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1998 F/UK/D/USA/J 143 Min. 劇映画
出演者
John Travolta
(Jack Stanton - 米国南部の州知事、大統領候補)
ビル・クリントンのそっくりさん
Emma Thompson
(Susan Stanton - ジャックの妻)
ヒラリー・クリントンのそっくりさん
Billy Bob Thornton
(Richard Jemmons - 選挙参謀、作戦担当)
髭、髪型などが違うけれどかなりイメージが似ているのがジェームズ・カーヴィル、ソーントンが真似たとすれば成功している
Kathy Bates
(Libby Holden - 選挙参謀、スキャンダル担当)
私の見た写真が本当に彼女だとすると、ベッツィー・ライトのそっくりさん。キャシー・ベイツの方が若くて元気そうに見える。
Adrian Lester
(Henry Burton - 選挙参謀)
ジョージ・シュテファノポロスに似た役割、外見は直接似ていないけれど、几帳面そうなイメージは似ている
Maura Tierney
(Daisy - 選挙参謀)
マンデイ・グルンヴァルトらしい。
Larry Hagman
(Fred Picker - 州知事、ライバルが倒れたため後任の大統領候補)
Diane Ladd
(Stanton - ジャックの母親)
J.C. Quinn
(Charlie - 選挙参謀)
Tony Shalhoub
(Eddie Reyes - ピッカーのスキャンダルの証人)
Kevin Cooney (Lawrence Harris - 上院議員、大統領候補)
Paul Tsongas という候補が怪しい。1992年クリントと同時期民主党の候補に上がっている。ある州ではこの2人は他の候補に比べ1桁少ない支持率で、本当はだめなはずだった。しかしクリントンはその年しっかり大統領におさまっている。
Bonnie Bartlett (Martha Harris - ローレンスの妻)
見た時期:2005年2月
★ そっくりショー
アメリカの大統領候補を扱った作品で、5カ国からお金を集めています。なかなかおもしろい出来なのですが、現実を想像させる要素が多いので、アメリカの政治に深く関わっている映画界ではスポンサーになるのを嫌う人が出たのかも知れません。モデルだろうと思われるビル・クリントンとハリウッドの仲は良好と聞いていました。
公開された当時から注目していましたが、ストーリーがあまりにも実際の政治に近かったので、暫く見るのをお預けにしていました。当時は現職だった大統領のイメージを傷つけるような作品だろうと思っていました。その大統領が退陣した今見ると、話が全然違っていることが分かりますが、当時ですと表の印象に惑わされたかも知れません。
大筋はヒラリー + ビル・クリントンのそっくりさん登場で、状況もそっくり。その上、出て来るスキャンダルもそっくりです。クリントンはモニカ・ルヴィンスキー事件に巻き込まれましたが、そのための辞任は無く、任期を終えて退陣しています。あの時クリントンが なぜあそこまで粘ったか不思議に思えたのですが、選挙や大統領という職の裏でこういう事が起きるのだと知ると、《そんな事ぐらいで辞めるわけにはいかない》と考える人たちが存在するのは分かるような気がします。
これは映画ですから実際の話より多分軽くしてあるのでしょう。コメディーと銘打ってもあります。そして政治に候補として積極的に参加するような人たちは庶民とは全然違う感覚、モラルを持っており、政策として掲げている事とは全く違う次元で物を考えているのでしょう。ですから私たち観客は《なるほど、そういう風になっているのか》と認識を新たにし、呆れていればいいのです。そういう意味で興味深い作品で、なかなかの出来です。
私たちは日本人ですから、直接自分は民主党支持者だ、共和党支持者だとは考えないでしょう。パーフェクト・カップルは民主党の大統領候補の内幕ということでスタートし、全体の9割近くがその話です。共和党側の事情はほとんど扱っていません。しかしジョン・トラボルタの代わりにタバコのマーボローのCMでいつも馬に乗っている兄ちゃんを呼んで来て、ジョージ・W のそっくりさんを演じさせたとしても、スキャンダルのテーマが変わるだけで映画の内容にはさほどの違いは出ないでしょう。公開当時に見ていたら、近視眼的になってそういう考えには至らなかったと思いますが、どちらの党にも似たような事情がありそうだと思わせる内容です。
