映画と関係のないページ

Roncalli

久しぶりに見たサーカス

見た時期:2004年12月

昔はサーカスと言うと何となくうらぶれた感じ、親が《サーカスに売る》などという脅し文句を躾の武器にしていました。地方に住んでいた時には1度ややうらぶれたアジア、恐らくは日本人だけのサーカスを見たような気がします。

その後がらっと私のイメージがアップしたのはボリショイ・サーカスのおかげ。準備をしっかり整え、トレーニングを積んだ、華やかな舞台で、うらぶれたなどという言葉は吹っ飛んでしまいました。その後クローネ・サーカスだったかと思いますが(?)、欧米で名の知れた他のサーカスも日本に来るようになりました。記憶が定かではないのですが、NHK の教育テレビで週末に録画を解説付きで流していたのではないかと思います。実は父がそういうのが大好きでよく見ていたのですが、CM は流れていなかったような気がします。

私自身は父のおかげでキオの魔術などを見に行った記憶があります。確かこういうメインのショーは東京だったように思います。外国のサーカスには2、3度行ったのではないかと思いますが、父の影響でした。私は父が家で週末サーカスのテレビを見ている時に付き合った記憶もあるのですが、自分が夢中になったという記憶はありません。生まれた直後には何も知らない、周囲の人がやる事に付き合ったり、そばで見ていたりしていろんな物事を知るようになる、しかしそれが必ずしも自分の好みに合っているというわけではない、子供時代というのはそういうものなのでしょう。

サーカスは今でも私の趣味ではありません。映画ですと暗い映画館の客席に座り、目の前に繰り広げられるドラマを暖かい所、絶対的な安全地帯から見ていられるのです。スクリーンにどんな過激なシーンが登場しても、自分はちゃんと座っていられるし、頭から物が降って来たりしない、人が目の前で本当に死んだり、怪我をすることもない、そういう安全圏で高みの見物をし、あれこれ生意気に批判をしたり誉めたりしているのです。これは楽でいいです。

サーカスがあまり好きになれなかった第1の理由は、初期の頃見たサーカスの会場が寒かったからです。そして、登場する人たちが失敗すると怪我をするかも知れないというスリル。これを売り物にサーカスは成り立っているのですが、小さな子供は本当に怖がってしまうのです。網はちゃんと張ってありましたが、それでも小さい子供は怖がる。私、小心者。その上、ピエロが爆竹やクラッカーを鳴らすと頭から何か降ってくることもある・・・。客席は安全地帯とは言えません。

ってなわけで私は自分から積極的にサーカスを見に行くということはありませんでした。ドイツも含めたヨーロッパには立派なサーカスの伝統があり、モナコの王女様がつい最近までサーカスの人と結婚していたというほど愛されている文化だったのですが。

1度自分ではサーカスに行ったつもりではなく紛れ込んでしまったサーカスがあります。サロメという名前がついていて、一種のショーですが、サーカスの要素をたくさん取り入れていました。これは夏にしゃれた小さいテントの中で行われ、オリエンタル・ダンスやマジックなども上手にはさみ、伝統的なサーカスの団長の代わりに、聖書に出てくる賢人のようなおっさんが観客を夢の世界の旅に導くような演出になっていました。

こういう例外は別にして、私は毎年何度も町に貼ってあるサーカスのポスターを横目で見ながら、自分は全然行くつもりではありませんでした。ところが今月に入ってひょんな事からある人に招待を受けたのです。招待券を持って出掛けて行くと、名前は何度も聞いたことのある有名なサーカス。場所はザ・コミットメンツザ・テンプテーションズのコンサートを聞きに行ったテンポドロム。もっともテンポドロムは現在移転改築されていて、当時の場所からやや動いています。井上さん、うたむらさん、ライブ・コンサートに行く時は場所を確認してからにして下さい。

行ってみたら、もっと良い席と交換。この日はぐずつき、湿った中の氷点下。外は立っていると新潟や富山のような寒さです。しかし中は暖かく、コートは脱いでしまいました。

映画館やコンサート会場のようにホールの手前には売店とロビーがあります。後で分かったのですが、ここでブンチャカブンチャカ開演前に演奏していたのは、サーカス付きのバンド。赤い地に金モールがたくさんついたブラスバンドのような服装、音楽はブンチャカブンチャカだったので、ああ伝統の(退屈な)サーカスかと、まあ、ある程度覚悟を決めました。たまには映画館に行く代わりに違う事をするのも良いだろうぐらいの気持ち。

