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スキャナー・ダークリー /
A Scanner Darkly

Richard Linklater

2006 USA 100 Min. アニメ

出演者

Keanu Reeves
(Bob Arctor - ジャンキー仲間にもぐり込んだ麻薬の囮捜査官)

Robert Downey Jr.
(James Barris - ボブのジャンキー仲間)

Woody Harrelson
(Ernie Luckman - ボブのジャンキー仲間)

Rory Cochrane
(Charles Freck)

Winona Ryder
(Donna - 麻薬の囮捜査官)

見た時期:2006年8月

2006年 ファンタ参加作品

暗闇のスキャナーという小説のアニメ化だそうです。

アニメにするにはもったいないようなストーリーなのですが、アニメにする理由があります。

最近たまに見かける、俳優で撮った作品をアニメに作り直すタイプのアニメ。普通はなぜそんな事をしたがるのか分かりませんが、スキャナー・ダークリーの場合は分かるような気がします。中で使われているスクランブル・スーツを表現するのにアニメが簡単だからです。実写映画を作りこの部分は特撮でやってもいいのでしょうが、アニメですと特別な技術を考え出さなくてもすぐ表現可能だからです。

アニメにも最近は色々な種類があって、それぞれ特徴を出しています。スキャナー・ダークリーは一見60年代から日本でおなじみのクラシックな手法に見えます。しかしよく見るとオリジナル版で声を担当している俳優の顔そのままです。上にもちょっと書いたように、まず俳優で実写し、それを絵に作り直したからです。

私は元々はアニメのファンではありません。しかしエイトマン鉄人28号鉄腕アトムルパン三世は大好きでした。最近ではシュレックアイスエイジが好きです。日本製では攻殻機動隊イノセンス: 攻殻機動隊をひいきにしています。結局はおもしろい筋か楽しいキャラクターであれば、アニメでも見てしまいます。私の認識も《たかがアニメ》から《ほう、アニメか》に変わって来ています。

長い間アニメと言われるとフランスを除いた欧米でも《なんだ、アニメか》とやや低く見られることが多かったですが、そのレベルを大人の観賞に耐えるようにレベル・アップして行ったのが日本。明らかに子供向きの作品のみで育った私には、最初大人が見るレベルを全然期待しない傾向がありました。上に挙げた大部分のアニメは、楽しい子供時代を飾ってくれたいい思い出として今日でも心に残っているもので、意識としては《子供向け》です。そこへ攻殻機動隊パーフェクトブルーなどという俳優を使った劇映画にしても大人の観賞に耐えそうな作品に触れる機会ができ、《おや》っと目を見張ったものです。それからはアニメを見る機会ができると、前を素通りせず一応紹介記事を読んで見るかどうかを決めるようにしています。全体数としては普通の劇映画に触れる機会が圧倒的に多いですが、外国にいても日本の優秀なアニメに触れる機会はたまにあります。聞くところによると、立派な作家が元のストーリーを書いている作品も増え、《たかがアニメ》時代は日本では終わりつつあるのかも知れません。スキャナー・ダークリー もSF方面で名の知れた作家が書いた作品です。

スキャナー・ダークリーは矛盾を孕んだストーリーで、人間の傷つきやすい面と非情な面を混ぜ合わせてあります。本来優しい男ボブが麻薬関係の囮捜査官という職業がために人生がズタズタになるというのがメイン・ストーリーです。ズタズタにされるのにぴったりな俳優キアヌ・リーヴスを選んであります。

キアヌ・リーヴス他主だった登場人物を演じる俳優はフィリップ・K・ディックの活躍した時代とはほとんど時代が重ならず、ディックがリーヴス、ハレルソン、ダウニー・ジュニアを想定して書いた物語ではありません。ですから作品の中にいかにもリーヴスらしい表情や、ハレルソン、ダウニー・ジュニアらしいお惚けシーンが出るとすれば、それは監督の裁量でしょう。

