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ザ・インタープリター /
The Interpreter /
Die Dolmetscherin

Sydney Pollack

2005 UK/USA/F 128 Min. 劇映画

出演者

Nicole Kidman
(Silvia Broome - クー語の同時通訳)

Hugo Speer
(Simon Broome - シルビアの兄)

Yvan Attal
(Philippe - カメラマン、シルビアの兄の友人)

Sean Penn
(Tobin Keller - シークレット・サービス)

Catherine Keener
(Dot Woods - シークレット・サービス)

Jesper Christensen
(Nils Lud)

Earl Cameron
(Zuwanie - マボト共和国大統領)

George Harris
(Kuman-Kuman - 亡命中のマボト人、時期大統領と目される)

Michael Wright
(Marcus - ミキシング・ルームで働く男)

Clyde Kusatsu
(Lee Wu - 警察)

Eric Keenleyside
(Rory Robb - シークレット・サービス)

Maz Jobrani
(Mo - シークレット・サービス)

Yusuf Gatewood
(Doug)

Curtiss Cook
(Ajene Xola - 反体制派のマボト人)

Sydney Pollack
(Jay Pettigrew - シークレット・サービス、トービンの上司)

Byron Utley
(Jean Gamba - 大統領のために働く男)

Tsai Chin
(Luan)

Patrick Ssenjovu
(Jad Jamal)

見た時期:2005年8月

映画自体が最初に重大なネタばれをして始まります。このページも結末に接近します。そんな話は聞きたくないという方はこちらへ。目次へ。映画のリストへ。

オスカーを貰った2人の共演ですが、重みはありません。元々はこの役はナオミ・ワッツとショーン・ペンの再会ということになっていたそうです。彼女がキッドマンに役を譲った形です。オスカー受賞者は演技者という感じで無い人が多く、受賞後でも演技を堪能というケースはまれ。この2人を組み合わせてできあがったのは、さらっとした口当たりのスリラー。スターというのは演技だけが問われるのではなく、観客を映画館へ連れて来るための他の要素も問われます。そういう意味では成功といえるでしょう。ワッツでなくキッドマンで良かったと思います。ショーン・ペンが出るとあくどい味になるかと心配しましたが、キッドマンのちょっと冷淡とも取れる無関心な表情が上手くペンとマッチし、感情を直接表に出さない人間を2人描いています。

この2人で話を上手にまとめ上げたのはベテラン監督シドニー・ポラック。ポラックは何でも上手にまとめる人で、キッドマンとはアイズ・ワイド・シャットで顔を合わせています。

ポラックは成功したテレビ・シリーズ、ベン・ケーシー逃亡者ヒッチコック劇場を手がけていたり(何人もの監督の1人)、日本で放送されたかは知りませんがアメリカでは有名なボブ・ホープの番組もやっています。劇映画では変わったところでバート・ランカスターのスイマー、他にロバート・レッドフォード(レッドフォードの御用監督か?)、ハリソン・フォード、トム・クルーズ、ポール・ニューマンと組んだ作品があります。特徴的なのはほとんど主演が当代一の大スターだというところ。

私見ではありますが、彼のもう1つの特徴はどうしようもないアホらしいストーリーや、あまりぱっとしない筋を最後まで見られる物にして観客を引っ張って行く点。引っ張り方は強引でなく、観客が持つ適度の好奇心を波に乗せて最後まで運んでくれます。スターを引き立てるためだけに作られたような甘ったるい話でも飽きないように組み立て、インテリのみ対象で特定の人以外を排除するような姿勢は無く、広く大衆に受けるように、あちらをのばし、こちらをカットし、上手に仕上げます。たまには演技派の俳優も使うようですが、普段は演技ではそれほど傑出していない俳優を使っています。それでもアラを隠し、きれいに映るシーンを入れて、感じ良くまとめます。テーマを掘り下げる時も重要なテーマを扱いつつ、こちらが疲れたり、知識の無さを思い知らされるような作り方はしません。

ハリウッドにはどうしようもない原作をおもしろい話に作りかえる専門家がいるそうなのですが(ポラックはそういう脚本家も使うのでしょうが)、出来の悪い話を最後にうまくまとめあげる要のような人なのでしょう。

タイムリーなテーマを取り上げるのもポラックの特徴で、ザ・インタープリターでは世界が国連のような共同統治支持派と、単独統治支持派に真っ2つに分かれる中、舞台を国連の建物の中に持ち込んでいます。この作品が公開されて暫くすると、世界政治の焦点がこれまで世界の注目が集まっていたアラビア地域から、アフリカ地域に移っています。結果として時代を先取った作品となりました。

