映画のページ

キングダム/見えざる敵 /
The Kingdom /
Operation: Kingdom /
La Sombra del reino /
O Reino /
Le Royaume /
El Reino

Peter Berg

2007 USA/D 110 Min. 劇映画

出演者

Jamie Foxx
(Ronald Fleury - FBI)

Amy Hunter
(Lyla Fleury - ロナルドの妻)

Tj Burnett
(Kevin Fleury - ロナルドの息子)

Chris Cooper
(Grant Sykes - FBI、爆発物専門家)

Jennifer Garner
(Janet Mayes - FBI、検死官)

Jason Bateman
(Adam Leavitt - FBI、情報分析の専門家)

Kyle Chandler
(Francis Manner - FBI 法律顧問、襲撃で死亡)

Brody M. Tardy
(Teddy Manner - フランの息子)

Tom Bresnahan
(Rex Burr - FBI、襲撃で死亡)

Omar Berdouni
(Ahmed Bin Khaled - サウジアラビアの王子)

Raad Rawi
(Thamer - サウジアラビアの王子、大使)

Hezi Saddik
(Abu Hamza - テロの黒幕と目される男)

Ashraf Barhom
(Faris Al Ghazi - 大佐、サウジ側捜査担当官)

Gaith Al-Jaberi
(アル・ガジの息子)

Ali Suliman
(Haytham - 軍曹、サウジ側捜査担当官)

Nick Faltas
(ハイサムの父親)

Frances Fisher
(Elaine Flowers - ワシントン・ポストのジャーナリスト)

Jeremy Piven
(Damon Schmidt - 駐サウジアラビア米国大使館職員)

Richard Jenkin
(James Grace - FBI のチーフ)

見た時期:2008年8月

完全実話ではありませんが、似たような事件が実際に起き、そこからフィクションにした作品です。

★ まだそれほど有名でない監督

監督はちょっと意外なキャリアで、俳優から出発した人。ドイツではいまだに神格化されているのではと思えるリンダ・フィオレンティーノが主演だった甘い毒という作品で、フィオレンティーノに酷い目に遭う世間知らずの田舎青年を演じた人です。ドイツにはフィオレンティーノの名前を聞いただけで映画館に行きそうなファンが残っていますが、ベルクの方は「あのアホか」と、名前は覚えてもらえず、フィオレンティーノに手玉に取られる役割だけを覚えている人がほとんど。

ところがアメリカやその他の国を見るとフィオレンティーノはこの役がネックになってか、その後あまり仕事が回って来ないのか、あるいは引退した様子。スナイパー以降話を聞きません。

ベルクの方は現在44歳。24歳で俳優家業に乗り出し、30歳頃に甘い毒に出演。その直後から脚本や監督業に手を染め始めました。ファンタのファンなどには注目されたベリー・バッド・ウェディングで長編デビュー。ベリー・バッド・ウェディングとそっくりな作品がその少し前にファンタに出ており、私はリメイクかと思いました。ストーリーで持たせる作品で、特殊効果やアクションはありません。

その後テレビ、映画数本を経てキングダム/見えざる敵、そして次がウィル・スミスのハンコックですから輝かしいキャリアを上っている真っ最中と言えましょう。ベリー・バッド・ウェディングの後の作品を1つも見ていないので、ちょっと強引な比較ですが、ベリー・バッド・ウェディングキングダム/見えざる敵は全くタイプが違い、キングダム/見えざる敵はマイケル・ベイかマイケル・マンが作ったと言っても通りそうな作品です。

マイケル・ベイ、マイケル・マンとウィル・スミスはつながりがあり、ウィル・スミスはフィオレンティーノとも共演したことがあるので、どこかしら口コミでベルクに声がかかったのかとかんぐってみたくもなります。ベルクのキングダム/見えざる敵はベイ、マンに弟子入りして、卒業作品として作ったと言っても通ります。カメラの揺れが激しくて、観客が船酔いしそうなところまで似ています。

★ スタイル

ベイ、マンの後継者的な作品ということは、アクション映画として退屈せずに見ていられ、それなりの職人芸を見せているということです。政治テーマも絡むので、その辺で観客の好き嫌いは分かれるでしょう。また、やたらドンパチがあるので、平和的でないという観点もあるかも知れません。