主人公ボブの抱える矛盾とは一方で捜査をしていながら、他方で自分が売人をやっているという点。捜査で怪しまれず忍び込むためにはある程度仕方ないということなのでしょうが、自分が中毒になってしまっては行けません。尤もこれはアニメのSFでなくとも捜査員が抱える問題らしく、NARC ナークでも取り上げていました。 原作を書いたフィリップ・K・ディック自身も中毒で苦しんでいた時期があったそうです。

ディックの小説の映画化は多く、 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?ブレードランナーに、 追憶売りますトータル・リコールに、 戦争が終わり、世界の終わりが始まったバルジョーでいこう!に、 変種第二号スクリーマーズに、 にせものクローンに、 少数報告マイノリティ・リポートに、 報酬ペイチェック 消された記憶になり、今回 暗闇のスキャナースキャナー・ダークリー になりました。

アニメにしたもう1つの理由はボブが陥る妄想の世界を描き易かったからでしょう。麻薬の作用による幻覚を実写のみで描くのは難しく、いずれにしろ特殊効果が使われるでしょうが、アニメですとそれも簡単にクリアできます。

物語の冒頭はまだ明るい雰囲気です。気候のいいカリフォルニアで友達4人が麻薬の売人をしながら楽しそうに生活しています。4人は麻薬中毒で、万年金欠病。しかし自分たちが何をしているのかを気にかけず、良心が咎めることもなく、交わされる会話は愉快で、ヒッピーの延長のような気軽さです。

その一方で本当は麻薬捜査官のボブは時々捜査本部に戻り、時には麻薬撲滅キャンペーンなどにも参加して、講演をしたりします。その時プレス関係者に写真を撮られたり、声を録音されて身分がばれてしまわないように特殊なスーツを着用します。これを着ると彼の姿が次々と変わって見え、一体どれが彼の本当の姿なのかが全然分からないのです。

現在追っているのはDと呼ばれる麻薬。どこかで秘密裏に栽培された紫色の花をつける植物から作られます。非常に危険な麻薬で、常用すると最後には人格が変わってしまいます。

ラリっている仲間のうち1人だけが捜査官ですと話が単純ですが、複数の人間がもぐり込んでいるので複雑になります。捜査本部に戻った時、全員が特殊なスーツを着用するので、仲間内にも誰が捜査官か分からないのです。

ボブは徐々に麻薬の中毒が進行し2重人格のようになって行きます。捜査官のボブと中毒のボブ。そしてこのボブが捜査官だと知らないもう1人の捜査官が仲間内に。そしてその人物は捜査官だとは知らずボブを騙して紫色の花をつける植物の栽培地に行かせ、栽培に参加させます。中毒が高じたボブにはもう自分が誰なのか、誰が味方なのかが分からなくなっています。この終わり方は Civic Duty と似て、観客には虚しい気持ちが残ります。

ファンタにも時々麻薬や中毒症状が描かれた作品が来ます。概ね麻薬や化学薬品がひどい状況を生み出すという主旨の描かれ方をしていて、礼賛する作品は滅多に見たことがありません。それでも手を出す人が後を絶たず、次から次から新しい物が出回って来ます。アルコールは体に悪い、煙草は体に悪いと法律で制限、禁止を試みていますが、元から違法なドラッグは結果としてそのまま無制限に出回り続けているかのような印象を受けます。その状態にブレーキをかけるという意味では スキャナー・ダークリーには他の映画と同じ程度の効果しかありません。

この作品の良さは私には俳優の人選に思えました。無論ブレード・ランナーを考え出したフィリップ・K・ディックの原作という強力なバックアップがあっての事ですが、やはり映画として魅力を発揮していたのは主演の4人のキャラクター。ワイノナ・ライダー、ウディー・ハレルソン、ロバート・ダウニーJr.を加えて主演はキアヌ・リーヴス。この4人が良いハーモニーを出していて、前半は笑えるシーンも多いです。特に自転車のギアの話はファンタで大好評でした。

そうやって前半笑わせておいて、後半はズズズッと暗くなって行きます。見終わった私は暗〜い気分でしたが、名作です。

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