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トランスポーター 3 /
Le Transporteur 3 /
Transporter 3 /
Transporter - Correio de Risco 3

Olivier Megaton

2008 F 100 Min. 劇映画

出演者

Jason Statham
(Frank Martin - 運び屋)

François Berléand
(Tarconi - 警視)

Robert Knepper
(Jonas Johnson - 環境屋)

Jeroen Krabbé
(Leonid Vasilev - ウクライナの環境大臣)

Natalya Rudakova
(Valentina - ヴァシェフの娘)

David Atrakchi
(Malcom Manville - フランクの同業者、ヴァレンティナの最初の運び屋)

Timo Dierkes
(Otto - フランクの友人)

見た時期:2009年1月

トランスポーターの特徴は分かり易さ。複雑なプロットにせず、しかし犯罪映画として通用する出来事を設定し、そこに詰め込める限りのアクションを詰め込む、主人公のストイックな生き方を強調する、黒い車、スーツにこだわる、できる所はできる限り極端に描写する、女性に対して敬意を表さない等など。

最後の点があるので女性の観客には嫌われるかも知れません。ドイツで進歩的な女性に見せたら頭から湯気を出して怒るかも知れません。女性監督が進出して似たような作品を逆の立場にして作るなどと言う挙に出る人がそのうち出るかなあ、出ないかなあなどと考えているところです。ドイツには女性監督も出始めているのですが、まだそれほど説得力のある作品は出ていません。その点ではキャメロンの元奥方のようなアメリカの女性監督の方が一歩先を行っていると言えるかも知れません。誰々の奥方という見方が消え、自分の名前でオスカーを取りに行くような人が出るのはやはりアメリカの方が早いのかも知れません。ドイツは元から「自分の名前で出ています」路線の女流監督ばかり揃っているのですが、力強い作品はと見渡すとあまり無いです。

私は男性監督がこういう作品を作るということは同じ事を女性がやっても構わないと見る性質なので、ベソンが3作続けてこういう作品を作っても(制作に関わっている)頭から湯気は出していません。彼の女性観がこうなるには彼なりの理由があるのだろうと感じるからです。反転した男性観を持つ女性が出て来てもいいだろうぐらいの呑気さで受け取っています。男性がやっている事を女性が全部真似する必要もないので、出て来なくても構いません。

ゴーン・ベイビー・ゴーンが公開された初日に懸賞に当たってしまい、嬉々として見に行きました。ただで見られるのが嬉しかったのです。去年の暮れ、どういうわけかジェーソン・ステイサムの作品が大挙して公開される運びになり、ガンガン予告編が出ていました。ですから間もなくトランスポーター 3 が出ることは分かっており、刑務所の自動車レースの話よりはおもしろそうだと思って待っていました。大枚はたいて見るような作品かなあとの迷いもあったのですが、運良く懸賞に当たりました。外は氷点下10度を切っていたようですが、大した厚着をしなくてもさほど寒いと感じる日ではありませんでした。

★ あらすじ

上にも書いたようにゴーン・ベイビー・ゴーンなどに比べると単純なストーリーです。

ウクライナの大臣の娘を人質に取って、大臣に気に入らない契約にサインを強いようと目論んだアメリカの環境事業家ジョンソンが犯人。元から犯人は犯人として登場し、あっと驚くサプライズはありません。大臣が環境関係の国際会議に出席することになっている午前8時あたりをデッドラインと定めており、事件はほんの数日の出来事として描かれています。

★ 立派な悪役がいてこそ

犯人を最初からはっきり登場させてしまっても関心は削がれません。ジョンソンを演じている俳優がジェームズ・ウッドの後継者のような人で、立派に悪役をこなしています。B 級アクションとしては高級な俳優を起用したと思います。演じているのはアメリカのベテラン俳優ロバート・ネッパーですが、プリズン・ブレイク前に名前を覚えている人はほとんどいないでしょう。デビューは結構遅く、スターとは程遠い感じの履歴の人です。それでも出演すると比較的上の方にキャスティングされています。私が見た作品ではデニス・ホッパー、クリストファー・ウォーケンなどが出ていたサーチ&デストロイを挙げることができます。

プリズン・ブレイクトランスポーター 3 では気合の入った悪役を演じており、無名時代が非常に長いのに俳優業は続けていることを考え合わせると、今後悪役として前途有望ではないかと思います。こういう根性の座った悪役がいてこそ、善玉の主演が映えるわけで、俳優仲間や監督からは気に入られるのではないでしょうか。

★ 単純ではあるけれど

ストーリーは単純なのですが、所々に重いテーマも入れてあります。例えば腕時計を大きくしたような物を手首にはめてしまい、それをネタに人質の女性と運び屋を脅すのが犯人の手口なのですが、某国有名大統領がある日突然たくさんいた記者に向かって「僕のポケットには何も入ってないよ」と言ってポケットを裏返しにして見せ、「僕が持っているのはこの腕時計だけさ」と発言したことがありました。その少し前に某有名大国である男が誰かに首輪をはめられ、警官に囲まれ、逮捕されようとしている時に、何かの犯人と目される男が必死に「危ない、この首輪は爆発するんだ」と叫んでいました。警察はその意味を理解しなかったのでしょうか。男の首はレポーター、回っているカメラの前で吹っ飛んでしまいました。ソウなどの映画が出始めた頃でした。映画を見るのは楽しいと手放しで喜んでばかりはいられなくなりました。

また、環境問題と取り組むのは良い事だと言われていましたが、その裏にどういう問題があるのかは長い間映画では表立って取り扱われていなかったように思います。報道関係では○○のゴミ処理がどうのという事が報じられますが、具体的に何がどうなっているかは一般人には想像もできない事で、ゴミを持って来られるために反対運動をしている人の気持ちが実感できるとは言えませんでした。

