映画のページ

微笑みに出逢う街角 /
Between Strangers /
Cuori estranei /
Zwischen Fremden

Edoardo Ponti

2002 Kanada/Italien/USA 95 Min. 劇映画

出演者

Sophia Loren
(Olivia - スーパーマーケットの従業員)

Pete Postlethwaite
(John - オリビアの夫、元は賞を取るようなランナー)

Gerard Depardieu
(Max - 公園の庭師)

Wendy Crewson
(Amanda Trent - 今話題の彫刻家、オリビアの娘)

Mira Sorvino
(Natalia Bauer - 報道カメラマン)

Klaus Maria Brandauer (Alexander Bauer - 著名な報道カメラマン)

Andrew Tarbet
(George - ナタリアの勤める雑誌社の編集長)

Deborah Kara Unger (Catherine - 著名なソロ・チェリスト)

Malcolm McDowell
(Alan Baxter - キャサリーンの父、務所帰り)

見た時期:2003年12月

ストーリーがばれてもさほど困らない作品

南ドイツの映画にこの種のタイプが多く、作りが退屈だと私は時々口をこぼしていました。こういう何人かの人間のエピソードを集めて、最初か最後に全員をつなげる、出会わせるという趣向は嫌いです。微笑みに出逢う街角はしかし見ていて退屈せず、それどころか「次はどうなるのか」と思わせ、適度にお涙頂戴にもなっていて、最後にちょっと安心して終わるという、テレビに出せば最高という出来になっています。その上音楽がこれまた私が好きなジャンルではないにも関わらず感じ良く挿入されていて、サウンドも良く、つい誉めてしまいます。

結論: 私の嫌いなカテゴリーに入るのに誉め言葉が並ぶので、この種の作品、音楽が好きな人ならとても気に入るでしょう。

地味な話で、これといった推理小説的プロットはないので、話をばらします。ばらさないと話が進められません。見る前に話を聞きたくないという人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

まず登場人物を説明します。でないと話が全然理解できません。3組の女性を巡る人間関係。高齢の主婦(ローレン)、妙齢のチェリスト(ウンガー)、溌剌としたカメラマン(ソルビーノ)。

冒頭疲れ切った顔のローレン扮するオリビアが登場。皺だらけ、白髪混じりで、スーパーの従業員。夫は車椅子に乗った元スポーツ選手。ポスレスウェイト演じる夫ジョンとはちゃんとした会話が無く、ジョンが命じる家事を彼女がやるだけ。この夫、嫌な奴で、オリビアを全く尊重していないだけでなく、彼女がちょっとでも自分の時間を持ったり自分の世界を持つことを禁じています。

私が初めてポスレスウェイトを見た時も車椅子に乗っていました。この人は現在50才代、70年代後半から芸能界で活躍し始めた英国のベテラン俳優。最初はテレビにも多く出ていました。私が最初に見た作品は彼の芸能キャリアの中頃。ポルノまがいのB級作品でした。で、私の第1印象は悪かったのですが、その少し前にすでにエイリアンに出演しており、ユージュアル・サスペクツの撮影も終えており、当時彼のキャリアは上昇中だったのです。その前は他の職業についていたらしく、芸能界でスタートしたのは遅かったようですが、個性ある演技で定評があり、年齢に関係なく出演できる作品が見つかるタイプの俳優です。好みにもよるでしょうが、およそ美男(ピット)とかスタイルがいい(リーヴス)といって売るタイプの人ではありません。クレイ・アニメのウォレス&グロミットを人間でやるとすればウォレスの役が回って来そうな御面相ですが、もっぱら演技が売り物です。その中でも恐ろしく力があるのが声。ですからこの人の作品を見る時は英語のオリジナルを薦めます。今回は残念ながらドイツ人声優になっていました。

後記: 2011年1月病死。

ローレンはもう皆さんご存知の世界的スター。この作品は彼女の100本目に当たるため、記念して息子の作品に出演しています。息子はこれが2本目。ローレンの夫、エドゥアルドの父親のカルロ・ポンティは100本以上の作品をプロデュースしていますが、どういうわけかこの作品には手を出しておらず、その前のデビュー作品をプロデュースしています。ローレンの人生についてはこちらへどうぞ

さて、次にデボラ・カーラ・ウンガー演じる女性。カナダ映画ですから彼女が登場してもおかしくありません。彼女もイメージでは運の悪い女優で、1つはポルノまがい、もう1つでは麻薬中毒かという印象を受ける作品に出ていました。それをのっけに見てしまったので、どうも変な女優という感じがするのですが、実はオーストラリアの有名な俳優学校にカナダ人として初めて入れた人。繊細な演技で売ることのできる人です。ポルノまがいの作品というのはクラッシュという名前で、個性のあるキャスト、スタッフが集まって作った作品。人に恥じることはないのですが、たまたま彼女が引き受けが役が下半身を見せるシーンのある役で、それが変にエロチックだったため、そこが記憶に残ってしまうという変な運の人。共演しているのがまた個性あり過ぎのジェームズ・スペーダー。彼は最近セクレタリーという作品に出たそうで、現在も変な個性のキャリア街道をまっしぐら。ポルノとはっきり一線を画しているのは、筋と関係のないセックス・シーンは出てこないこと。その辺はウンガーもスペーダーもきっちりしています。

