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ハンニバル・ライジング /
Hannibal Rising /
Hannibal - A Origem do Mal /
Hannibal Lecter - Le origini del male /
Hannibal Lecter - Les origines du mal /
Hannibal rising - Wie alles begann /
Hannibal, el origen del mal

Peter Webber

2006 UK/Cz/F/I/USA 130 Min. 劇映画

出演者

Aaran Thomas
(Hannibal Legter、少年時代)

Gaspard Ulliel
(Hannibal Lector、成人後)

Helena Lia Tachovska
(Mischa Lecter - ハンニバルの妹)

Richard Leaf
(ハンニバルの父親)

Ingeborga Dapkunaite
(ハンニバルの母親)

Michele Wade (乳母)

Timothy Walker
(ナチの士官)

鞏俐
(紫式部 - ハンニバルの伯母)

Rhys Ifans
(Grutas - 土地のごろつき)

Martin Hub
(Lothar - 土地のごろつき)

Joerg Stadler
(Berndt - 土地のごろつき)

Kevin McKidd
(Kolnas - 土地のごろつき)

Richard Brake
(Dortlich - 土地のごろつき)

Stephen Walters
(Milko - 土地のごろつき)

Ivan Marevich
(Grentz - 土地のごろつき)

Ota Filip
(レクター家の料理人)

Joe Sheridan
(孤児院の所長)

Dominic West
(Pascal Popil - パリの警察官)

見た時期:2007年12月

最新ニュース: ラジー賞堂々2部門ノミネート!!

★ そんな無茶な・・・

確かに前に見たアンソニー・ホプキンスのハンニバル・レクターはラスト・シーンで飛行機に乗っており、日本に向かっていました。その頃の映画雑誌のインタビューなどでは詳細には触れずハンニバルは日本に関わりがあるとだけ言われていました。

トーマス・ハリスは筆の遅い作家だそうです。前回アンソニー・ホプキンスは「これで打ち止め」と言いつつ、最後の1本を撮ったのですが、結構年だったので新技術で画面に見える顔の皺を伸ばしてもらったそうです。その物語から暫く時が経ちました。2作目のハンニバルの後プロデューサーはできる限りハリスの新作を待ったようなのですが、次の作品ができあがらず(ハンニバル・ライジングを待っていた様子)、仕方なく以前に書き終えた本(レッド・ドラゴンのことらしい)を元に見切り発射したそうです。ちなみにホプキンスは自分主演2作目のハンニバルでは妹ミーシャが出ないまま話をゲーリー・オールドマンとの対決に集中していました。レッド・ドラゴンで最後のハンニバル・レクターを演じたホプキンスはそのまま卒業。

レクター・シリーズは

小説 映画
レッド・ドラゴン
(スターリングの先輩に当たるFBI捜査官ウィル・グレアムとハンニバルの対決)
羊たちの沈黙
(見習いFBI捜査官スターリングが、事件の分析力抜群のハンニバルの所へ送り込まれる)
羊たちの沈黙
(グレアムがハンニバルに切りつけられた後でスターリング初登場)
ハンニバル
(ハンニバルはスターリングと一緒に逃亡しようと試みるが、説得できず)
ハンニバル
(妹の思い出、最後スターリングと手に手を取って南米にトンズラ)
レッド・ドラゴン
(グレアムとの対決、スターリング登場せず、最後1人で東京に向かう)
ハンニバル・ライジング ハンニバル・ライジング
(妹の思い出)

という順番で小説と映画が作られています。

ホプキンスはその後ハンニバルにそっくりな悪役をオファーされた時臆面も無く自分が演じたハンニバルの役をパクリ。映画ファンはハンニバルのホプキンスを懐かしがっていたのか、誰も文句を言いませんでした。

さて、脚本書きに自ら乗り出したトーマス・ハリスはようやくハンニバルの過去に手をつけ、ホプキンス抜きのハンニバル・ライジングが完成しました。小説も完成したようです。そして日本との関係も無理やりにこじつけてしまいました。ハンニバル・ライジングを見た私は唖然。「そりゃないぜ・・・」です。

★ 映画が完成して間もなく

私はポスターを見て映画館に行くのを止めています。なぜって? - 「こりゃダメだ」と感じたからです。「アンソニー・ホプキンスがあれほど熱演し、ハンニバルという珍しいタイプの探偵の地位をしっかり築いたのだから、その俳優に敬意を払って似たような顔の役者を採用してもいいんじゃないの?」と思ったのは私だけでしょうか。私は俳優ホプキンスを好いていないのですが、それでもこういう感想になりました。小説はハンニバル・ライジング以外の3作を読みましたが、比べて見るにホプキンスは良くやったと思います。

