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レッドドラゴン /
Red Dragon /
Roter Drache

Brett Ratner

2002 USA/D 124 Min. 劇映画

出演者

Anthony Hopkins
(Hannibal Lecter - 猟奇殺人鬼、服役中、連続出演3回)

Edward Norton
(Will Graham - レクターを捕まえたFBI捜査官、プロファイラーの草分け的存在)

Mary-Louise Parker
(Molly Graham - グレアムの妻)

Tyler Patrick Jones
(Josh Graham - モリーの息子)

Harvey Keitel
(Jack Crawford - グレアムの上司、スコット・グレンに代わって登場)

Anthony Heald
(Dr. Frederick Chilton- レクターの収監されている刑務所の所長、再登場)

Frankie Faison
(Nurse Barney Matthews - レクターの世話をする男、4作連続出演)

Ralph Fiennes
(Francis 'Tooth Fairy/Red Dragon' Dolarhyde - 猟奇殺人鬼)

Emily Watson
(Reba McClane - 盲目の女性、ドラーハイドのガールフレンド)

Philip Seymour Hoffman
(Freddy Lounds - パパラッチ風ジャーナリスト)

被害者一家 1

Tom Verica (Charles Leeds)
Marguerite MacIntyre
(Valerie Leeds)
Thomas Curtis (Billy Leeds)
Jordan Gruber (Sean Leeds)
Morgan Gruber (Susie Leeds)

被害者一家 2

Dwier Brown (Mr. Jacobi)
Grace Stephens
(ジャコビ家の子供)
Lucy Stephens
(ジャコビ家の子供)
Kevin Bashor
(ジャコビ家の子供)

Lalo Schifrin
(オーケストラの指揮者)
Veronica De Laurentiis
(レクターの夕食の客)
John Rubinstein
(レクターの夕食の客 - アルトゥール・ルビンシュタインの息子)
Ellen Burstyn
(ドラーハイドの祖母の声)

見た時期:2002年11月

要注意: 映画と本のネタばれあり!

3部作全部見ました。やはりジョディー・フォスターが懐かしいですが、ハンニバルをパスしたのは本人のためには良かったかと思います。ホプキンスは3作統一が取れていてなかなかいいです。

本を読んだ方はご存知でしょうが、本来の順番はレッド・ドラゴン → 羊たちの沈黙 → ハンニバルです。作者トーマス・ハリスはプロファイラーという職業ができつつある頃から記者としてこういうテーマに関わっていたとかで、映画のレッド・ドラゴンでも天才的プロファイラー、グレアムの仕事ぶりが軽く紹介されています。本にはグレアムの動作だけでなく、考えている事も書かれているので、読者には映画より深く伝わって来ます。

レッド・ドラゴンはご存知リメイク。元になった刑事グラハム 凍りついた欲望もなかなか力の入った作品だったようで、立派な監督で立派な俳優が出演しています。グレアムを演じた William L. Petersen は狼たちの街ザ・コンテンダーに出ていた人です。ザ・コンテンダーの役は主役ではありませんが小さくありません。レクターはブライアン・コックス、レバには何とジョーン・アレン、クロフォードにはこれまた何とデニス・ファリナ、そしてレクターの看護人でホプキンスと共演している Frankie Faison が Fisk 役で出ています(4作連続出演)。まだ見ていないのですが、これだけのキャストを見るとリメイクの必要はなかったのかとも思います。が、ホプキンス & Co. はレクター物を全部映画化したかったようで、結局はリメイクになりました。

筋はかなり小説に忠実です。ボーン・アイデンティティーの逸脱がはなはだしいことを考えると、作家冥利に尽きるのではないかと思います。2時間ちょっとと長めですが、小説を上手に画面に移しています。

