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2006 USA/UK 112 Min. 劇映画
出演者
Jennifer Lopez
(Lauren Adrian - シカゴのジャーナリスト)
Karolinah Villarreal
(Lauren Adrian、子供時代)
Antonio Banderas
(Alfonso Diaz - 「フアレスの太陽」誌編集長、ローリンのかつての同僚)
Kate del Castillo
(Elena Diaz)
Martin Sheen
(George Morgan - ローリンの編集長)
Maya Zapata
(Eva Jimenez - 最近の犠牲者)
John Norman
(Rawlings - 上院議員)
Sonia Braga
(Teresa Casillas - フアレスの女性救済団体の長)
Peter Gonzales Falcon
(フアレス警察署長)
Juan Diego Botto
(Marco Antonio Salamanca - 町の有力者の息子)
Zaide Silvia Gutiérrez
(Lourdes Jimenez - エヴァの母親)
Rene Rivera
(Aris Rodriguez - エヴァの事件の犯人)
Irineo Alvarez
(Domingo Esparza - バスの運転手、エヴァの事件の犯人)
見た時期:2007年12月
何とオスカーに3つもノミネートされました。選ばれたのは裏方3部門です。
人の命に関わる実話は2つのはずでしたが、成り行きで3つ目です。ボーダータウンは物語そのものが実話かまで確認できませんでしたが、フアレスという町が実在し、そこで実際に多くの女性が殺害されたことと、本腰を入れた捜査が行われなかったことは事実らしいです。この物語にいくらか関連するかも知れない作品にデーモンラヴァー がありますが、ボーダータウンでは直接結び付けていません。私は全く関係の無い所からボーダータウンに興味を持ちました。ジェニファー・ロペスとアントニオ・バンデラスが出るというので前から見ようと思っていました。2人とも私が注目している俳優です。
バンデラスもロペスも俳優としては評価が今一で残念です。バンデラスについては後日触れるとして、ロペスは頑張り屋で、転がり込んだチャンスを掴むのに躊躇しない人。その結果超大物スターにはなりましたが、俳優としてはあまり良いチャンスを掴んでいません。
アウト・オブ・サイトを撮って暫くしたら音楽業界に移ってしまい、あっという間に大成功。突出して歌唱力があるとは思えませんが、当時イメージ歌手が続出し、歌唱力ではなく、ステージのパーフォーマンスが肝心、ダンスをしながら元気良く歌っていればいいという時代に突入。この元凶はマドンナだと私は1人で思い込んでいますが、ブリトニー・スピアーズ他ソロ、グループなどが続々登場しています。ロペスは俳優業を極めずそこに早々参入してしまいました。残念です。
なぜかと言うと、アウト・オブ・サイトの彼女がとてもカッコ良かったからです。ジャッキー・ブラウンより颯爽としており、あのキャラクターで是非続編をと願っていました。当時メグ・ライアンがロマンティックなコメディーを次から次へと作っていましたが、本人はあまり幸せそうな顔をしていませんでした。ですからジェニファー・ロペスが元気のいいお姉さんの刑事役でちょっとロマンチックな、ちょっとコミカルな作品で活躍すればいいのにと思ったのです。
アウト・オブ・サイトの主演の1人ジョージ・クルーニーと監督は折り合いが良かったのですが、ロペスとクルーニーの折り合いが悪かったらしく、続編はできませんでした。クルーニーは彼女が来ると思ったようなのですが、ちょうどその頃ロペスにはコンサートの話があり、コンサートを1度やると映画の何倍もお金が儲かるらしく、彼女は映画にはなびいていません。