ストーリー展開が良く、要所要所にハラとするシーンが並べてあり、最初と最後はハラハラします。画面は所々ハンド・カメラでも使ったのか、ちょっとドグマ映画のような揺れがあり、もう少し固定した方がいいのではと思います。

キャスティングのバランスはストーリーの邪魔にならないように配慮されています。デンジル・ワシントンやウィル・スミスを出して来ると、本人が役をこなせても大きな名前が邪魔になりそうです。その点フォックスはオスカー2戦1勝、50%ゴールデン・グローブ3戦1勝、33%の勝率で、しかも全てを1年の仕事で取ってしまったのですが(何という効率の良さ!)、なぜかそこにいてもそういう評判が邪魔になっていません。共演の有名人クリス・クーパーに至っては1年でオスカー、グローブ共1戦1勝、勝率100%で取っていますが、いかにもオスカー俳優というスタイルでなく、うまく役に溶け込んでいます。

★ 知らないうちに見ていたフォックス

私は特別フォックスのファンではなく、彼を目当てに映画を選んだことは無いのですが、2001年以降結構たくさん見ていました。

・ キングダム/見えざる敵 FBI
・ ドリームガールズ ♪ 伝記
・ Miami Vice 警察
・ ステルス 軍
・ Ray/レイ ♪ 伝記
・ アリ 伝記

音楽関係の伝記2本、ボクシングの伝記1本、軍や警察関係が3本。こうして比べて見ると、ジャンルは結構偏っています。

★ 今回は FBI

FBI というのはアメリカ国内で州境を越え広域に渡る犯罪があった場合、テロなど国家を脅かす犯罪があった場合、一般の刑事犯罪でも規模が大きくて国民の安全が心配される場合や誘拐事件で出て来る組織だと思っていました。活躍の場はアメリカ国内。外国は CIA の仕事。米国内で外国の諜報関係者が動いている場合には CIA ではなく FBI が出て来るようです。

というような単純な理解をしていたのですが、今世紀に入って某重大事件が起きた後、アメリカにはその他にも色々活動内容がはっきり発表されない機関があり、非常にややこしい状態だったことを知りました。その上大統領が新しい方法を思いついたらしく、組織が再編成されたり、組替えられたりもしているようです。要は2008年の今年私には何がどうなっているのかさっぱり分からなくなって来たということです。

かつて FBI が外国に出られるようになったという話を聞き、驚いた記憶があったのですが、キングダム/見えざる敵はその例です。アメリカという国は自国民が外国で危害を加えられたり、外国に誘拐されたり殺害されると、政府がそれなりの関心を示し、遺族がどうの被害者がどうのと言う前に国が○○するんだという方針が決まっている国です。その建前は他の政治方針より重視されるらしく、そのために経済封鎖とか、外交関係中断という例もあるようです。

後記: 先日も元大統領が極東の某国に自ら出かけて行って、某元大物政治家が経営に関係する会社の記者を2人自国に連れ戻しました。方法はともかく、原則は守ったようです。(2009年)

キングダム/見えざる敵ではテロと見て当然と思われる事件が起きます。被害規模から言っても、犠牲者の人数から言ってもアメリカ国民の安全を脅かす例です。実行犯は外国のテロ組織のメンバーと見ていいでしょう。・・・とここまでですと FBI 出動にあまり疑問は感じません。ところが事件が起こった場所がサウジ・アラビアとなると「えええっ、FBI なんかが出て来ていいの?サウジ警察の出る幕は?」と単純な疑問が生じます。

私は現実の話でも FBI が外国に出ると聞いた時は疑問に思ったものです。何かしらの形で何かしらの米国機関が外国で調査をしたりするのはありなのかも知れませんが、FBI を出すのか・・・と不思議に思いました。当時私は FBI というのは全米国内で州の境界線をまたぐ犯罪の取締りをすると思い込んでいたからです。

