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Princess

Anders Morgenthaler

2006 DK/D 90 Min. 実写まじりのアニメ

出演者

Thure Lindhardt
(August - 牧師)

Stine Fischer Christensen
(Christina - アウグストの姉、死亡)

Mira Hilli Møller Hallund
(Mia - クリスティナの娘)

Margrethe Koytu
(Karen - ポルノ女優)

Tommy Kenter
(Preben - ポルノ業界の人間)

Søren Lenander
(Sonny - ポルノ業界の人間)

Christian Tafdrup
(Charlie - ポルノ業界のボス)

Liv Corfixen
(車の中の売春婦)

Peter van Hoof
(それ以外の役)

見た時期:2007年3月

2007年春のファンタ参加作品。

Princessも The dead girl と似てちょっとファンタ・タイプではありません。全体はアニメで、所々実写が混ざります。

謎解きではありませんが、あらすじが大方明らかになります。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ ストーリー

ポルノ界のプリンセスと呼ばれる若い女性クリスティーナがドラッグのやり過ぎで死にます。5歳になる女の子ミアが後に残り(The dead girl と似ているのはここまで)、牧師をやっている弟アウグストが引き取ります。この子が難しい子で、育てるのが大変です。

間もなくアウグストはミアが躾らしい躾を受けておらず、自堕落な親の横っちょに置かれていただけ、そしてポルノ産業にすでに寄与していたことに気付きます。体にはアザもあり、何かしらの虐待を受けていたことも分かります。

これを知った時アウグストは切れてしまい、復讐を始めます。神は自分の側についていると確信して、アウグストは事情を調べにポルノ産業に乗り込み、ミアに何があったのかざっと掴みます。そして要求状を書きます。「姉の出演した全てのフィルムを破棄しろ、業界はすでに姉で十分儲けたはずだからマスター・テープを出せ」です。業界はそんな話に応じるわけがありません。要求状の効き目が無いと知るやアウグストは自らが処刑人となって業界の人間を殺して回ります。

一方、まだ5歳で学校にも行っておらず、周囲はポルノの大人だけという生活を送っていたミアは、普通の5歳の子供とは全く違う行動を取り、アウグストを困惑させます。この作品がなぜアニメになったかと言うと、5歳の女優にミアが取る行動を演じさせるわけに行かないからでしょう。

こういうテーマを詳しく知っているのは児童相談所に務めている人や、子供の保護をした医師や看護婦、精神分析医程度で、一般の人には大雑把に「子供が大変な目に遭った」としか伝わらない部分です。Princess ではそこに切り込んでいます。そういう意味で勇気ある作品と言えるでしょう。

しかしせっかくの努力を無にしてしまうのが、アウグストの決断。牧師のアウグストが神の援助の元行動しているのだと確信して司法や行政の手を借りずに自分でポルノ産業の関係者を始末してしまうのです。最初は個人の暗殺、最後は大きな建物を爆破して大勢殺してしまいます。ラスト・シーンには姉、弟、ミアが天国で幸せに暮らすという落ちまでついています。

★ 抜けている

ミアの運命はあまりにも不公平で同情しますが、その解決を牧師という職にある人が自分の手でやり、後は天国で幸せに暮らしました、では私は賛成しかねます。そしてクリスティナがなぜアウグストと正反対の方向に行ったか、なぜミアをそういう環境で育てたかなどは掘り下げていません。アウグストのような息子ができる家庭にクリスティナのような子供もできる事情は登場しません。兄弟が正反対になるというのは時々ある話ですが、何かしら理由があるものです。

ドラッグ漬けの生活を送っていた The dead girl のクリスタですが、彼女は娘を劣悪な環境とは言え、一応託児所に預けています。そしてクリスタは娘を思う母親。それに比べミアはかなりな目に遭っていて、5歳でああなってしまう点は納得が行きます。

スパっと抜けているのが男性の役割。クリスティナが娘を産むにあたっては父親がいるはず。その男性は育児には関与していないか、クリスティナと同じぐらい放り出しています。クリスティナには死ぬ前恋人らしき人物がいますが、その男性がミアの父親かは定かではありません。ミアは黒い髪、クリスティナも黒い髪ですが、アウグストは明るいブロンドです。クリスティナの連れ合いがブロンドですとミアは黒い髪にならない可能性もあります。登場人物の中で1人黒い髪の男性がいます。そこまで考えてこの映画を作ったのかは分かりませんが。

それにしてもなぜ Princess がファンタに来たのかは分かりませんでした。犯罪映画と言えないことはありませんが、単にアウグストが関係者を殺して回るだけで、密室殺人でもなければ、アクション映画でもありません。ファンタの通常の犯罪映画とはかなり外れます。モラルを大きく取り上げていますが、上に書いたように、アウグストの仕返しが違法。ミアの被害が大きければ大きいほど、合法的にやった方が良かったと思います。牧師という《職業》につくには神学を学びます。現代のドイツやデンマークではそれは大学卒業という形。卒業後他の職業で言うと研修のようなものがあって、初めて一人前の牧師になります。伊達に人にお説教をしているわけではなく、ちゃんとその前に勉強もしているのです。ですから、普通は簡単にこういう結論には飛びつかないと思います。

この作品がデンマークの某有名監督への揶揄かという意見がファンタに来ていた人の中から聞こえました。某有名監督が大人を相手にポルノを撮るのは構いませんが、Princess のように子供が絡むのは大きな問題です。それもあと一歩で成人するティーンですらなく、まだ小学校にも上がっていない幼児です。ミアの例を見る間もなく、とんでもない人生観がこの時期にすでに出来上がってしまいます。ベルギーの事件でははっきりとした結末が出ないまま行方不明の子供が大勢そのままになっています。そういう意味でも幼児をポルノ産業に巻き込むのをやめようというキャンペーンをするのはいいですが、私刑を絡ませて訴えの効果を薄めてしまうのは如何なものでしょう。

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