彼女の演じるキャスリーンは成功したチェリストで、世界中を公演旅行したり、スタジオ録音の話があったりする女性。ところが最近調子が変で、夫とは別居。マネージャーも心配しています。理由は観客にだけ分かるのですが、いわくありそうな男が刑務所から出所して来たのです。この男がご存知時計仕掛けのオレンジマルコム・マクドウェル。いわくが無かったら変。

もう1人、ミラ・ソルビーノ演じる若く溌剌とした女性。彼女は活躍し始めて間もなくオスカーを貰った人ですが、貰ってすぐぐにゃっとなってしまったグニャッス・パートロフ嬢に比べその後もしっかりした足取りで仕事をこなしています。有名なベテラン俳優の娘で、その辺は本作品のストーリーに関連して来ます。余談ですが、ソルビーノ嬢はハーバード大学を優秀な成績で卒業し、中国学では中国語を勉強しています。

彼女の父親を演じているのがご存知クラウス・マリア・ブランダウアー。なんて言っても知らない人の方が多いですね。ドイツではとても有名なオーストリー人俳優です。舞台出身で、10年後映画界にも進出しています。それからすでに30年のベテラン。ここでもベテラン・ジャーナリストの役を演じています。

ジェラール・デパルデューは脇役でちょっと出て来るだけですが、さすが貫禄、ただの公園の庭師なのに、しっかり印象を残しています。ローレン演じるオリビアを慰める役。

この3組に共通点はありません。オリビアは虚しい生活を送るようになってからン十年の主婦。夫の横暴にも無言で従い、働いているスーパーで暴れる若者にも無言で対し、散らかせば無言で片づけ、僅かながら給料を貰っているという生活。夫は現在何で生活しているのか分かりませんが、かつては有名なスポーツ選手。現在は車椅子です。中程度の生活で、仲間と賭けトランプをして、ちょっとインチキをしては小金をためる生活です。実際の家計費は夫の年金でもあるのか、それほど困窮しておらず、オリビアのお金が本当に必要なのかは分かりません。オリビアは息の詰まるような家にいるよりはスーパーにいる方がいいようですが、最も幸せな時間は公園のベンチに座っている時。時たま庭師のマックスが声をかけてくれます。最近は絵を書いているオリビア。実は若い頃画家になりたかったのです。

彼女が絵を書いているということにやかん頭から湯気を出して怒るジョン。最初「なぜ?」と思いましたが、支配欲の問題のようです。ジョンはうるさく彼女を支配し、あれこれ自分の言うままにやらせようとするので、オリビアがたとえ半時間でも自分の時間を持つという事が許せないのです。身体障害を抱え、その苛立ちを彼女にぶつけているのかと思いましたが、話はそう単純でもありません。実はオリビアには未婚の母になった経験があり、生まれてすぐ娘を養子に出しています。その娘が今成人して彫刻家として成功したところ。この娘が描く人間の像とオリビアが絵にする像がまったく同じです。夫はオリビアがテレビにも出る有名人の真似をした素人画家だと決めつけますが、実は母親が抱く不安が悪夢になっていたのです。娘はそれを継いでいます。

話は変わって、キャスリーンはピストルに弾を込めています。クラシック音楽のチェリストが一体何事と思いますが、これには深いわけがあります。彼女は22年間両親無しに生きて来ました。結婚して娘がいますが、現在は別居中。仕事のせいもあり、あまり家庭には居付きません。現在は移動公演やスタジオ録音のスケジュールがあるのですが、心ここにあらず。父親が22年前に母親を殺し、最近出所しています。以前の父親はドメスティック・バイオレンスの常習者で、母親は結局父親に殺されています。キャスリーンはまだ若いので、母親が死に父親が刑務所に入った時はまだ子供だったのでしょう。深く傷ついている上、父親を殺したいという衝動をどうすることもできません。それでピストルを買い込み、父親の足取りを追っています。

ところがある夜、父親が若者に襲われているところに出くわします。思わず空に向けて弾を撃ち、父親を救ってしまいます。自宅に連れ帰り、父親と直に話をし、ピストルで殺そうとするのですが、なかなか引き金が引けません。父親は刑務所から出た後はどういうわけか宗旨変えして非暴力になっています。娘の理解を得ることはできないと悟っているため無理な事は言わず、以前住んでいた家兼店を懐かしそうに見、いずれ町から去るつもりでいるかのようです。娘との話も上手く行かず、彼女の家を出て路上生活。ところが以前住んでいた家を2度目に訪ねた時、強盗に出くわし、店の新しい持ち主の女性を庇ったため自分が殺されてしまいます。父親と再び話し合おうと思って探していたキャスリーンは父親にモルグで再会。殺されそうになった女性の夫から、「身代わりになって死んだ」とお悔やみと感謝の言葉をおくられます。