外国でも大使館の敷地内ですと国内扱いなのかも知れません。一時期外国のアメリカ大使館がターゲットにされた事件があり、そういう時に FBI が国外に出るのは何となく納得もできるのですが、捜査であれ、プライベートであれ、しょっちゅう大使館外の外国の国土にも足を踏み入れるわけですから、何か別な機関が出るものと思っていました。日本に住んでいるとあまりそういう事を考える機会がありませんが、外国に住んでいると結構そういうところが目に付きます。

単なるフィクションだとのんびりしていられない理由が1つ。 キングダム/見えざる敵は過去12年間に起きた2度の事件を参考にしています。映画の現場はサウジ・アラビアのアメリカ人が住む住宅街。一般人と分けた地域ではありますが、ここに大使館の敷地と同じ法律が適用されるのかは分かりません。大使館の敷地というのは国際法で特別なステータスを持っています。

★ 砂漠になじみのあるアメリカ人

話し変わって、普通油関係の仕事などで欧州や日本などから砂漠の国に来て長期間滞在すると、自国との差が大きくてホームシックになる人が続出します。ところが欧州で話を聞くと、アメリカ人は結構適応力があり、喜んで住んでいる人もいるとのこと。なぜだろうと聞くと、答は簡単でした。アリゾナやテキサスが砂漠なので、そういう所から来ると違和感が少ないのだそうです。それが理由ではないでしょうが、撮影はアラビア圏とアメリカの砂漠地帯の両方で行われたそうです。

★ 批判は多々あるでしょうが

キングダム/見えざる敵は切れのいいアクションというプラスの評判もありますが、政治がらみや文化の取り扱い方、ドンパチが多い等など、批判も少なくありません。私にもその辺は分かり、誰にでも無制限に薦められるタイプの作品ではありません。私が気になったのはあまり話題になっていない点でした。

アメリカ人が多数犠牲になったテロ事件なので、アメリカとしては政府を挙げて何かしらやらなければならないという立場はアメリカの視点に立てば理解。現場となったサウジの側から見ると、自国の警備関係の任務についていた警察から犠牲が出ている上、アメリカ人の家庭のために働いていた外国系の労働者もサウジが呼び寄せているので、それなりに責任も関心もあります。

両者とも犯人を挙げたいという点では全く利害が一致。問題はどちらに優先権があるかです。当然ながらサウジ・アラビアという国にアメリカがお客様で入っているのだからサウジ側が上。国際的に認められきっちり独立している国なので、建国の過程とか歴史はこの際関係ありません。仮に警察能力でアメリカの方が勝っていても、サウジの顔は立てないと行けません。キングダム/見えざる敵の脚本にも、メディアがあれこれ批判意見を出しているのを見ても、私が見た限りではその視点がありませんでした。

サウジの警察が全然ダメかと言うとそうではなく、かなり優秀な人材が投入されています。主人公の1人、サウジ側の警察担当者ファレス・アル・ガジもなかなかの腕です。しかしシナリオでは警察能力の良し悪しとは関係なく、誰が誰の国に来ているのか、誰にとってそこが本国なのかという意識が希薄だなあと感じました。FBI の御旗を掲げてどこにでも入っていけるのはサウジアラビアでなく、アメリカの国内なんだけれど・・・と思ってしまいました。そういう時代ではないのかも知れませんが。

戦略的に見ても地元の人と速やかに仲良く協定を結んで「アメリカ人だけでなく、他の人も犠牲になっているんだ。だから一緒に犯人を捕まえよう」という形で話を持っていけば色々な点でスムーズに行ったのではと思わざるを得ません。

アラビアの地に女性を半袖で出向かせるというのもいただけません。その地の宗教に合わないのは勿論ですが、あの気温の場所では分厚いだぶだぶの長袖の服を着ている方がずっと涼しいですし、紫外線除けにもなります。理由が何であれ、肌をあまり出さない方が地元とのコミュニケーションはスムーズに行ったと思います。日にちを限られた捜査で、自分の方から先方を刺激するような事をすると効率の悪い事になります。

その地の文化を無視、あるいはアメリカ国内と同じような事を期待して出向くと、妨害がどうのという話なる前に人が捜査陣を避けてしまいます。得られる証言も得られなくなってしまいます。その辺のアメリカとサウジのギャップは表現されているのですが、脚本はそいういう視点で取り組んでいるわけではなさそうです。