そういう意味ではトランスポーター 3 の冒頭の船のシーンは注目です。アルコールを輸送しているのだと思い込んでいた船員がとんでもない死に方をします。そして死体処理は Cargo を参照して下さい。

といったわけで、アクロバット的なセンセーショナルな、ちと漫画的なアクション・シーンだけでも十分楽しめますが、多少深読みもできる仕掛けになっています。

★ リュック・ベソン

ここでなぜベソンが出て来るかと言うと、トランスポーター全作の脚本に関わっているからです。監督は15本、脚本は40本弱、制作は90本ほどに関わっている人ですが、トランスポーターでは監督は他の人に頼み、脚本と制作をやっています。全作ともロバート・マーク・カーメンというアメリカ人と共同で書いています。ベソンとのつながりが長く、またガッチャマンカラテ・キッドなど日本が関連する仕事もしています。トランスポーターが漫画っぽいのは彼の影響かも知れません。

ベソンの影響が強いかなとかんぐることができるのは映画の女性観。日本の某有名プロデューサーと似て、妻やパートナーを起用してヒット作を作る傾向があり、熱が覚めると作品も作らなくなり、離婚となることがありました。最近は方針を変えた模様。しかし一時期特定の女性によほど頭に来ていたのでしょうか、見え見えのシーンがいくつか出て来ます。今回はウクライナが舞台に使われていて、人質の女性にしつこく誘惑されるシーンが登場します。

★ 監督が変わった

トランスポーター全作でベソンは監督をやっていません。第1作はルイ・レテリエとスタントで有名な香港出身のコリー・ユン。2作目ではルイ・レテリエが監督に納まり、コリー・ユンはスタント・コーディネーター。第3作はオリビエ・メガトンという不思議な名前の人。日本に関心があるらしく、原爆投下を理由にこういう名前にしたそうです。スタントはコリー・ユン。

今回監督が全く違う人になっていますが、前2作との大きな落差はありません。脚本が通しで同じ人、主演も同じ人、スタント・コーディネーターも同じ人なので、ぶれなかったのだと思います。主人公が自分で規則を作っておいてそれを破り、災難に遭うというギャグは踏襲されています。スタントには香港式のお約束があり、香港映画を見慣れている人には故郷に帰ったような安心感があり、見慣れていない人からは「あんな事があるかよ」と愚痴がこぼれるでしょう。

悪役がジェーソン・ステイサムに殴られる寸前に一瞬の休憩があるのです。生きるか死ぬかの闘争で犯人が一瞬待ってあげるなどという慈悲深い事はあり得ませんが、トランスポーターでは香港映画でおなじみの形式が守られています。欧州に住んでいて、ほとんどが欧米人の俳優で、その西洋人が香港の方式で乱闘しているのを見るのは、アジア人に取ってはちょっと楽しいです。

振り付けをして出演者がダンスをするように動いているのは見え見えですが、その分これまでの欧州映画には無かったダイナミックな動きや、神業とも思えるスタントが見られるので、アクション映画のファンには楽しい限りです。積極的にそういう物を取り入れたベソンは先見の明があったと思います。

★ キャラクター

レギュラーで登場するのは主演のステイサムとフランス人フランソワ・ベルレアン。トランスポーターが他のアクション映画より長持ちするかなと思わせるきっかけを作る警視役です。フランク・マーティン1人ですと、やくざの仕事を引き受けるので、暗黒の世界に属している人間となってしまいます。その彼をいくらかでもまっとうにさせるのが警視。フランクが巻き込まれる事件が人身売買だったりすると警視が出て来ます。2作目でもアメリカに来て、子供の学校への送り迎えの仕事を始めたりと、フランクはやばい仕事から引退しつつあるという設定にしてあります。3作目では理由は定かではありませんが、依頼を断わり別な人物を紹介しています。その人が殺されてしまい相手の強い希望で引っ張り出されてしまうという設定になっていて、ここでも事件解明と正しいオトシマイをつけるために警視と協力しています。片足をやばい事に突っ込んであり、半分まっとうな行動を取るので、単純なスーパーヒーローよりおもしろくなっています。

更に観客をひきつけるのは自分で作ったルールを破ったが故にとんでもない事に巻き込まれてしまうという設定。3作目はちょっとそこが後退していますが、いずれまたこの手は脚本に使われるでしょう。フランクのキャラクターを必要以上にストイックにしてあるので、その落差が大きく、ステイサムが「こんちくしょう」と自分を罵るシーンが愉快です。この笑いは計算してありますが、それでも愉快で、ステイサムにぴったりです。

前にも触れましたが必ず登場するのが泳ぎのシーン。ベソンが以前は潜水などに関わっており、そちらの職業を希望していたこと、ステイサムが以前選手だったことと無関係ではありません。3作目にも重要な所で潜水シーンが登場します。

3作目では警視との静かなシーンが強調されています。1番最初と最後に出て来ます。1作目ではそれはまだ無理でした。何しろ警視は事によったらフランクを逮捕したかも知れないためです。2作目ではその事件を機に知り合ったらしく、アメリカにいるフランクを休暇で訪ねて来ます。ここでは友情が成立しています。3作目では2人は一緒に休暇を過ごしていて、事件は予想外でした。フランクは巻き込まれの典型を演じていますが、そこへこの警視が登場し、さらりとした友情をキープ。ほっとする、そして少し笑えるシーンを作ります。全編大アクションですと疲れますが、警視が出るシーンでは落ち着きます。このバランスも計算済みなのでしょうが、上手く行っています。

★ 結論

というわけで女性の扱いの悪い作品ではありますが、色々プラスの点がつく所もあります。

関連作品: トランスポーター  トランスポーター 2  アドレナリン

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