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クルーズ家の謎
1993 Kanada/USA 107 Min. 劇映画
出演者
Alec Baldwin
(Jed Hill - スター外科医)
Bill Pullman
(Andy Safian - 大学の職員)
Nicole Kidman
(Tracy Kennsinger - アンディーの妻)
Anne Bancroft
(トレーシーの母親)
Bebe Neuwirth
(Dana Harris - 刑事)
Peter Gallagher
(Dennis Riley - トレーシーの弁護士)
George C. Scott
(Martin Kessler - ジェドを知る先輩医師)
Michael Hatt
(アンディーの隣の家の少年)
Tom Kemp
(Stanley - バーテン)
Gwyneth Paltrow
(Paula Bell - アンディーが世話をする学生)
見た時期:2006年3月
今月の雑誌の付録について来たのでただだったDVDなのですが、今になって考えると不思議なめぐり合わせの作品でした。
ニコール・キッドマンは今や世界で1番幸福な女優。現在までに50本ほどの作品に出ていて、そのうち10本ほどを見ました。彼女だから見たいという作品だったのではなく、懸賞に当たったりしてのことなので、私は彼女本来の才能を知っているとは言えません。
1993年と言えば誘う女の少し前、トム・クルーズと結婚して3年ほど経った頃です。クルーズとの結婚である程度キャスティングの利を得たとは思いますが、クルーズに並ぶほどのスターにしてもらえるような作品には出ていません。長い間クルーズ夫人としてのスクリーン外の役の方が知られていました。キッドマンと聞いてすぐ思い出せる作品数は少ない人でした。しかしそれでもクルーズ夫人だけをやっているのではなく、十代半ばから 1999年のアイズ・ワイド・シャットまで毎年コンスタントにいくつかの作品に出演していました。
私の目に彼女が大きく飛び出したと写ったのはムーラン・ルージュ以降。アイズ・ワイド・シャットでは確かに彼女の名前も大きく出ましたが、クルーズが出たがったから一緒に出たというような印象を持ってしまいました。
私が彼女に関心を持つ理由は1つではありません。何となく良い演技ができそうなイメージを与える人なので、時には難しい役に挑戦したらどうだろうという興味の他に、やはり彼女がきれいな人に思えるので、そういう人をヒロインにした作品につい引かれてしまいます。そこが映画会社の目論みでもあるのでしょう。残念ながらヘアースタイルやメイクが良くない時もあり、《きれいだ》とうならせるような作品には滅多にお目にかかれません。映画というのは共同作業なので、かつてロジェ・ヴァディムがやったように彼女を美人に見せようとして撮る作品も作れると思うのですが、監督と個人的なつながりがない場合、やはりストーリー中心に企画が進むのでしょう。監督が誰でもいつもすてきに見えるモニカ・ベルッチの場合はどちらかと言えば彼女自身が外見に気を使っているのでしょうが、キッドマンは映画の担当者に任せているかのようです。結果としてでき上がるのはそこそこまとまった、あまり強い印象の残らない作品。
そういう意味でピースメーカーやプラクティカル・マジックはほとんど忘れられてしまっていますし、アザーズやめぐりあう時間たちでは暗い雰囲気と地味な衣装だけが印象に残り、彼女自身がどう演技したか記憶に残っていません。何だか最初から最後まで恐れおののいているだけという感じでした。自分が見た作品だけで話しているので、見落としがあるかとも思いますが、彼女は脚本から飛び出して個性を出そうということはしない女優なのかと思っているところです。しかしそれが制作側の需要と対立しないために長く続き、さらに最近では賞も大挙して彼女の方へやって来るのでしょう。
黙ることが得意らしく、離婚騒動の時もその後のロマンスのゴシップの時も、そして宗教問題でも本人が何か言ったという話はドイツにはめったに聞こえて来ません。入る仕事は黙々とこなし、個人的な幸福は暫くお預けにしていたようですが、最近は珍しく恋人ができたとか子供が生まれるとかの噂が伝わっています。
