映画のページ
2002 D/Kanada 92 Min. 劇映画
出演者
Oliver Platt
(Victor Wallace - 兵器産業の社長)
Linda Fiorentino
(Liberty Wallace - ビクターの妻)
Martin Cummins
(Russell Williams - 俳優、リバティーの愛人)
Wesley Snipes
(Joe/Alex - スナイパー、元CIA)
Jonathan Scarfe
(Bill Tollman - ジャーナリスト)
見た時期:2004年12月
井上さんに触発されて3本犯罪映画を立て続けに見てしまいました。スナイパーは井上さんとは直接関係がないのですが、2本見た後禁断症状が出、もう1本見てしまいました。おもしろい作品でした。
いわばマイケル・ムーア・ミーツ・フォーン・ブースと言った作品。日本語のタイトルスナイパーも理にかなっています。スナイプス・イコール・スナイパーなのであります。最近ウェズリー・スナイプスにはいくらかトラブルが続いていますが、こんな映画撮ってしまうとちょっと心配になります。共演(競演?)のリンダ・リオレンティーノに至ってはまだ若いのにこれが最後の作品。彼女はドイツにはファンが多く、女性解放運動のアイドルみたいな面もあります。背骨がしっかりした人ではあるようです。
フォーン・ブースのコリン・ファレルに当たる役をリンダ・フィオレンティーノが引き受けています。ということはかなり役者としては厳しい状況。1人芝居に近く、1箇所に縛り付けられ、そこだけで演技です。冒頭は彼女を一躍有名にした甘い毒を思い出させるような高級車で登場。窓ガラスは多分防弾になっているのでしょう。
フォーン・ブースのキーファー・サザーランドに当たる男はウェズリー・スナイプス。サザーランドは個人的な恨みを特定の人間に向けて剥き出し、たまたま小悪党を見つけ出すと、その男を徹底的にやっつけるという筋でしたが、スナイパーは政治的な話が絡んでいて、ウェズリー・スナイプスは個人的な恨みを晴らしつつ、政治にも大きく斬り込んでいます。
そのキーファー・サザーランドにはちょっと前に肩透かしを食らわされたばかりです。彼が出るとつい凶悪犯と期待してしまうのですが。
では事件をご紹介。武器を製造している会社の社長夫婦登場。仮面夫婦とでも言うのでしょうか、それぞれ愛人を持っての生活。夫ビクターは大統領夫人、妻リバティーは俳優ラッセルと愛人関係にありますが、双方承知の話です。リバティーは会社の社長の娘ですが、父親が破産状態で、ビクターが会社を買い取っています。商売はその後上手く行っている様子。
ある日リバティーがラッセルの出演する劇場の近くにいる時、突然事件が起きます。まず、この日も出演する予定のラッセルが劇場の控え室で爆弾を目の前にして縛られます。大きな声を出すと反応する機械がついていて、助けは呼べません。その上1時間半ほどすると爆発。いずれにしても助かりません。ラッセルは静かにしています。映画はほぼリアルタイムで進行するので、爆弾の時間切れは映画の終了時間に合わせてあります。
次に劇場の前の広場にいたリバティーの所へ電話が入り「言う通りにしろ、さもなくば・・・」。ところがさすが兵器産業の奥方。根性がすわっています。「さもなくば・・・」ぐらいではなかなか言うことを聞かないので、スナイパーは試しに撃ってみなければなりません。ようやく納得してリバティーは言う通りの行動。「鎖つきの手錠を自分の脚にはめろ」と言われます。その手錠はホットドッグの屋台に取り付けてあり、そこにはオクラホマ事件規模の爆弾が用意してあると言うのです。そして携帯電話を切ると爆発するって言うじゃない・・・。バッテリーは何分持つんだろう・・・。しかしさすが兵器産業の奥方、爆発物の話になるとすぐ納得します。
根性のすわった奥方はその後色々抵抗を試みます。そのたびにスナイパーは脅し直さなければなりません。2人の顔を見比べていると、誰が加害者で、誰が被害者か、誰にモラルがあって誰に無いかがあやふやになって来ます。
大統領夫人と浮気をしている亭主の所にも連絡が入ります。まあ、兵器産業の亭主ですから、これも並の神経ではないでしょう。重役らしき男と話し合って、討手を放ちます。スナイパーを殺し奥方を助けるためでなく、奥方を殺しスナイパーの脅迫手段を抹殺するための討手です。その上根性のすわっている奥方はこういう事件が起きた場合はそういうことになるのだときっちり承知しています。彼女の気があまり進まないのは、自分に関係の無い人に死者が出ること。彼女の言い分は「殺すならさっさと自分だけを殺せ」です。妙なところで彼女の意外なモラルが出て来ます。そう言えば奥方に討手を放つ亭主もそれほど乗り気ではないようで、どちらかと言えば重役の方が奥方射殺計画に熱心。