さらに言うなら、ザ・インタープリターがドイツで公開された時はまだロンドンは平和な町だったのですが、その後地下鉄とバスが爆破され大勢の死傷者が出ました。そのシーンを想像させるような大爆発がニューヨークの町中で起きたという設定になっていて、しかもある人物がバスの中に鞄を置いたまま下車したというシナリオになっています。ザ・インタープリターは公開が何週間か遅れていたらドイツではお蔵入りになった可能性もあります。今年できた作品なので、まだ古いとは言えませんが私が見たのは先日 Mr.&Mrs スミスを見た野外の会場。プレミアで最新作も時々上映しますが、ちょっと前に公開された作品もやります。こんなシーンがあるとは知らず見に行ったのですが、この日上映ができたのはもう一般公開された後だったからでしょう。

プロットは色々な小説を読んでいる人にはちょっと退屈。舞台は国連の建物の中。アフリカのマボトという国のクー語という方言とフランス語を英語に訳す同時通訳が、一仕事終わった後偶然クー語の会話を聞いてしまいます。「誰かが殺される」と解釈のできる内容。驚いて警察に通報しますが、調査の段階では通報者本人も調査されます。そこで彼女自身についても怪しい情報が浮かんで来るため、シークレット・サービスは裏と表両面からの調査をすることになります。

英語には《インタープリター》という言葉と《トランスレーター》という言葉があり、どちらも通訳のような仕事を指しています。《インタープリター》は口頭の内容を口頭で翻訳、《トランスレーター》は一般には文書を文書で翻訳となっています。日本でもいつの頃からか《通訳》と《翻訳者》という2つの言葉をきっちり使い分けるようになっています。なぜ《インタープリター》という言葉を《通訳》に使うのかは私には今日に至るまで良く分かっていません。《通訳》というのは人の言う事を勝手に解釈しては行けない仕事で、できるだけ人の言う事を内容を変えずに言語だけを移す仕事です。

映画ザ・インタープリターではそれを言葉遊びにでもしたのか、キッドマンが聞いた言葉が殺人計画とも《解釈できる》とあいまいにしてあります。

通訳、特に同時通訳は非常に神経を使う仕事で、私はこれまで太った同時通訳を見たことがありません。ですからガリガリに痩せたニコール・キッドマンがこの役をもらったのは現実に即しているかも知れません。一般の人は外国語が話せる=通訳ができると思ってしまうようです。それは全くの誤解。語学ができる人はよその国の人と話をすることができるだけで、誰かが言った事を通訳するとなると、それとは全く違う能力が要求されます。ある種の運動神経に似た反応も必要。そういった条件を揃えた人でも苦労するのが専門用語。事前に要求しても用語リストが貰えず、本番の直前に届くなどということもしょっちゅうですし、ひどい時にはリスト無し、ぶっつけ本番などという目に遭う通訳もいるようです。

いつも国連で仕事をしているのなら、話題はたいてい政治。それである程度専門用語は固定しているでしょうが、人名、地名などもどんどん飛び出すので、常に予習をしておかなければなりません。給料が高いのも当然かも知れません。

話を元に戻して、治外法権の区域であるということから市警察、FBI、シークレット・サービス、そして多分 CIA も絡み管轄がややこしくなります。その上暗殺のターゲットにされるはずの大統領とその取り巻きも絡みます。誰が誰を殺すのかという点では、反体制派が現大統領を演説の最中に狙うのだろうという憶測が出ます。シルビアの身辺を洗っていると、彼女も謎の人物とコンタクトを取ろうとしており、警察やシークレット・サービスを無視した行動を取ります。監視にあたっているトービンは直感的にシルビアが怪しいと思います。全てを話していない=嘘をついている=怪しいという考え方をする人物です。シルビアはマボト人なので、国内の争いに巻き込まれており、家族を失っています。ですから中立的な立場というのは取り難い事情があり、過去の事はシークレット・サービスには話していません。沈黙に起因する誤解が争いを生み、誤解が解けると男女が近づくという常套手段の脚本です。この実にありふれた話を焼き直しして見られるようにしたのはポラックの業績。

入り乱れているのは大統領派、反体制派の2つ。暗殺計画をどちらが立てたのかが問題。そしてシルビアが暗殺計画に荷担しているのかいないのかがトービンにとっての問題。シルビアが連絡を取ろうと苦労しているのはマボトにいるはずの兄やその友人。彼女が全てを最初からあっさりしゃべっていれば事件は防げたかというと、そうでもありません。シルビアと反体制派の言い争いとその直後に起きるテロ行為が前半の山場です。通訳という黒子的な職業から前に飛び出し、政治家と言い争うというのは《何かありそう》と思わせます。後半はクライシス・オブ・アメリカそっくりな展開になりますが、暗殺を請け負った男はマインド・コントロールされているのではなく、自ら望んだ確信犯。さらにその男を裏で操っている男がいて、その人物にはまた別な目的があります。

