映画のページ

オールド・ボーイ /
Oldeuboi /
原罪犯 /
Old Boy

朴贊郁/Park Chan-wook

2003 Korea 119 Min. 劇映画

出演者

崔岷植/Choi Min-sik
(オー・デス - 目撃者)

劉智泰/Yu Ji-tae
(イ・ウジン - 監禁の犯人)

姜惠貞/Kang Hye-jeong
(ミド - 和食レストランの従業員)

チ・デハン

オ・ダルス

キム・ビョンオク

キム・スヒョン

イ・スンジン

ユン・スギョン

パク・ミョンシン

尹珍序/Yun Jin-seo

柳一韓

見た時期:2004年8月

2004年 ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

テンションはさらに上がります。救命よりしんどい作品です。親兄弟仲良く暮らしている人に薦めるのはちょっとためらってしまいます。一人っ子だったらいいですが。

カンヌで準優勝と言える高さに達した作品。監督は JSA を持ち込んだ人で、JSA も一見に値します。ちょっときついなと思ったのは監督のユーモアのセンス。普通はきつい話にユーモアを盛り込んで、観客に多少リラックスする余裕を与えてくれるものですが、この監督はユーモアの使い方がシビア。時々軽く笑わせておいて、その後でグサっと刺されます。するとさっき笑ったばかりの観客は寝覚めが悪くなるという仕掛け。原作は日本の有名な漫画(土屋ガロン、峰岸信明)なのだそうです。多少内容を変更したそうですが、どこを変更したのかは漫画を見ていないので分かりませんでした。プロットに大きな穴というか無理がある作品ですが、それは無視でヒットしそうです。ファンタでも評判ですが、ドイツでもちょうど今一般公開です。ファンタでセットになっていた作品もおもしろそうで、選択の難しい日でした。

個人的な感想としては、私はえぐい復讐劇というのが苦手。ここまでやるのかと思ってしまいます。しかし映画の題材としてはえぐければえぐいほど長編2時間を持たせることができるので、適材かも知れません。欧州では復讐し過ぎて相手だけでなく自ら身(あるいは精神)を滅ぼすというテーマが時々ありますが、何でも水に流しやすい日本人がオールド・ボーイの原作を思いついたというのでちょっと驚いたところです。その辺は作品を選んだ監督の趣味、傾向なのかも知れません。原作の漫画もえぐいのかも知れません。カンヌではデビッド・リンチと比べながら誉められたそうですが、私はリンチも長いこと過大評価されているのではと思っていました。オールド・ボーイはテーマの的をはずしているという印象が強く、そのためあまりマジに受け取ることができませんでした。しかしテンションの高さは保証します。気合は入っておりますぞ。

漫画を知らない人で、この作品を見たい人はこの辺で止めておいた方がいいです。目次へ。映画のリストへ。

タイトルがオールド・ボーイとなっているので一瞬考えたのですが、普通日本では略の方の OB (オー・ビー)を良く使います。それで最初ピント来ませんでした。タイトルは関係者が高校の OB だというところから来ています。だからネタはタイトルだけで半分ぐらいばれています。

ある日妻子ある平凡なサラリーマン、オーが拉致され、ホテルに似た場所に監禁されます。与えられたのは部屋、テレビ、筆記用具、食事。監禁した側に散髪など何か用があると、催眠ガスを部屋に充満させ、オーが動けなくなってから部屋に入って来ます。1年後テレビには妻が殺害された事件が報道されていて、犯人はオーということになっています。オーはずっとこのホテルにいたので、わけが分かりません。絶望して自殺を試みてもそれはかなわず、生きるしかありません。で、時間潰しでもあり、万一復讐のチャンスがあればとも考えたのでしょうか、体を鍛え始め、記録を取り始め、壁に穴を掘ろうと試みます。その穴がようやく人が通れるほどの大きさに近づいたその時、突然解放されます。

15年というとてつもない時間が流れ、久しぶりに町をふらつきレストランに入ったオーは気を失い、女性に助けられます。オーの元には拉致をした人物から携帯で連絡が入り、挑戦を受けます。オーが拉致の理由を5日で解明するに至ったら、誘拐者は死んでもいいと。それでオーは探偵顔負けの意気込みで事件を探り始めます。結局は答が見つかり死者が出ます。

