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Das Leben ist eine Baustelle /
Life is all you get

Wolfgang Becker

1997 D 115 Min. 劇映画

出演者

Jürgen Vogel
(Jan Nebel - フリーター)

Christiane Paul
(Vera - 医者らしい女性)

Ricky Tomlinson
(Buddy - かつて売れていた歌手)

Wolfgang Hess
(Buddy、吹き替え)

Christina Papamichou
(Kristina - 兄を探しにベルリンに来たギリシャ人)

Martina Gedeck
(Lilo - ヤンの姉)

Armin Rohde
(Harri - リロの恋人)

Rebecca Hessing
(Jenni - リロの娘)

Andrea Sawatzki
(Sylvia - ヤンの愛人)

Andreas Schmidt
(棺桶担ぎ)

Heino Ferch
(Hoffmann)

Hans Schumann
(バンドのメンバー、本職は音響)

Victor Schefé
(地下鉄の物乞い)

Andreja Schneider
(Brenda Lee)

Ingeborg Westphal
(ヤンとリロの母親)

Tom Spiess
(ホテルの従業員、本職はプロデューサー)

Gundula Petrovska
(Donita)

Gode Benedix
(Siggi)

Richy Müller
(Theo)

Peter Gavajda
(Judas)

Ludger Pistor
(葬儀屋)

Meret Becker
(Moni、有名な俳優一家ベッカー兄弟の1人)

Stefan Arndt
(判事)

Carmen-Maja Antoni
(Uschi)

Bernd Stegemann
(Rudi)

Hans Seck
(犬を連れた男、本職は特殊効果)

Rainer Werner
(私服刑事、本職はスタント)

Frank-Michael Köbe
(私服刑事)

Wolfgang Becker
(肉解体屋の親方)

見た時期:2005年9月

脚本にトム・ティクヴァーが入っているためでしょうか、せっかくの俳優が上手く生きていません。ドイツでは大物に数えられる俳優がぞろぞろ出てくるのですが、私はその俳優たちが他の作品で生き生きとしているのを見ています。出演者紹介のところにベテランの名前を挙げておきました。自分が主演で映画を1本撮れる人もいます。

Das Leben ist eine Baustelle はユルゲン・フォーゲルの代表作だというので、いつか見てやろうと思っていました。正直言って、失望です。タイトルは直訳すると「人生は工事現場」。

主演は間違い無くユルゲン・フォーゲルで、彼中心に話が進みますし、出番も多いです。しかしこれに出たフォーゲルが得をしたかと言うと、そうは言えません。大物俳優がぞろぞろなので、その人たちにも触れながら話を進めましょう。

フォーゲルは1968年ハンブルクの生まれで、テレビにも出ているので出演作は多いです。成人してすぐテレビに出始めています。俳優学校には行っていない天才俳優だという評判で、才能に関しては私も疑っていません。90年代は出られるものに出まくっているという感じで作品数は多いです。私が見た作品で1番古いのが陰謀のシナリオ。1997年の作品で助演の1人です。70を越える出演作のちょうど真中辺に当たる作品です。その次が Das Leben ist eine Baustelle で、フォーゲル中心に話が進む本物の主演です。同じ年に Die Apothekerin にも出ていて、彼の才能は Die Apothekerin の方が効果的に使われています。準主演。この後は主演にせよ助演にせよ、彼の存在がないがしろにされる作品はほとんど無く、彼のおもしろいキャラクターを生かした役も多いです。コメディアンの才能があり、コメディーをやっている方がシリアス・ドラマより才能が花開きます。本人は悪役でも何でもいいようで、貰えたらその時その時一生懸命のようです。監督の方で彼のキャラクターを知りつつ台本を書いているのではないかと思える作品も近年増えています。

Das Leben ist eine Baustelle で驚いたのは、彼が美男に映っている点。醜い顔の人ではありませんが、あまりメイクに気を使って美形で出ようとしていない俳優なので、《その辺のあんちゃん》というイメージを持っていました。美容整形はしていないでしょう。歯の矯正もしていないでしょう。映画で見るフォーゲルと実際に会ったフォーゲルに落差はゼロ。口の利き方もほとんど映画と地で変わりません(時々初公開の時に映画館に来ます)。それでいて映画の中のフォーゲルには自分を演じているという感じがありません。自然な振舞いをしながらしっかり演技をしているのです。そこに才能があると言われる理由があるのでしょう。4人の子持ちなのですが、そういう様子は全然見えて来ません。《お父ちゃん》というより《あんちゃん》という感じです。

