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F/I 1970 140 Min. 劇映画
出演者
Alain Delon
(Corey - 出所したばかりの男)
André Ekyan
(Rico - コーリーのかつての仲間)
André Bourvil
(Mattei - フォーゲルを護送する刑事)
Jean-Pierre Posier
(マテイの部下)
Jacques Leroy
(マテイの部下)
Paul Amiot
(警察の監査局長、マテイの上司)
Gian Maria Volonté
(Vogel - 脱獄犯)
Francois Perier
(Santi - フォーゲルの友達)
Jean-Marc Boris
(サンティーの息子)
Yves Montand
(Jansen - フォーゲルの友達、元刑事の射撃手)
Paul Crauchet
(故買屋)
Anna Douking
(コーリーの昔の女、現在はリコの女)
Robert Favart
(宝石店の男)
Pierre Collet
(看守)
見た時期:2012年6月
★ 監督
メルビルはフランス映画を語る時外せない人物で、日本でもドイツでも高く評価されています。しかし仁義を見ると、周囲が過剰に褒め、監督は仁義の頃には力を失っていたのかと思わざるを得ませんでした。恐るべき子供たちは濃い内容で、こんな作品を作る人なのだから能力はあるのだろうと思っていました。加えて、サムライだとか仁義だとか作品に日本語のタイトルがあるので、日本に造詣が深いのかと思ったら、いい加減だったりします。サムライは原題も Le samouraï なのですが、仁義の方は原題は《赤い輪》という意味です。冒頭仏教から引用したような文章が出るのですが、実は《なんちゃって仏教》で、メルビルの創作だとか。
彼が使う俳優を見るとジャン・ポール・ベルモンド、リノ・ヴァンチェラ、アラン & ナタリー・ドロン、ジャン・マリア・ボロンテ、イブ・モンタン、カトリーヌ・ドヌーヴなどかなりの顔。メルビルは多作な監督ではなく、その中ベルモンドやドロンは複数回使っています。
★ 雨は降らないけれど騒音
野外の無料映画館で見る予定でした。開始の2時間前に映画館へ。有料のアイアン・スカイを屋内で見て、午後10時から野外で仁義を見ることになっていました。映画館の人も最初はそのつもりだったのですが、気温が下がり始め、屋内上映に変更。例外中の例外。映画館に取っては冷害。
屋内上映にするかは気温ではなく、雨が降るかどうかで決まるので、Super 8 スーパーエイトの時は凍えながら外で見、私はやけくそで「次はタイタニックを見たい」と言いました。
映画館が決定を変更した理由は仁義が非常に長く、このような長時間数の少ない観客を(と映画館は見積もっていた、当たっていた)外に座らせるのは気の毒だという仏心。その上上映中に雨天になる危険もありました。普段なら雨が降ってから会場変更になります。
というわけでアイアン・スカイを見ていた私は通しで屋内。最初1人切りだったので上映が危ぶまれたアイアン・スカイが見られ、「このまま暖かい屋内で見られたらいいなあ」と思っていた仁義が屋内で見られるという運びになりました。
しかしあったんですよ、落とし穴が。
野外で見ると、日本で言う新幹線の沿線なので、時々列車が通り、その間何十秒かうるさくて台詞が聞こえなくなります。Super 8 スーパーエイトの時は舞台も鉄道の駅なので臨場感があっていいですが、普通は音がうるさくて困ります。屋内ですと元々普通の場末の映画館なので、音はちゃんと聞こえる・・・と思ったのが甘かった。
金曜、土曜の夜は野外上映だと踏んだ隣のカフェがライブ演奏をやり、それがヘビーメタルやパンク。うるさいの何のって。とまあ、文句を言いたい人はたらたら文句がつけられますが、私はゆっくり座ってくしゃみもせずに見ていられたので文句は全部引っ込めました。
★ 見たか、見ていないか - 多分見ていない
