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インサイド・マン /
Inside Man /
The Inside Man

Spike Lee

2006 USA 129 Min. 劇映画

出演者

Clive Owen
(Dalton Russell - 泥棒の首領)

Denzel Washington
(Keith Frazier - ニューヨークの刑事、交渉人)

Chiwetel Ejiofor
(Bill Mitchell - ニューヨークの刑事、キースの相棒)

Peter Gerety
(Coughlin - 警部)

Willem Dafoe
(Darius - 事件現場の指揮官)

Jodie Foster
(Madeliene White - 謎の交渉人)

Christopher Plummer
(襲われた銀行の理事)

その他銀行員も含む人質50人ほど、警官、野次馬多数

見た時期:2006年3月

ガール6 という妙な作品を見たことがあり、あとはいつかサマー・オブ・サムを見たいと思っている監督ですが、スパイク・リーからは何となくくそ真面目な印象を受けていて、全部網羅して見たいと思う監督ではありませんでした。今回も懸賞に当たったので出かけて行ったのですが、それほど大きな期待はしていませんでした。せめてもの慰めはクライブ・オーウェンが出るという点。予想は大きく裏切られ、「こりゃおもしろい」と思いながら帰途につきました。

何がおもしろかったかって?クライブ・オーウェン以外の俳優は手抜きと言うか、演技の実力を発揮するチャンスも無く、本人たちも出しゃばっていないので、演技競争にはならなかったのですが(オスカー俳優、候補俳優、監督が雁首そろえているのにもったいない)、筋がとってもおもしろかったのです。この先を読んで行くと話がばれます。読むのはこの辺で中断して、先に映画館に行くことをお薦めします。久しぶりに先の分かり難い、推理小説ファンにも満足が行く作品を見ました。ですから手抜き演技は許してしまおう。

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。
なお、この先のリンクをクリックせずに進むと、本当のネタばれを避けて、ざっと話が分かります。

のっけにアラビアの音楽だと思わせるような調子でボリウッド式のインド音楽が流れます。どこかで聞いたような気がするのですが、もしかしたらインドでヒットした普通のポップスなのかも知れません。国を間違いそうなところは、ストーリーの途中でギャグの続きとして使われます。こういう風にアメリカの映画の冒頭、クレジットが出る所に元気のいいアラビアやインドの音楽を使うと謎がありそうに思えわくわくする上にカッコイイです。一緒に踊りたくもなってしまいます。観客は期待しちゃうなあ。

音楽が一段落し、頭にクライブ・オーウェンが出て来て、「俺は言葉を選んで1回しか言わないから、よく耳の穴ほじって聞いておけ」と真剣な顔をして言います。背景は煉瓦で、フェザーやグロミットが入っていた刑務所を思わせるような場所。そしてドイツ語版では、《刑務所》とか《独房》のような言葉が飛び出します。どうも事件が終わって「あれはこうだった」と語っている様子(クリックするとネタばれメモ)

彼の話というのは銀行強盗。ペンキ屋の格好をして銀行に入って来た4人の男女。すぐ正面玄関を閉めてしまい、中では監視カメラが機能しないようにし、銃をつきつけて50人近い人質を取ります。人質全員から鍵の束と携帯を集め、服は全員強盗と似たような作業服に着替えさせ、顔には強盗と同じマスクをつけさせます。ここで「外から見たら誰が被害者か見分けがつかない」とまず感心するのです。強盗たちは訓練が行き届いた兵士のような集団で、次々と人質に指示を出し、従わせます。

市民の通報があり、銀行の表の扉が開かないことを確認した巡査から本部へ連絡が行き、大挙して警察が押し寄せて来ます。このあたりの緊迫感はフォーン・ブースといい勝負です。観客が見てすぐプロだなと思わせる加害者に対するニューヨーク警察の対応は・・・。普段担当する刑事が休暇中で、デンジル・ワシントン扮するフレイザーとその相棒に仕事が回って来ます。一方で同僚の休暇中に昇進のチャンスが回って来たと喜び、他方で、マニュアル通りにすれば大丈夫さという楽観主義で仕事に取り掛かります。現場には休暇中の同僚刑事との仕事経験が長そうな、ベテラン指揮官が来ていて、コマンド・センターを作ります。こういう事件では当然の S.W.A.T. や監視カメラ、マイクロフォンなどがセットされて行きます。