さて、なぜこんな事を書いたかと言うと、冷たい月を抱く女を見てびっくりしたからです。この作品が作られたのは1993年。クルーズとの結婚後で、最初の養子を貰った直後です。クルーズ夫妻は子供ができない体質なのだそうで、子供は2人とも養子でした。少なくともそういう話がメディアから一般人に伝わっていました。一説によるとキッドマンが結婚直前に流産したのが原因だとか。しかし別な説によるとクルーズの方の体質が原因だとか。冷たい月を抱く女の前後に女の子、男の子と養子にしています。キッドマンは家族を大切にする人柄らしく、オーストラリアの両親、妹とも仲が良く、離婚後も子供のことは非常に気にしている様子です。
養子であれ、実子であれ、その辺の俳優よりは子育てにまじめに取り組んでいるらしいので立派な人だなと思っていましたが、そうなると不思議なのは最近の2人の動き。キッドマン妊娠説がドイツのメディアに出まわっていますし、クルーズはもう正式に発表し、ホームズの出産予定もカウントダウンが始まっています。陽気に婚約もしたのだそうです。そうなると数少ない当時のクルーズ夫妻直接のニュースの中で「自分は子供が作れない体質だから養子にした」発言はどう解釈したらいいんだろう。そういう体質というのは10年経つと治るものなんだろうか。それともあれもガセだったんだろうか。本人の発言という話自体がフィクションだったのでしょうか。良かった、話半分と思っておいて。
さらにびっくりしてしまったのは離婚当時伝わっていたニュース。本人が言ったという話ではなかったのですが、芸能物としては比較的まじめに報道する雑誌で離婚の状況を報道していたのを見ました。その頃は芸能雑誌でない所までがこのニュースで持ち切りでした。論調は《クルーズ悪い奴、キッドマンかわいそう》で、キッドマンが(卵管らしい)妊娠でひどく調子が悪いのにクルーズは放り出して・・・というような話が伝わっていました。ついでに子宮外妊娠がどんなに危険かという解説もついていたような気がします。クルーズは当時節約のために結婚10周年になる直前に離婚してしまいたかったのだというような話も伝わっており、クルーズ側では2000年のクリスマスまでに間に合わせたかったとのことです。(クルーズは2001年の大事件を予見していたのでしょうか。)この話が本当だとすると、医学的な話は結婚直前のトラブルに次いで2度目ということになります。
キッドマンの方は離婚話どころではなく、取り敢えずは病院へ。その後法廷で争った場合クルーズ側が不利になる材料が出たらしく、結局離婚は10年ちょっとでけり。子供の世話はキッドマン1人でするか、2人で協力してするか、クルーズが1人で引き取るかの選択の中から中間の2人協力してというのを選んだようです。それまで仮面夫婦であろうがなかろうが当分持つだろうと思われていた夫妻が一挙に離婚となったわけですが、結果を見ると、クルーズを外へ引っ張ったペネロープ・クルスのおかげで、キッドマンが自由に働けるようになったかの印象を持ちました。
この頃私はまだ冷たい月を抱く女は見ていなかったので、私はただ次々にクルーズ夫妻に起こる出来事、あるいはキッドマンに降りかかる災難に驚いてただけでした。その後キッドマンは落ち着き、精力的に仕事をこなし始めたわけです。精力的とは言っても、ジョージ・クルーニーやサンドラ・ブロックのように自分で企画をどんどん進めて行くというタイプではなく、オファーされたものを自分に合った方向に選んでいくといくタイプです。
では冷たい月を抱く女の話に入りましょう。
ニュー・イングランドの大学町に最近結婚し、現在ルンルンの夫婦アンディーとトレーシーが住んでいました。夫は大学で働いていて、学生の面倒を見ています。妻は小児科で子供の世話をする仕事。自分たちの子供はまだおらず、部屋数は2人で住むには十分、家の改装にお金がかかりそうだということで、2階の部屋を下宿として貸そうという話になっていました。
