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フリーズ・フレーム /
Freeze Frame

John Simpson

2004 UK/Irland 99 Min. 劇映画

出演者

Lee Evans
(Sean Veil - 事件の容疑者)

Sean McGinley
(Louis Emeric - 事件担当刑事)

Ian McNeice
(Saul Seger - この事件のプロファイラー)

Colin Salmon
(Mountjoy - 刑事)

Rachael Stirling
(Katie Carter - レポーター、被害者の遺族)

Martin McSharry
(Sam Jasper - 被害者の夫、後に自殺)

Rachel O'Riordan
(Mary Shaw - サムの妻)

見た時期:2005年8月

2005年ファンタ参加作品

この作品実は2004年のファンタに予定されていたのですが、なぜか当日のプログラムから忽然と消え、ハイ・テンションが再上映になっています。この年、苦渋の決断でインファナルアフェアを見逃したのですが、フランスの佳作を続けて見ることができ、得をしたのか損をしたのか1年経った今も結論が出ていません。それほど東洋、西洋とも力作を出していました。フリーズ・フレームは主催者が欲しがったのにフィルムが手に入らなかったのだそうです。執念の交渉が実ったのか2005年には上映でき、私は見ることができました。主催者がどうしてもという気になった気持ちは分かります。かなりハイ・テンションな作品です。

被害妄想を肯定的に扱ったというか、被害妄想に理解を示した映画というのは珍しいです。私は初めて見ました。監督は短編を1つ作った後いきなりこういう力作を持ち込んで来ました。英国やアイルランド勢の実力、層の厚さには毎度のことながら驚かされます。監督は脚本も自分で書いています。

主演のリー・エヴァンスはお気に入りの俳優だったのですが、これまではコメディアンという認識でした。しかしコメディアンが油断ならないのはジェリー・ルイス、ロビン・ウィリアムズの例を見るまでもありません。ジェリー・ルイスとリー・エヴァンスはファニー・ボーンズで共演しています。エヴァンスは90年代の中頃から顔を出し始め、いくつかのテレビ出演に加えその年にファニー・ボーンズでドンと映画界に飛び出して来ました。1995年は忙しい年だったようですが、一気に主演。それで弾みがついたのかフィフス・エレメントマウス・ハントメリーに首ったけと私も見た作品が続きます。その後何も見ていなかったのですが、テレビで自分のショーを持ったりしていたようです。現在41歳ですが、遅く出て来て早い出世という印象です。

17歳で結婚し子供が1人。苦労人なのかも知れません。スタンドアップ・コメディーができる人は何も映画やテレビに出なくてもいいので、デビュー前にもしっかりキャリアを積んでいたのかも知れません。その辺はあまり情報が無いので推測。

演技はしっかりしていて、不思議な雰囲気を残します。本人が笑わない演技が得意なコメディアンで、ドタバタもそれほど大げさではありません。私が好きになった理由は《ほどほど》だからかも知れません。しつこいという感じのない人です。

フリーズ・フレームではコメディーからスリラーに転向。それが恐いの何のって。今年のファンタの私のベスト10上位に入ってしまいました。おもしろい作品としてはフランス映画と並びますが、恐い映画だけの評価ですと彼がトップです。

ほとんどデビューに近い監督が思いついた恐い話はパラノイア。被害妄想ですが、主人公がそうなるまでの事情には観客もついて行くことができます。10年ほど前、ある女性とその人の娘姉妹が何者かに殺されるという事件が起きます。容疑者として挙がったのが主人公のショーン。逮捕され裁判になりますが、証拠不充分で釈放。担当の刑事とプロファイラーはその時のインタビューで「限りなく黒に近い」と明言しています。

冤罪を主張するショーンはこの件に懲りて今後自分の24時間を1秒も残さず記録し始め、いつ何時でもアリバイを証明できる態勢を整えます。これがウルトラ級でパラノイアと言われても仕方がないほどの徹底ぶり。どこへ行くにもカメラを持参して自分を撮影、家にいる時も四方からカメラで撮影。撮ったビデオは事件以来1日も欠かさず保管してあり、詳しく日時を記してあります。髪の毛などを使って証拠を操作されてはかなわないというので坊主刈り、抜け毛がどこかに落ちるなどということが無いように対策を取っています。小説の方のボーン・コレクターを知っていると彼の危惧も納得。 映画の冒頭そういう彼の生活が紹介され、観客は「あ、こりゃ病気だ」と納得します。