銀行の中では強盗たちが人質をいくつかの部屋に分けて閉じこめた後、地下金庫を開けて何やら作業を開始します。ここには真新しい現金の札ブロック(クリックするとネタばれメモ)、貸し金庫などがあります。ここで思い出されるのが懐かしき黄金の7人。スイス銀行やロンドン造幣局へ穴を掘ってもぐり込んで、大金を盗み出したものの・・・というコメディーです。クライブ・オーウェンはコメディアンではないので、渋い男っぽさで勝負。

時たまごく少数の人質が解放されます。最初は心臓病を抱えた老人。中で死なれると厄介だと思ったのでしょうか、追い出します。スリルたっぷりなのは、人質が皆犯人と同じような作業服を着て、マスクをしているため、最初はスワットなどから犯人だと扱われるところです。これは次の人質解放でもはらはら(クリックしても直接ネタはばれませんが、他のメモを見ずに戻りましょう)。一歩間違えば一般市民が蜂の巣のように撃たれて死んでしまうのです。

さて、マニュアル通り犯人と交渉を始めようと張り切っていたフレーザーたちなのですが、犯人は立てこもるだけで一向に要求を出して来ません。面会を申し込んでもつれない態度。メディアも群がっているので、何かやって手柄を立てないと行けないのですがねえ。

そんな風に騒いでいる犯行現場からやや離れた所では銀行の理事が謎の女性マデリン・ホワイトを呼び出します。ヒラリー・クリントンのような印象のキャリア・ウーマンで、仕事は舞台裏に徹しているやり手の女性という出で立ちです。危機管理を本職としているらしく、銀行の理事からあまり大きな説明を受けないで仕事を引き受けます。自分の方にも情報源があるらしく、大した事を聞かなくても全体はざっと把握。その上アバウトの状態でも流動的に対処できる人らしく、とにかくやってみることになります。最初に取りかかったのは市長との交渉。市長の弱みを握っているらしく、事件に関与させろとねじ込み渋々応じてもらいます。人に嫌われることなどへとも思っていないらしく、いつもニコニコ。

ジョディー・フォスターにこういう役をやらせるのは、できるだろうから別に問題ないと思うのですが、なぜか彼女はこの作品にはあまり心から乗っていないような感じで、演技の出し惜しみ傾向が見られます。力不足という感じではないのです。短い時間の登場でも印象を残す俳優もいるので、何だかちょっともったいないです。ローラ・リニーにやらせた方が良かったかなとも思いました。クライブ・オーウェンなどは例えばボーン・アイデンティティーでほんの僅か殺し屋役で登場しましたが、かなり強い印象を残してから死んでいます。

銀行の理事が彼女に仕事を依頼しなければならなかったのはかくかくしかじか(クリックするとバレバレ)の理由によります。とまあ、このあたりから話は平凡になって行くのですが、現実の世界でもスイスに長く眠っていた秘密が最近ずっと明かされて来ているので、時代を反映した作品と言うことができるでしょう。

ハリウッドでは気に入られ易いテーマ、スポンサーも着き易いでしょうから、映画制作は日の目を見ると考える監督もいるでしょう。そういう映画を何本も見せられるといつか観客の方もまたかと思ってしまうのですが、そこで他の監督と差がついたのがスパイク・リー。おもしろさはそれだけではなかったのです。

交渉の途中で1度はフレイザー、1度はホワイトが建物の中に入ります。犯人はフレイザーにははったりをかけているのではなく、本当に人質がたくさん取ってあるところを見せます。ホワイトは自分の依頼人の要求を持って交渉に行きます。2人とも間もなく追い返され、犯人は自分の思惑通りに仕事を進めて行きます。人質の監視もぬかりなく、犯人の1人を被害者のふりをさせて人質の中に紛れ込ませたりします。

黄金の7人を思い出させるのは、犯人が地下金庫の近くに穴を掘り始めるからです。しかしあんな量の札ブロック、到底運び出せるものではありません。ようやく出た要求はジェット機1台と、人質も連れての移動用バス。しかし何だか変だと思い始めたフレイザー。普通は時間を切って来るのに、その様子は無し。全然焦っていないのです。そしてチラッと犯人と対面したフレイザーは「犯人は暴力を使わないタイプだろう」と予想を立てます。