古い作品なのでもしかしたら淀長さんの洋画劇場で見た可能性があります。ただ全長140分なので2時間枠に納まらず、超ショートカットで90分程度に縮めたバージョンを見たか、全然見ていなかったかです。内容は全く記憶がありません。
★ 予想より野暮ったかった
見終わってから知ったのですが、制作されたのは1970年。1970年と言えば日本ではイージー・ライダー、明日に向かって撃て!、シシリアン、砂丘、ボルサリーノ、 トパーズなどが公開されていて、こういった作品と比べると見劣りします。見終わって「これがあのメルビルか?」という感想を持ちました。アラン・ドロンはこの作品より前にもっと垢抜けた作品を作っています。皮肉なことにメルビルとしてはこの作品が1番ヒットしたそうです。
★ アラン・ドロン: モデルか俳優か
プロフェッショナルだという点では全く疑いを持っていません。絵になる姿で長い間ストイックに自分の役割を演じ続け、身を持ち崩すでもなく、ドラッグや酒で健康を害するでもなく、ファンの期待を全く裏切らず美しさをキープし続けました。日本では洋服のメーカーのニーズにも応えてダンディーぶりを見せています。不良少年から始まったキャリア、人生とは何か、そして俳優になってからいかに自分が恵まれているかを早く学び、しっかり頭に刻んでいるのかと思える人で、私は熱狂したことはありませんが、立派なものだと感心しています。
まだゲイがスキャンダルだった時代からゲイ疑惑にはっきり答えないまま時々女性と結婚したり同棲もしており、子供もいます。先日健康が危ぶまれるニュースが出ましたが、御年76歳。この年ならたまには健康問題が出てもおかしくありません。ベルリンはゲイの町。時代がすっかり変わって町の男性の3人に1人がゲイかも知れないとまで言われるベルリンですが、スター扱いを受けるのはジョージ・マイケルなどで、アラン・ドロンはどういうわけかあまり話題になりません。
★ あのメルビル、あのドロンの作品か
仁義はドイツでは結構評判がいいようで、評価は高め。ただ《仁義》という言葉とは無縁です。フィルム・ノワールに分類されていますが、アラン・ドロンの作品としても、フィルム・ノワールとしても垢でなく間が抜けています。ドロンにはこれぞノワールという別な作品があると思いますし、メルビルももっと前にもっとインパクトのある作品を作っています。とにかく驚いたのは制作が1970年だというところ。50年代だと言われたらまあまあと思ったかも知れません。
俳優はそれなりにがんばっています。どの俳優もこれよりいい作品がありますが、仁義でも特段手を抜いた印象はありません。ということはやはり監督のまとめ方が悪かったのだろうと思います。ノワール特有の冷たい雰囲気が気の抜けたビールみたいです。仮に当時見ていたとしても、印象に残らなかったのはその辺に理由があるのかも知れません。
ドロンの役に大した演技では必要ではなく、雰囲気を作ることが彼の役割。演技の方は刑事役、元刑事役、脱走犯人の3人でカバーしており、ドロンをうまく支えています。ドロンが間が抜けて見えるのは口ひげと髪型のせいかも知れません。もうちょっと洒落たアウトフィットなら上手く行ったかも知れません。ドロンの他の映画にくらべてダサいという感じです。使われているアメ車もフランスに合わないのですが、これはトランクに人が1人隠れる都合上選ばれた車種なのかも知れません。
とまあ、冒頭からずっこけたのですが、あらすじに行きましょう。
★ あらすじ
重要な登場人物はギャグ側と警察側に分かれます。
ギャング側は次の日が出所というアラン・ドロン演じるコーリー。出所寸前に看守から強盗の話を持ちかけられます。もう1人はボロンテ演じる護送中に列車から脱走した犯罪者フォーゲル。その他にギャング側は元締めや盗品をさばく男などが出て来ます。
警察の方はブールビル演じるフォーゲル護送係の刑事マテイ、その上司、イブ・モンタン演じる元刑事で今はギャングのために仕事をするアルコール中毒の射撃手ジャンセン。