ホプキンスはあごが広くがっしりした感じの人です。ロシア人男性を見ると20代の頃はほっそりとした好男子なのに、40を過ぎると太ったおじさんになってしまうことも多いので、腹が出ているとか頬に肉がついたというのは別に問題ではありません。しかし細かった骨が年を取って太くなることは無いでしょう。人間はあごの太さが違うと受ける印象ががらっと変わります。ウリエルが演じる若きハンニバルは細長い顔で、あごがとんがっていると言ってもいいぐらいでした。

★ ホプキンスのカリスマが無い

ハンニバル・レクターは刑事グラハム 凍りついた欲望でも映画化されていますし、なかなかいい作品なのですが、やはりアンソニー・ホプキンスとジョディー・フォスター主演の羊たちの沈黙のインパクトが強く、レクターと言えばホプキンス、FBI捜査官と言えば初代スターリングのフォスターを思い出します。本人たちがあの役についてどういう感想を持っているかに関係無く、観客は羊たちの沈黙から強い印象を受けたままになっていて、なかなか新しいイメージが受け入れられません。まさにそういうのをカリスマと言うのでしょう。2人の俳優だけでなく作品全体にカリスマ性がありました。フォスターの拒否にあった後、ホプキンスが1人で続投した作品でもカリスマ性は保たれ、スターリングの後継者がこけてもホプキンスは十分観客を映画館に引き寄せました。

★ そんなの関係無い・・・

ホプキンス関係無い・・・路線で始まり、独自路線で終わるハンニバル・ライジング。共通しているのはハンニバル・レクターという役の名前だけで、他全ては似てすらいない非なるもの・・・。他のスタッフが集まって何匹めかの鰌を探したのかと思いきや、プロデューサーはローレンティス、脚本はハリス自身。このシリーズの核となる人たちが参加していました。関係はあるはずなのです。

しかし何じゃ、このこじつけは!?とつい思ってしまいます。ハンニバルは日本と関連がある、なぜなら・・・ということで、戦時中のエピソードの後青年ハンニバルは パリに住んでいる日本人の伯母を訪ねます。その女性を演じるのが中国が国を挙げて応援しているはずの大女優。国を挙げたはずの大女優が日本人を演じるのはこれが初めてではありません。ちょっと前には確か芸者になった女性がいました。その女優と因縁が無いとは言えない鞏俐が欧州の貴族の嫁はんになっていました。その名もレディー・ムラサキ。詳しいサイトには紫式部と書いてありました。えええ!?どこにあるの?そんな名前!?

日本の紫式部は人の名前ですらなく、宮中の雑用をする人たちがいる部屋の名前であったり、そこで働く女官を指したりします。苗字が紫さんで、名前が式部さんではないのです。それに武家の女性と宮中の女性では信じる宗教から服装、習慣ががらっと違います。その後出るわ出るわ、矛盾のパレードです。今の若い人は何も知らないからいいだろうと思ってやったのか、日本人の神経を逆撫でするために確信犯的にやったのかは分かりません。いいかげんな脚本で演じさせられる鞏俐の立場も良く分かりませんでした。

★ そもそもの始まりは

小説ハンニバルにもチラリと出ますが、ハンニバル・レクターは1938年生まれ。ソビエト時代のリトアニアの貴族の跡取息子です。帝政ロシアからの独立は1918年。ところが1940年に共産化したソビエトに取られてしまいます。ドイツがソ連に勝手に「あげるよ」と言ったので決まってしまいます。1991年に独立するまでリトアニアはソ連の共和国でした。ですから近年は22年間、16年間と独立していて、その前と間、長い間ロシアの支配下にありました。共産圏に入るのは1940年で、ハンニバル・レクターの話は1941年頃という風になっているので、歴史年表上の計算は大体合います。事件は1944年だったという説もあります。そうするとレクターは6歳で、年下の妹を護るという責任感を持っていたと考えるにはこちらの説の方が説得力があります。

ドイツが攻撃をしかけて来るため4人家族のレクター家の人々は召使なども連れ住み慣れた城を後に、湖畔にある夏の別荘に避難。そこも攻撃を受けます。空からはドイツ軍の飛行機の爆撃、地上からはソビエト軍の戦車。そしてドイツ軍に雇われた土地のごろつきも現われます。レクター一家は小学生ぐらいのハンニバルともっと小さい妹のミーシャを残して全員死んでしまいます。ハンニバルが必死に守ろうとしたミーシャも大変な目に遭います。

やがて戦争は終わり、孤児としてハンニバルはソビエトの孤児院に収容されます。その建物はかつて自分が住んでいた城。ドイツにも自分の家が先祖から受け継いだ城だという人がたまにいるので、私もいくらか事情を知っていますが、ハンニバル・ライジングの城のシーンはわりと本当臭く描かれていました。ハンニバルに取って苦しいのは、かつて自分や両親が使っていた部屋が戦時中ナチの親衛隊に摂取され、事務室になっていたり、戦後ソビエトが孤児院にしてからは大部屋に孤児の1人として収容され、舎監の言う事に従わなければ行けないという点。両親や妹を失った時の悪夢に取りつかれうなされるハンニバルは酷く扱われ、ついにパリに向けて出奔。