グレアムがエドワード・ノートン、クロフォードがハービー・カイテルだと聞いて実は見る前暫く首をひねっていました。小説からグレアムをノートンより年上、もう少しがっしりした体格の人というイメージを抱いていたので、ロバート・ダウニー・ジュニアぐらいがいいかと思っていました。プロファイラーとしての天才的なひらめきは服装や体格には表われていないというイメージも持っていたので、外見は普通の FBI エージェントに見えた方がいいように思いました。ロバート・ダウニー・ジュニアはこういう役を1度やったことがあり、きちんとはまっていました。クロフォード役はスコット・グレンでちゃんと決まっていたので、これまた体格も風貌も全然違うハービー・カイテルと聞いて懐疑的になっていました。小説は視覚の世界ではないので、読む人がそれぞれ勝手な事を想像します。その上同じシリーズで俳優を取り換えられてしまうと、こちらはちょっと戸惑います。

さて、蓋を開けてみてどうだったか。冒頭コンサートと夕食のシーンが出て来ます。コンサートはハンニバルのラストを思わせますが、時代はずっと前の80年代。レクター博士はまだ警察の厄介にはなっておらず、上流階級の優雅な生活を送っています。もっとも映画のハンニバルでなく、小説の方を読んだ方は、ここに至る前、大戦中に大きな悲劇が起こっているのをご存知ですね。その後アメリカにやって来て医学や心理学を修め、精神分析医として開業しているはずです。映画では監督のいたずらか、コンサートの指揮者はあのラロ・シフリンで、レクター博士が主催する夕食の客の中にも有名人が混ざっています。何を食べさせられていることやら・・・。このシーンはレクター・ファミリーという感じです。

その後レクターの正体をグレアムが見破り見事捕まえます。相討ちに近く両方とも重傷。グレアムの傷口は小説ではもっと長くて大きかったように思います。腹切りシーンはハンニバルで充分やったので、こちらでは少し抑えたのでしょう。おおむね小説通り進み、レクター博士1人は捕まえたものの世間では新人が現われ、猟奇殺人は時々起こります。最近の事件で FBI は行き詰まり、クロフォードは FBI を辞めたグレアムをフロリダまで追って来て捜査に協力するよう説得します。彼のような才能あるプロファイラーでないと FBI は手も足も出ない、というほどの凄腕の犯人登場です。グレアムはボートの修理人という仕事と家庭に大いに満足しており、プロファイラーとして働く気はありませんでした。何よりも妻が心配します。しかし結局クロフォードの説得が功を奏ししぶしぶ出動。すぐ一つ二つ手がかりをみつけますが、犯人にあまり近づけません。それでレクター博士の登場。

このあたりのシーンも家族関係などにごく僅か小説との違いがありますが、話の大筋とは関係が無く、ほとんど小説そのままと言ってかまわないでしょう。

羊たちの沈黙を見ていた頃私は鈍くて、新式のアームチェアー物だと気づきませんでした。レクター博士の食事の嗜好があまりにも劇的、エキセントリックだったのでそちらに目を奪われてしまっていたんですね。しかしよく考えてみると、これは刑務所という環境で拘束され自由に動けない名探偵の話だったんです。その原点に当たるのがレッド・ドラゴン。スターリングより前にグレアムがレクター詣でをしていたのです。

あの懐かしい刑務所、懐かしい所長、懐かしい看護人登場。屁理屈の得意なレクター博士との取引シーンは相変わらず楽しいです。この辺は映画の印象が小説に重なり、小説の印象が映画に重なり、頭の中では映画と小説がカクテルになってしまいました。

憎まれ口を利くレクター博士ですが、グレアムはそれでも時々知恵を授けてもらいます。ドイツ語に翻訳されている映画ではノートンが偉い先生を前にした若い学生みたいに見えてしまいました。この辺、見習中の FBI スターリングの方が、Quid pro quo (1つずつケリをつける = あんたが1つ教えてくれたら、私も1つ教える)と言い張り、よく食い下がっていました。しかしうら若い女性の方が自分を逮捕した FBI 男より魅力的なのは当然。それでレクター博士もスターリングに食い下がらせていたのでしょう。レクターはグレアムにはちょっと素っ気無いです。クロフォードはこの時の経験を忘れず、羊たちの沈黙の時はレクターの注意を見事スターリングに集めることに成功しています。もっともハンニバルではスターリングを掠め取られてしまいましたが。