ここから後は決定的にばれます。目次へ。映画のリストへ。

日本では有名な会社から出た漫画なので、ご存知の方が多いのだろうと思いますが、私が考えるプロットの穴というのは順序が逆だろうという点です。起きた順番に考えると、まずイ兄妹の間に問題があり、それを目撃したオーから話が外へ漏れ、そのことがきっかけで妹が更なる問題を抱えてしまい、それが彼女の自殺の引き金になってしまった、それに怒った兄は彼女の自殺のきっかけを作った男を恨み、徹底的に復讐をするというものです。それに15年以上の歳月をかけ、ヤッピーとしての成功、財産、命も棒に振るという壮絶な終わり方をします。

犯人がオーにテレビと筆記用具を与えたというのはおもしろい発想です。人間はコミュニケーションが完全に途絶えると、思考能力が低下したり、記憶を失ったり、言語を失ったりするようです。独房に長期間入れられていた人に起こりかねないことです。オーはテレビがあるために、自分で体験はしないものの15年間の世の中の変化は見て知っています。文字と音声による刺激があるので、母国語を忘れたりせず、思考能力の低下も防げています。ということは犯人の側にはオーが馬鹿になってしまっては困る事情があったのだと気づいたのは映画が終わってから。

復讐される側はややおっちょこちょい、あるいは思慮が足りないと言うべきでしょうか、あまり深く考えずにやった事が相手の怒りを買ってしまうというような展開になっています。平凡な彼が無駄にする人生は15年。妻を失い、妻の殺人犯にされてしまうだけでなく、娘は行方知れず、精神的にも完全に人が変わってしまいます。現在の彼の生きる目的はイに対する復讐のみ。誰がこんな事をやったのか、見つけ出して殺してやるぞと、せっかく自由の身になったのに、復讐という考えの囚人になっています。

もっとゆったりしたテンポで描くこともできますが、主人公を15年囚人にしたイが5日のうちに事件の背景を割り出すという条件で賭けを持ちかけるため大忙し。元平凡男が金槌1本で1ダース以上のやくざを殺して回るというのは正気の沙汰ではありません。しかし元々の原因はイ兄妹から発しており、それが事態を大きくし、妹、自分の命のみならず、大勢の手下(チンピラとは言え、そう簡単に殺していいものか)、オーの家族など大勢の人間に不幸を招いたという点が見逃されています。一体誰が始めた事なのか、そこを考えた人はいなかったようです。

ボケっとして見ていると、拉致され、時間と妻を奪われたオーがイに復讐する物語に見えて来ます。しかし良く見ているとそうではなく、オーをさらったイが長い時間をかけてオーに復讐を続ける物語です。そしてイがオーを落とし入れる手段はやはりえぐいなあと思わせるような方法。原因と結果の逆転が無ければ、ま、目には目と考えられないこともありませんが、トラブルになることが分かり切っている原因を選んだイと、平凡なオーをこういう形で対決させるのは筋に無理が見えます。このあたり、漫画の原作とどの程度ずれがあるのか興味あります。

★ ズレ

かなりずれています。まず拉致期間は原作では10年。原因究明のための時間的制限は原作では不明。映画では5日に限ってあります。

そして監禁の理由が分かりにくいです。映画ですと兄妹の間の関係なので、本人の名誉にも関わりますし、こういう事をあった、無かったと証明するのは難しく、巻き込まれた人は多大な迷惑を蒙ります。なので後で復讐と言われると実行できる立場にいるかは別として、話としては納得が行きます。ところが原作の方は気持ちだけの問題。それが後に10年の監禁に加え、復讐の対決となると、ちょっと考え込んでしまいます。なんだかその辺にとまっている雀を箒で追い払うのではなく、大砲で撃ち殺すような印象を受けます。私は原作の漫画を読んだのではなく、インターネットの解説を文字で読んだだけなので、作者の筆が立てば無論説得力のある話になっているのでしょうが。

今年のファンタではこの種のテーマが2つの骨太の作品で扱われています。この映画祭だけでなく、欧州ではほとんど見たことのないテーマです。こちらもそうとは知らなかったのでちょっと驚きました。もう1本の作品では生き残った1人が半分亡霊のようになって人を殺して回りました。イはしっかり生きていましたが、本末転倒の復讐劇を展開し、自らを破滅に導きました。その際オーを道連れ。オーはたとえこの勝負を生き残ってもこの先は楽しい人生ではありません。だからと言ってイのために死んでみても意味がない。むなしいなあ。

それで最後の頼みと思いついたある方法で、精神の安らぎを得ようとするのですが、その方法が本当に可能なのか、その後全く問題なく生きていけるのかについては解釈に巾を持たせてあります。オーの望み通りにいかないかもという余韻が残ります。

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