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イルマーレ /
The Lake House

Alejandro Agresti

2006 USA 105 Min. 劇映画

出演者

Keanu Reeves
(Alex Wyler - 工事現場で指揮を取る建築家)

Ebon Moss-Bachrach
(Henry Wyler - 建築家)

Christopher Plummer
(Simon Wyler - 有名な建築家、アレックスとヘンリーの父親)

Sandra Bullock
(Kate Forster - 女医)

Willeke van Ammelrooy
(ケイトの母親)

Shohreh Aghdashloo
(Anna Klyczynski)

Dylan Walsh
(Morgan)

Lynn Collins
(Mona)

見た時期:2006年7月


イルマーレ /
Siworae /
Si Wall Ae /
Il Mare /
時越愛

李鉉升

2000 韓国 95 Min.

出演者

Lee Jung-Jae
(Han Sung-hyun)

Jun Ji-hyun
(Kim Eun-ju)

Kim Mu-saeng
(教授、ソンヒョンの父)

Jo Seung-Yeon
(ソンヒョンの友人)

Choe Yun-Yeong

Min Yun-jae
(漫画喫茶店長)

オカルト・ホラー・シリーズに入れてしまうと極端ですが、超自然現象が扱われています。SF扱いではなく、静かな恋愛映画です。日本ではエゾテリックに相当する言葉があまり普及しておらず、この方向で物を考える人も少ないようですが、この作品はそういう方向を向いています。

エゾテリックは与太話の多い分野なので、実践的、実際的な事が好きな日本人にはあまり向かないのでしょう。ドイツではマジでエゾテリックに凝っている人も時々見かけますが、そこまで真似をする必要は無いでしょう。しかし映画や小説のテーマに合いそうなおもしろいネタの宝庫。最近の日本のホラーもそういう方向で大々的にお金を稼いでいるようです。与太話と分かっている人にはエンターテイメントの世界です。ダメですよ、本気にしちゃ。

ファンタにスキャナー・ダークリーが来ることになっているキアヌ・リーヴスですが、一足先に、これもファンタ向きのイルマーレが来ました。監督はアルゼンチンの人、リメイクの元は2000年の韓国映画 Siworae という、ハリウッドにしては新機軸の作品。その上キアヌ・リーヴスとサンドラ・ブロックが12年ぶり2度目の共演を果たした作品。

2人は当時ホットなカップルと騒がれ、いくつも共演の話が舞い込んだそうですが、断わり続けていました。共演以来親友になったらしく、長く付き合っていましたが、《ハリウッド夢のカップル》にされてしまうことは避け、本当の友達になっていた様子です。それで共演に対しては別にアレルギーを起こしていたわけではないようですが、金儲けより仕上がりの良い映画を目指していたため、なかなか共演には至らなかった様子。ドイツの雑誌での2人のインタビューなどを見ると、兄弟のような仲の良さです。

短くまとめると文通を通じて知り合った男女の恋物語なのですが、エゾテリック的というかタイム・スリップしたというか、2人の生きている時代が2年ほどずれているのです。元ネタの韓国映画では1998年と2000年、リメイクでは2004年と2006年となっています。ストーリは地味で、ファンタでは受け入れられるかも知れませんが、一般公開してもフロップになったかと思われます。

2004年に湖畔のモダンな家に住んでいた男性アレックスと、2006年同じ家に住んでおり、ちょうどシカゴの中心街に引っ越したばかりのケイトが湖畔の家の前にある郵便受けを通じて知り合うという物語です。

最初から科学を無視した与太話であることは承知して見るしかありませんが、それを上手にラブ・ストーリーと組み合わせ、夢のカップルの共演とバランスを取りながら佳作に仕上がっています。

今まで住んでいた家に職業上の理由で別れを告げなくてはならなくなった犬を飼っている女医が、今後の郵便物はこれこれの住所に転送してくれというメッセージを郵便受けに残して出て行くのが物語りの発端。

そのメッセージを受け取ったのがアレックスという建築家。同じく建築家の父親が建てた家に1人で住んでいました。家族の家を譲り受けて1人で住んでいると思っていたアレックスは、その自分の家に他の人が住んでいて、引っ越したばかりと聞いて妙な気分。「そんなはずはないよ」とメッセージを書いて郵便受けに入れておきます。

同じ家の住人とは言っても恋人はゴーストのような、半分幽霊になった意識不明の女医さんの話ではありません。ケイトという女医は、やや燃えつきかけていますが、バリバリ仕事をしている人。アレックスも家族の中にややわだかまりがありますが、建設現場ではバリバリ働く男。2人とも生きてピンピンしています。

