映画のページ
2010 F 95 Min. 劇映画
出演者
Vincent Elbaz
(Thierry Prungnaud - GIGNの部隊長)
Marie Guillard
(Claire - テリーの妻)
Grégori Derangère
(Denis Favier - 大佐、司令官)
Mélanie Bernier
(Carole Jeanton - 政府のスタッフ、テロリストとの交渉人)
Philippe Bas
(Didier - GIGNのメンバー)
Vincent Heneine
(Bull - GIGNのメンバー)
Aymen Saïdi
(Yahia - テロリスト、GIAのメンバー)
Chems Dahmani
(Mustapha - テロリスト、GIAのメンバー)
Mohid Abid
(Makhlouf - テロリスト、GIAのメンバー)
Djanis Bouzyani
(Salim - テロリスト、GIAのメンバー)
Antoine Basler (Solignac)
Philippe Cura
(Roland Môntins)
Fatima Adoum (Djida)
Hugo Becker
(Vincent Leroy)
Hugues Martel
(オルセーのチームのチーフ)
Hervé Dubourjal
(マルセイユのチームのチーフ)
Franc,ois Lescurat
(航空工学の専門家)
Abdelhafid Metalsi
(Ali Touchent)
Jean-Philippe Puymartin
(Bernard Delhemme - 司令官)
David Sevier
(Jean-Paul Borderie - 副操縦士)
Didier Sevier (副操縦士)
Marc Robert (メカニック)
Samira Lachhab (Leïla)
Samira Sedira
(レイラの母親)
Lounès Tazairt
(レイラの父親)
Bruno Seznec
(空港の責任者)
Faridh Badaoui
(機内にいた警察官)
見た時期:2011年8月
実話に基づいていますので、事件をご存知の方はショーダウンもご存知ということになります。
今年は低めの評価の作品が多いのですが、ジャンルの中では良くできている作品が時々見られ、L'assaut もその1つです。事前に事件について多少知っていたこともあり、L'assaut が荒唐無稽なエンターテイメント作品ではなく、ドキュメンタリーに近いスタイルを取っていることも良い評価に影響しています。
事件に関してはほぼ実際のラインを追い、そこに家族のエピソードを邪魔にならない程度挟んであります。この部分がどこまで現実に近いのかは私にはチェックできませんでした。
★ 事件
ファンタのページでも触れましたが事件の経過は大体こんな感じです。
1994年のクリスマス・イブにエール・フランス8969便がハイジャックされ、200人を超える乗客、乗務員が人質になります。現場は当時内戦状態のアルジェリアの空港。犯人の目的はテロリストの仲間の釈放。犯人側は交渉を有利に運ぶために、警官、大使館員など公的な仕事についていた人質を射殺。《忍者》と呼ばれるアルジェリア政府の特殊部隊と、フランスの国家憲兵隊治安介入部隊が出動。交渉の結果一部人質は解放。残った人質は交渉決裂の場合はパリ上空で燃料を満タンにした飛行機ごと爆破の予定。
かつて日本が使った、テロリストの母親を現場に連れて来る手も試みられますが、犯人を激怒させ失敗。 さらに人質が殺されます。すったもんだの末、パリに向けて離陸しますが燃料不足でマルセイユへ。面子をかけてアルジェリアはフランスとは対抗していましたが、アルジェリア政府はハイジャック犯をきっちり捕まえるつもりでいました。しかし飛行機の移動でアルジェリア政府からフランス政府へ管轄が移動。
マルセイユではフランスの国家憲兵隊治安介入部隊が詳細な計画を立てながら待ち構えていて、あれこれトリックを使い、機内の様子を把握。最後は突入、銃撃戦になり、犯人側は射殺、人質、特殊部隊側は30人ほどが負傷しますが、死者は犯人に突撃前に射殺された(助かる見込みの無かった)人質と銃撃戦で死んだ犯人のみ。当時のハイジャック事件としては最大規模に数えられ、かつ最小限の死者の事件に数えられます。
★ 映画
全体はこれと同じ描写です。新聞などに出る報道を越えて映画で肉付けされているのは、内閣のスタッフで大臣の下で働く女性がフランス在住らしきテロリストの仲間と秘密交渉に出向くところ。実際にあったのかも知れませんがこういうシーンは普通報道には出ません。彼女は目隠しをされ、秘密の場所で取引を試みますが、失敗。しおれて戻って来ますがそれでもテロリストがどの方向に動いているかを察し、予想以上に危険だと言う点は把握します。例えば、仲間の釈放が本当の目的なのかについては疑問符がつきます。それだけ突撃には大きな覚悟が必要ですが、相手がそこまでの覚悟を決めているとなると応戦する側もそれ相応の覚悟でかかれます。
