映画のページ

傷城 /
Seung sing /
傷だらけの男たち /
Confession of Pain

劉偉強/Wai Keung Lau、麥兆輝/Siu Fai Mak

2006 HK 110 Min. 劇映画

出演者

梁朝偉/Tony Leung Chiu Wai
(劉正熙/Lau Ching Hei - 刑事)

金城武
(丘建邦/Yau Kin Bong - 私立探偵、元刑事)

舒淇/Qi Shu
(細鳳/Sai Fung - キャンペン・ガール)

徐静蕾/Jinglei Xu
(周淑珍/Susan - ヘイの妻)

Chapman To
(崔永光/Tsui Wing Kwong - ボンの知り合いの刑事)

Hua Yueh
(Chau - スーザンの父親、殺害)

Wan Yeung-Ming
(スーザンの父親の部下、殺害)

Emme Wong
(Rachel - ボンの恋人、自殺)

Bo-yuan Chan
(Lai Sun Wah)

Ankie Beilke
(売り子)

Yiu-Cheung Lai
(Chan Wai Keung)

Toby Leung (警官)

見た時期:2007年8月

2007年ファンタ参加作品

今年のファンタ、アジアからは日本勢がドーっと押し寄せ、韓国と中国は押され気味。中国からは大陸から1本、香港から1本だけでした。大陸の方からは現実味に欠けた作品が来たのですが、香港からは比較的まともな作品が来ました。インファナル・アフェアを見てしまうと他の作品が弱く感じますが、傷だらけの男たちは一応体裁の整った作品です。

★ 主演の2人

主演にはスターを起用していて、特に重要な役どころに梁朝偉と金城武が入っています。千葉県人金城武は沖縄と台湾の血を引き、インターナショナルな人ですが、名前も《金城 武》とも《金 城武》とも見ることができ、それだけで視覚的には韓国や中国でも受け入れられやすいのではと思ったことがあります。中国や韓国で男性に《城武》という名前をつけることができるのかは、その国の人に聞いてみないと分かりませんが。金城というのは沖縄に多い苗字です。

私は1度だけ彼を恋する惑星で見たことがあるのですが、ずいぶん前のことです。その時はちょっと変な役で、映画全体はコメディー風でした。それで一応顔は記憶に残っています。その後井上さんから送られて来た映画のチラシやパンフで何度も顔を見ましたが、どうも大甘のロマンチック、センチメンタルな映画に出ていたらしく、一向に興味が沸きませんでした。

そんなこんなでもう10年以上。金城を見るという意味では全然期待を抱いていなかったのですが、意外と良かったです。彼は共演の梁朝偉よりやや背が高く、目はアイラインでも入れたかのような感じで最初のシーンでは好感を持たなかったのですが、しゃべり始めて驚きました。なかなかいい声をしています。彼が何カ国語を話せるのか分かりませんが、出演したのはテレビも合わせて40本弱。ざっと見ると香港の広東語、台湾の言語(具体的にどの言語かは不明)、日本語、 マンダリンと呼ばれる中国語、英語などが話せるらしいです。いずれにしろ複数の言語を駆使して、映画でちゃんと役を演じられるようです。数としては香港映画の出演が1番多いです。これまで甘い顔の弱そうな坊やというイメージを抱いていたのですが、傷だらけの男たちを見てからはジョシュハーネットのアジア版というようなイメージに変わりました。妙な表現ですが、株が上がったという意味です。

★ ストーリー

私立探偵のボン。恋人のレイチェルには別な愛人がいて、その男が自動車事故で死亡。意識不明の間はボンがその男の世話をします。レイチェルはどうやら愛人の子供を妊娠していたらしく、絶望的な状況。レイチェルも死に今度はボンが絶望。ボンの手は自然にアルコールの方へ。

刑事ヘイは大金持ちのチョウの娘スーザンと結婚。父親を何者かに殺されたスーザンは夫の元同僚で現在は私立探偵になっているボンに調査を依頼。警察の表向きの説明に納得できなかったのです。ボンが発見した事実はヘイとスーザンの関係をややこしくしてしまいます。チョウと部下を殺したのは実はヘイ。70年代にヘイの家族を殺したのはチョウ。自分の一家が皆殺しにあったようにヘイはスーザンの家族全員の暗殺を企みますが失敗。彼女は重傷で生き残ります。ヘイは意識不明のスーザンの世話をしている間に家族を完全に抹殺することのむなしさに行き当たります。しかしスーザンはヘイを1人残して死んでしまいます。思い通りに復讐を果たしはしたものの、両家共死に絶え、残ったのは自分1人。

★ 中国の事を知らないと

中国人の知り合いは過去にいたことがあるのですが、それで中国を知ったとはお世辞にも言えないです。外国に出て来る中国人は良家の子女だったり、西欧に適応していたりするので、日本人が付き合ってもそれほど違和感を感じません。しかし中国と言うのはご存知のように広大で、色々なタイプの人が住んでいます。