後にも先にも彼女にぴったりの役はこれ1本で、他の作品はどうもぱっとしません。本人には 教育映画を作ろうという明確な意思があるらしく、その後の作品ではそういう脚本を選んでいます。今回も恐らくはその路線だろうと思い、彼女のタイプとしての良さを出した映画ではないだろうと思いました。残念ながら予想的中。しかしバンデラスとの共演などという別な話題もあり、ぜひ1度目を通しておきたいと思いました。ロペスだけ、バンデラスだけでも話題性があり観客を集めるだろう、それが2人一緒だから二乗効果があるだろうと思ったのですが、ドイツではさっぱりふるいませんでした。それでも今年のベルリン映画祭の金の熊賞の候補になったのは2人のおかげかも知れません。
★ デーモンラヴァー と関連しているのか
2002年にデーモンラヴァー という気味の悪い作品をファンタで見ました。煮え切らない筋で、結局観客を震え上がらせるだけ。言わんとしている事があるらしいのにスパッと伝わりませんでした。しかしその後1世を風靡した SAW とは一線を画す作品で、何かを訴えたかったようではあります。町の名前は挙げてありませんでしたが、大勢の若い女性が失踪した事件を意識して作った作品のようでした。結果は湿った花火と言うか不発弾と言うか、その程度の出来でした。
言いたい事があるのならはっきり言えというのが私の性格。となると教育映画とは分かっていてもボーダータウンの方が私向きでした。
★ 言いたい事 「人が仰山死んどるんじゃ。何とかせい。」
犠牲者は女性ばかり。5000人という話もありますが、少なくとも公式には375人の女性が何かのトラブルに巻き込まれ殺害されています。自然死ではありえません。この他に行方不明で生存・死亡が確認できていない人が多いです。
町の名前はフアレス町(Ciudad Juárez )と言います。ボーダータウンと呼ばれるのはメキシコとアメリカの貿易協定で国境の真上に工場が建てられているからです。インディオ系の若い女性たちが低賃金で雇われ、工場労働が終わるとスクールバスのようなバスで町へ送り返されて来ます。ところが家に帰り着かない人が時々いるのです。被害者は暴行を受け、殺害されています。ところが警察も政府も動かず、事件は長い間放置されていました。
★ 元々は関心の無かったジャーナリスト
ロペスが演じるのはシカゴのジャーナリスト。今話題の別なテーマを追いたかったのに、編集長に「メキシコの国境にある町の殺人事件を追え」と命じられます。最初はブースカ言っていますが、結局あきらめてメキシコへ旅立ちます。
その町にはかつての同僚ディアスがおり、彼に頼み込んで強引に手伝わせてしまいます。2人はどうやらかつては恋人だったようなのですが、ディアスは現在は家庭を持っており、アントニオ・バンデラスとベッド・シーンなどを派手に演じると、世の女性の恨みを買ってロペス嬢が呪い殺されてしまうので、その辺はさらりとかわしています。
町の人の口は思ったより固く、なかなか取材が進みません。ディアスも手伝いはしますが、何だかこのテーマは避けて通りたいような様子。出る釘のロペスはバンバン打たれてしまいます。しかし実例としてぴったりの女性エヴァを追うようになり、それなりの成果を収めます。ぴったりというのはたった今乱暴されたばかりでかろうじて生き延びたからです。事が事なのでそっとしておいてあげたいと思うのが素人ですが、こういう人を利用しないとメディアは先に進めないのです。
あれこれ困難にぶつかり、果ては彼女が工場労働者に成りすまし様子を探るところまで行きます。スペイン語があまり上手でないという役でどうやったら怪しまれずに済むのだろうと疑問に思いました。こういった事も含めしっかり詰めていない脚本でした。
ロペスの演技を見ていると前半から3分の2あたりまでは腹が立ちます。エヴァを助けると言いながら、もちろんスクープを取りたいわけです。ですから彼女に対する責任感より、報道の方がずっと大切だと黄門様のお墨付きを振りまわし、利用します。危険は大きく、エヴァをしっかりかくまわなければ行けないのですが、アメリカ式の「こうすればこうなるはずだ」との楽観的な理論を振りかざし、エヴァの恐怖を理解しようとしません。なんだ、アメリカ式のご都合主義映画かと思い始めた頃に、そうでもないんだと分かって来ます。3分の2ぐらいまでロペスがアメリカ式を身を持って示し、それが役に立たなかったということが後半3分の1あたりから彼女にも見え始めます。そう言う風な筋運びに決めてあった様子です。