ストーリーはクライシス・オブ・アメリカと比べると弱め。オスカー俳優を連れて来て、本物の国連ビルの中で撮影するという呼び物をくっつけるとちょうど大衆受けするだろうというバランスの取り方です。クライシス・オブ・アメリカがプロットと俳優の演技で持たせているのと対照的。シルビアの兄が映画の冒頭に殺されていて、観客がそれを始めから知っているので謎を謎として提示できず、湿った花火になっています。しかし観客が消化不良を起こさずに見ていられる作品です。

目に付くのは2人のオスカー俳優が実力を出し惜しみしている点。ペンもキッドマンも当代一の演技派ではありませんが、それなりの力はあります。プレスに渡っている写真を見るといいシーンがあるのですが、本当の映画を見ているとそこでかもし出せそうなロマンスと仕事、相手に対する理解と自分の職務、義務、モラルの微妙な揺れが今一出ていません。というか私はこの2人の俳優はやる気になればいい雰囲気が出せると思うのです。が、なぜかあと1歩の所で遠慮している、あるいは出し惜しみしているのです。ポラックもそこで2人の背中を押していません。それでも見ていられる作品に仕上げているというのがベテラン監督と、オスカー俳優の実力なのかも知れません。


蛇足

などとのんきな事を言っていましたが、何とうちの近くが実際のロンドンや映画に出て来たニューヨークと似たような事になりかけていました。私の家は2つの地下鉄の駅の間にあります。この日は用があって最初地下鉄で南へ向かい、その用が終わるとうちを通り過ぎて北へ向かい、その後再びうちを通り過ぎて南に向かいました。用事が全部終わって家に帰ろうと地下鉄に来ると、場内放送がありました。最初は《うちに近い片方の駅に警察が出動したので地下鉄が閉鎖されている》、2度目以降の放送では《うちより2つ南の駅から4つ北の駅までまとめて閉鎖中》となっています。仕方ないので暫く南のショッピングセンターで時間をつぶして再び駅に行きましたが、まだ閉鎖中。それで現在走っている1番北の駅まで行き、そこから地下鉄会社が出している代替バスに乗り換え、自宅のある駅まで行きました。するとやはり警察の車や消防署の車がその辺を通っています。ピークは過ぎたようで皆リラックスしていますが、駅の近くにいつになく大勢人がたむろして見ず知らずの人がお互いに話し合っています。

私の住んでいる区は良い意味で昔風で、その辺の知らない人にでもちょっと話し掛けることができます。私もそこにぼやっと立っていた自転車の若者に「騒ぎは終わったのか」と聞いてみました。すると「あと15分ぐらいしたら地下鉄が動き出す」とのこと。「一体何があったのか」と聞くと、「持ち主の分からない鞄が発見された」という答。警察の出動ということなので、人身事故や自殺などではないとは思っていました。たまに麻薬の運び人を一網打尽にするために駅が封鎖されることがありますが、その場合は駅の出入り口全部に警官を配備するだけで、地下鉄を止めたりはしません。

一瞬ロンドンの教訓に合わせての訓練かと思いましたが、訓練というのはあまりいいニュースではありません。ここ何年かの間に起きた大きな事件は当局の上層部が訓練だと思っていたら実際に・・・というケースがあるという報道が出ていたからです。うちはテレビが無いので、ロンドンの事件はほとんど動画では見ておらず、静止している写真と文字による報道だけでしたが、それでもかなりの被害だという話だけは伝わっていました。そこへ前日にシドニー・ポラックの映画で爆発シーンを見ていたので、ぎくり。これまで見た爆発シーンで1番ひどかったのはトータル・フィアーズ ですが、ザ・インタープリターの爆発シーンはその次に凄かったです。

後でラジオで確認しましたが、18時30分頃に駅の構内で持ち主の分からない鞄が発見されたので、用心して地下鉄を止め、調べて見たら、普通の鞄だったそうです。封鎖は解かれたということでした。似たような事件が最近ベルリンの市内で何度かあったそうです。どれもいたずらではなく、誰かが置き忘れた鞄だったそうです。良かった。自分の住む町はどんな理由であっても破壊だけはしてもらいたくないです。映画を見たばかりなので、今夜は家に帰れないかと覚悟を決める寸前でした。

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