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Goldene Zeiten

Peter Thorwarth

2006 D 143 Min. 劇映画

出演者

Wotan Wilke Möhring
(Ingo Schmitz - イベント・コーディネーター)

Dirk Benedict
(Horst Müller - John Striker で有名なアメリカのテレビ俳優 Douglas Burnett のふりをする売れない役者)

Wolf Roth (Jürgen Matthies - 新しくオープンするゴルフ場の経営者)

Ludger Pistor (Dieter Kettwig - ゴルフ場の経理担当者)

Ralf Richter (Harald Grabowski - 町の売春組織を管理するやくざ)

Christian Kahrmann (Mark Kampmann - 車の整備工)

Alexandra Neldel (Melanie - プレイメイト、インゴと同じ高校出身)

Gedeon Burkhard (Mischa Hahn - 若手俳優兼ゴルファー)

Hans Martin Stier (Buschschulte - ゴルフ場に畑を売った農夫)

Markus Knüfken (Andi - インゴの友達、法律家)

Mark Zak (Alexeji - ウクライナ・マフィア)

Gennadi Vengerov (Sergeij - アレクセイの子分)

Loretta Stern (Jasmin)

Uwe Fellensiek (Charly - インゴの上司)

Sabrina White (Bianca - インゴのガールフレンド、チャーリーの愛人)

見た時期:2006年1月

どうしようも無い作品だというのが私の評価、それでもドイツとしてはかなりヒットというのが一般の人が下した評価、そういう作品が7年ほど前にありました。唯一良かったのはティル・シュヴァイガーがカメオ出演をして、サッカーのボールを蹴ったシーン。それ以外は取り柄ゼロというのが私の感想で、記事を書く気にもなりませんでした。

それなのに、ああ、それなのに、それなのに、続編ができてしまったのです。それもまた評判が良かったらしく、各地の映画館で公開され、雑誌にも取り上げられていました。私は断固態度を決めて見に行きませんでした。すると何ということでしょう。続々編ができてしまったのです。ああああああ、これで打ち止めにしてくれ!と思ったら、3部作の予定だったそうで、打ち止めです。

しかし監督というのは進化するものなのです。7年もすれば成長するものなのです。3作目は1作目よりは出来が良くなっていました。カメラの使い方が巧みで、出演者の演技にも円熟味が見られます。続投している人もいます。

まず監督が監督として3作通しのお出まし。テーマは監督の出身地ルール地方の一都市のアホ集団という点で統一が取れています。ルール地方3部作と呼ばれる時もあります。アホにも種類があり、私は北ドイツのアホでしたら喜んで観賞し、一緒になって笑えるのですが、ルール地方の笑いにはどうもついて行けませんでした。映画に出ているのがこの地方独特のユーモアなのか、監督独自のユーモアなのか、脚本家が作り出した独自の世界なのかは私には全く分かりませんでした。しかしここで笑える、笑えないというのは室井さんの故郷の方言の方がヒロシの方言より好きだとか、鶴瓶のユーモアの方が元こぶ平より好きだとか言う次元の話と同じで、好み、自分に関係のある土地柄の問題でしょう。

続投した俳優は以下の通り。監督は俳優として2度登場。

俳優 1作目 2作目 3作目
Peter Thorwarth(監督) 出た 出た 出ない
Wotan Wilke Möhring チョイ役 - 主演
Ralf Richter Harald Grabowski 役 Harald Grabowski 役 Harald Grabowski 役
Christian Kahrmann Mark Kampmann 役 - Mark Kampmann 役
Alexandra Neldel Melanie 役 - Melanie 役
Markus Knüfken Andreas Fink 役 - Andreas Fink 役
Hans Martin Stier - 市長役 農夫 Buschschulte 役
Mark Zak ルーマニア人役 - ロシア・マフィア役
Björn Hebeler 見習い役 - バーテン役
Hilmi Sözer 出演 出演 -
Willi Thomczyk 出演 出演 -
Michael Brandner 空港警備員役 Ernst Wiesenkamp 役 -
Nicholas Bodeux 出演 出演 -
Heinrich Giskes 出演 出演 -
Karl Thorwarth 出演 出演 -

第1作より登場人物の年齢が上がっている印象ですが、行動のレベルはさほど上昇していません。やる事に思慮が足りず、間が抜けているというだけでなはく、間違っている、犯罪になる、無責任、成り行き任せ、混乱が起きても収拾がつかないなど、類似点が多いです。脚本家も監督もそういう映画が作りたくて作っているので確信犯です。映画が低俗なのではなく、映画に描かれている人物が低俗なのです。

時代は現在。と言う事は不景気で金が無く、皆が金を求めている時代です。この作品の中で特徴的なのは、皆が誰かに頼ろうとしている事、皆が金の亡者になっている事、そして誰も自分の手でしっかり金を稼ごうとしていない事です。人を人とも思わず、労働力、肉体、挙句の果てには心までも利用してやろうと虎視眈々。世相をもろ反映しています。そういう中で唯一町の顔役のやくざだけが仕事熱心、規律がきちんとしていて、契約関係をしっかり理解、その上他人に対する尊敬の念を持っていて、趣味の世界でもしっかり物が分かっているという善悪、常識がひっくり返った世界です。

大勢の人が入り乱れますが、話の骨子は次のような具合です。

イベント・コーディネーターのインゴが有名なアメリカ人テレビ俳優ダグラス・バーネットを今度オープンするゴルフ場で行われるチャリティー・ショーに登場させ、ルーマニアの孤児院に送る献金を集めようとします。これでゴルフ場の評判を上げようと、町の名士を招待してあります。