★ 幸せはパリで・・・

厳しい道を生き抜いてパリに到着。あてにしていた伯父は戦争で死んでいましたが、親切な奥方に受け入れられます。これが上にも書いた紫式部。この瞬間まじめに取るのを止めてしまいました。あほらし。

しかしハンニバルの身の上に何が起こったかは書かなければ行けません。まずは生活を整え、自宅で紫式部から剣道を教わります。宮中の女性は剣道はしないのではと思いますし、戦時中女性が習ったのは長刀の方が多かったのではと思うので、違和感続出です。刀の手入れの仕方も教わりますが、その辺に何本も刀が飾ってあり、武士の鎧も飾ってあり、それが祭壇のような配置になっていて、先祖との対話がそういう所で行われたりするので、私は目を白黒。彼女からは日本文化をざっと教えられるという事で茶道も出て来ます。このシーンで日本人は大半ずっこけてしまうか、笑い転げてしまうかも知れません。ま、その辺は諦めましょう

ハンニバルはある程度精神の平静を取り戻し、パリの生活に慣れて行きます。そんな中市場で紫式部に差別的な態度を取る魚屋にハンニバルが腹を立てて喧嘩になります。結局は殺してしまいます。似たような出来事は映画でスターリングがホプキンスのハンニバルを訪ねた時に刑務所でも起きています。ですからこのシーンはもう少し印象的が残るように描いても良かったのではと思いました。

やがてパリで医学部に進みます。死体置き場でアルバイトをしながら学校へ行き、知識を広めて行きます。もう大分前に読んだのではっきり記憶していないのですが、ハンニバルは確か精神分析医ではなかったかなどと思いました。パリでは何だか外科に興味を持っているような感じです。

こじつけという言い方が正しいのか分かりませんが、ロシアにいるナチの兵隊と、ソ連の革命軍両方の兵士が規律も忘れ酷い事をする役になっていて、フランスでは地元の肉屋が日本人のムラサキに酷い人種差別をするという具合に周囲の皆がレクター家の誰かに酷い仕打ちをするという役どころになっていました。そりゃドイツ軍もロシア軍もフランス市民も状況によっては酷い事をする人もいるのかも知れません。しかし冒頭にこうやって周囲の誰も彼もが・・・と言う風に出されて来ると現実味が薄れてしまいます。これはレクターと紫式部を強く結びつけるための安っぽいトリックなのだ・・・などとかんぐってしまいました。手口が安っぽいと映画の深みが薄れ、本気で見なくなってしまいます。

ハンニバル・ライジングはあの人食いハンニバルがどう言う風に生まれ、凶悪な殺人鬼に育って行ったのかというのがメイン・テーマ。素直な良い子が、こういう事情で・・・という筋運びです。しかし悲劇も重ね過ぎるとアホらしくなってしまいます。

日本人の伯母との絡みもアホらしく見えます。まずは同情されて居候を許されます。彼女から剣道と祖先崇拝を教わるという事になっているのですが、このシーンは現実味を欠きます。彼女の立ち居ふるまいも気品を欠き、貴族の妻という感じではありません。当時の日本女性だったら貴族どころか普通の女性でも家の中で胸を出して歩いたり、妙な服装はしません。

鞏俐には向いた役もあるのですが、紫式部は彼女が向いていないから失敗というより、作り上げた役がむちゃくちゃと言った方がいいかも知れません。ロシアに留学をしたらしい元バレリーナの有名女優ならいくらかましな演技をしたかも知れませんが、その彼女でもこの役では迷惑するかも知れません。

成長したハンニバルを演じるガスパー・ウリエルもカリスマ性と気品に欠け、後のハンニバルであるアンソニー・ホプキンスにもブライアン・コックスにもつながりません。紫式部から習った剣道は確かにイタリア滞在中のホプキンスに居合抜きという形で生かされています。何とか以前の作品につながるように持って行こうとの努力はしているようです。

その他に愚痴るとすれば、青年ハンニバルがわりと簡単に国境を越えてリトアニアに戻ってしまうのですが、89年までの東西ドイツの検問の様子などを知っていると、ああも簡単に東側に入れてしまうのか不思議に思います。と言ったわけで突っ込みを入れようと思えばいくらでも入ってしまう作品です。

恐らく今後ホプキンスはレクターを演じないだろうし、ハリスは筆が遅い人。私はそれこそハンニバル・ライジングは止めておいた方が良かったかも知れないとすら思います。ちょっと古い言葉ですが、残念!この作品がラジー賞に行きついてしまったのには大いに納得が行きます。

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