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ティル・シュヴァイガーはコメディーに向くか

Til Schweiger

1963 Freiburg, Deutschland

考えた時期:2004年7月

かなり南の人ですねえ、この人は。しかもバイエルン人でなく、その隣。本来はまじめ一徹の人の多い地方で、あまりユーモアのセンスは見られない地域。との予想に反して彼には時々天才的なユーモアのセンスが見え隠れします。

この地方出身者と聞くと、勤勉、家族思い、地味などという言葉が浮かんで来ます。その勤勉さが功を奏して、産業的には地道な発展を遂げ、国が危なくなってもこの地が倒れるのは最後だろうと思わせるような州です。

シュヴァイガーのやって来た事を書類で見ると、くそまじめ、勤勉でなるほどと納得するのですが、生きている動いている彼を見ると、全然そういう重みのある人に見えないところがまたおかしい。完全カムフラージュに成功しているのです。家庭を守るための防衛手段なのかも知れません。

ドイツと言えどもハリウッドには負けておらず、芸能界の人は一般の人より簡単に結婚離婚を繰り返す傾向があります。籍を入れずにくっついたり離れたりもたくさんあります。そういう中で彼は同じ人と十年ほど結婚していて、子供は少なくとも3人。4人目も生まれるのかも知れません。それだけでなく、離婚の危機などという話は聞いたことが無く、子供の育て方について話すインタビューなどというのが出るのです。ところが彼が出る映画を見ると、ちゃらんぽらんな服装で、いいかげんな男を演じたりするのです。この落差がすでにコメディー。

後記: 結婚十年、子供4人の後離婚。

さて、彼の職業ですが、元々は先生になりたかったようです。当時のドイツではドイツ人が先生になると、公務員のようなしっかりした給料が貰えて、休みが多いなどといううまみがあったので、教職というのがどういうものかを考える前に、休暇が何日貰えるか、病欠が何日できるかを考えて教職の国家試験を受けるというのが流行していました。ですから彼がどういう理由で教師になろうとしたのかは分かりません。しかし、今の彼を教壇に立たせて、子供に生きるというのはどういうことかという説教をさせるといいかも知れません。

・・・という風に足が地についた男なのです。全然それらしく見えませんが。

ちょっと前までは青年でしたが、今度見た (T)Raumschiff Surprise - Periode 1 ではおっさんになっていました。もう中年なのですから仕方ないでしょう。おっさんとしてはクールなタクシーの運ちゃんを演じています。この作品、映画しか見ない人間の目から見ると、シュヴァイガーに救われたと言っても過言ではありません。

職業の話の続きです。学校は放り出して俳優になったようですが、一応二枚目スターです。はじめは Manta, Manta というけしからん不真面目なコメディーからスタートしていますが、ドイツではコメディアンとしては通っていません。その割にコメディーに出ている回数は・・・

 ・ バニシングストリート (原題の Manta, Manta という言葉を聞くとドイツ人ならマジには取りません。)
 ・ Der Bewegte Mann
 ・ Männerpension
 ・ Das Superweib
 ・ ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
 ・ SLC (ソルト・レイク・シティ) Punk!!!
 ・ Bang Boom Bang - Ein todsicheres Ding
 ・ ディアボリーク悪魔の刻印
 ・ ヤンババ!ばばぁ強盗団がやってくる!
 ・ Magicians
 ・ レボリューション 6
 ・ セックス調査団
 ・ (T)Raumschiff Surprise - Periode 1
 ・ La Vraie vie des Dalton

多いですねえ、かなりの頻度でコメディーに出演しています。この中では5本ほど見ました。次の予定もコメディー。統計的に見ると、コメディーが圧倒的に多く、その他に多いのは犯罪物。両方のジャンルにまたがった作品もあります。それでも彼はコメディアンとは扱われず、二枚目俳優扱いで、ドイツでは大スターです。

私がいつも応援しているドイツの3羽ガラスはもっぱら国内、ドイツ語圏をターゲットとしている俳優で、最近ダニエル・ブリュールがやや海外に進出し始めたとは言え、国際スターと言うほどではありません。3羽のうち2羽は全然海外の市場を狙っていないかのようです。

ティル・シュヴァイガーは若手の中では比較的早くからハリウッドを狙っていて、実際進出しています。ただ、貰えているのはもっぱら悪役。彼自身の個性を生かせる役とは言えません。ドイツ人を悪者にしておけば満足する某国の観客を満足させようという監督を満足させるために演じているといった程度の関心しか見えません。

 ・ リプレイスメント・キラー
 ・ トゥームレイダー 2
 ・ キング・アーサー

政府が税金のかなりの額をハリウッドへ投資したこともあり、ドイツ人の若手がハリウッドの映画に出演という動きがここ数年ありました。最近はどうやらやや方向転換があったようで、 1度ハリウッドへ引っ越した有名人も戻りつつあるようです。シュヴァイガーは1番最近ではアーサー王の映画に出演していますが、ハリウッドだけを狙うという作戦は元から取っておらず、どうやらハリウッドに永住というような計画は無いようです。アーノルド・シュヴァルツェンエッガーのような政策は取っていないのです。

シュヴァルツェンエッガーと言えば最近州知事になってしまったので、今後コメディーを演じるなどということは暫く無理でしょう。彼の政策を見ているとあまりユーモアも感じられません。しかし私は俳優としての彼にはコメディーの才能があったと思っていたので、ちょっと残念です。

後記: 知事は辞め最近また映画に復帰の様子。アクションの盟友スタローンと一緒にアクション・コメディー進出の模様

ティル・シュヴァイガーにはそのシュヴァルツェンエッガーと同系統のコメディアンとしての才能があるように思えます。本人は全然笑ったりどたばたやらず、陰険な目つきをしてジロリと睨む、監督がそのシーンをぴったりの場所に使うと作品に笑いのインパクトが・・・という作戦です。シュヴァルツェンエッガーでそれが成功しているのをチラッと見た事がありますが、ティル・シュヴァイガーも軽くやってのけます。2人に共通するのはおよそハンサムとは言えない、オリバー・カーンを思わせるこわーいご面相。そこへ小さ目の目で陰険な視線。2人とも、いや3人ともそういう才能に恵まれています。カーン選手、引退したら俳優になってはどうでしょう。

話が脇道にそれてしまいましたが、シュヴァイガーにはほんの数分出て来るだけで映画に重みを加える力があります。上に挙げた作品の中にはどうにも救いようの無いひどいものも含まれていますが、彼が出たために印象がアップという例があるのです。

今回のヘルビッヒの作品はマーケティングや配給の作戦が功を奏して観客動員数はかなり行きそうです。私は公開の1日前の試写に当たったため、見に行きましたが、満員。しかし作品の質は落ちています。その上シュヴァイガーが欠けたら、私なら「入場料返せ」と言うでしょう。タダ券だったから、返してもらうのは 0 ユーロですが、それでも口からはそういう言葉が出そう。それを救ったティル君は救世主か。

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