エヴァは犯人を直接見ているので、生還すれば正式に証言ができます。犯人の側からすれば危険極まりない人物。そして単にスクールバスの運転手が出来心でという話ならば、犠牲者にとっては災難ですが、司法や行政の立場からは立憲はそれほど困難ではないでしょう。ところがこの話には町の有力者が絡んでいました。となるとその人たちのお金で町の経済が成り立っていたり、身内の誰かが政界にいたり、さらにはメキシコだけでなくアメリカの政界とつながっていたりするので、関係者逮捕が始まるととんでもない所にまで飛び火しかねません。となると貧しい工場労働者の一メキシコ女性の命は風前の灯。彼女が法廷で証言をするなどと言い出したら、見せしめのためにそれこそ命を奪われかねません。
にも関わらず果敢に事件に挑むロペス嬢という筋運びで、アメリカ式ハッピーエンド、イナフのような安易な終わり方をするのかと思っていたら、そこはちょっとましでした。彼女の側で甘さを悟るシーンがあり、ようやく事の本当の深刻さを悟り、彼女の側に大きな犠牲も出ます。イナフよりは前に踏み込んでいます。本気で社会問題や腐敗に取り組む作品と言えるほどではありませんが、ロペス嬢としては進歩。共演を承知したスターもいます。ちなみにロペスも製作に関わっています。
★ ロペス嬢の意気込み
90年代後半からこの作品はロペス嬢に持ち込まれており、本人もやる気だったようです。それでプロデューサーの所にも名前が載っているのでしょう。実現には10年弱かかっており、筋の持って行き方も今一つという感じではありますが、撮影はあの大スターのロペス嬢という雰囲気をなるべく消そうとしてあり(消え切っていませんが)、町の様子や他の出演者の調和はいいです。撮影には妨害もあり、簡単な仕事ではなかった様子。撮影の一部は事件のあった町で行われており、メキシコやアメリカの有力者も絡んでいるかもというテーマでは、反感を持つ者からの妨害はあっておかしくないのかも知れません。
センセーションになってもおかしくない事件であり、超有名なスターが主演のわりには作品全体に勢いがありません。作る側の意気込みが強いと却ってでき上がった作品はぱっとしないのかも知れません。個人的な意見ですが、せっかくのストーリーが盛り上がりを欠いた原因はロペス嬢が工場潜入を試みるところから九死に一生を得る部分に現実味が無いことに起因していると思います。
エンターテイメント映画ではありません。元からそのジャンルではありません。狙ったのは恐らくトラフィックのような路線でしょう。トラフィックは一見散漫になりそうでいて、まとまりが良く、製作側が期待したキャンペーン効果が上げられたのではと思います。トラフィックに共感する人が多かったのは、扱われたドラッグという物が世界中の誰にでも災いになり得るからでしょう。ボーダータウンは根の深い事件ではあっても、切実に感じるのはその町の人や似たような事件の経験者に限られ、観客の共感を集めるのが難しかったからではと思います。ロペス嬢は女性に訴えかけたかったのではと思いますが、自分がその立場にならないと女性票はまとまり難いです。そのあたりの作戦がうまく行っていないようです。女性に脚本を書かせれば良かったのかと言うと、必ずしもそうではなく感情を移入でき、かつ書く時はいくらか距離を置いて客観性も出せる人でないとダメ。男でも女でも構いませんが、よほとどの達人ストーリー・テラーでないとダメです。ま、ロペス嬢は今後も映画を作る時はそういう路線を選ぶでしょうし、ボーダータウンはイナフよりは良くなっていたので、次に期待しましょう。
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