しかし実はこのアメリカ人俳優、ドイツ人の売れない俳優が演じるそっくりさんなのです。インゴはできるだけ地味に事を運ぼうとします。しかしバーネットに成りすましたミュラーは贅沢のし放題でインゴを悩ませます。

ゴルフ場の経営者は妻の他に愛人も抱えており、土地を買った農夫には金を支払っておらず、ルーマニアへの献金は送金する意思がゼロ。

夫に若い愛人ができたことに気付いたブロンドでトウの立った妻はロシア・マフィアを雇い、愛人殺害を企てます。

殺人などという大それた事を頼まれてもはした金しか入らないマフィアはいくつものバイトを抱えています。その1つはバーネットのボディー・ガード。しかし2人はその前、銃を買う取引をしている最中に人を2人ほど殺しています。

インゴのガールフレンドのビアンカはインゴに隠れて彼の上司とも愛人関係を結んでいます。しかしその上司はインゴに比べ因業な男。インゴの方がずっと心が優しいです。

インゴはレコード会社と契約をしたはずの若い女の子を目にします。昔同級生だったメラニー。一目惚れです。で、ビアンカに隠れてデートをすべく画策。メラニーはプロデューサーに見込まれ、愛人関係にもなっていたはずなのに、その男に新しい女ができたためお払い箱。プレイメイトとして写真がプレーボーイに載り、それでもキャリアは下向きで目下悩んでいる最中。

ゴルフ場のパーティーが近づき、それに連れて至る所で綻びが生じ、小さな石ころが転がり始めそれがどんどん雪崩になって行きます。そして最後は大事件になって終わり。

不景気を身を持って感じている人が見たら楽しい話ではありません。ここまで不誠実な人ばかり並べられると、世をはかなんでしまいます。数少ない救いは主演の2人と町の顔役を演じている俳優。ヴォータン・ヴィルケ・メーリングは第1作にも出ていましたが、端役で私は全く覚えていません。彼の演技が目立ったのは何と言っても Antikörper。熱演でしたが、体当たり演技とか言うのではなく、田舎の駐在さんという役を地味に演じていました。Antikörper の評判はドイツでは素晴らしく良くて、彼の将来は保証されたようなものです。その彼をこんなつまらない話に使ってと、最初は腹が立ちましたが、終わりまで見ると、逆に彼がこの作品に尊厳を付け加えたという印象に変わりました。彼の地道で誠実な演技が全体を救ったと言ってもいいぐらいです。気合は入っているのですが、《気合入れたぞ》という力みが無く、丹念に地味に重ねている演技という印象です。

俳優の職人芸を見たと思わせてくれるのがディルク・ベネディクト。アメリカ人ですが、ドイツ人がアメリカ人に成りすましているという役です。落ちぶれた元有名テレビ俳優という役どころで、その役に実に良くはまっています。鬘をかぶるとタキシードの似合うスマートな中年ダンディー男バーネット。鬘を取り、禿げ頭になると売れないドイツ人俳優ミュラー。それがジキル博士とハイド以上にはっきり区別され、同じ俳優なのに全く別人に見えます。その一瞬で変わって行くところを画面でしっかり見せてくれます。

町の顔役やくざの方は俳優の演技というより、シナリオに書いてある指示、テキストの勝利なのでしょうが、やくざの方がかたぎの人よりプロ意識がしっかりしていて、例え売春とは言え、部下の管理はしっかりしている、商売の相手に対して責任を持っているという皮肉な設定です(ドイツでは売春は法律を守る限り違法な職業ではありません)。やくざとは言え、一種の中小企業の経営者という風に自分を理解しているらしいのです。彼の言う事が1番筋が通っているというのが皮肉です。

コカインを吸い込むシーンも出て来ますし、人はつまらない事で殺されますし、女性は男性の用を足す肉としてしか扱われませんし、女性もキャリアのために恋人を裏切ります。見ていて人間の醜い面を羅列されたようで、《こういう風にありたい》という世界をスクリーン上で見ようと思って映画館に来ると失望の連続です。

撮影、音楽は第1作に比べ印象が格段に上がりました。というか、第1作では何も印象に残りませんでした。3作目の映画批評にはジョークが減った、テーマが真面目になった(なり過ぎたという含みを持たせている)と書かれていましたが、私に取っては第1作目でも一緒に笑えるジョークが見つからなかったので、減ったとか、真面目になり過ぎたとか言われても、別に3作目が下がったという印象は持ちませんでした。上に書いた3つの点は優れていると言えるぐらいです。しかしそれでも人に薦める気になるかまだ自分にも分かっていません。日本に行くかという点では、コカインのシーンが多いので、税関か自主規制の団体では引っかかる恐れがあります。以前にも書いたようにあんな粉を吸って鼻が痛くならないものかと考えてしまいますが、特定の階層には広がっているようです。不景気で金が無いと皆が苦しんでいる時代にどうしてあんな物を買うお金があるのかも世界の七不思議です。

監督が3作目で表わしたかったのは、人が実際より自分を金持ちに見せたがったり、現実より良く見せたがる姿なのでしょう。そのために人が四苦八苦する姿をユーモラスにしたつもりなのでしょう。趣旨はまあ分かります。ただ一般の人がほとんど目の前に迫った貧困におびえている時代にこの種のユーモアを楽しむ余裕があるのか、ドイツの現実はかなり厳しい状態に突入しているなあと思えるのです。映画館で2時間大笑いして元気をつけてまた頑張ろうというタイプのユーモアではありません。

撮影、俳優の演技などの点であの(ひどい)1作目をこの3作目のレベルに引き上げることのできた監督なので、3部作を離れた後で何か佳作を持ち込んで来るかも知れません。そこに期待しましょう。

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