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閉ざされた森 / Basic

John McTiernan

2003 Kanada/USA/D 98 Min. 劇映画

出演者

John Travolta
(Tom Hardy - 元麻薬の捜査官、元ウェストの部下、現在汚職容疑で休職中なので民間人扱い)

Connie Nielsen
(Julia Osborne - 大尉、基地唯一の事件調査官)

Samuel L. Jackson
(Nathan West - 軍曹、トレーニング主任)

Timothy Daly
(Bill Styles - 大佐、トムの友人)

Giovanni Ribisi
(Levi Kendall - ウェストの兵士、父親が大統領のアドバイザー)

Brian Van Holt
(Ray Dunbar - ウェストの兵士)

Taye Diggs
(Jay Pike - ウェストの兵士)

Dash Mihok
(Mueller - ウェストの兵士)

Cristián de la Fuente
(Castro - ウェストの兵士)

Roselyn Sanchez
(Nunez - ウェストの兵士)

Harry Connick Jr.
(Pete Vilmer - 基地の医師、トムの友人、ジュリアのかつての恋人)

Margaret Travolta (看護婦)

見た時期:2005年3月

要注意: ネタばれあり!

ちょっと前の作品なので勝手に時効と考え、ネタをばらすような文章が最初から飛び出します。見るつもりの人は今すぐ逃げ出して下さい。目次へ。映画のリストへ。

偶然ジョン・トラボルタが続いてしまいます。あと一息ですばらしい知的な作品になっただろうという映画です。かなりがんばっていますが、最後の一押しが足りません。

日本語のタイトルはとてもいいです。ミステリー・クラブの人がつけたんじゃないだろうかと思うような気の利いたタイトルです。閉ざされた森は実は密室殺人事件を暗示しているのです。「密室というのは森のような広い場所ではないんじゃないか」とおっしゃる向きはぜひこの作品を見て下さい。「やっぱりあれは密室だった」と感じる人が出ますよ、きっと。

監督はアクション専門の人で、有名な作品としてはダイ・ハードを手がけています。ブルース・ウィリスと組むのが好きな人のようですが、今回はトラボルタ。そのトラボルタは最近駄作からスマートな作品まで色々な仕事が入っており、商売繁盛。閉ざされた森全体の出来は不発弾に終わった感があるのですが、彼自身は安定した力量を見せています。ストーリーが知的なので、演出に工夫があればもっとピカピカのすばらしい作品になったと思います。トラボルタの演技は仕上がりが一流の作品になっても、このように1.5流の作品になっても、同じレベルでしょう。

彼の周囲に集められた人たちはコニー・ニールセン以外はまあまあ。役柄上あまり大きく目立っては行けませんし、逆にしぼんでも行けません。その辺のバランスは適度に取れています。ニールセン作品は何度か見ましたが、今もまだ個性が生かし切れていないと言うか、個性が全然見えて来ないという難点があります。透明感があり過ぎで、印象に残らなかったのですが、今回は1つ演技のレベルが落ちているような感じがします。これだったら、全体の印象が閉ざされた森とそっくりな将軍の娘 エリザベス・キャンベルで共演したマデリン・ストウヴェを連れて来ても良かったかと思います。

将軍の娘 エリザベス・キャンベルとは設定が似ていて、そっくりなシーンも続出します。さらにまた最後まで見てからゆっくり考えると、ソードフィッシュと似ていないこともありません。トラボルタはあまりがらっとイメージを変えず、似たような作品をやりながら四方八方に少しずつレパートリーを広げているのかも知れません。では似て非なる閉ざされた森のストーリー行きましょう。

ここから具体的にネタがばれます。映画を見る予定の方は目次へ。映画のリストへ。

場所はパナマの米軍基地。時はある年の11月初旬。ウェストという鬼軍曹を頭とし、6人のレンジャー隊員がハリケーンの中軍用ヘリで飛び立ち、悪天候の中のハードな訓練が始まります。