今年のベルリン映画祭では芸術貢献賞を受賞。彼は確かにドイツ映画界に貢献しています。

また映画の話に戻りましょう。服装や暮らし方から見ると、70年代や80年代のようなのですが、もう壁が開いていて、アレキサンダー広場などが出て来るので、1990年代を舞台にしているようです。Herr Lehmann でもたっぷり出て来たクロイツベルクという区が中心舞台。ここは時々デモが乱闘事件に拡大して、機動隊に似た乱暴な警官が若者を追い散らすことがあります。フォーゲル演じるヤンは愛人の家からの帰りにその騒ぎに巻き込まれてしまいます。愛人をやっているのが Scherbentanz でフォーゲルの母親を演じたアンドレア・ザヴァツキー。で、びっくりしたのですが、彼女は Scherbentanz の主人公が子供の時代の母親を演じているので、年齢的には矛盾しません。

間の悪い事に一緒に逃げた女の子ヴェラは助かり、ヤンだけ検挙されてしまいます。罰金 4000 マルク。交換レートが変わるので正確な金額は出しても意味がありませんが、生活感覚から言うと80年代頃の40万円か50万円ぐらい。フリーターのヤンにとって簡単な金額ではないという点が分かればいいです。

ヴェラを演じるのが売り出しが上手く行って今上り坂のクリスティアーネ・パウル。私が見た作品で有名なのは Knockin' On Heaven's Door ですが、小さな役。その次が Das Leben ist eine Baustelle です。その前にも何本か仕事をしていて短期間に出世しています。Das Leben ist eine Baustelle と同じぐらい重要な役で出ているのが Die Häupter meiner LiebenDas Leben ist eine Baustelle より画面がきれいで、筋も愉快でした。彼女が美しく見える作品です。私が見た作品ではもう1つ Freunde にも助演で出ています。演技が光るとか美貌で覚えられるという人ではありませんが、出ればその役をこなすことはでき、不自然だったとか他の人の方が良かったという印象を持った事はありません。

ヤンは今はちょうど肉解体屋でアルバイト。罰金の他に暫く留置場に入っていたので、親方ににらまれ首。給料を貰う時にすぐそばにいたバディーに急場を救ってもらい、「他のアルバイトを紹介してやる」と助け舟を出されます。このバディーの俳優は英国人で、言わばゲスト出演。とは言っても準主役で出番が多いです。ドイツ語の台詞はドイツ人が吹き替えていますが、態度を見ていると違和感は全然ありません。

リッキー・トムリンソンはスピールバーグの仕事を断るような人です。Das Leben ist eine Baustelle では歌まで歌っています。どういう成り行きでドイツ映画に出る事になったのかは不明。普段は英語の映画に出ています。

ヤンには離婚したらしい両親、姉がいて、父親が住んでいるアパートから出、今は姉リロのアパートに住んでいます。そこにはリロの娘ジェニとリロの現在の恋人ハリも住んでいます。

マルティナ・ゲデックは大物スターで、マーサの幸せレシピで1度話題にしたことがあります。彼女が上手に生かされた映画の代表です。Das Leben ist eine Baustelle は助演で、特別に個性は出ていませんが、きれいな女優だという点はよく分かります。フォーゲルと同じぐらいたくさんの出演作があり、活躍を始めたのも同じぐらいの時期です。最近も調子良く行っている様子です。

そのゲデックと同居中の男ハリを演じるのがアルミン・ローデ。ローデ、フォーゲル、ゲデックは同級生と言っていいぐらいの人たちで、出演作の数、活躍を始めた年も同じぐらい。ローデを主演にした作品もありますし、重要な助演も多いです。例えばラン・ローラ・ランロッシーニ・悦楽晩餐会・また誰と寝るかという重要な問題Der Bewegte MannSt. Pauli Nacht などヒット作にも顔を出しています。彼も最新の作品で時々名前を見かけます。