冒頭マルセイユ近郊の刑務所で、悪事に片足を突っ込んでいる看守からパリの宝石店モーブッサンの強盗計画を聞いた後コーリーは仮出所。その足でかつての仲間リコの所へ顔を出し、大金とピストルを掠め取ります。リコはコーリーの女を現在情婦にしており、コーリーとは因縁があります。コーリーが5年のはずが4年で出て来たのであまりうれしくなさそう。リコは手下をよこしてコーリーから金を取り戻そうとしますが、争いになり、手下の1人が死んでしまいます。ここにいるとさらにトラブルに巻き込まれると思ってか(何しろマルセイユですから)コーリーは奪った金の一部でアメ車を買い、パリに向かいます。
同じ頃刑事マテイが犯罪者フォーゲルを手錠でつなぎ、マルセイユからパリ行きの寝台車で護送します。フォーゲルは眠ったふりをしながら安全ピンで手錠を外し、列車が速度を落とした時に窓を破って逃亡。フォーゲルを追う警察は極端に思えるほど人員を動員し、徹底的にフォーゲルを追います。指揮を執るのは彼を逃がしてしまった刑事マテイ。
コーリーがドライブインで休憩中に警察の追っ手をまいたフォーゲルがコーリーの車のトランクに忍び込みます。コーリーは時々フォーゲル捜索の検問に引っかかりますが、車を走らせます。とは言っても途中から変化に気づいていて、近くに人がいない場所で車を止めると、トランクに忍び込んでいるフォーゲルに話しかけます。自分をすぐに警察に突き出すでもなく、殺すでもなく、フォーゲルをトランクに戻し、旅を続けるコーリーとフォーゲルの間にチラッと信頼関係が生まれます。
コーリーの女を取ったリコは、リコの金、銃を取り、さらに手下を1人殺したコーリーに改めて2人組の討っ手をかけ、その2人が1人旅だろうと思われているコーリーを襲います。強引にリコの金を奪い返し、後は殺すだけという段になってトランクに隠れていたフォーゲル登場。リコの舎弟は昇天。しかし札束は撃った弾で穴が空いた上血だらけ。使い物にならないので捨てて逃げます。コーリーとフォーゲルはこれでお互いに命を助け合った関係になります。
ここで久しぶりにフランスのお札を見てぶっ飛ぶのが私。フランスには旧フランと新フランがあり、フランスのお札は一部ばかでかいのです。ドロンが手にしていたお札もかなりの大きさで、こんなお札でバーやホテルで誰かを買収しようとしたら、幾重にも折り曲げなければならず、白けるだろうなあと思います。どのお札も同じサイズのアメリカだったら、さっと100ドル札でも出せば簡単に買収できますが。
私がパリに行った頃は新フランの時代で、私が手にした1万円前後のお札はあそこまで大きくありませんでしたが、それでも現在のユーロよりは大型。金額が大きい物だけが大型なのでしょうか。普通に流通していたとは思えないような大きさです。
無事パリに着いた2人はとりあえずコーリーが服役中放ってあったアパートに行き、そこから行動開始。 宝石強盗にはフォーゲルも加えますコーリーは看守から話を持ちかけられた時よりはやる気が出て来た様子。仲間はコーリー、フォーゲルに加え、フォーゲルの友人で元刑事、現在アル中の狙撃手ジャンセン。演じるはイブ・モンタン。 この時点で強盗計画を承知しているのは実行犯になるコーリー、フォーゲル、ジャンセン、そして情報を回した看守、 後でブツを引き取る予定の故買屋。
現場の下見、すぐ横の建物などをチェック、故買屋との打ち合わせなどの準備を始めますが、ジャンセンは何よりもまずアルコールっ気を抜かなければなりません。これがなかなか大変。それを何とか克服しての参加。しらふのジャンセンは監視カメラの位置などをチェック。当時としては宝石店はかなりの防犯対策を取っているという設定です。コーリーが看守から聞いた話と実情が一致。どこを攻撃すればショー・ケースが開くかなどを確認。ジャンセンはしらふならラスト・ターゲットのジャックに勝るとも劣らぬプロフェッショナルな男なので、銃弾なども自分で作ります。