さて、開演時刻の8時。席に着きます。

最初は10人程度の団体。1人だけ女性。服装は何とも言えずチンケです。白い上着、全員スカート。そして看護婦さんのような白いタイツ。アクセントはピンクの飾りや帽子。ダリかと思うようなひげを生やしている人もいます。皆ニコニコ笑い、動きは活発。ダンスをしながらのアクロバットです。高い塔を作り、そこからシーソーのような台に人が飛び降り、シーソーの反対側に立っていた人を上に跳ね上げるというおなじみの芸です。跳ね上がった人の高さはショーが進むに連れ高くなり人間4階建てなどになって行きます。1番上に乗っかるのはもっぱら小柄な女性。しかし太ももとお尻にしっかり筋肉がついていて、安定した動き。落ちた場合に備えて命綱も着けていましたが、予定は狂うことなく守備良くぴょん。てっぺんから降りる時は命綱を上手に使って、地上ぎりぎりまでぶら下がりながら降りて来ます。なるほど、こういう使い方もあるのか。

皆ニコニコおどけていて会場には笑いがあふれましたが、よく見ていると動きは恐ろしくプロフェッショナル。最初からかなりレベルの高い芸人をぶつけて来たなと思いました。

この一見アホグループに好感を持ったのは、一生懸命アクロバットをやり、観客を笑わそうとし、観客が笑うと自分たちもとてもうれしそうにしているところ。ユダヤ系ともクルド系ともつかない音楽に乗ってぴょんぴょん飛び跳ねるのですが、後ではギリシャ系の人たちかも知れないという話を聞きました。欧州は陸続きなので文化が国境を越えて流れ出ていて、はっきり区別をするのは難しいです。

その後毎回間を持たせるのは4人組のあまり上手でない女性ダンサーのグループと、ベテランのピエロ。交互に出て来てちょっと芸を見せている間にスタッフが次のセッティングをします。このあたりは非常に伝統的です。あまり上手くないダンサーは美女揃い、若い人たち。もしかしたら現在修行中なのかも知れません。というのはその他の人は司会者、楽団に至るまで全部本格的なプロ。

その次に出て来た女性にまたびっくり。こんなユニークな芸は見たことがありません。金髪の美女が出て来ました。どうもロシア人ではないようですがロシア風の美人。台の上に横に仰向けになると、脚で皿回しを始めたのです。

女性の価値は顔や姿で決まるものではないと言うのは周知の事実ですが、サーカスは見せる商売。美人は確かに得をします。主催者側ではその辺はばっちり計算に入れていることでしょう。あるいはロンカリの代表がそう決めているのではなく、グループとしてユニットで出演を申し込んで来る方が、自分たちですでにイケメン男や美女を集めているのかも知れません。それからここだけの話ですが、女性の顔というのは化粧でかなり変わります。大した美人でなくてもメイクでかなりのところまで持って行けます。サーカスのように遠い所から見るショーでは、かなりお化粧で誤魔化せます。整形なんて危ない事をしなくても、顔をキャンバスと心得て上手に絵を描けば、はい、できあがり。

さて、美女、脚線美のお姉さんですが。やっている事は皿回しなのですが、常識を覆すのは手で回すのではなく脚だという点と、回しているのが皿ではなくて80センチ四方ぐらいの小型絨毯というかバスタオルのような厚い地の布だという点です。美人の顔でなく脚の方に人の目が集中するように非常に斬新なデザインのタイツをはいています。これがとても美しく、見とれてしまいます。

彼女の芸は徐々にエスカレートし、体を不可能なように曲げながら絨毯をまわしたり、両足で2つまわしたり、果てはテンポの速い音楽に乗せて両手両足で4つ同時に回したりします。これには驚いてしまいました。後半には絨毯を止めてギターなども使っていましたが、柔らかい品物を回す方がギターなどの固い物を回すより難しいのではないかと思います。

芸人が代わるだけでなく、バンドも芸の伴奏役になったり、バンドとして音楽を演奏したりと役目を取り替えて来ます。バンドとして演奏する時は舞台が下がって来て、観客がミュージッシャンをちゃんと見られるようになります。アクロバットなどの伴奏の時はその舞台が上に上がり、観客は芸人に集中できるように工夫されています。そしてこのバンドというのがもちろんブンチャカブンチャカもできるのですが、ロックバンドのようにヘビーな曲を演奏したり、歌手がフラメンコのような声で歌ったりと、独立したミュージッシャンとしてライブができるぐらいの実力。昔落ちぶれたミュージッシャンがサーカスのバックバンドに入るなんて話を聞きましたが、そのイメージは完全に時代遅れです。落ちぶれたミュージッシャンですとロンカリのオーディション落選です。

