作業があまりにも速く進むので驚きます。どこから調達してきたのか、折れたマストは付け替え、空いた穴はふさがれます。そして、船長と船医はバイオリンとチェロを持ち出してリラックス。ラッセル・クロウはさすがバンドを持っている人だけに、バイオリンも大急ぎで習い、指は一応音に合わせて動かしています。ここまでに船の様子や乗組員の紹介がざっと行われます。

とにかく驚くのがお稚児さんのような少年たちが数人乗り込んでいることです。船長からは「息子」などと呼ばれて可愛がってもらっていますが、最近のドイツですと、子供を労働させている、虐待だなどと反対キャンペーンが起こりかねません。この子達はいわば将来士官になるために研修中のような身ですが、きちんと制服を着込み、それぞれ任務を与えられています。たとえ相手が子供でも階級が下の大人は命令には従い、士官が夕食を取る時は、子供でも招かれます。そして、大人と同じようにワインを飲んでいます。ドイツの児童人権運動家がヒステリーを起こしそうです。

うちに戻ってよく考えてみると、私も子供の時、確かイタリアの話だったかと思いますが、少年が船に乗り込んで嵐に遭うというストーリーを読んだ記憶があります。ですからああいう時代には普通だったのでしょう。船長のオーブレイも子供の時似たような経験を積んでここまで来たらしく、子供から時々そういう話を聞かしてくれとせがまれます。この時ネルソン提督に会ったという話が出るのですが、なぜかここは話が与太臭く見え、不思議でした。ドイツ語に訳した版を見たので、雰囲気が良く伝わらなかったのかも知れません。

さて、原作にはもっと詳しく載っているのだそうですが、船長と船医の友情はこの作品でもあちらこちらに出て来ます。すぐカッとなるオーブレイに対し、常に知的に振舞うマーテュリン。ラッセル・ウロウはこの作品の役作りのために数年間あちらこちらでマスコミをにぎわせながら練習していたのだということが良く分かります。続編もできるのでしょうか、その後も時々騒ぎを・・・。船旅の合間に新しい植物や動物の発見にも努めているマーテュリンは上陸の機会を待っていますが、オーブレイの戦略のためにすっぽかされること数度。喧嘩になると、理知的で礼儀正しいマーテュリンはすごすご引き下がります。

ネタばれが進行します。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

こういったエピソードを出しながら観客を飽きさせずに最後の決戦に向かいます。船内の事故で銃弾を受けたマーテュリンは鉛中毒で蒼白、命が危なくなります。たまたま敵船とは出会っていないので、オーブレイは上陸命令を出して、陸にテントを張り弾の摘出手術をやらせます。船内でやってもいいようなものですが、命を落とす危険もある友達を思いやって、マーテュリンが望んでいた夢をかなえてやります。幸い手術はうまく行き、マーテュリンが回復するまで陸にとどまることになります。船員も新鮮な酒(!)が飲めるというので大喜び。まだびっこは引いていますが歩けるようになったマーテュリンは、助手を連れて喜びながら採集活動。ところがマーテュリンは探索中に敵の船を発見してしまいます。ちょうど英国船の反対側に停泊中で、相手はまだ気づいていません。

採集した動物なども捨てて報告に飛んで帰って来たマーテュリン。情報を得てすぐ戦闘態勢にはいるオーブレイ。しかしこんな小さい船でどうするか。ここが知恵の絞り所。できるだけ近くに来るまで待って、大砲を撃ちまくり相手のマストを折ってやろうということになります。それには変装して怪しまれないようにするに限ります。即実行。船の名前を変え、甲板の船員は私服に着替え、捕鯨船のふりをします。苦しい戦いではありますが、敵の船に接近、上陸して相手の船長をやっつけるところまで来ます(!?)。で、とりあえずめでたし。でもこの終わり方では続編ができそうな感じになります。なんせまだ19巻ありますし、最後の方で新たな任務が生じるのです。

この作品を映画化するという計画は10年前からあり、プロデューサーはずっと画策していたのだそうですが、なんせ、水物は危ないというので、やりたがる人がいなかったのだそうです。ワイアーにも2度ほど断られています。結局強い説得が通って作品は作られました。ところが公開が2003年。雑誌の記事によるとあの事件から2年たった今では原作通りアメリカを敵にするわけにいかず、当時アメリカと友好関係にあったフランスを敵にすることになったのだそうです。アメリカとフランスが友好関係にあったという話もフレンチ・ポテトというのがだめになってしまった現代のアメリカでは大きな声で言えないのでしょう。フレンチ・ポテトの件はあまりにも子供じみているというので、最近はまた元に戻す店が現われていますが、アメリカのフランス嫌いはまだ当分続きそうです。

オーストラリア人のワイアーはそれほどヒステリックにフランス苛めをやるつもりがなかったのか、上品に処理しています。全編140分中フランス人が出てくるシーンはごくわずか。それも個人的に誰かが大きく取り扱われるということは皆無で、フランスの旗を掲げた大きな船が霧の中や夜ボーっと浮かぶだけ。残りはすべて英国船を舞台にしていて、台詞だけで扱っています。メイド・イン・マンハッタン運命の女のややえげつない扱いに比べると、品位を落とすほどではありません。それに原作を読んだら、敵が誰だったかどうせばれてしまうのです。

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