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ふたりにクギづけ /
Stuck on you /
Unzertrennlich

Bobby Farrelly,
Peter Farrelly

2003 USA 118 Min. 劇映画

出演者

Matt Damon
(Bob Tenor - ハンバーガー屋)

Greg Kinnear
(Walt - ハンバーガー屋)

Eva Mendes
(April - ウォルトのガールフレンド)

Wen Yann Shih
(May - ボブのガールフレンド)

Pat Crawford Brown
(Mimmy - ハンバーガー屋従業員)

Ray Valliere (Rocket)

Cher (本人役)

Meryl Streep (本人役)

Benjamin Carson
(分離手術の主任執刀医)
Candy Carson
(緊急治療室看護婦)
Murray Carson
(病院の待合室にいる人)
B.J. Carson
(病院の待合室にいる人)
Rhoeyce Carson
(病院の待合室にいる人)

見た時期:2004年1月

今年最初の映画は月曜日にひなたぼっこということになっていたのですが、どういう幸運かその前日急にふたりにクギづけが当たってしまいました。月曜日にひなたぼっこは昨年最初の映画のはずだった Pigs will fly よりさらに暗い話だったので、そういう話で年が明けずに済んで良かったです。ふたりにクギづけは明るい話です。

紆余曲折というほど大げさではありませんでしたが、見ようかな、見るのよそうかな・・・と迷ったことは迷ったのです。予告編を見た時はそれほどおもしろくないような印象だったのです。ところがぎりぎり、雑誌で良い評判を見、当日ラジオでも良い評価を聞いたので、代わりに候補に挙げていたユアン・マグレガーのロマンス・コメディーを延期して見に行きました。普段は雑誌やラジオの評をそれほど気にしないのですが、どうも誉め方が普段と違い、本当臭い印象だったのです。

予想を裏切ることなく、私は2時間ほぼ笑い通し。でありながら、対象となる人たちに好意的な目を向けてあり、これがあのファレリ兄弟かと驚いた次第。日本でも公開が予定されているようですが、まだタイトルは決まっていないようです。原題は「ぺったりはりついた」という意味で、直訳がそのまま映画の主題でもあります。なにせシャム双生児なのですから。ファレリ兄弟がシャム双生児を扱うのならこれはまた一騒動かと思いきや、シェール、メリル・ストリープという大スターの協力を得、マット・デーモンとシェールというオスカーを貰った俳優を起用しての(シェールは歌でなく演技でオスカーを貰った)教科書的にきれいに仕上げています。

ファレリ兄弟が教科書的などと聞くとえっと驚かれる方もいるでしょう。珍しいことです。それでも教科書的と言うのは、当事者に対して理解を示し、色々な形で身体障害を持った人を普通の社会で受け入れるべきだという、アンチ偏見映画になっているからです。えげつないシーンを連発し、困っている人にさらに蹴りを入れて笑い飛ばすのがモットーのファレリ兄弟としてはヘヤピン・カーブ式のコース変更です。

ドイツでは身体障害、精神障害を持った人に対する保護が進んでおり、聞くところによると北欧はもっと進んでいるそうです。ドイツの場合車椅子で行ける場所が圧倒的に多いなど良い点が色々ありますが、それよりも前に障害を持った人を社会が受け入れるのが「当たり前」という考え方が浸透している点。ですからこれまで無理だった方面に進出するたびに肯定的に報道されますし、職場などもできる限りそれに対応しようとします。予算的に難しい所には公的機関が顔を出し、宗教関係からの寄付なども集まります。

アメリカ人が障害のある人たちを笑い飛ばす映画を作るのは、そこまでアメリカは進んでいて、障害を持った人たちが自信を持って生きていける社会だからなのか、残酷なのか、アメリカに住んだことのない私には分かりません。学校や職場で面と向かって障害が原因で苛めに遭う、何かを言われるということはドイツでは珍しいですが、他の国の事情はばらつきがあるでしょう。ドイツの事、それも自分の出入りする狭い範囲の事しか知らない私には、全体の話はできません。

宗旨変えしたファレリ兄弟の新しい方針ですが、この作品では障害は障害として前面に押し出し、それをあからさまに嫌う人、笑う人をやっつけるというファイト映画にしてあります。話はかなり誇張してありますが、そこでコメディーが成立するわけです。不思議なのは主演の兄弟が一卵性でなく、二卵性双生児だという点。二卵性でシャム双生児が発生するものなのか、私はまだそういう話を聞いたことがないのです。一部の報道によるとシャム双生児は20万に1度の発生率なのだそうですが、ふと考え込んでしまいました。20万に1度というのはかなり頻度が高いではありませんか。ベルリンに20人ですか。周囲でそういう話を聞きませんが。この統計、解説で何か言葉が抜けていたのか、ゼロの数が狂ったのか、もう少し考えてみます。