17時間後。健康なまま生還したダンバー、重症でダンバーに担いでもらって助かったケンドル、死体で発見されたミュラー。ミュラーは救助隊が駆けつけた時には生きていて、ダンバーに撃ち殺されています。7 引く 3 は 4 で、超特大のハリケーンの中で煙のように消えてしまったウェスト、パイク、ニュニス、カストロ。証言をガンとして拒むダンバー。生死も分からずレンジャーのような特殊教育を受けた優秀な部下が4人もいなくなったという話をそのままにしておくわけには行かず、上官のスタイルズ大佐は6時間の内に当局にそれなりの報告を出さなければなりません。お尻に火がついています。

基地に1人しかいない事件の捜査官オズボーン。女性だというのであれこれ嫌な目にも遭いますが、事件自体がハリケーンの真っ只中で捜査の難しい話、1人では手に負えないだろうという大佐の判断で、現在は休職中、いわば民間人扱いになっているトム・ハーディーが助っ人に呼ばれて来ます。彼は不良兵士で汚職に関わったという話があり、女性をからかうのも得意。それでオズボーンとはそりが合いませんが仕方なく一緒に調査を始めます。この辺はマデリン・ストウヴェとのコンビで将軍の娘 エリザベス・キャンベルをやった時とそっくりの雰囲気で、パクリと言ってもいいぐらいです。ただ公式の捜査官の役はここではニールセンに任せ、彼は大佐の友人で公式には顔を出さないという設定になっています。

生存者は2人しかいませんが、証言が大きく食い違っています。一致しているのは《ウェストが味方に殺害された》ということだけ。死んだ理由も食い違い、誰が犯人かも話が二転、三転します。おおよそ一致しているのは《鬼軍曹でサディスティックなウェストが部下から恐れられ、苛めがエスカレートしていたため、いつ殺されてもおかしくない状態にまで緊張が高まっていた》という点。観客に知らされる情報としては《大怪我をして生き残ったケンドルは父親が大統領のアドバイザーを務める大物、自分はゲイなので軍隊でも問題、父親のキャリアにとっても問題児だ》という点。その他の話はウェストが死んだ理由が《手榴弾だ》と1人が証言したかと思うと《撃たれて死んだ》という話になったり、《パイクスが殺した》と言ってみたり、《ミュラーが撃ったはずだ、シャツに血がついていたはずだ》となったり、羅生門さながらの食い違いを見せます。

ウェストが死んだ時刻も《皆が小屋にたどり着く前だった》と片方が言ったかと思うと、《生きたウェストが小屋までやって来た》という話に変わってしまいます。《小屋で争いが高じて仲間同士の撃ち合いになった、ミュラーが殺されそうになり、代わりにカストロに弾が当たってしまった、ダンバーの弾が当たった》という話になります。ダンバーは「自分はウェストを撃っていない、しかし死体の胸の肉が裂けていたのは見た」と言います。こんな具合に2人の証言はことごとく食い違います。

動機の方も最初は《鬼軍曹の訓練があまりに厳しいので恨まれたのだろう》という話だったのが、そのうちに《ドラッグの密売が絡んでいる》という話になって来、《ウェストの訓練がきつ過ぎて絶えられず、ドラッグを取る兵士がいた》ということになります。証拠品も出て来ます。その証言を追って行くうちに、訓練に出た兵士にドラッグを調達した内勤の人物が浮かびます。その話がさらに進んでいて、《ウェストがそれを知ったがゆえに2人の兵士に消されたのだろう》というところまでエスカレートします。内部でドラッグを調達したのは医師で、間もなく逮捕。しかし彼の口からとんでもない事が語られます。一緒に護送されて行くことになっているダンバーのことを医師はパイクと呼ぶのです。「ダンバーは黒人兵士だ」と断言。これまで証言していた人物は2人とも白人で、死んだミュラーも白人。証言の中でこれまでパイクだったはずの人物は黒人で、ウェストはサミュエル・L・ジャクソン。そのウェストからパイクだったはずの黒人兵はしたたか苛めを受けています。