この町にスター外科医ジェドが引っ越して来ます。まだ若く、腕が良く、収入があり、かっこいいので病院中の看護婦が彼を射止めようと努力中。若くしてここまで来ただけあって、押し出しがいいだけではなく、同僚などとのやり取りも結構強引です。
この町では今ちょうど連続レイプ殺人犯が若い女性を狙っていて、すでに犠牲者が何人か出ています。中の1人はアンディーが面倒を見ていた女学生。証拠として残っているのは精液、犯人について分かっているのは加害者が毎回被害者の髪を切って持ち去るという事実だけ。女性刑事ハリスが担当していて、うら若い女学生を何人も抱えているアンディーとも話し合います。アンディーは自分が面倒を見ている学生から犠牲者が出ているため、刑事より熱心なぐらいです。
1番最近の事件では、試験に遅れて追試をしなければ行けない怠け癖のある女学生が殺されてしまいます。演じているのが若き日のグィニス・パートロフ。最近の彼女はなぜか自然さが消え、あまり好きでないのですが、セブンに出る前後の彼女はまだ初々しく、自然なイメージです。冷たい月を抱く女でもすぐ殺されてしまいますが、彼女の自然で良い面が出ています。とは言え、セブンと同じく連続殺人鬼の手にかかり、死体になってしまいます。
試験に来ないので自宅を訪ね、死体の第1発見者になってしまったため、アンディーは一応警察から疑われ、精液検査をすることになります。その結果犯人の物と全く一致せず、無罪。
家では別な問題が発生。下宿人としてアンディーは以前同じ学校に通っていたことが分かったジェドを選ぶのですが、トレーシーは乗り気ではありません。夜な夜な女を連れ込んで騒々しいセックス大会。おとなしい生活を送っている2人にはちょっと行き過ぎに思えます。そんなある日、最近時々腹痛を訴えていたトレーシーが倒れます。
精液検査の結果が白と出て、帰宅しようとしていた時、警察の受付の人が、アンディーに「お宅の奥さんが病院に担ぎ込まれたとの緊急連絡が入っている」と教えてくれます。病院に駆けつけると、ジェドがトレーシーを手術しているところ。卵管の片方が壊疽になっていて切除。もう一方もやられている可能性があり、切除を進めているところでした。決行するかどうかで助手の医者と討論になっていました。さらに悪いことにトレーシーは妊娠していたらしく、この手術で子供を失い、一生子供が持てないことになります。時間が迫る中、医者同士では結論が出ず、2つ目の卵管を切除していいかを控え室のアンディーにも聞きに行きます。ジェドに切除しないと妻が死ぬと言われアンディーは苦しい結論を出し、同意します。
麻酔から覚めたトレーシーは当然ながら打ちひしがれています。さらに悪いことにジェドの判断が正しかったかという疑惑が生じます。病理学の検査の結果、2つ目は表面だけ化膿していた、まだ救いようがあったと言うのです。
簡単に手術に同意した夫を信頼できなくなったトレーシーは夫を去り、ジェドに対して責任を追及する訴えを起こします。裁判にはならず、保険会社、病院などとの調査、交渉の結果20万ドルの賠償金が払われることになります。ジェドはこれで医者としてのキャリアに傷がつきます。3人とも悲しみに打ちひしがれつつ一件落着のはずでした。
ところがそうは行きません。まだかなり時間が余っています。最初は仕事ぶりが不足と連続レイプ殺人事件でアンディーに発破をかけられていたハリス刑事ですが、目はちゃんと開けていた様子。アンディーの精液検査の結果、アンディーは不妊となっていたのに、トレーシーが妊娠したのは変だと言い出したのです。トレーシーには彼女を妊娠させた別の相手がいたことになります。
そこで思い出したのがある夜彼女を家に送って来た男性。暗いので影しか見えませんが、トレーシーはそれが弁護士で、母親の遺産相続を扱っていると説明します。母親は死に、小さな遺産を相続する手続きを担当している男だとのことです。
さてはこの男が浮気の相手。それは彼女の20万ドルの保険金を扱った男と同じかと疑い、直談判に乗り込みます。弁護士は守秘義務があるため黙っているのか、都合が悪いから黙っているのか始めは分かりにくいですが、トレーシーの母親が存命で、お酒を持って行くと証言が得られやすいと教えてもらいます。