もう1つ肉付けされているのは特殊部隊のメンバーの1人。SWAT 以上に厳しい場面に備えて日頃から訓練されている部隊があり、そこのチーフ。突撃隊の方の物語はこの人物を中心に動きます。実際の突撃で重症を負った人が1人いたので、その人のことを描いたのかとも思いますが、詳しいところはチェックできませんでした。なのでフィクションの可能性もあります。
映画の中ではこの人の抱く不安、家族に関する葛藤が中心になっています。ベテランと言えるぐらいの年齢で、それなりの経験を積んでいますが、一瞬の判断を間違えば大勢の死傷者が出る現場に関わるので迷いが生じています。加えて夫人が子供を抱えてこういう仕事に就く人の家族として典型的な不安を抱えており、それが大きな陰を落としています。
私やファンタの仲間はこのシーンを見ていて腹が立ちましたが、人間はこういうものなのかとも思います。私や仲間はこのような出動の度に命の危険にさらされる職業の家族は持っていませんが、一般人よりは多少覚悟の要る仕事に就いていた親を持っていました。F1 ドライバー、ボクサー、警察関係者、軍人、宇宙飛行士、パイロットなどと結婚した人は結婚前からそれなりの覚悟があったと思うのです。私たちの親のように、勤め始めてたまたまそういう部署に配置になるのとは違います。私たちのように普通のサラリーマンでたまたま難しい部署に来たとしても、父親は家族に説明をし、これこれには気をつけるようにと言われれば、家族はああ、そういうものかと納得しつつ気をつけます。
なので確かに不安な時期を過ごしましたが、母親が子連れで父親の職場に顔を出したり、家で止めろ、止めろとせっついたりはしませんでした。知り合いには警察官の子供もおり、数年毎に転勤の憂き目に遭っていましたが、命の危険の他に、談合に発展しては行けない職業もあり、私は子供なりにそういう事は理解していました。当然ながら大人の家族や親戚もそういうのは当たり前と受け入れていました。
なので、私は主人公の妻の不安は分かりますが、彼女の行動が信じられず、驚いてしまいました。1つにはああ言う事をすると、本人がさらに不安になるだけではなく、部下や同僚に示しがつかなくなると思うのです。ああいう行動というのは、妻が子連れで夫の職場に現われてしまうシーン。
外資系の会社や外国では職場に妻や子供が遊びに来ることはよくあります。ドイツでは仕事の邪魔をしない限り配偶者や子供が職場に現われることはそれほど珍しいことではありません。ただその時夫に対してこの仕事は気に入らないというメッセージをこめてしまっては話は違って来ます。
この家族のくだりは作品に深みを与えています。というか、観客はこの特殊部隊のメンバーがこういう家族を抱えていることを知っているので、突撃の寸前には不安になってしまいます。アメリカのハッピーエンド作品とはかなり違う路線です。
★ 少ない時間の中
言葉でちょっと触れられるだけですが、アルジェリアにはマジで忍者という名前の特殊部隊があり、当初はここの出動が検討されていました。4人というちょっと考えられないぐらいの少人数のテロリストは、200人を超える人質をコントロールするために爆発物を機内に配置します。そのくだりは非常に短い時間で描かれるので、本当の事件を全く知らないとちょっと慌しいかも知れません。
しかしこういういきさつの後、少人数ではありますが、人質が殺されるシーンなどはかなり実際の事件と近く描かれています。
フランス政府の上層部はクリスマス休暇を打ち切りすぐパリに戻って来て、対策本部を形成。特殊部隊は既に同型の飛行機を調達し、突入の訓練を始めるなど、「税金を無駄に使っていない、こうでなければ」と思える」ような手際の良さで、その場面も映画に反映されています。他方、大勢の命がかかっているので、上はなかなか決定ができません。下手をすると大惨事になりますし、テロリストはおいしい話を出しても思ったようには乗って来ません。そちらには少し多めに時間を割いています。
突撃隊のメンバーの家族問題をなぜ大きく出したのか最初訝りましたが、これを抜きにすると、現実にはスリル満杯の深刻な事件であっても、映画としてまとめる時には平坦になってしまうと監督、脚本家が思ったのかも知れません。いずれにしろ、観客が緊張感を持つシーンはうまく配分されています。
これといった粗も無く、あまり粒が揃わなかった今年のファンタの中ではかなり上の方に入ります。
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