これを聞いて呆気に取られたオズボーンはこれまで聞いた話をもう1度組み立て直すはめになります。少なくとも護送をストップして、ダンバーことパイクから詳しい話を聞かなければなりません。それで空港へ急行。あと少しのところでパイクを捕まえ、《基地内にドラッグのルートがあった》という話を聞き出します。証言を聞き出すためにハーディーが取る行動は拷問に近くかなり過激です。そこでにやりと笑うトラボルタは訓練中のジャクソンと似て、ややサディスティック。この強引さには近くにいて争いを止めようとした大佐やオズボーンもビビってしまいます。

新事実が飛び出したりしたので病院でケンドルの尋問を再開している最中にケンドルは大量の血を吐いて死んでしまいます。死に際にオズボーンの手に血で数字の8を書き残します。ダンバーが冒頭証言を拒んでいた時にもメモに「レンジャー部隊の人間としか話をする気はない ⑧ฺ」と書いています。⑧ฺとは何ぞや。ケンドルは死ぬ前の証言で、「パイクやダンバーは元々本名ではない」と語っています。

死んでしまったケンドルの事を報告がてら、ハーディーは大佐の部屋にやって来ます。部屋の中で携帯電話で何か話した後、事件の経過をまとめようとします。部下の医師が絡んでいたということでややショックを受けたようですが、大佐は思わぬところでぼろをだします。ケンドルの死因が毒殺だと分かったのは、つい数分前のことだったのですが、大佐は先に「毒殺」と口走ってしまいます。ハーディーはこの頃には大佐にもう目をつけていたので、《大佐が事件に絡んでいる》という話になります。大佐はハーディーに4割の分け前を提供し買収しようと試みます。ハーディーが「考えておく」と言って部屋を出ようとした時、大佐が銃を抜きます。で、部屋の外から様子をうかがっていたオズボーンはやむなく大佐を撃ち殺します(なぜ映画では肩や膝を撃たないんだろう。訓練のできた兵士や警官だったら、銃を持っている腕を撃つぐらいのことはできるんじゃないかとつい思ってしまうのですが、なぜか死者が多く出ますねえ)。

これで一件落着。

・・・ですと、ほとんどが予想通りの運びで、新味がありません。映画を見過ぎた私にはこの辺りまでは大体の予想がつきましたが、あちらこちらに矛盾が残ります。

仲が悪かったオズボーンとハーディーも和解が成立し、デートの約束をして幕。

しかしどうも何かが足りません。例えばまだ死体が見つかっていません。《風で飛ばされた》と言って、パルプ・フィクションで共演したサミュエル・L・ジャクソンをそのまま放っておくんでしょうか。

オズボーンは誰かが言ったことになっている発言とぴったり同じ言葉が他の人の口からも出ていることに気づき始めます。できる限り話をナーナーで終わらせようとするハーディーの態度も気に入りません。しかも逮捕され護送されているはずのダンバーことパイクが堂々と公道を横切り誰かの車に乗り込むところを目撃してしまいます。こりゃ、いくら何でも変だ。で、銃を持ってハーディーの住み処へ。案の定、ハーディーとダンバーは食卓についています。付近からは女性の声が聞こえて来ます。彼女が来ることを予想していたハーディーとの対決になります。

っと、そこへ現われたのが、ウェスト、カルロス、ニュニス。全員つるんでいたのです。スパイ大作戦終了。

ちらりほらりと穴もあるのですが、大きく目立つミスは見えません。証言がどんどん食い違うので、結局2度見ないとだめかも知れません。最初は登場人物を覚え、誰が誰と組んで行動しているのかを知るため、2度目は証言に語られた事がどういう風に実現し、何が真実であり得ないかをフィルターにかけるため。

私には1つだけ大きな謎が残りました。ケンドルが毒殺されるシーンです。大佐がウェスト暗殺の命を下したのはケンドルとミュラーでした。ミュラーはもう死んでおり、今度はケンドルの番です。毒殺の犯人は大佐か大佐の部下、あるいは逮捕される前に医師がもう毒をセットしていたことも考えられます。額面通りに受け取った場合、ケンドルは事件がどんどんばれて行くので、生きていてもらっては困るのです。ダンバーが無理してケンドルを生きたまま基地に戻したのは逆に証言を取りたいからだったのでしょう。捕まえる側には生きていてもらいたい、捕まる側には死んでもらいたい人物です。殺しにくいのは父親が大物だから。