最近アフリカ取材から帰ったばかりのカメラマン、ナタリア。取材写真がタイムの表紙になり、輝く未来が見えて来ます。周囲の人から祝福され、幸福の絶頂であるはずなのですが、何かしっくり行きません。実は自分で写真を撮ったのに、その時間の記憶が無いのです。それで編集長に写真を見せてくれるように迫りますが、うまく行きません。皆彼女と一緒に祝おうと言うばかり。その上父親はその先のキャリアをもっと上昇されるために、すでに大物と話をつけています。是が非でも娘をスター・カメラマンにしようという親心。父親は世間に知られる有名カメラマンです。

なぜかこの成功が現実の物のように感じられないナタリア。ここにチラッとダブるのがソルビーノやパートロフ。ソルビーノはグィニス・パートロフと似たようなメイク、出で立ちで出て来ます。2人とも若くして芸能界で成功を収めオスカーを手にしていますが、ソルビーノは足が地についた、パートロフはついていないような印象。2人とも業界で有名な父親を持っています。果たして、この2人の父親が作品中の父親アレクサンダーのような事をしたかどうかは分かりませんが、ふと、そんな事があったら・・・と思わせる設定です。原作、脚本、そして演じる俳優の力でしょうが、ソルビーノはまだ自分の物になったように思えない功績、そしてそれを元にどんどん先に進んでしまうキャリアに、サーフボードから落ちそうなサーファーといった雰囲気でいい味を出しています。

ブランダウアーは、強引に娘をキャリアのコンベアーに乗せてしまえば、後は勝手に前に進んで行くと考えている父親、何でもいいからオファーされるチャンスは手に取ってしまうのがいいと考えている父親を上手に演じています。「君の仕事は燃える炎の中から一アフリカ人の子供を救うことではなく、撮った写真で世界に事実を知らせ、不正を訴えることだ」と取り敢えずは納得できそうな理屈を言います。この言葉にも嘘は無いでしょう。しかし、最初の大きな出来事に直面した娘は「自分は人間としてやるべき事をやらなかった」という気持ちをぬぐうことができず、納得しません。ここは私にも判断が難しいなと思えます。1枚の写真が世界を変えたという例はいくつもあるのです。ベトナムでナパーム弾を受けた少女の写真はその後の政治にかなりのインパクトを与え、戦争は止めようと思う人の数はかなり増えています。そういう写真を撮れる娘を持ったアレクサンダーはその力の方に重きを置いています。目の前で大きな爆発や銃撃で負傷者が出たら、救出活動をするべきか、写真を撮るべきかは厳しい選択です。愛の落日でも最後そういう場面があり、ここではストーリーの関係もあって非情なシーンになっています。結局ナタリアは自分でいいと思った道を選びます。

こういう3人の女性が、いろいろあった挙句空港に集まります。オリビアは長年夢だった芸術の都市を訪問するため無け無しのお金を持って出ます。カナダからイタリアまでは遠く、お金は足りません。激しく言い争った夫は最後彼女に賭けでインチキしてためた小金を渡します。この夫婦はまた元のさやに収まるでしょう。キャスリーンはせっかく父親と話し合おうと思った矢先父親が殺されてしまいショックを受けますが、助かった女性の夫から父親が最後に何をしたか聞かされ慰められます。その結果自分が置き去りにした夫と娘の元に戻る決心をします。タトゥーのドタキャンとはちょっとわけが違いますが、コンサートやレコーディングはキャンセル。ナタリアは路上で知り合ったアフリカ人女性から母親の大切にしていた腕輪をプレゼントされます。「私の国のためにあなたがしてくれたことに感謝します」とメッセージがありました。父親の言った事と、この女性の感謝は同じ線上にありながら、1つはずるそうな、非情な姿を見せ、もう1つは悲しい運命と慰めを見せます。結局ナタリアはこの時はアフリカに戻る決心。それで空港に出向きます。

これで映画は終わり。息子が母親を主演に撮るというのは難しいでしょうが、この作品ローレンにのめり込み過ぎず、他の女性にも均等にスポットライトが当たっています。その上脇を固めている男性ブランダウアー、マクドウェル、ポスレスウェイトがしっかり存在感を出しており(そりゃそうでしょう。このメンバーでは影が薄いということはあり得ません)、その上チラッと登場するデパルデューもズシッと重みを出しています。この人は180センチでオベリックスを演じるような人ですから、100キロはあるでしょう。地味ながらこんな作品を作る息子、これは親の七光りではありません。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