★ あらすじ
脚本がよくできていて、適度なテンポで次々事件が起こります。話全体は南部の州知事だったジャック・スタントン(最後のトンのところで韻をふんでいるのを見ても明らかなように当時現職だった人を意識しています)が民主党から大統領に立候補します。ジャックと妻のスーザンのアウトフィットはクリントン夫妻にかなり似せてあります。
まだ選挙参謀のスタッフも揃っておらず、スタントンはその辺から役に立ちそうな人を引き抜きます。その1人がヘンリー・バートン。彼はそれまで恋人と一緒に市民運動をやっていて、最初選挙などには乗り気ではありません。スタントンに強引に誘われ、自家用飛行機で拉致同然に遠い町まで引っ張られて行きます。ホテルを泊まり歩き明け方の4時などという時間にスタントン夫妻やアシスタントと行動を共にするため、選挙参謀は徐々にファミリーというような家族的な雰囲気になって行きますが、その始まりです。バートンは散々迷った末恋人の反対を押し切って参加。
選挙戦の始まりです。全く素人としか思えないような市民がボランティアで集まって来ます。テクニックも何も知らない人に少しずつビラの配り方から電話のかけ方まで教えながらの仕事なのでヘンリーは最初からてんてこ舞い。その上彼が大統領の地位に据えるべきスタントンにはモラルのかけらも無い様子。周囲の状況を読むのが天才的にうまく、口から出任せを言いつつ、演説が終わる頃には何百人もの聴衆を引きつけています。それが大統領候補に推された理由なのでしょう。政策の内容がどうのと言う前に、人を引きつける能力がある人が絶対的に有利なのだと分かります。もっともスタントン夫妻にはそれなりの政策があり、後の方で言及します。それもビル・クリントンの政策と似ています。
最初はおぼつかなかった選挙本部も徐々にそれなりの形を成して来ます。ヘンリー自身はこういう仕事をするのは初めてなので、本人が戸惑うことも日常茶飯事。彼の他には経験のある人もいます。経験があると世の中に対する見方ががらっと変わるらしく、そういう人たちは恐ろしく現実的且つシニカルです。ここがコメディーたるいわれ。この辺りの台詞は大笑いですが、それでいて現実をそのまま反映しており、脚本家の強さが表われています。これがクリントン陣営だけの話ではないだろうというのは一目瞭然で、クリントン陣営妨害のために作った映画かというかんぐりもこの辺りから徐々に解けて来ます。
★ 役作りが優れている
シニカルさを通り越え、もう人格に破綻を来たしているのではないかと思わせるようなキャラクターを演じているのがビリー・ボブ・ソーントン。彼は脚本を書いたりもする人で、自分の役はばっちり理解。やりたい放題、言いたい放題でこの役をすばらしく効果的にしています。演技をしている俳優を映画全体のイメージが邪魔してしまい俳優はちょっと損をしていますが、トラボルタも稀に見る良い演技をしています。クリントンがかもし出すイメージよりさらに1歩進めた図々しさで、現実とフィクションの間を上手に綱渡りしています。この作品は匿名作家による本を元にしており、その匿名作家は選挙に同行した経験のあるジャーナリストではないかと思わせます。トラボルタは最近ずっと調子が良く、色々な出演依頼が来ていますが、悪役であってもたいていは明らかにフィクションと分かるような作り事の中の役。そういう枠の中では何をどう演じてもかまわないわけです。エンターテイメントのみが重要。しかし実在の人物を真似するとなると、観客はすぐ本人と比べます。その枠の中でさらに演技が光らなければならないというかなり難しい立場。それをものともせず堂々と演じています。私はトラボルタ・ファンではありませんし、彼の政治的、宗教的な行動にも疑問を感じることがありますが、スタントン役のトラボルタに気合が入っているという点は好きであろうが嫌いであろうが認めないとフェアではないと思います。