レッド・ドラゴンでちょっとノートンが気の毒に見えました。実際はノートン自身が天才的な能力の持ち主で、たいていの事件は片付けてしまえます。他の人が見逃す証拠などにちゃんと注目するからです。そしてそのノートンでもかなわないもっと凄い犯人が現われたので、仕方なくレクターの助けを借りるという設定です。この点は羊たちの沈黙の方が良く出ていたように思えます。まだ警察学校で修行中の FBI の見習学生が抜擢され、他の先輩について行けるという面が良く出ていました。ノートンの方はこの辺がちょっと少なかったので、下手をすると FBI が無能だからレクター先生に助けを請うという図式に見えてしまうかも知れません。

カイテル以下の捜査スタッフはそれなりにがんばっています。そこにグレアムとレクターが知恵を貸すので、徐々に犯人に近づいて来ます。しかし捜査会議の場面は何だか普通の警察のように見え、FBI と警察の差がどこにあるのかはますます分からなくなって来ました。(処刑人のウィレム・デフォーとフレイルティー 妄執のパワーズ・ブースも FBI ですが普通の刑事に見えました。ですから FBI はパリっとしている、地元警察はもさっとしているというのは私の偏見なのでしょう。)

犯人役のレイフ・ファインスは力を入れています。体の方に。演技はそれほど出番が無いので何とも言えません。しかしあの体が勝負のしどころですから、それでいいのでしょう。この人はあまり楽しい役は好きでないのか、出会う役は暗い物が多いです。彼に絡むエミリー・ワトソンがおもしろいです。盲目の人はあんなにパッチリ目を開かないのが普通だとか、いくつか文句を言う隙はあるのですが、それでもいい出来です。ユニークなのは普通目の不自由な人を描く時観客がその人に同情できるような役が多く、そこでステレオ・タイプにはまってしまうのですが、ワトソンが演じているレバはそれを越えて、この年齢の女性が持つ当然の関心を演じています。無論これはワトソンがどうのこうのというのではなく、ハリスの原作に原因があるのですが、それをワトソンが存在感を出して演じています。この役にジョーン・アレンを当てたのも分かるような気がします。この時レバとグレアムを演じた2人はその後ザ・コンテンダーで再会。不思議な縁です。

残酷さは抑え気味で、死体はあまりたくさん出さず、血痕などで暗示しています。ハンニバルではジャンカルロ・ジャンニーニ他で、血の狂宴をやったことを考えると別人が監督したのかと思います。

そうです。別な人が監督です。ジョナサン・デミ → リドリー・スコット → ブレット・ラトナー。ジョナサン・デミは羊たちの沈黙の後フィラデルフィアでも主演にオスカーをもたらしていますが、作品数はあまり多くありません。リドリー・スコットは作った数が少ない割にヒット作の多い人で、大金をかけた作品も多いです(後記: 年末にはナイトの称号をもらいました)。ラトナーはまだ若く、これまでラッシュアワー(1、2、そしてレッド・ドラゴンの後で3に取りかかっています)や天使のくれた時間などとコメディー系をやっている人で、およそレクター向きではありません。こういった全然違うタイプの監督が3人で撮っていますが、それにしてはよく調和が取れていて、ちぐはぐになっていません。そして回数が増すにつれて質が下がる恐れもあるのですが、ことハンニバル・シリーズに関しては見劣りする作品に下がって行く様子はありません。ですから3作連続して見るのもおもしろいかも知れません。〆て6時間ちょっと。ファンタに比べれば軽い軽い。

3作目は同窓会のような面がありますが、ストーリーが小説にかなり忠実で、切り落とした部分も非常に少ないので、全然知らない人が見ても見ごたえのあるスリラーになっています。猟奇性は映画のシーンではかなり削ってあります。ホプキンスの出番は前2作より少なく、他の出演者の出番が不公平なく平均的に配分されています。レッド・ドラゴンではスターリングのような中央に位置する人物(ヒロイン)がいないのでインパクトに欠けると感じる人がいるかも知れません。捜査は役所の建物の中で協議したり、分析したりするシーンが中心で、FBI と言うより、大都会の警察という感じがします。しかしだからと言って文句はありません。今悩んでいるのは、全部まとめて見る時どういう順序で見るかということ。

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