アレックスの手紙を読んだケイトが「あんたの言っている事の方が変よ。それに今は2006年。(アホ)」ってなメッセージを書いて郵便受けに入れておきます。

すると「まじかよ、寝ぼけてるのはお前の方だろ」と乱雑な言葉は使いませんが、返事が帰って来ます。

どちらもそれぞれの理由でやや孤独な仕事熱心な人間だったので、デートに行っている暇もなかったり。この古めかしい紙に字を書くという連絡方法が気に入り、はまってしまいます。

現在でも文字派というのがあるようで、読むのは本や書類がいい、書くのも書面がいいという人がいくらか残っているようです。そういう人たちは雑誌の景品について来る万年筆に大喜びしたりします。私も実を言うとその1人なので、丹念に紙に字を書いて交流する2人を好ましく思っていました。友達から何千キロも離れた場所に住んでいると、電子メイルやインターネットのありがたさも身にしみて分かります。しかし時にはじっと座って読みたい、書きたいとも思います。その辺の世代にアピールしそうな物語です。

さて、最初は「変な奴だな」「おかしな事を言うおなごだ」と思っていた2人ですが、2人の間に2年という時間の差がある事は証明できてしまいます。「こんな事話しても他の人は信じないだろう」というのが2人の一致した考え方だったので、他人には話さず、2人の間でせっせと色んな事を話し合います。人生、家族、仕事、いくらでもテーマはあります。その上時間差デートまで思いつき、場所を打ち合わせてそれぞれが同じ場所に出掛けて行き、壁に落書きを残していったり、木を植えたりして、直接は会えないけれど、お互いの存在を確認し合います。

そこまでは楽しいのですが、深刻な問題も起きます。例えばアレックスのお父さんは2006年にはもう亡くなっているのです。そしてアレックスにも危機が・・・。

その他に2人が過去にニアミスをしていた事実が分かったり、静かなトーンにも関わらず、劇的な展開があります。それでも全体が静かなのは主演の2人がそういう風に演じているからでしょう。ハリウッドの波に呑込まれ12年の間に信じられないような経験をした2人の俳優が12年を経て再び出会うという事実と、2年のずれを克服して出会う方法を模索する2人とは良いハーモニーをかもし出しています。夢のカップルの共演なのに限りなく地味に作ってあります。

地味だから悪いというものではありませんが、興行成績を最優先で気にするアメリカ映画界では生き残るのが難しいタイプの作品です。当初この役はジョン・キューサックにと考えられていたそうですが、私にはキューサック/ブロックのカップルよりリーヴス/ブロックの方がいいというか、他に考えられないぐらいいいコンビだと思いました。リーヴスは頭を雲に突っ込んでちょっとボーっとしたような雰囲気が出せる人ですが、活発で動きの速いブロックといい対照を作っていると思います。リーヴスと比べるとキューサックはちょっと頭が回り過ぎる感じを醸し出します。

一般論としては私はハリウッドが作り出した夢のカップルというのは嫌いです。そのために私生活が滅茶苦茶にされた夫婦、元夫婦が山のようにあるではありませんか。古いところではナタリー・ウッド、ロバート・ワグナー夫妻、トロイ・ドナヒュー、スザンヌ・プレシェット夫妻。最近も仮面夫婦と疑われている夫婦やカップルも多いです。いちいち名を挙げるとページがいっぱいになってしまいそう。

リーヴス、ブロックの2人はご存知のように人生を普通の倍ぐらいの速度で突っ走り、良い経験、悪い経験を積んで現在に至っています。幸い2人とも同じぐらいのスケールの成功を収め(ドイツではそこそこのブロックですが、アメリカでは考えられないような人気を保っています)、スピード制作から12年経って再共演。

無理に比べると恋人はゴーストより オーロラの彼方へに似た話です。親子関係、男女のカップルという違いがあります。時間のずれもオーロラの彼方への方が大きいです。無線、手紙という違う方法ですが、2人の人間が連絡を取り合ったら、実は時間がずれていたというのが大枠です。

イル・マーレの特徴は大袈裟な事件を使わず、地味に生きている2人の中年になる少し前のシングルさんの恋にしたところです。多分韓国のオリジナルもそういう筋なのでしょう。

ドイツの解説には日本の映画のリメイクだ、《イル・マーレ》は英語だなどとデタラメを書いているサイトもありますが、Siworae という名前の韓国の映画に間違い無いようです。無論《イル・マーレ》は英語のわけはありません。イタリアにもっと古い映画でイル・マーレというのがあるようです。韓国映画はそれほど古くなく、日本でも知られているようです。

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