いわゆるサーカスの道化の姿をした男性が1人いて、時々狂言回しをしますが、他の芸人は曲芸などをする傍らコメディアンの役を演じる人もいて、とっかえひっかえ出て来ては観客を笑わせてくれます。中でもサンドロという若者は愉快で何度も出て来ました。

開演前、売店の近くをうろついていたら何度も人に話しかけられたり顔に色を塗られたりしたのですが、それがこのサンドロやアクロバットの女性だったというのに気づいたのはこの時。始まる前からキャストはお客さんと交流していたのです。

サンドロを含めたお笑い芸人にもたっぷり時間を取って、さてまたスマートな芸の登場。スペイン風の出で立ちの筋肉美人とフラメンコのギター弾き兼歌手が舞台に出て来ます。女性はこの歌手の曲に乗ってフラメンコ風のダンスを見せてくれます。ダンスは今1つという感じですが、衣装がモダンで印象的。絵になります。そこへ登場したのが怪傑ゾロよりハンサムな黒装束の男。馬に乗っています。2人と1頭の踊りの始まり。馬に乗ったままの男と地面に立っている女性のダンスです。衣装の良さ、イケメンなどで上手い演出です。

お客さんを舞台に呼び出してするコントも登場。その後ダンスがあって、休憩。

ロビーに出てみると観客は和気藹々、ファミリーという雰囲気になっていて、他の催しと全然違うあたたかさが漂っていました。テンポドロムというのは私が日本で見た外国のサーカス会場に比べ小さめで、それほど大勢は入りません。その上見た日はクリスマス前の月曜日で一般の人は1日働いている日。人がサーカスに繰り出して来るような日ではありません。で、会場は4分の1ぐらいの入り。それなのに観客席は満員で皆歓喜にあふれているのかと思うような雰囲気になっていました。その観客がロビーに出て来ていて、皆笑顔。これは演出が上手で、観客が喜んで乗ったからでしょう。

私もある意味で客商売とも言える仕事を長い間していました。時として予想外に少ない人数しか来ないことがあります。そういう時に人が少なくてさびしいという雰囲気に持って行くか、来てくれている人を喜ばせるように持って行くかは、進行役の人の決心次第。ロンカリの人たちはその辺ベテランなのでしょう。しらけることはありませんでした。

さて、後半。ダンス・ナンバーがあり、バンドも活躍。歌手がノーマ・ジーンというようなテキストのバラードを心をこめて歌い上げる中、アクロバット風のダンスでドラマを展開。

その後は急に SF の世界。休憩時間にスタッフが大掛かりな準備をしていたので、10メートルはあるかというような柱を立てその上で誰かがアクロバットをするのだろうとは予想していました。全くこれには見とれてしまいました。白い衣装の女性が3人と男性が4人。うち1人は痩せた相撲取りのような体格。天井に届くような長い柱を立て、その上にサルのように軽い身振りで登って行き、あれこれポーズ。特にスリル満点なのは、男性3人が下でその柱を額に乗せて立っており、柱は地面に立っているのではないのです。下の男性がこけたら上の女性は・・・ちゃんと命綱をつけていますから宙ぶらりんになるだけでしょうが、それでもかなりなもの。その上振り付けが非常にモダンで、動きは人間でないかのよう。3人の女性の1人はミラ・ヨボビッチのような美人で、それがまた SF のイメージを高めています。後半のハイライトの1つと言っても良いかも知れません。

その後またピエロが間をつなぎ、次に出て来たのは前半の最初の芸をやった人たちや脚で皿回しをやった人たちなど。かなりの数の人たちの合同演技です。リングでお手玉をやります。コメディー・ナンバーで、女装したおじさんが混乱を起こすおばあちゃんの役を演じます。

次は予想外のコメディー。映画監督のふりをしたおっさんが出て来て、観客の中から男女4人を選びます。この人たちに恋愛嫉妬ドラマを演じさせるのですが、素人だから監督の言った通りにしなかったりで、笑いが生まれます。これを全部言葉無し、パントマイムだけでやり終えます。かなり長い時間を取っていましたが、私も途中から釣りこまれ爆笑。最初つまらなそうに見えたのですが、うまくはめられました。これは毎回違う観客が選ばれるだろうから、笑えない日というのもあるかも知れません。