日本では有名な浅田という小説家の書いた長い小説を読んだ時も、自分の知っていた中国人と違うなあと思いましたが、ああいう中国人も、こういう中国人も、まだ知らない中国人もいるのだということが分かったのは収穫でした。

傷だらけの男たちを見ると長い間の恨みが殺人という形で現われるのですが、理屈だけを聞くと、一家皆殺しの目にあった遺族が復讐をというのは映画の主題として納得します。日本でも江戸時代のあだ討ちの話が伝わっていたりするので、一応話にはついて行けます。ところが実際にはエリートの刑事になっていてそれなりに警察の中でも信頼を置かれる立場になった男が、実は敵(かたき)の家の娘と結婚していて毎日「おはよう」と言って一緒に朝食を取り、仕事が終わると「ただいま」と言って帰って来る。いずれ彼女の親を殺してやろうなどと思いながら10年、20年を過ごせるだろうかと日本人は考えてしまうのです。日本人はこういうところがあまり長続きしません。

聞くところによると中国人の間では何かで揉めるとその後一生口を利かないなどという事もあり得るのだそうですが、最近の香港映画にはあまりそういう根強い恨みを描いた作品がありません。私はそれほどたくさん香港映画を見たわけではないので、考え方がずれているかも知れません。少なくともブルース・リーの映画には復讐劇がいくつかあったように記憶しています。

英国との関係が深くなっていた香港と、大陸内部の中国ではそのあたりの考え方、処理の仕方も異なっているのかも知れません。梁朝偉演じるヘイは、仕返し当然⇒ばっさりではなく、最後の方で葛藤が起き、苦しみます。かつて日本で一世を風靡したでたらめ外国語の2人目の名手、○○○氏でもきっちり香港の中国語と北京標準語を使い分けていました。当然ながらメンタリティーも違うのでしょう。傷だらけの男たちはそのあたりを考えながら見るのがいいかも知れません。

★ スターの使い道を誤った

傷だらけの男たち井上さんも紹介してくれています。そちらも参考になさって下さい。印象の方ですが、井上さんも書いているように、金城武にアル中というイメージが合わず、失敗。同じく私は梁朝偉に何十年も恨みを抱いている男を演じさせたのも失敗と考えています。

どうせ大物スターを起用するなら劉徳華にやらせた方が良かったと思います。劉徳華は撮影外の時間は気さくでいい人らしいですが、映画の中では暗い男の役を上手く演じています。いつも同じタイプの役を押し付けられると俳優は嫌がるようですから、たまには梁朝偉がそういう役に挑戦というのも無論ダメとは言いませんが、傷だらけの男たちではまだ上手く行っていません。スターに何度か練習させる余裕があるのでしたら、無論そういう趣向もいいでしょう。

★ 息切れ現象

ちょっと前まで韓国、香港、スペイン、フランスなどがスパッと決まる犯罪映画をファンタに次々送って来ていました。デンマークからはドグマ映画とは流派の違う人たちが作ったコメディー・タッチの犯罪映画も来ていて、大好評でした。それが2007年はやや息切れ状態。日本からいくつか犯罪かSFのアニメが来ており、加えてデス・ノートも来ていたのでいくらか救われましたが、調子が落ちたような気がしました。

★ 代わりに元気だったのが・・・

その代わりに大好評だったのが、ファンタが独自に作った宣伝用アニメ。長短のバージョンがあったのですが、両方とも大好評でした。ドイツ国産どころか、ベルリン市産。ホラーや犯罪映画への愛情がほとばしる、イギリスはアードマン社と互角に勝負できるアニメです。本編上映の直前に出るだけですが、いくつの映画のパロディーかを数えるだけでも楽しいです。

ドイツの劇映画をファンタに出すと評判が悪く、まだドイツは負けているなあと思いますが、このアニメを見ると、クレー・アニメの世界ではオスカーを狙ってもいいのではないかとすら思いました。

おっと、話がそれてしまいました。今年中国はオリンピックに忙しく、映画を作っている暇があるのか分かりませんが、またいい映画を作ってもらいたいものです。ジャッキー・チャンなど、ハリウッドで大成功したスターの作品はファンタには来ません。逆にハリウッド進出を蹴った人、例えばインドではカーン様、香港ではラウ様、レオン様などが有望株です。

後記: と思っていたら、2009年に新宿事件やジョン・ウーの大作が来ました。

最近のハリウッド映画も息切れのような印象を受けているのですが、もしかしたらこれから暫くアジア映画にチャンスが回って来るか・・・などと考えているこのごろです。

などとのんきな事を言っていられたのは、この記事を書き始めたのが去年だったからです。2008年に入って、メタミ餃子事件、海外の聖火騒動、長野事件、主席来日、その直後に地震。今年の中国は独自路線の後、運命に振りまわされ、映画などとのんきな事を言っている場合ではありません。特に地震ではかなりの犠牲者と被災者が出た様子。ちょうど今日本からも救助隊が駆け付けたところです。ここも中国の独自路線があったため十分な助けになれず、ちょうど今「肩透かしを食ったような気持ちだ」と隊員が言っているところです。今年、特にファンタ開催の頃が大きな節目になりそうです。

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