エマ・トンプソンも私がこれまで見た作品の中では1番いい出来ですが、彼女の作品はあまりたくさん見ていないので、もっと他にも良いのがあるのかも知れません。最近は映画界の裏方の方にいることが多いらしく、カメラの前に立つことは少なくなって来ています。ケンブリッジで英文学勉強をした人で、氷の微笑に主演が予定されていた人です。ケネス・ブラナーと一緒の頃は彼の出る映画に出たりしていましたが、本当に演技ができるのか分かり難い作品を見ていたので評価が今一でした。しかしパーフェクト・カップルを見た今、彼女もちゃんとした演技をこなせるのだと納得。
パーフェクト・カップルの主演に当たるヘンリーを演じたエイドリアン・レスターだけやや弱いと感じましたが、もしかしたら彼を理想主義的に描いた脚本のせいかも知れません。若く理想に燃えて選挙運動に参加する青年という役なのです。その彼を垢にまみれた選挙のベテランが取り巻いてその差をはっきり出すという役目です。
クリントンはこの映画の出来に肯定的なコメントを出したそうです。深く読むと必ずしもクリントン陣営に損害を与えるような作品ではないと取ることもできるのです。となると1番最後のシーンが意味深です。選挙戦は終わり、最後に自分の境界を越えて汚い仕事に手を出した人は生き残り、超えられなかった人は死にます。ヘンリーの将来はいかに。真横でトラボルタがニタリと笑っているのです。
★ 中毒
選挙戦術のほかにもう1つ重要なテーマは興奮中毒。つまらなそうな田舎町で始まる選挙戦が徐々に決戦に近づき、大規模になって行きますが、その中で熱狂的に応援する市民、情熱的に協力するボランティアが描かれて行きます。私にはなぜアメリカ人があそこまで興奮するのか長い間理解できませんでした。それをキャシー・ベイツ演じるリビー・ホールデンが上手に表現しています。彼女は途中から参加する凄腕のスキャンダル掃除係り。自分の側のスキャンダルは上手にもみ消し、相手側のスキャンダルは上手に引きずり出す人で、常にピストルを携帯し、自分を守るすべも、相手を脅かすすべも知っています。選挙の汚さなどは重々承知。スタントンが巻き起こすセックス・スキャンダルにもひるみません。しかしその彼女にも最後に残ったモラルのかけらがあり、自分がそれも捨てなければならなくなった時に自らこの世を去ります。
彼女の最後の言葉は「自分は月だ」です。「月はきれいだが、自分自身の大気は持ち合わせていない。空っぽで冷たく荒れ果てた荒野だ。太陽が輝いてその光が当たった時だけ輝くのだ」と言います。自分を輝かせてくれる太陽無しでは自分の存在価値は無いと言うのです。彼女は極端な例ですが、身を粉にして働くボランティアがあそこまで熱狂するのもこれと同じ理由なのではないかと思います。選挙戦がある時は躁状態、終わると鬱状態です。そんな面もちらりと紹介するという練れた脚本でした。監督も練れた作品が作れるベテラン。
★ キャスト全体のバランス
出演者の組み合わせは大胆と言っていいぐらい多彩で、サタデー・ナイト・フィーバー、パルプ・フィクションのジョン・トラボルタ、シェークスピアなど文芸物をこなすエマ・トンプソン、崩れた役専門のビリー・ボブ・ソーントン、気合の入った怖い役もこなすキャシー・ベーツ、 デイ・アフター・トゥモローでどこに出ていたかトンと記憶に無いエイドリアン・レスター、そこへラリー・ハグマンです。
テレビがないのでラリー・ハグマンが主演していた有名なシリーズは残念ながら見過ごしていますが、ドイツでは彼は非常に有名な人です。私が知っていたのはまだ家でテレビを見ていた時代。何を隠そう1965年頃の可愛い魔女ジニーです。それ以来ご無沙汰。あのシリーズはお手軽なコメディーでしたので、彼の演技はそこそこ。年を取っても髪が白くなっただけで、当時の面影はまだきれいに残しています。可愛い魔女ジニーが終わって間もなく始まったダラスというシリーズは日本でも放映されたようですが、深夜でさほど評判が良くなかったようです。ドイツでは物凄い受け方で、ラリー・ハグマン=JRと思っている人が今もたくさんいます。1978年から1991年まで続いたというお化け番組です。
とまあ、公開当時持っていたイメージと全然違う方向に進んだ作品。あの当時でなく、何年も経ってから見たのは正解だと思いますが、選挙戦真っ最中とか、スキャンダルの裁判を目の前になどという時でなく、落ち着いた状況では一見の価値ありという作品です。
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