母親として登場するのがアン・バンクロフト。ここまで見ていてどうしても思い出さざるを得ないのがヒッチコックのマーニー。原作は英国が舞台だと思いますが、ヒッチコックはボルティモアかどこかに舞台を移して映画化していました。その時主演だったのはモナコに結婚しに行ってしまったグレース・ケリーの後継者とされていたティッピー・ヘドレン。マーニーの話の中心は美人詐欺師と年老いた母親。バンクロフトはまるでそれを意識して演じているかのような感じがしました。キッドマンは最近ののっぺりした顔ではなく、冷たい月を抱く女ではまだ生き生きした美しさで、私はついティッピー・ヘドレンを思い出してしまいました。リメイクでもパクリでもありませんが、似ている要素がいくつかありました。
弁護士の助言通り上等のシングルモルトのスコッチを持って行ったため、アンディーはトレーシーの母親から参考になる話をたくさん聞かせてもらえます。トレーシーが詐欺師に間違いないらしいこと、父親も詐欺師。母親はアンディー程度のおつむではとてもトレーシーにはかなわないとも言います。
アンディーの個人的な調査は進行します。いくつかトレーシーが言っていた話が事実と違っていることが分かり始めていました。トレーシーは現在保険金が下りるのをよその町で待っている最中。彼女の家に忍び込んだアンディーは、ジェドが共犯だと知りショックを受けます。20万ドルを2人で山分けしようとしているところへアンディーは割り込んで来ます。トレーシーをカフェに呼び出し、証人の存在を告げ、自分に50%よこせと要求します。
トレーシーはジェドと仲間割れになりあっさりジェドを片付けてしまいます。そしてアンディーが言っていた証人を片付けるために町に戻って来ます。それはアンディーとトレーシーが住んでいた家の隣人の少年。トレーシーたちがカーテンをしていなかったため、覗くつもりでなくても家の中が見えてしまう位置に座っていつも音楽の練習をしていたのです。
彼女が隣家に忍び込んで少年を殺そうとしたところでアンディーが飛び出し格闘に。2人は2階から転落。そこへ折良くハリス刑事がピストルを持って現われご用。
実はこれはアンディーとハリス刑事が仕組んだ罠だったのです。どうやらアン・バンクロフトに「お前などが相手にできるタマではない」言われた時にその言葉を信じて警察に相談した様子。で、トレーシーとジェドにゆすりという形で脅しをかけて、動き出すのを待っていた様子なのです。アンディーが警察を訪ねた時にチャッキーとティファニーの子供のような人形が映ったので、何に使うんだろうと思っていたら、ちゃんと最後に活躍しました。これでトレーシーはお縄ですが、最後にもう1つ隣の少年は盲目だったというおまけつき。
ボードウィン、キッドマンという一流スターの組み合わせ、さらにそう下でもないプルマンも主演。アン・バンクロフトと、当時はまだ無名のパートロフ。キッドマンとバンクロフトとパートロフはオスカーを手にしていますし、ボードウィンはノミネートされていますので、超豪華キャストです。チラッと顔を出しているジョージ・C・スコットもアカデミー賞を取っています。
ボードウィンとキッドマンは60年代を彷彿とさせるスターの雰囲気を持っています。こういう人を今後もスリラーに使うと上品な作品ができていい、だから作れというのが私の希望。パートロフは端役ではありますが、違和感のない役でした。セブンも上手くはまっていたと言えます。出世してから貰っている役はあまり彼女にぴったり来ないような気がします。
1993年、まだ夫婦仲もこじれておらず、養子を迎え家庭生活を拡大していたクルーズ夫妻。その時期にこういう筋のスリラーを演じていたキッドマン。2006年の現在キッドマンもクルーズも実子を授かりそうな様子。そしてキッドマンには離婚寸前の時期に子宮外妊娠かという話が出ています。運命が映画の後を追うということもあるのですね。しかしあの話どこまで本当だったんだろう。
後記: キッドマンは離婚後歌手との再婚で実子を無事出産。そして今年1月には代理の人を頼んで2人目の実子を授かっています。(2011年1月)
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