女性1人のアクロバットもスリルがありました。両手をついて逆立ちをし、色々ポーズを決めるところから始まります。筋肉がかなり凄くて、逆立ちなどはお手のもの。それだけではおもしろくないというのでレンガのような石を左右からアシスタントに投げさせ、受け取るとそれを手の下に積み重ねて行きます。5段まで行くのですが、途中で1度アシスタントが下手に投げたのでアクロバットの女性は片側の石を全部落としてしまいます。予定の行動だったのかアクシデントだったのかは不明。ちょっと怒っているようにも見えました。しかしさすがはプロ。アシスタントが5つ重ねた石をそこに置くだけかと思ったら、崩れていない側の石の上に片手で立ち、崩れてしまった側はもう1度投げさせて積み重ねて行きます。その後はバランスを取ったまま1つ1つ石を外へ飛ばし段を低くしていったり(積み木落としか?)、改めて重ねて行き、ポーズを取ったり。個人芸ですが、スリルはたっぷり。

またダンスで間をつないだ後、先ほどの SF アクロバットとどちらが上か決められないほど凝ったアクロバットが登場。男性3人とこれまた凄い美人の女性1人です。やっている事はオリンピックの男性の競技、鉄棒と同じです。美人の女性を巡り3人の男性が絡む恋愛ドラマということらしく、スペイン語で長い前置きが入ります。その後四角く囲った鉄棒で4人が大車輪を中心に演技を始めます。非常に狭くなっていて、タイミングを間違えると4人が衝突しそうです。その上女性はハイヒールをはいたまま鉄棒の上を綱渡りのように歩いたりもします。2人が同じ鉄棒で手を交差させながら一緒に大車輪をしたり、飛び降りる時に回転やひねりを入れたり、まさにオリンピックです。うわあ凄いとうなるような演技でサーカスは終了。

その後会場の上から花火を形取った紙吹雪、テープが舞い降り、雪のような効果を出す石鹸の泡のような物も降って来ました。バンドは最後までできの良い音楽を流し、お客さんは名残を惜しみながら家路へ。

っとまあ、これだけの話ですが、長い間見ていなかったサーカスがここまで時代にマッチして退屈しないものになっていたのか、と改めて感じました。私個人の趣味に合っていたのは、アクロバットが中心になっていたこと。サーカスであまり好きでないのは動物の芸。ドイツ人ではジークフリート&ロイというトラで有名な芸人がいますが、私はサーカスに象や虎が出てくるのはあまり好きではありません。手品も寄席で見る方が良くて、サーカスではあまり好きではありません。そういうのがほとんど無くて、アクロバットとダンス中心。アクロバットの振り付けはバレーの要素をかなり取り入れてあり、芸術的にできています。

私はお笑いには結構辛目の点をつけるのですが、ロンカリではちゃんと笑える物を色々出しています。「滅多なことでは笑わないぞ」と思っていたはずなのですが、気がついたら大口開けて笑っていました。相手を気遣っての拍手はしない主義なもので、「滅多なことでは拍手をしないぞ」とも思っていたのですが、前半の最初の芸でもう拍手喝さいしていました。

なぜ「滅多なことで・・・」の私がこうも簡単に軍門に下ったのか、解答は外にありました。私は招待を受けたのでティケットがいくらするのか知らなかったのですが、売り場の値段を見て納得。最初にもらった席は29ユーロほど、後でもっと良い席というのが31ユーロほど。現在の交換レートですと4000円ぐらいですが、マルクからユーロに代わってからの生活感覚から言うと6000円ぐらいです。そして現在のドイツには失業者があふれているので、この値段はかなり高いと言えます。この間マクドナルドのハンバーガーを買うお金でうんぬんと言いましたが、サーカスに行くお金でバナナ、じゃがいも、トマトなどが30キロ買えてしまうのです。

入場できる人数が比較的少なく、主催者側はしっかり準備をして来ている上、最上のプロフェッショナルな人たちを呼んでいるわけですから、この程度の値段になるのは仕方ないでしょう。メンバーはかなりインターナショナルで、中にはドイツ語が分からない人や、外国訛りのドイツ語を話す人もいました。しかしサーカスでは言葉が分からなくても芸はちゃんと伝わって来ます。中身の濃い芸を1晩ゆっくり見ることができ、満足。

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