死に際に「ダンバーやパイクが本名でない」ということを口走った上、死んで行く最中にオズボーンの手の平に血で書き残した文字が8。軍というのはあまり簡単に偽名などは使えない場所ではないかと思ったのです。入隊の時に前歴の調査ぐらいはやっているでしょう。1つの基地の1つの部隊に2人も偽名の人間がいるというのは尋常ではありません。それが分かっていたとなると、彼は実はウェストの一味だったのでしょうか。彼はウェストにヘリの中で脅されたと証言していますが、それを証明できるのは本人たちだけ。そして彼が密輸組織のメンバーであるだけだったら、ウェストたちの組織を知らない、そして8という数字をシンボル的に考えないのではないかと思ったのです。

こういう部隊が軍の中で暗躍していることを薄々感じる人というのはいたらしいですが、仮に知っていたとしても、ケンドルが悪人(であるだけ)だったらなぜオズボーンに解決のヒントを与えるような数字を残したのでしょうか。で、彼が残したダイイング・メッセージは「自分もウェストたちの一員だ」という意味なのか、あるいは自分が今仲間のスタイルズにはめられたと知って、裏切りを裏切りで斬り返そうという試みだったのかと見終わってから悩み始めているところです。

目的が法律を破る奴らを摘発するということであっても、軍という税金でまかなわれ、法律で決められた規則で動く団体の中に法律を無視して動く部隊がいるというのは好ましい話ではありませんが、エンターテイメントの推理物フィクションとして見る限りユニークでおもしろい話です。

あと少しですばらしく知的な、見ごたえのある作品になったと思うのですが、知的な部分はそれほど悪くありません。このまま押し通しても一流と言えるでしょう。0.5流分評価が下がってしまうのは撮影とコニー・ニールセンの演技。ビデオでメイキング・オブをやっているシーンは明るくて見やすいのですが、映画でそのシーンを見ると暗くて何をやっているのか全然分からないのです。そのためドラマ性が減ってしまいます。映画館だけをターゲットに作った作品なのだったら DVD の発売は止めておくべきです(しかしそれはもったいない)。DVD でもちゃんと見られるようにもう少し明るめの場面にしたら良かったと思います。

ニールセンは体が細身で、トラボルタやコニック・ジュニアと格闘をしても似合いません。そしてこれまでのきれいな髪はひどい染め方で、魅力は全然ありません。彼女は使い方によっては魅力のある女性にも変身できると思うので、残念ですが、ここはもう少し存在感のある女性を呼んで来るべきだったと思います。彼女の役はかなり不利で、最後にトラボルタが「オズボーンはなかなか良くやった、鋭い探りを入れたよ」という台詞を言ってみても、それが空回りするような脚本です。俳優が監督に抗議をして脚本を書き換えさせるという話をたまに聞きますが、彼女の役割ももう少し何とかすれば良かったかと思います。ふとシャーリーズ・セロンにやらせたらどうだっただろう、ミニミニ大作戦では男性軍に良く食い込んでいたからと思いました。

リビシはまたしても父親と揉め事を抱えている息子の役。ここ何年もこればかりで通しています。私はもう飽きて来ました。同じテーマでバリエーションは色々考えているらしく、以前は口数の少ない警察勤務の若者、架空会社で大もうけをして父親より凄い金額を手にする息子、そして確かケイト・ブランシェット、キアヌ・リーヴスと共演した作品でも父親とうまく行かない息子の役だったと思います。似たような役を繰り返しやりながら範囲を広げて行くというのはトラボルタの戦術と共通点がありますが、私は父親問題ばかりを見ているので、ちょっとげんなりして来ました。

終わり近くはインパクトのあるどんでん返しの繰り返しで、鮮やかな切れを見せます。そこは一流どころか超一流。スパイ大作戦よりお金はつぎ込んでありますし、先入観無しで見る観客は羅生門式の解決で終わると思うでしょう。まさかその後にもう1つうっちゃりをかますとは思いません。そしてそれが取ってつけたような不自然さでないところもこの作品の良い点。ですから、残念!と言うより、惜しい!と言いたいです。

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