バディーと話している時に肉屋の同僚の女の子が出て来て、エイズになったかも知れないと言い出します。彼女にはヤンの他にも付き合っている男性がいて、彼がエイズになってしまったのです。ギクリ。

ドイツではエイズキャンペーンはテレビ、広告でやっていますが、気にしない人も多く、層によって危険極まりない状態もあります。《相手を信用して》という理由がついて、対策をおろそかにしてしまうようです。一方でエイズになった人に対する救済体制がアフリカなどに比べずっと整っている事、他方に性の解放が日本よりずっと早かった事があり、対策に一貫性が欠けているような気もします。ゲイのコミュニティーがショック期を乗り越え、きちんとし始めているのに対し、男女関係、ドラッグ関係は危なっかしい面があります。とは言うもののドイツよりずっと危なっかしい先進国もあり、実際の患者数などはどこまでを信じるべきなのか迷います。

以前僅かですが知り合いの身内に死んだ人も出ています。若者で、あっという間に人生を終えてしまったそうです。効果のある薬ができ、政府や保険が費用を負担する態勢が整う前でした。今では政府も協力して若者が集まる大パーティーがあると無料でコンドームを配ったりもしています。国によってはそういう国の政策に宗教界から横槍が入ったりしますが、ドイツでは一般からはこういうイベントは好意的に取られています。そして問題を理解した人たちはきちんとした行動を取っているようです。

エイズの話で楽しい人生に陰りが出てしまったヤン。警察の罰金を姉に肩代わりしてもらおうと最初は思いますが、子供を抱えあくせくしている姉に余っているお金はなさそう。何でもいいからバイトという事でバディーが紹介してくれる話に乗ります。ビッグ・バードみたいなぬいぐるみを着て宣伝の仕事。これがトミー・リー・ジョーンズの晴れ姿にそっくりで思わず笑ってしまいました。フォーゲルにしてはコメディー的な面の少ない作品ですが、所々笑えます。

追い討ちはどんどんかかります。ベルリンに住んでいる父親が食事中に急死。姉に連絡しようとしても電話口に呼び出すことができず、ヴェラとのデートを思い出して、取り敢えずはそちらへ。コメディーのユーモアかとも取れますが、こういう風に優先順序をきちんと分かっていない人がこのぐらいの世代からどんどん増えていますから、ヤンが父親の死体を放り出してデートというのは半分ぐらいはマジ。

ようやくあちらこちらに連絡がつき、葬儀屋も来た頃にヤンの家族は問題家族で、両親も滅茶苦茶だったらしい事が分かります。時代をほぼそのまま反映した描写です。90年台のいつかヤンが30歳前後とすると両親は50歳から60歳程度。この世代の親は子供をきちんと育てることを止め始めた世代です。ヒッピーでなくてもこの世代の人は責任という仕事から自分を解放してしまい、「子供に自由を与えるのは大切だ」とのたまいながら、人生で大切な事を次の世代に教えるのを自主的に止めています。誇りを持って「自分は子供を甘やかすのだ」とのたまう人もいます。基礎的な事を教えてもらわないまま自由を与えられた子供はその後自分も子供の育て方が分からず、2000年代にに入ってからひどい事件が起きたりしています。

映画はヤンの不安定な状態を追い続けます。性格の悪い人ではないので、姉と同居していると姉の娘に慕われたり、見ず知らずの女性と一緒に逃げると、後でその人が恋人になってくれたりします。バディーもヤンとは仲良し。こういう愛すべき青年にこういう不安定な生活しかオファーできない時代です。

罰金をどうやって工面するのかは結局分からず仕舞い。父親の葬儀は姉と協力してどうにかやりますが、天気までが協力してくれず大雨。父親の死体は水の溜まった墓穴に入るため、泳ぎながら天国に行くのかという単純な疑問が浮かんでしまいます。恋人とは始めルンルンだったのですが徐々にずれが出て来て仲違い。どうやら別の男がいる様子。ようやくその問題が片付き、ベラが自分の所に来たその日、間が悪く、ベラを諦めたヤンは同居していたクリスティーナとベッドインの最中。「人生は間が悪い」というタイトルの方が良かったです。そういう間の悪さを演じるのが上手なユルゲン・フォーゲルです。

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