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The Zodiac /
In Control of All Things

Alexander Bulkley

2005 USA 92 Min. 劇映画

出演者

Justin Chambers
(Matt Parish - 警察官)

Robin Tunney
(Laura Parish - マットの妻)

Rory Culkin
(Johnny Parish - マットの息子)

William Mapother
(Dale Coverling - レポーター)

Brad William Henke
(Bill Gregory)

Rex Linn
(Jim Martinez)

Philip Baker Hall
(Frank Perkins)

Marty Lindsey
(Zodiac - 連続殺人犯)

Shelby Alexis Irey (Bobbie)

Natassia Costa (Mary)

見た時期:2005年8月

2005年ファンタ参加作品

驚いたことに間もなくフィンチャーがスターを使って別なゾーディアックを作るのだそうです。私が見た作品は出来が良く、さらにもう1本作る必要は感じませんでした。

ファンタには毎年何本か実話物があり、ちょっと前にはヘンリー・シリーズが上映されました。今年も何本かあり、その1つが The Zodiac です。犯人がゾーディアック(記号)と名乗ったのだそうです。未解決の連続殺人事件で、映画が描いているのは警察の側から。

★ 何が起きたか

60年代のアメリカの小さな町で殺人事件が起きます。犯人は自分がやったことを示す手紙を新聞社に送り付けて来ます。暗号も使われ、犯人でないと分からないような内容も含まれていました。近くの州でも事件が起き、1人だけ重傷を負って助かります。彼の証言で絵ができましたが、犯人は顔を袋のようなもので覆っているので、似顔絵とは言えません。占星術に出て来る記号 Zodiak が証人の記憶に残っていました。犯人が送りつけて来る手紙にもこのサインがあったそうです。80年代に入り突然止めてしまうまで事件は延々と続き、警察は4桁の数の容疑者をリストアップしましたが逮捕には至りませんでした。犯人が主張している数の6分の1ほどの殺人事件は警察でもつかんでいたようです。犯人が注目を浴びるにつれ真似をする人間も出たらしく、警察でも区別に苦労したそうです。そして警察では理由はつかんでいませんが、80年代に元祖ゾーディアックの殺人は止んだと判断しています(というのが実話部分)。

★ 生真面目な作り方の映画

映画の方は仕事熱心な刑事、その家族、近所の人、被害者などを当時の様子に細かく気を使いながら描いています。大きなアクション・シーンは無く、猟奇的なシーンも無い地味な作品ですが、監督の木目細かい仕事が良い印象を残します。

アメリカというのは私に取っては非常に危険な国で、犯罪の被害者になってもまともな捜査もしてもらえないという悪い印象があるのですが、外国人がそういう印象を持つに至るまでには長い経過があったようです。ファンタの実話物でテッド・バンディーの物語を見た時にも、「バンディーが登場するまで、アメリカ人は家に鍵をかけずに寝ていた、それでも大丈夫だった」というくだりがあり、バンディーが出て来るまでアメリカは平和な国だったようなのです。マイケル・ムーアがドキュメンタリーの取材でカナダに行った時、カナダ人が家に鍵をかけずに寝ると聞いて、試しにその辺の家庭をのぞいていましたが、アメリカもバンディーがそれを悪用するまでは、安全な国だったようなのです。

バンディーの連続殺人がメディアに報道されるに至り、アメリカ人は鍵は飾りじゃない、使うためにあるのだと悟り、家に鍵をかけて寝るようになったようです。恐怖はパラノイアを呼び、短く間を詰めて言うと、鍵だけでは足りず、自衛のためにピストルを家に置くようになり、やがてマイケル・ムーアが映画を作るようになって行くわけです。とだけは言えませんが、元々西部開拓時代から自分の命は自分で守るという方針で武器を持っていた国民は、治安が悪くなれば当然警察だけに任せておけないと考えてしまいます。このあたりは2つの波がぶつかりさらに大きな波《自衛》となっていったのではないかと思います。

それでも地方によって大きな差があるようで、まだのんびりと暮らしている人の多い地域もあったようです。野外で青春を謳歌というのもその1つ。夜ロマンティックな気分で恋人といちゃついているところを狙われ、カップルが殺されるという事件が起きました。当時の厳格な大人から見れば「そんなふしだらな事をしているお前たちが行けない」という論法も成り立つのでしょうが、2005年の今から見ても、ふしだらであろうが、公認のカップルであろうが、普通の人がこんな形で命を奪われていいはずは無いです。

警察官の息子が頭のいい子で、父親の書類を盗み見、謎の一部を解きかけています。ここはフィクションなのかも知れませんが、凶悪な犯罪映画の中で親子関係のシーンはちょっとだけ心温まります。演じているのはサインでも暗〜い印象を残したケビンの弟ローリー・カールキン。物静かな役で、上手に演じています。彼1人でなく、この作品に出ている俳優は皆普通の町の地味な人間という雰囲気に良く合っています。

もう1人注目の出演者はウィリアム・マポザー。Pigs will fly で主演だったドイツのアンドレアス・シュミットと良い勝負の恐い演技ができる人で、イン・ザ・ベッドルームでは恐い演技を見せていました。彼はどうやらアンドレアス・シュミットと良い勝負の達者な俳優らしく、The Zodiac では観客が震え上がらない普通のジャーナリストを演じています。おもしろいのはこの人がトム・クルーズの従弟だという点。2人の写真を並べるとそっくりでまるで兄弟のようです。違うのはウィリアム・マポザーの目と眉毛は下がっていて、トム・クルーズの目と眉毛は真っ直ぐ横を向いている点。ウィリアム・マポザーはあまり自分の顔がどういう風に写真に写るかは気にせずに仕事をしているようです。演技も地味で、まだアクション・シーンなどは見たことがありません。もっぱら表情で勝負する人です。見ている側は扇情的な扱いでないこの作品を見て、時代の様子を知り、事件の内容を知ることができます。ブロック・バスターとは全く種類を異にする作品ですが、私はこういう静かな作品も好きです。

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