★ あらすじ

舞台はサウジ・アラビア。撃ち合いと爆弾でアメリカ人が大勢まとまって住んでいる地区が襲撃されます。最近トルコで起きた事件に似て、最初の事件で人が集まったところを狙ってもう1度大きな爆発。酷いやり方です。そのため死者が100人前後、けが人が200人前後。アメリカ人、現地の警備に当たっていたアラビア系の人たち、その他の外国人労働者が犠牲になっています。FBI の職員がその中にいたこともあって FBI が捜査に乗り出します。(FBI がいなかったら放っておくのかと突っ込みたくなりますが、そこは抑えて・・・)FBI 出動が拒否されると、からめ手でサウジ側の弱い点を押すぞと言ってごり押しします。

ざっと犯人の見当はついていて、サウジとアメリカ大使館は事件の落し所を見つけ始めていました。しかしナ〜ナ〜でやられては困ると思った FBI のフルーリーなど4人が強引にサウジに入り、捜査を始めます。上とあれこれ交渉の結果5日だけサウジ国内で動いてもいいと許可。

体面を重んじる国。宗教が違う国。文化が違う国。建前では王が国を治めている国。しかし実は不満分子が時々こういう事件を起こす国。アメリカの方も民主主義を表看板に掲げていながら、諸般の事情でちょくちょく片目をつぶります。それぞれの国の中には建前をきっちり守りたがる人と、できれば両目をつぶりたい人がいます。そのどの部分とどの部分が御対面・・・か。

サウジで熱心に捜査をやるつもりのある警察と、同僚が殺されてカッカとしている FBI の御対面でスタートします。最初はギクシャクしますが、時間が限られていることもあり、間もなくこの両者の間は機能し始めます。次に難しいのはアメリカ人を助けているサウジ警察に周囲が協力するかです。

そんな中、サウジの王子と接触の機会があり、そのチャンスを使って、これまでよりは協力を得られるようになり、FBI のメンバーはそれぞれの調査を本格的に開始。検死官は死体から取り出したガラスの破片や弾から使われた武器を分析し始めます。もう1人は水溜りの下に何かがあると思いつき、救急車が犯行に使われたことを解明。もう1人は犯行現場の近くの建物から仲間が見ていたことを推測。行って見ると確かにそこに誰かがいた様子。徐々に犯人の範囲が絞られ、ある男から黒幕と目される男の肉体的特徴を聞き出すに至ります。

捜査中に襲われたりもしますし、アクション、ドンパチ・シーンには事欠きません。最後は犯人を追ってチェース、撃ち合い、そしてネタは見る前から割れてしまいますが、あ、やっぱりあいつがというシーンがあって、犯人は絶命。

★ 何が言いたかったのか

この映画、見終わって何を言いたいのかがちょっと分かりませんでした。これと似た事件が実際にあって、それを紹介したかったのか。FBI の英雄的活動をアメリカ国民にアピールしたかったのか。ドンパチ・シーンや爆発シーンで火薬や火気を消費したかったのか(でも、やたら撃ったらたいていの国では警察に捕まる)。文化の違いを示し、アメリカの民主主義を誉めたかったのか(誉めて欲しいのなら片目をつぶってはダメ)。テロリストが準備をしているところを紹介したかったのか(そんな事して何の役に立つ?)。単に元気に飛び回っているアクション・シーンを見せたかったのか(それにしては扱う話題が単純ではない)。

派手なアクション・シーンに見とれているとついフラ〜っと乗せられてしまいますが、よく考えると何が言いたいのか分かりにくいです。

そして批判派が論拠とすべきシーンが最後に出て来ます。確かにアラビアの教えでは事と次第によっては「目には目を」ですが、それをアメリカが鼓舞する必要があるのかという点です。アラビアがそういう習慣を持ち出すにはそれなりの背景があるわけで、アメリカがそれと同じ話を映画にして、世界に配給してしまうのか、とため息が出ました。

アメリカにも西部大開拓時代には馬泥棒は死刑に値するなど、その地、その時代には合っていたかも知れない規則があります。しかし日本から来て、欧州に住んでいると、場違い、時違いな印象はぬぐえません。

という文化の違いを知る意味では見て無駄な作品ではありませんでした。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