ところがその直後人質の1人が処刑されてしまいます。アッと驚くワシントン。緊張が緩みかけていた刑事たちは相手が本気だと悟ります。観客はこのあたりから犯人たちが狙っているのは銀行にある全財産ではなく、持ち運びし易い物に絞ってあるのかと思い始めます。小さいからと言って価値が無いわけではない品も置いてあったのです。

さて、人質殺害がきっかけで S.W.A.T. は本格的に動き始めます。こういう出来事は刑事、警察署長の失態と見なされ、世論のバッシングを受けるので、フレイザーはポジションをはずされてしまいます。せっかく昇進のチャンスだったのに・・・。彼が考えるのはその程度。

警察の方は50人近くいる人質と一緒に動く犯人をどうやって捕まえるか頭を悩ませています。ウィレム・ダフォーが普段の個性ある役とは全然違い、普通の指揮官の役を演じているのですが、なかなか説得力があります。へえ、普通の役もできるんだと感心してしまいましたが、直前に大きな変化があっても対処できるベテランの役をやています。人質がいても強行突破という方向に動いていて、ピリピリしていましたが、死者が出ると大騒ぎになるので、ゴム弾で突破しようという話も出ています。そう言えばフォーン・ブースにもゴム弾が出て来ました。死にはしないけれど当たるとかなり痛いらしく、犯人はひるむだろうということです。最後のギリギリのところでフレイザーはふと何かに気付いて、犯人が人質に持って行かせた鞄を壊してみます。案の定(クリックするとばれます)。ということは人質処刑がフェイクだった可能性が大。で必死に強行突破を止めさせようとします。犯人の側はそれがばれたと知って銀行内に煙を立て、人質をわざと混乱させて解放します。その中に犯人も紛れ込み、誰が犯人かはすっかり分からなくなってしまいます。一応全員を犯人扱いにして写真を撮り、手を縛り、護送。警察では延々と事情聴取が続きます。

決して羅生門を真似たわけではないのですが、どの証言も不正確だったり、矛盾していたり、決定打はありません。結局誰も死んでいない、何も取られていないということで、仮に犯人を見つけてもせいぜい3年程度の刑。この事件は捜査中止に決まります。

と、それで終わるはず無いですよね。 ←クリックすると完全にネタばれになります。

と言うわけで、事件は終了。デンジル・ワシントンは必ずしも清く正しい人でない役が気に入っているようで、今回もちょっといい加減な手抜き仕事をやるかと思えば、賄賂をきっぱり断わるでもなし、50人の生死がかかっているというのにのっけに現場でコーヒーを飲みに行ってしまったりと、たるんだ役を演じています。そういう点が気に入って引き受けたのかも知れません。

ダフォーは上にもちょっと書いたように、珍しくエキセントリックでもなく、執念深くも無く、悪人ですらない普通の警官の役です。時にはかなり皺の寄った顔でも出て来るのですが、インサイド・マンでは好青年がちょっと年を取って好おじさんになったというイメージです。

プラマーはサウンド・オブ・ミュージックではナチに反対意見を持っていて、家族ともども「クライム・エブリ・マウンテン」などと歌いながら徒歩でオーストリーからスイスへ亡命する将校のお父ちゃんを演じた人なのですが、インサイド・マンでは逆にナチの財宝を利用して大銀行家にのし上がった悪人の役。巾広い役をこなすというのはこういう事を言うんでしょう。

惜しむらくはジョディー・フォスター。最近彼女が生き生きと演じている映画を見たことがないのです。パニック・ルームでも離婚で傷心、さらに降ってわいた事件で恐怖に顔がこわばった女性の役でしたし、フライト・プランも予告を見るとヒステリックに機内を娘を探して駆けずり回り、周囲の迷惑省みずという役のようです。もう少しリラックスした演技が見たいです。

この作品の功績は多少だれることはあっても意外な展開をする人質事件の筋と、しくじった演技をまだ見たことがないクライブ・オーウェンの冷静さ。上にも書きましたが、多少のマイナス点はお目こぼしできてしまう作品です。

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