当然と言えば当然ですがやはり観客には意外な展開に映るのが、スナイパーとリバティーがお互いを助け合うというくだり。最初はリバティーが、逃げるために子供に助けを求めようとしますが、スナイパーは「子供を撃つ」と脅します。冒頭通行人はまだリバティーの窮地に気づいていません。やがてリバティーは意外な方法を使って警官の目を自分に向けさせることに成功しますが、警官は撃たれて重症。この警官は屋台のホットドッグ売りが裏でドラッグを売っているのを見逃し、賄賂を取っていたようなのです。ようやく付近の人が異常事態に気づきレポーターもやって来ます。親が兵器産業に賛成する国会議員、そのコネで大手メディアのレポーターになったという若い記者もやられます。しかしメディアの注目を集めるのはスナイパーの目的らしいです。
レポーターと警官が遠巻きにしていますが、もう1組人が近づいて来ます。自分の会社の討手。 リバティーは見なくても討手が現場に近づいていることは察しがついています。飛んで来た銃弾がスナイーパーの物でなく、自分の会社が自分を狙っていることは百も承知。ここで方向転換。リバティーが討手にやられて死んでしまえばスナイパーも終わりなので、2人には《リバティーを生かさなければならない》という共通の目的ができます。それでスナイパーはリバティーに近づく殺し屋を撃ち始めます。
事情が分かり始め、奥方を守ろうとする SWAT、奥方を殺そうとする会社の討手、奥方を守るために討手を殺そうとする腕の確かなスナイパーの三つ巴です。さらに亭主は本来奥方を殺す命令を出さなければ行けないのですが、どうも様子が変になって来ます。お互い浮気のし放題だったのですが、亭主は奥方を殺すのにあまり乗り気ではないのです。奥方からは「あんたはこういう状況で何をすべきか知ってるでしょ。さっさとやりなさい」と叱咤激励(?)されるのですが、亭主はどうも奥方を助けたいような優柔不断な様子。こういう役にオリバ・プラットはぴったりです。私はファニー・ボーンズ以来プラットのファンです。
さて、スナイパーはなぜこんな暴挙に出たのでしょうか。話だけ聞いていると理性的な立派な男に見えるのです。実はスナイパーはジョーと名乗っていますが、本名はアレックスで、元 CIA のアンダーカバー。南米などで仕事をしている最中、アメリカの家では娘が学校で銃乱射事件に巻き込まれ死んでいるのです。ドイツのエアフルト事件やアメリカのコロンバイン事件のような描写です。その時に使われた武器がビクターやリバティーの会社の製品でした。
娘を殺した犯人、ビクターやリバティーなど個人に対する怒りではなく、憲法修正第2条という法律の実行、非実行論議に怒りを向けているのです。そのため関わっている人をメディアの前に引きずり出したかったのです。例えばリバティーは武器産業の発展のために不法行為に関わっている有名人の名前をずらっと並べることができてしまうのです。下手をすると国内、海外の武器産業の相関関係や金の流れが分かってしまいます。アレックスは恨みを晴らした後、娘と事件のために落ち込んで命を落とした妻の後を追う覚悟ができているようです。フォーン・ブースのキーファー・サザーランドとは動機が全く違います。
世間は大騒ぎでリバティーの様子はテレビにもライブで流れます。SWAT と討手の間には諍いが起き、リバティーを撃とうとした男たちはスナイーパーに撃たれたり、SWAT に捕まったりします。亭主はどういうわけか土壇場ではリバティーを死なせたくないと思ったようですが、代わりに自分が撃たれてしまいます。
劇場が危ないと知った警察や消防隊は観客を避難させますが、ラッセルは部屋で縛られたまま。カウントダウンが続きます。まだレポーターなどが押し寄せる前、手錠につながれたリバティーとスナイーパーとの間だけで交わされた会話は、スナイパーが近くに仕掛けたカメラで録画されていました。その時の話には金の流れや関わった人の話が・・・。スナイパーは元から死を覚悟していましたが、死ぬ前にその録画をメディアに送ります。
個人に対してはさほど恨みを抱いていなかったスナイパーは土壇場でリバティーに助かる方法を教えます。録画が手に入り、メディアに送れたので、スナイパーにはリバティーを殺す理由はなくなりました。手錠の鍵のありかを教え、自分は自殺。リバティーはラッセルを救うべく劇場に突進。ここは映画の中の男女の役が逆転しています。部屋の鍵をぶち壊し部屋に入りますが爆発はしません。スナイパーはラッセルを殺すつもりは無かったのです。ただ90分ほど留め置きたかった様子。
というわけで2人は助かります。録画はメディアに流れます。スナイパーは死にます。これがめでたしかどうかは何とも言えませんが、かなり力強いメッセージを込めた作品です。少なくともフォーン・ブースのような個人のレベルの話ではありません。作ったのが女性と聞いてびっくり。かなり根性ある人です。テーマはボウリング・フォー・コロンバインをばっちり射程内におさめています。後にも先にもこの作品でしか名前を聞いたことのない監督ですが、フォーン・ブース、ボウリング・フォー・コロンバインと同じ年に作られています。
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