話の流れが変わり始めるのは当時事件を担当していたプロファイラーが本を出版してから。本の発表会にショーンも行きますが、そこに女性レポーターが来て鋭い質問が飛び出します。そこでチラリと顔見知りになったショーンをレポーターは追い掛けて来ます。事件当時マスコミからもひどい目に遭ったショーンは過敏な反応でインタビューを断わりますが、ひょんな事からその女性カティーを家に入れます。

カティーはびっしり並んだビデオテープに圧倒されながら、いくらかショーンと言葉を交わします。彼の釈放の数年後似た事件が起き、またショーンに容疑がかかっていました。準備万端整えていたので今度はアリバイを証明するのが簡単だと思っていたショーンは愕然。その時のビデオだけ無いのです。

カティーの話によると、彼女が子供の時に殺人事件が起き、母親と姉妹が殺されています。父親は事件後自殺。その後別な事件が起きていて、ショーン犯行説が有力になっていました。数年前にカティーはショーンをはめようと思ってか、知り合いの女性を彼の所に送り込んでいました。しかし思ったように事は運ばず、ショーンは女性をタクシーで家に帰らせようとします。彼女と恋愛関係になる意思はゼロ、暴行などの意思も無し、それどころか彼女が帰宅途中に襲われては行けないと、タクシーで帰ることを強く提案したのです。女性はタクシーには乗らず、その後死体に。

当時事件を担当したプロファイラーは以前は二流の心理学者。ショーンの事件で脚光を浴び、その後はプロファイラーとして輝かしい人生を歩みます。実際にカティーの家族を殺したのは父親。父親は妻の不貞を疑いその恨みを晴らしたつもりでした。で、カティーには被害者の血と加害者の血が流れていました。それを当時の事件を担当した者に指摘され、彼女は愕然。実は数年前女性をショーンの所に送り込んだ時思惑通りに行かなかったためその女性と争いになり、事故のような死に方ではありますがその女性を殺してしまっています。

ショーンが犯人では無いということを知った人間はプロファイラー、刑事、そしてカティー。これだけ雁首が揃っていてもまだショーンを犯人にしようと世の中は動いて行きます。一旦動き始めた歯車を逆行させるのはほとんど無理のように見えます。最後関係者が一同に集まり誰が何をやったかが明かになって行くのですが、カティーは刑事とプロファイラーを殺して自殺、ショーンは腕に怪我をします。

いつものカメラは切られてしまい、ショーンは無実を証明できないのですが、ビデオカメラが切られた時にとっさにコンピューターのスイッチを入れたため、ハードディスクには録画されていました。3人が死んでしまった後に来た警官にショーンは自分が録画したシーンを見せ、アリバイを証明します。その刑事は納得しながら話を聞いていますが、あろう事か録画を消そうとします。それを消されてしまったらショーンはまた限りなく黒に近いグレーになってしまいます。そこでショーンはしっかり「これはカバーされていて、雑誌社にも届いている」との一言。で、警察は自分たちの失策を隠すことができなくなります。

この作品では警察がこんな事をするという悪い面が描かれています。最後にショーンを落とし入れようとした人物は別に個人的にショーンを恨んでいるわけではないのでしょう。しかし自分の所属している団体がメンツを失うのは困ると思ってハードディスクを消しかけたのでしょう。カティーに殺された刑事たちは自分のメンツを救うためにやはりショーンを犠牲にしようとしました。警察や当局も色々で、時には内部で対立があり、先日のロンドンの事件のように4人は有名団体に所属するテロリストだと発表があったとたんに、いや違う、本人たちは荷物運びを頼まれたつもりでその日の帰りの切符も買ってあったと、関係者から別な発表があったりします。その際対象にされた人物やその家族が冤罪、あるいは罪のすり替えで一生をめちゃめちゃにされるということは考慮していません。ブラジルの男性などは命を失ってしまいました。地味に犯人を追い続けるタイプの刑事もいれば、天才的なプロファイルの才能で犯人を当てる人もいますが、中にはこの作品に出て来るような人もいるようです。珍しく冤罪被害者の立場から撮った作品。リー・エヴァンス1人でなく、出演者全体の気合の入った演技で、見る人に迫って来ます。

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