故買屋とも打ち合わせ。現物の価値の約4分の1の支払いで話がつきます。有名宝石店の商品なので、そのまま転売するわけに行かないのだとか。何百万フランとか何千万フランと言われても私にはさっぱり分かりませんでした。フランスがユーロに変更になってからはすぐ値段がピンと来るのですが、それまではフランス映画を見てもお金の話はちんぷんかんぷんでした。
フォーゲルを追うマテイは、最初の取っ掛かりとして、フォーゲルの友人サンティーが経営している店を訪ねます。また、リコの舎弟の死体が発見され、フォーゲルが逃走中に2人に出会った可能性を検討。
☆ ニアミス
コーリーは準備のためサンティーの店でジャンセンと面会。同じ店にフォーゲルを追うマテイが現われ、サンティーを連行します。マテイとしては犯罪者も出入りする店で刑事マテイと店主サンティーが親しそうに話すわけには行かないとの配慮から、サンティーをしょっ引くのですが、友人フォーゲルに義理立てするサンティーは警察には情報を与えません。
いよいよ強盗団出動。物凄く豪華なダイヤモンドなどの宝石をザックザック盗み取ります。ここまでは上手く行き、次は盗品をどうやってさばくか。事件は大々的に報道されているので、予定していた故買屋は引いてしまいます。
コーリーたちが知らないのは警察のフォーゲル捜査の進み具合だけではなく、リコが頭に来てコーリーの今後の計画に先回りして妨害工作をしていること。コーリーに強盗の話を持ちかけた看守はリコの舎弟。
まだフォーゲルとコーリーを結び付けていないマテイですが、警察には宝石強盗に関する匿名のたれ込みがあります。看守の情報 → リコ というつながりです。
サンティーから協力を拒まれたマテイですが、サンティーの息子を別件逮捕。息子は(なぜか)アスピリンで自殺を試みます。マテイはアンフェアな方法と分かりつつサンティーに協力を強要。
別な故買屋を探さなければならなくなったところに割り込んで来たのがマテイ。故買屋のふりをしてコーリーたちの所へ現われます。場所は警察に協力をせざるを得なくなったサンティーの店。フォーゲルはサングラス姿のマテイの顔を見て確信は無いものの妙な気分。
コーリーは宝石を持って故買屋の屋敷に入りますが、やっぱり変だと思ったフォーゲルが飛び込んで来て取引を中止させます。ここで妙なやり取りになります。フォーゲルが故買屋の正体に気づき、コーリーを救いに入るのですが、フォーゲルはコーリーにマテイが刑事だとは言いません。相手が刑事と分かればコーリーはさっさと殺してしまうからです。コーリーもマテイも殺さないためにはマテイの正体をコーリーに言わないのが正解と考えたため。
しかしそのフォーゲルは警官に撃たれて死んでしまいます。外で待機していたジャンセンは銃声を聞いて応援に駆けつけますが、マテイに討ち取られてしまいます。ジャンセンとマテイは元同僚同士なので顔見知り。結局宝石を持ったコーリーも射殺。大手柄を立てたはずのマテイはすっきりしない気分で終わります。
★ こういうのを仁義と言うのか
仁義というタイトルがついたのは、ちょっとした事で相手が死んでしまう状況で、そのちょっとした事をやらずに誰かの命を救うというシーンがいくつかあったためでしょう。日本人が考える仁義とはズレます。フォーゲルにはマテイを殺すチャンスが2度ほどありましたが、殺さず、逆に自分が命を落とします。コーリーはフォーゲルを助ける義理は無いわけで、放り出しておいても良かったはずが、仲間に加えて分け前もやるつもりにしていました。ジャンセンはコーリーが仕事をくれたおかげでアル中を克服でき、分け前はどうでもいいと言い出します。
恩義と仁義にはどこかしら違いがあり、仁義には何度か恩義が出て来るとは思うのですが、仁義と言われるとちょっと何かが不足しているように思います。でも《恩義》ではフィルム・ノワールのタイトルとしては間が抜けるので、ちょっと無理して仁義にしたのではないかと思います。
結論を言うと、この作品、ドイツでは過大評価されています。しかしメルビルにも、ドロンにもモンタンにももっといい作品があります。
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