ファレリ兄弟はかなり前からこのテーマを温めていたそうで、最初の計画ではジム・キャリーとウディー・アレンをキャスティングするつもりだったそうです。そうなったら私は見に行かなかったでしょうね。いくらなんでも、・・・それはない、・・・私にそれを見ろと言うのは理不尽だ・・・いや、誰も見ろとは言っていなかった・・・。私はウディー・アレンでは笑えないのです。ジム・キャリーは好きな方ですが、コメディーでなくシリアス・ドラマを応援中。実際に主演として選ばれたのはマット・デーモンとグレッグ・キニーア。2人は首から下は一卵性双生児と言ってもいいぐらいぴったり息が合っていました。

もしかしたら最初つまらない脚本貰ってどうしたらいいのか分からなかったのかも知れませんが、兄弟2人の息を合わせるとそれだけで驚いたり笑ったりできるシーンが続出します。グィニス・パートロフも最近愛しのローズマリーに出ていましたが、その程度の浅い脚本。というか、俳優が深く読んで演じないと上っ面だけのつまらない作品になりかねません。2人はそれを心得ていたのか、良く動きを練習してあり、驚くほど体の動きがぴったり合っています。顔はさすがに似ていない。キニーアの方がトウが立って見えるのです。それは仕方が無いでしょう。7歳ほど年が上なのです(アメリカには片方が年上の双子というのがあるんですか、ファレリさん?)。しかしそれもギャグにして笑い飛ばす強い2人。2人が協力して何かをやるシーンはどれも絶品で、予告に出て来た所もおもしろいですが、まだまだ作品の中にはいろんなシーンが隠されています。アイスホッケーのゴールキーパー、ハンバーガーを作るコックなど、くっついている (stuck) と利点があるぞと宣伝しています。巾が2人分あるゴールキーパーを審判が許可するというところがまたおかしい。何をやるにも2人一緒ですが、出場しているのはあくまでも片方だけ。ですからゴルフのトーナメントで1人がボールをカッ飛ばすともう1人はすぐ見物人としてボールの行方を見る・・・というようなおもしろい工夫もあります。愉快だと思ったのは、視覚に頼るジョークばかりでなく、台詞もおもしろかった点。32年の生涯、一瞬たりとも別々だったことのない兄弟なのに、誰かが何かを聞くと「その時ボブがどこにいたのか僕は覚えていない」とか「最近会っていない」的な発言が飛び出すのです。こういう冗談がちりばめてあり、退屈しません。単にダンスの振り付け的な体の動きができる若手の俳優を2人連れて来たというのではなく、ちゃんと演技のできる人を連れて来たのは大正解です。通行人などにじろじろ見られたり心無い事を言われた時の一瞬傷ついた表情、そしてすぐその後気を取り直すところはやはりこの2人でないと・・・と思います。

設定は肝臓が分離していない双生児。分離手術をするとボブは生存の確率100%、ウォルトは50%(酒が飲めなくなる?)。手術に反対しているのはボブの方で、ウォルトは何度かやろう提案しています。性格はボブが用心深く消極派、ウォルトが楽天的で積極派。ガールフレンドもボブの方は長く文通しておきながら自分の体の事は隠していて、その子はメイルで知っているだけ。ウォルトは飲み屋で女の子に話しかけてすぐベッドイン。手が早く、相手も知り合った最初の日から事情を知り、ウォルトの相棒が側にいても気にしない、気にしない。

共演のメリル・ストリープはアダプテーションから横滑りしてきたようなイメージで本人役。最後劇中劇にはカッコつけてフェイ・ダナウェイの乗りで登場。シェールも本人役で、つまらない契約をしてしまった落ち目のスター役。この2人を巻き込みながらストーリーは大転回。

元々はマサチューセッツ州の田舎のハンバーグ屋だった2人。この辺はピザ屋で働いていた Mr.ディーズ風の乗り。田舎では2人の障害を町中が知っていて、誰もが普通に受け入れています。スポーツも得意な2人は町の人気者。ところがウォルトがある日「ハリウッドで俳優になるのだ」と言い出したから大変。彼が行くならボブも行かなければなりません。ボブは舞台では上がってしまう性質。いったいどうやってボブを引き連れて出演するのだろうと思っていたら、そこはファレリ兄弟。奇想天外なストーリーを思いつきます。

一種のサクセス・ストーリーで、最後に納得できる人生に落ち着くというものです。筋はばれてもさほど困りませんが、ギャグを全部ばらしてしまうと見に行く必要がなくなってしまうのでばらしません。

最後にちょっと音楽に触れましょう。テクノなど人工的なサウンドが流行る中、ファレリ兄弟は昔懐かしいムーン・リバー、アローン・アゲイン、ハッスルなどを当時流行った歌手のままで挿入しています。アローン・アゲインが流れるシーンはほろりとさせられます。ファレリ兄弟が普段どのぐらい一緒に行動しているのか、マット・デーモンとベン・アフレックがどの程度別行動をしているのか分かりませんが、ゲイでない男性2人が何かの事情で強く結びついていて、その2人がお互いの生活に干渉し、離れ、再会というのも裏に隠れたテーマ。この作品は後で DVD を入手してもう1度見ても退屈しないでしょう。

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